コラム・特集

4.8 生産性と雇用

IEハンドブック
第1部 インダストリアル・エンジニアリング機能
第4章 生産性論究

4.8 生産性と雇用

今日の労働者は,大幅に生産性に貢献する点で,かつてなかったほど,大きな潜在力を秘めている。労働者は,その先輩たちと較べて相当に教育を受け,そしてより広範囲に旅行もしており,そしてテレビを通じて経験と情報の幅を拡げてきた。これらの事実はまた,労働者の仕事に対する期待の中味をも向上させたり変化させたりしてきた。伝統的な作業組織および作業場所そのものが, 近代的な作業力よりの物的,経済的,社会的,および心 理的必要を満足させるために,変化してきているという意見が,世界の至るところで聞かれる。これらの必要を満足させることによってだけ,現代技術のすべての潜在力を実現化させる。という進歩がある。

会議での最近の話題とは,具体的に,満足度の高い安全な作業環境に対しての,作業者からの有言,無言の希望によって,長い時間をかけて作業場所の改善がされた,という新議論である。労働組合,進歩的従業員,および 議会議員は,あまりにも多くの時間をかけて,よ り良い作業条件を実現した。すなわち,未成年者就業や工場での労働者の搾取は過去の遺物であり,そして,より短い時間,休暇,より 安全な作業場所,およびその他多くの進歩は常態となっている。年功制,苦情処理,および賃金率および作業規則への集団交渉権は,高度に組織化された工業化社会で人々を陥れさせる疎外と無力感より,逆に救済してきた。しかしながら,状況が変化して,代替的な作業方法に新たな期待と関心とが集まってきた。

1969年および1972年より1973年に行われた,合衆国労働省の雇用の質調査(Quality Of Employment surveys)では,仕事に対する期待一覧表の中で,給与および仕事の安全性が高く位置付けられた。しかし,また,訓練を受けるための才能をより完全に利用するための, 労働時間,教育,レジャー,および退職に対して大幅の伸縮性をもたせるために,作業上の健康と安全に対する危機を徹底的に予防するために,そして作業をする方法を抜本的にコントロールしていくために,労働者は様々な機会がもうけられることを望んでいることが,この調査で判明した。これらの被調査者のうちの20%以下の少数者だけが,自分たち自身のやっている仕事に不満足であると表明した。しかしながら,これら少数者の見解は記録しておく価値がある。というのは,それらの見解は,若年で教育歴のある労働者によって表明されたものであり ,それらの見解は,必ず将来において支配的なものとなるからである。

今日,労働側と経営側の双方は,労働力よりの要望を調整するため,そして同時に,経済上の生き残りの必要に見合うための,新しい方法を探索している。集団動機付けシステム,伸縮的作業日程,自主的作業チーム,作業再設計,日標設定,およびその他の新技法が,成功はまちまちであるが,試行されてきている。そのような103の実験に関するアメリカ研究所(America Institute) の研究調査に従えば,生産性と作業への満足度の双方を改善するための,最高の約束を示してくれるプログラムは,作業環境の社会的,心理的,物的および技術的側面,すなわち成果認識,技能訓練,作業計画への参加,安全と健康保持,ストレス減少,および適切な装置を目的とする,総合的なプログラムであるようだ。

今日の雇用者は,企業の生産性と生き残りに対して大きな賭けをしてきている。従業員補償の大部分は,特定の企業との連続的な雇用に依存する手当て,健康と福祉便益,およびその他の賃金補充によっている。企業の競争力と仕事に関する生活の質(quality of life)の向上は,労働者,労働組合,および産業経営者側にとっても,共通の関心事なのである。

労働者側と経営者側とは,大幅に生産性向上のために 協力するであろうという予想は,仕事が保障されている従業員を仮定することに依存している。多くの従業員は,より高い生産性向上を解雇という脅威から考えている。そして,従業員は彼らがいつまでも雇用されることへの信頼性をもつことだけで,生産性向上に対する努力を全面的に支持しているにすぎぬ。作業者の解雇は,より高い生産性による不可避の結果ではない。もし産出高が増加されるか,またはもし作業時間が減少すれば,雇用は 損なわれる必要はない。そして雇用は増加しさえする。歴史的に,生産性が国民的平均値より,より速く増加している産業は,しばしば雇用が平均値よりも高い比率でもって増加している産業と一致する。逆に言えば,遅れた生産性をもつ多くの産業は,解雇する必要が出てくる。

日本および多くの西側ヨーロッパ諸国の記録によれば , 低い失業水準と高い生産性向上比率という記録が樹立さ れている。このことは,拡大する経済および積極的な労働市場政策によって,すべての人々に対して仕事を十分に提供することができる,ということを示唆している。国民所得を向上させることは,すべての財貨サービスヘの需要を増加させる傾向をもつ。このことは,急速な生産性増加を伴った企業または産業における雇用を,維持するか増加さえするのを助けている。

産業の総雇用水準は,反対に,影響されないけれども,技術変動,市場変動,およびその他の経済変動は,特殊な作業者集団へは厳しいものとなる。大変動が訪れたとき,それらに起因する個人的な困難性は,しばしば先進的な計画によって転減され得る。もし変動による衝撃が十分に小さければ,退職,死亡,または自主的人事異動による正常の損耗によって,しばしば作業者をレイオフさせる必要性をなくすことができる。

近代的な工場や事務室の中に入り込んでいる。新しい高度の自動化技術を利用した機器を,操作できる作業力を保有していないことについて若干関心がある。利用可能な作業力は,1979年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート A サィモン(Herbert A.Simon)による「経営意思決定の新しい科学J(The New Science of Management Decision)よりの,次に示される引用によって指摘されているような仕事を遂行することが可能である必要がある。サイモン博士は,作業力に関するオートメーションの衝撃について研究 し,次のように記述している。

「オートメーションは,工場または事務室における技術水準の分布を,実際的には,根本的に変動しないという証拠が示されている。現代経済における大部分の,多分70%ぐらいまでの仕事は,乗用車を運転するに要するよりもっと複雑な技術を必要とするのではないが,事務室の技術は社会を構成する成人のほとんどすべての人た ちによって習熟されている」。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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