コラム・特集

3.6 目的を持った活動の完遂(問題解決)

IEハンドブック
第1部 インダストリアル・エンジニアリング機能
第3章 インダストリアル・エンジニアリング業務の効率化

3.6 目的を持った活動の完遂(問題解決)

目 的を持っ た活動を完 遂するには,ひとつごとに異なったアプローチをとらなければならない。これは,IE実 務の改善のために認識しなければならない一番重要な点である。 総括的な言葉で言えば,種類の異なった問題に対しては(現在手持ちの問題で何もしないと決めているものも含めて),異なった問題解決の姿勢が必要だということになる。実践的な言葉を使うと,質問の種類とその結果得られる情報の性質とが,大きく変化することになる。

このようなアプローチの違いは,時間軸のあるシナリオを使って表現できる。現実の世界(あるいは,現実の世界からIEが取り出したデータ)においてひとつの問題が識別される。問題というものは,急に出現するのではない。不満,欲望,業績不振,不確実などが生じると , 現実の世界(組織,部門, IEが活躍している組織委員会など)では何かしなければならないと決める(あるいは, IEから提案する)のが通常である。何かするということは,いつでも,時間の限界がある。IEは,現実の状態がどの種類の活動であるか区分しようとする。各活動分野ごとに異なったシナリオが用いられるので,活動分野を識別するには,困難な問題に対する動機付けや価値が利用される。

その上で,問題は,調査,あるいは設計・計画,あるいは評価の分野というように所属が決められる。この際の最もきわだった特徴は,達成すべき目的である。現状のIEでは,あらゆる問題に同一のアプローチが用いられ,大量のデータを収集してから,問題解決を考えている。ほとんどと言ってよいほど,ばらばらで統一性のない気まぐれなデータベースをもとにして,依頼人との話 合いが行われ,販売統計の作成,対象の分類,配給点の決定などなどが行われている情報を必要とする 事情について,現場の人々が話してくれることはまずあり得な い。防衛的で懐疑的態度をとるのが普通である。そのため,自分たちに都合のよいような偏ったデータを提供しがちである。

IErが問題解決をすすめるにつれて,依頼人からの委託も段々にはっきりとしてくるプロジェクト開始のころと比べると,IErの認識も 変わってくることが多い。また,依頼人の見解,仮定,知識の基礎の変化とは異なった形で, IEの見解・仮定・知識も変化し,それにつれて,革新的な解決案や対応策を考え出すようになる。

同じ期間に現実の世界も変化し,問題に対する人々の 認識度,優先順位,理解も 異なったものになる。このような変更は,IEの問題解決の仕事が開始された直後から発生し始める。環境のあらゆる面からの“ 障害”,“通 常の実施変更”,“新技術,新知識”といったものが.依頼人の所属する世界に影響し,変化をもたらす。問題そのものも変更し,重要度が上がったり下がったりする。こうした変化の大半は気づかない程度の小さなものであるが,組織や部門に属す人々の潜在意識に変化を与える。したがって,変化がたくさん生じるにつれて,現実の世界そのものも異なったものになり,プ ロジェクトの範囲や背景に対する認識も大幅に修正される。

このような状況の中であっても, IEとしては,現実 の世界に対して,結局のところは解決案あるいは対応策を提案する.この段階で, IEの努力が実らないことが明らかになることが多い。IEの世界と現実の世界とでは,問題に対する認識をそれぞれ大きく修正し,や むを得ず異なった方向をとっている場合も多い。その時点で提案に対する考え方の基となる前提条件が,あまりにも違い過ぎるという理由で, IEか らの提案を依頼人が拒否す ることもある。たとえ最終的に採用される提案があった としても,ど ちらの側としても,あ まり有難くないような妥協の産物であることがほとんどと言ってよい。このような結果の特徴は,創造性の欠如,目的の不達成,防 御的な姿勢,ほとんと満足されない目標,敵意,不必な手順などである。

こうしたお定まりのシナリオは,大 きなプロジェクトにあてはまるように思われるが,小さなプロジェクトの場合にも,同じように認識が変化する.認識に差が生じ る原因は ,また,ひとつの解決案をあるケースから別のケースヘあてはめようとしても成功しない原因でもある。ある状況に対して開発した解決案を,もう一度,売 り込もうとしたり採用させようと考えるのは不適当という他はない。なぜなら, 2つの状況が全く同一ということはあり得ないからである。

アプローチの各ステップ,各段階で, IEの世界と依頼人の世界とが,密接な相互関係を保つ必要がある。このような相互関係は,現実世界の側の人々がプロジェクト・チームに加わっている場合にも必要である。チームに加わった現実世界側の人々は,プロジェクトが進行するにつれIE世界の人間になってしまう。これは,プロジェクトの開始直後から,チーム・メンバーの認識がIE志向となるためである。また,プロジェクト進行中, 現実世界のすべての人々とできるだけ多くの結合点をもって,関係を深める必要がある.相 互関係を深める責任は主としてIEにあり,全体の流れの中の交流点を探し,設定しなければならない。

このような認識の理解の共同化のためには,各活動分野ごとに異なるアプローチの特性を考慮しておくと,いろいろな点で役に立つ。まず,問題解決の文献に示されている数多い概念的なアプローチーー理論的方法,感性的方法,間接証明法 ,偶然的方法,直観的方法 ,など ―を知ることである。第2に,どのアプローチ(またはアプローチの組み合わせ)にも利点があり,いずれかの活動分野に適しているということであチは,各活動分野ごとのトータ ル・アプローチに何らかの形で組み入れられなければならない。

あらゆるアプロー チ(理論的,感性的,間接証明法など)をひとつのトータル・アプローチに組み込まなければならない理由は,われわれがそれらのアプローチ全部を問題解決の手段として随時利用しているからである。ただひとつたけのアプローチに固執していると,人間の認識を正しく示すことができない。科学者の間でさえ,「知覚した世界を個々に区分する合理論者の傾向は,真実を表わす基本的な特徴とは言いがたい」という認識が高まっており,これによってもすべてのアプローチをひとつのトータ ル・アプローチに組み入れる必要性が確認される。

次に ,トータル・アプローチはどの程度詳細であるべきかという問題がある。この点に関しても,人間の認識 , とくにアプローチ発見のために有効な解決案を提案した経験のある人間の認識が,答の大きな手がかりとなる。 ある特定の活動分野に関する全体論の範囲内で, トータ ル・アプローチを明らかにする要因を決定しようとしても,決してうまくいかないことは,実例からも明らかである。変化に対する人間の一連の動きを考え,また,対応 策や解決案の発見に時間を費やす専門家の活動を検討すると ,トータル・アプローチを記述するには, 5つの要素で十分であるという結論が引き出されてくる。つまり,トータル・アプローチとは,時間軸の各ポイントで,次のような5つのからみ合った要因を同時的にまとめ上げ た統合体である。

1.実行段階や実施ステップの戦略の追求(アプローチが円滑に進行しているときに,どのような段階やステップを続けていくべきか? 人間の認識という点から考えた場合,時間軸に沿った意思決定の流れはいかにあるべきか?)。

2. 目的に適合した優先順位と属性の枠組み内での, 解決案あるいは対応策の明確化と提案(“ システム ” という言葉は,望ましい枠組みという 意味で使われ ることが多いが,調査の解決案,設計・計画の解決案,実施。監督の解決案,評価の解決案,学習の解 決案ではそれぞれ明らかに異なっており,それぞれごとに異なった「システムの枠組みJが望ましい ) 。

3.提案の受け入れや実行を可能にするため戦略追求 段階で,依頼人や組織からの関係者の参加(問題の種類や影響を受ける人々の人数によって,関係の程 度は変わってくる。どんな場合でも,常に人々が参加し影響し合う機会を作らなければならない) 。

4.該当する状況にもっとも効果的な知識と情報の確認と利用(場合によっては,研究,経験,伝説や神 話などについても幅広く利用するたとえば,事実 の記述や調査に用いる情報や知識は,意図的な活動や変更の妥当性や結果の予測,あるいは実施と監督の情報や知識とは異なっている ) 。

5. 絶え間ない変更や改善のための準備。これには , 進行中の解決案や対応策の変更や改善も含まれる (現実世界のあらゆる面について改善や変更を追求し,実施可能でやりがいのある改善。変更を実行していると,関係者が変更を予期していない場合にありがちな衝撃を避けることができる 。どんな解決案,対 応策であっても,必ず独特な変更や改善の計画をもっているはずである。

各活動分野ごとにそれぞれ異なったトータル・アプロー チを調査するには,まず,各アプローチの全体論の主題を明らかにする 必要がある。各アプローチの5つの要因が実行可能であるとすれば,アプローチごとに異なった理論過程と手法とが必要であると思われる。トータル・アプローチの各要因が,各活動分野ごとにどのように働いているかは,個々のアプローチの展望や推論を基として詳しく説明される。図表1.3.3はこの構造を示したもので,個々の活動分野の各要因について簡単に考え方をまとめている 。この中の情報の大部分は,読者もよく 知っているものではあるが,表示の方法が全く別の見方に基 づいているので,適切な問題解決が可能になるに違いない。各活動分野ごとのト ータル・アプローチについて, いろいろと記されているが,完全性はそれほど意図していない。この表は,問題に対するアプローチや対応策は, 追求する目的によって異なるという基本的な概念を,形としてまとめたものである。目的はどんな場合でも最重 要な要因である。

係者よりも ,あ らゆる段階にわたって重要である。また , 解決案の明細化の標準は,実施よりも調査の分野で重要 視される 。最新の情報や知識の利用は,評価の初期の段 階に比べて,そ の後の段階ではそれほど重要でない。

各活動分野のト ータル・アプローチを描くには,もっと時間軸に沿ったシナリオが適している。図表1.3.4は , 設計・計画の時間軸に沿ったシナリオである195つの要因に加えて,図表1.3.4では,計画。設計の世界と現実世界との間の結合に必要な相互関係も示してある.実 務としての業績を上げるために,IEにとって特に役立つのは,ポ イント2の解決案を発見する構造の設計であ る。つまり,問題の解決にあたっては,解決案をどのよ うに追求するかを明確化する一関係者は誰にするべきか,問題発見で本当に達成しなければならない目的は何か,どのようなインプットを利用するべきか,いつ問題発見の構造やシステムを動かすか,どの程度の資金が必要か一ことから始めなければならない。こうして,この構造は,各方面からの援助が十分に保証され, IEによって実現に移される。というのは,ほとんどどんな場合でも,この問題発見の構造が, IEと 協力した関係マネジャーや意思決定者によって作り上げられるからであ る。

問題が発生したとき,あるいは,問題が潜在し ていることを示すデータがIErに与えられた場合に,どの活動分野とアプローチを対象とするかを決めるには,次の ような質問をすればよい。どのような点が気がかり か ? どのようなニーズが満足されていないか? どんな成 果を求めているのか? マネジャーは何を期待し ている のか? 求めている利益をうまく説明する価値は何であるか? グループやマネジャーは何を重要であると考えているのか? どんな目的を達成すべきか?

これらの質問の回答の大半は,目的,価値目標,達成目標の説明である。グループや依頼人が認識している目 的や価値や目標を小さなものから大きなものへと階層を作り上げることによって,問題の全体的な背景を検討する機会ができ,正しい活動分野と適当なアプローチを選択することができる。また,どんな人でも自分自身の評価基準を用いて ―たとえ,その評価基準に政治的な基準やトラブルの発生頻度や個人的な要因のようなものが 含まれているにせよ―全体の背景の中から問題を選択する機会が得られる。もちろん,ア プローチの確認は単 なる始まりにすぎない同じ問題に幾つかの活動分野が関係していることも多い。
図表13.4のポイント1,la,2の3個所は,どの活動分野のシナリオにも共通して現われる。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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