コラム・特集

こうして測る作業の時間

実践IE読本 第1集 やさしい自己啓発教材

問題の見方・とき方

こうして測る作業の時間

川島正治

長年のヵンだけでは心細い,さて!

横淵組長の頭痛のたねは毎日 行なわれる進捗打合会である.以前はせいぜい週1回であったが生産予定の遅延があまりに多いというので最近毎日やることになった。組別に昨日の進度を報告して今日の予定を確認し,飛び込みや,予定の変更について工程係から連絡を聞くことで1時間くらいはすぐたってしまう 。横淵組長の第一課は量産物 だが,中間加工外注の部品の入りが不規則であることと ,欠勤やら機械故障やらで,い つも追われっばなしである.納期は相当きびしく ,営業の苦しい立場もわかるので,何 とか予定に間に合わそうと努力する。また部下にもムリをいえば何とかなるだろうと ,つい引き受けてしまう.部下は20名だが,工程数が相当多いので,機械の手当,人の割り つけなどでは ,時々手ぬかりがあってほぞ をかむことがある.打合会では何とかごま かしてはいるが,内心では“そんなことをいったって人間だから感違いだってあるさ”と自らをなぐさめていた。

部品ごとに工程別の1日 の出来高は長年のカンて大体わかっている .以前工程係で実績をしらべたデータがあったが, 2年ばかり前のもので,その後,作業内容が相当変わってきたものの,このロットは何日の午前中ぐらいには上るだろうと見当はつく .また大部分はそれほど大きな誤差はないが,誤作品や手直しが出たり,設計変更などでカンの狂うことも再々ある。いつかもっとはっきりと,全部品,全工程(2~300はある )の 出来高の目安をつかみたいとは思っていたが,先日,部長から標準時間を決める話が出た時,これは自分の仕事にも直接関係があるからいい機会だ,と賛意は表しておいた。しかし ,自分でストップ・ウォッチを押すとは大変なことだ。とても ,半年や 1 年ではまとまらないだろうと 内心やや危惧もしていた。

飛び込みがあっても ,予定は予定なのか

2, 3日 たって,時間観測の練習をやることになり ,課長から希望やら注意があった。

「みんな知ってのとおり ,毎月工程係から生産予定表が発行されてるが,あれにはどうしても標準時間が必要なんだ.営業からの要求は大体3ヵ月先行して出るが,それだけの受注量がこなせるかどうか ,こなせなるすればどれだけ外注に回すか, などを決める基礎になるのが標準時間なんだよ 」

「でも,課長」と 誰かが言葉をはさんだ。

「生産予定表を作る目的だけのためなら ,従来も大体の国産数がありますから ,それで間に合うのではないでしょうか」

「しかし ,毎月の生産実績は生産予定をいつも下回って,おくれ分は次の月に繰り越しているだろう。いつも,おくれおくれの連続なんだ。これては, “予定とはおくれてもよいものだ”という悪い習慣がついてしまっているのもむりはない. これからはそれをもっと 真剣に, どうして予定がおくれたのか,その原因別に,計数的にはっきりつかみ,例えば
・計画時に手落ちがあったのか。
・資材や外注のおく れで手待ちが増えたのか。
・誤作 ,手直し ,故障などのためか。
・作業者のやる気がなくて,予定を軽く考え,毎日の作業がおくれたのかなどの対策をキメ細かにやって行くつもりでいるんだが」

「そういわれても ,今のように飛び込みがあっても ,予定は予定だから ,その上に飛び込みもやれ, というのでは逆立ちしてできっこありませんよ。今度からそんな時にはどれをおくらせてもよいという指示てもしてくませんか」

当然ながらそんな質問も出た.そこで

「今迄は,そんな時ても現場て何とかやりくりして,大部分間に合わしてきたのて,工程係ても現在の日産目標数ならある程度はゆとりがてるのではないかと思っているのかも知れない.しかしこれからは正確な標準日 産数をもとにして,月ごとの生産予定を立て,それに,組長も,その週その週て,特別の事情を考えて週間予定表を作ってそれを工程係が認めた上て進度管理をやってもらう考えだ」

横淵組長は今の説明だけでは,われわれ組長までストップ・ウオッチをもたせる理由がどうも十分わからないので重ねて聞いてみた。

「第1の目 的は工程管理をうまくやって,納期を確保することだが,第2には作業者の努力により標準時間に近づけ,現在より能率を上げること,第3には作業を細かく 見ることによって改善をやり ,積極的に生産性を上げるという目 的もあるん だ。そのつもり で時間観測をしてくれ給え, じゃあ松本君,頼むよ」

松本君は生産技術部門にいるが,大学を出て数年,品管(品質管理の略称)や治工具設計,そのほか,毎日のトラブルを現場のスタッフとして解決に当たっていた。人当たりは割合よく ,組長達とも融け込んでいる人柄だった。

いざストップ・ウオッチを握って

ストップ・ウオッチはいつも数個ぐらいて間に合うつもりていたところ,練習ては一度に十数名やるので不足した.不足分は普通の腕時計てやることにした。
ストップ・ウオッチは1分を100等分したもので1日盛が1/100分 (これを1DM*・・・デシマル ・ミニッンと呼ぶ )になっており,秒にすれは 0.6秒である.観測板も用意された。

「どうも大役をおおせつかってまごついている ところですが,講習会で教わったやり方をてきるだけそのままやって見ます.私もかけ出してすからお互いに研究しながらやりましょう。腕時間ても秒針の目盛さえついていれば十分代用できま す。ストップ・ウオッチの方はネジをいっばいに巻いて下さい。では最初の練習に入ります」

最初は黒板を自墨て叩いて音を出し,その時の秒針の位置を読んて罫紙に書く練習てあった.書く方は見ないで,時計だけを見る.書き方は字が重ならないように少しずつ下にずらせばよい.下手でもかまわない。10回音を立て,音と音との間隔は5~8DM(3~5秒 )とした.

「では皆さん今書いた数字を端の方から順に言って下さい」

それを黒板に書いていったら ,ストップ・ウオッチの方は大体似たような数字が並んだ。しかしなかには5.5秒とか18.3DMなど,小数以下まで細かく読んだ人もいた。

「そんなに細かくは必要なく, 4捨 5入の要領で針の近い方の目盛を読めはよい」と注意があった。

また何人かはまごついて 途中でやめた人も出た。

「途中で間違ったと思っても,やめてしまわないて次の音からまた初めて下さい。皆さんの数字を見て同じような数字が特に日につきませんか,例えば, 5とか0とか8とか, これは人によって好きな字や,つい切上げて 0や 5にしてしまう 癖があるものです.正確に読んで下さい」

こんな要領で3,4回 やり,音と音との間隔を計算してもらう.それには後の数字から前の数字を引けばよい。この数字を個別時間 *という。赤鉛筆かボールペンて記入するとよい.全部の人の個別時間を黒板に書いて見る。

「若干バラツキが ありますが,大体合ってきました。4捨5入しますから1秒ちがいはやむをえません。……皆さん なかなかうまいですね」

次は罫線に沿って正確に数字を書く練習だ。罫線は8mmくらいの間隔がよい.今 度は鉛筆の先を次に書く位置(罫線に沿って )にあてて置き →時計の方を見て→音がしてそれを読むと同時に鉛筆の方を見ないで数字を書く→書き終ったら ,素速く ,紙の方を見鉛筆を次の欄に移す→また時計を見る.だから ,日は大部分時計に焦点が合っているわけである。

「では練習してみましょう 。時計よりなるべく目をはなさないのがコツです」

前と同じように黒板を叩き,音を出す.個別時間を計算して,全員の結果を黒板に書く ,各人の個別時間の バラツキ をチェックし, 1DMまたは1秒程度の誤差かどうかを調べる.大体揃ってきたら次に移る.

「では ,いよいよ 今日の最後の練習です。もう時計を見て,正確に記録すること ができましたから,今度は ,作業を見て,時計を見て,記録するという, 3拍子そろった観測方法です.まず,ごく簡単な作業でやってみましょう 」

なるべく見易い太い棒(竹のムチに自墨を塗ったものでよい )を黒板に沿って上下に振る動作で ,ムチを振り降すのに1秒,上げるのに1秒,上げたまま 3~4秒 お いて ,また振り降すのである 。これを数回繰り返し,ムチが振り降された瞬間を 記録する 。

「作業者の動作を見て記録するといっても ,本当は作業者の方を見ないで,時計に 焦点を合せておいて ,その視野の中で作業者の動作を感じ取るのです。ピンボケ の状態でも練習によって十分作業者の動作をつかむことができます。そのために は ,日と時計と 作業者の上半身が一直線になるように観測板を構えるのです(図 -1参照).観測板 (または 紙ばさみ)をもった 腕をずっと上げて構えて下さい .ど うですか ,私の振るムチが目 のすみに入っていますか。 決してムチの方に焦点を合せないで下さい 」

遠くにいる人は 見にくい から 4m以内に近づいてもらう.もちろん立って行なう。

「では初めます。初め振り降した所で,黒板に当てて音を出しますから ,その時の読みを書いて下さい。しかし, 3回目よりも音を出しませんからよく注意して下さい」

あとは全く音を立てないで数回繰り返し,前と同様,個別時間を比較してみる。

“ 歩く・書く・座る “を測る応用編

これで一応基礎練習は終ったので,次に実際の簡単な作業について練習しよう。その前に大切なことは動作を見ながらどこで区切るかを決めることである.作業をどのくらい細かく分析するかはいろいろな見方があるが , ここでは簡単な記録可能な最小値としておこう。 「では私のやる動作をできるだけ細かに分析してノートに書いて下さい」  図-2のように,椅子から立ち上って4歩ぐらい歩いて,チョークをとり ,黒板に自分の苗字を書き,チョーク を置いて,椅子まで戻り ,腰をかける。数秒おいて,また立ち上り,上の動作を繰り返す。3・ 4回繰り返すうちに皆に走り書きさせて,いくつに分析したか言わせる。少ない人で 7 多い人で10ぐらいなるだろう。

どのくらいの細かさがよいか,図-3で説明しよう。数字は正確に, 時間観測をした場合であるが,初めのうちは1~ 2DMはなかなか観測できないから ,すこし大ざっばであるが(C)のように , 4つの動作,歩く書く歩く 座っているとし ,区切りを立上って一歩ふみ出す(坐り終り).歩いて止まる (歩き 終り), 書く (書き終り),歩く (歩き終り)とする。ここで間違えてはならないことは,書くという動作の読みは書き終りであって,書き初めではないのである,この約束を守らないと人の記録を読みちがえることがある 。

作業者の動作がこの例のように正確に繰り返し作業であったら,動作の名前(要素作業という)をあらかじめ紙に書いておいてもよい。そして,それが10回ぐらい繰り返しても全部かけるような特別な用紙(時間観測用紙)を用意する。ここで簡単 に図-4のように左側に 4つの動作,横に1~ 5回 までの欄を作らせる.いよいよ練習である。

「私が立ち上ると同時に“ハイ”と 声をかけますから,ストップ・ウオッチの人はリューズを押し,腕時計の人はその時の読みを第1回目の欄外に記入して下さい。それからあとは同じように, 歩くの所に歩き終り,つまり書き始め,書くの所にも同様に書き終り,つまり歩き始めの読みを記入するのです.坐るの所は坐り終り,つまり立ち上った瞬間の読みが入り,次に2回目の歩くは行をかえて一番上の行に歩き終りを記入するのですこれを5回繰り返しますから,注意して記入して下さい」

初めはごくゆっくり,しかし区切りの個所は 2回ばかりわざと音をたてて,はっきりわかるようにし, 3回目から音を出さないようにする。途中でやめてしまう人がいても,次の回から記入するように励ます。終ったら個別時間を計算して欄の 上半分の所に,赤鉛筆または○で囲んで記入させる。結果は黒板に図-5のように書く。3~ 4回繰り返すうちにだんだん各自の個別時間が揃ってくる。

「バラツキが大分少なくなり,大体その差が 1 DMから1秒の中に入りました.最初にしては非常にいい成績です。われわれの講習会でも,これよリバラツキの多いグループもありました。あとは練習です。各組ごとに組長さんと班長さんが互に作業者になったり,観測者になって簡単な机上作業(要素作業が5つぐらい)を やります。例えば, 『帖面を本立から抜き取り,頁をさがして開き , ソロバンで計算し,鉛筆で記入し,帖面をとじて本立にしまう』などをやって見るといいと思います」

「いま練習したような簡単な作業は現場にはないよ.繰り返しといっても30分も1時間もかかるものがあるからこんな練習では応用できないな」

と板金などの注文生産をやっている第二課の中井 班長がいった。

「僕の所もいつもやり方が同じとはいえない. ロットが小さいから5個か10個で,2~3時間で終ってしまう」

特殊ものの多種小量の職場をあずかっている第二課の伊部班長も口をはさんだ。

「そうです.今回のような簡単な作業は第一課の量産品でも,特に簡単なフライスとか孔明作業に適用されるくらいでしょう.しかし,この観測法が一番基本になりますから今日は皆さんにやってもらいました。また明日は第二課の特殊品の1個当たり20分から30分位かかる長いサイクルの作業や,第二課のような全々繰り返しのない大物の 溶接作業などの観測方法を練習する予定です」

「今日ぐらい簡単な作業でも 鉛筆がふるえてしまって書けないのに,もっと面倒な作業ではとても落第だなあ」と第二課の一番先輩の坂本組長がヤレヤレといった顔で,隣にいる部下の中井班長に話しかけた。

「君は若いんだから俺の代りにうんと練習してく れよ 」

「いゃいゃ,それは困りま すよ。組長さんが先 頭に立ってやってもらわなきゃ ……」

「まあ,皆へうまく話をするのは引受けたから年寄りを困らせないでくれよ」

と半自の頭をゴ リゴリかいて,本音を出したようだ。

一般の会社では気鋭のIE係がやる仕事を,この会社では第一線の監督者にやらせようとしてい るのだから ,少しは抵抗もあるだろう 。川又組長にしても同じ思いだ。また明日も練習だが,今度は自分の職場でも利用できる方法だと聞いて,少しは興味をおぼえた。

(つづく)

「実践IE読本(編・日本能率協会・1971)」をアーカイブとして掲載するものです。この読本のの各章は現場生活のなかでぶつかるいろいろな問題を事例を通してとりあげています。職場生活の悩みのタネとなっているムリ・ムダ・ムラをどのように受けとめて、改善のヒントをつかんでいくかが、IE・インダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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