コラム・特集

現場を盛りあげた“一段とび”作戦

実践IE読本 第1集 やさしい自己啓発教材

成果をあげた実践例

現場を盛りあげた“一段とび”作戦

編集部

――東芝電気・府中工場の話――

常識をこえたコスト・ダウン目標

昭和45年 といえば,例の 「ニクソン・ショック 」の爆風にもさらされず,今から思えば ,まだまだ , お家安泰ムードの世の中であったことだろう。社会面でも,「新公害,光化学スモッグ発生」という新聞記事が日立ったものである.その翌年, このスモッグという化物が,都市周辺の府中市にまで足を運び,当時の学説 をひっくり返したことがある。

その頃,東芝の府中工場で,ある製品部が,実に50%以上のコスト・ダウンに挑戦していたと耳にしたときは,ホントカナとさえ思えてき た。今はどキビシイ 経済環境でない時に,何と50%を超えるコスト ・ダウンとは,一体全体何事があったのか,またそれをどんなぐあいにやってのけたのか,疑間づく めだ。今でこそコスト・ダウンが経 営活動の合言葉のようになっている が,当時としては 「量産さえすれば,いくらでも儲かる」式の強気商売がまだ続いていたはずだ.たかだか 2, 3年前のことではあるが ,コスト・ ダウンの同じ言葉でも,世の中の景気はガラリと変わり ,その考えの全社的な浸透はづいぶん違うことになろう。 「こっちがダメなら,あっちがあるよ 」と歌の文句よろしく,住みづらい職場なら他に移れた時でもある 。

そんな,こんなで好奇心にかられて,まず現場の監督さんに,じかに会って話しを聞いてみようと,工場へ出かけてみた。2月も初め,中央線にゆられて寒い車中に約50分,手持ちぶたさも手つだって,いったい何が好奇心をさそっているのか考えてみた。

1つ, 日頃の仕事,職務以外に,コスト・ダウンという異質なノルマを与えられた場合,特に現場作業者の立場では,それをどのように受けとめているのか。

2つ,コスト・ダウンの指示目標が従来の感覚からは生まれてこないほどの強引なものでありながら ,それを,みごと遂行しえた秘技,秘訣。もう少し具体的に考えてみると,実施要領,作業者の協力を得るにいたった風土づくり,その他諸々のカラクリ.

3つ,現場の作業者,監督さんが実際に何をしたか。

そんなことを考えているうちに,大きな建屋が並び ,何本も引込線の敷かれている工場についた.ちょうど午後の作業時間に当たり,構内はZD運動のマークがすぐ気につくほどに,閑散としている。製品部の方へ,渡部課長さんに案内され,いよいよコスト・ダウンのカラクを探る機会となった。

後発メーカーの強烈なパンチ

忙しい中を課長,主任,班長さんの計5名の方にお会いし,さきはど車中で考えていた問題点を一つひとつ聞いてみた.

まず課長さんから「CCG(コスト・ センター・グループ )運動」のメカニズムか説明があったが,聞くだけでも大変なぐらい,多岐にわたり ,また細に入る綿密な計画であった。ここでは詳細に説明するのは避けるが,大体次のような内容であった.

製品部扱い商品の分野では後発メーカーとしてスタートしたが ,昭和45年までは,市場競争の激化で,赤字続きだった。そのため事業存続の岐路立たされた。そこで 45年前半の苦い経験から 46年には損益ゼロの指示があって,この採算化計画がスタートしたという。

CCGが 設計11名 ,IE 5名の計16名の専任者で編成され ,部品標準化 ,製造技術改善 ,外注購買の各分野のコスト・ダウンの目標値を設定していくことになった。その設定方法が,市場価格から逆算してくるもので ,いきおい ,実績能力を上まわることになった。とはいえ ,決めるにあたって生産数量一つをとっても ,セルバ・プラン *を用いて決め ,技術的な課題があれば,夜が明けるまで , 議論百出の状態で討議し ,あげくの果てに,何ら得られずにダウンという笑うに笑えぬ苦労もあったという。 そんな調査段階の後 ,機種 ,部品単位でVA的な改善・標準化を行ない ,現場の各組別に最終的なコスト・ダウン割付があった。この間約3カ月。

以上の説明を理路整然と聞いたが日標を決めるといっても ,スタッフの苦労は大変なものである 。 とおりいっべんのやり方では,現場にしわ寄せがいくし ,また何よりも,皆んなのベクトルを合わせるだけの説得力もないため,結局は目標倒れになろ。 この計画の成功を握る 一つの大きなカギとして,設計部門の標準化,VA活動も見逃せない。 われわれ素人には,そ の商品にしても,かなり規格化があって,機種も当然少ないと思ってはいたが,前者にして,実に数十種にも及ぶと聞き,驚いた.製造部門に与えられた工数低減(主に設計のフィードバック 情報になる )の課題も ,このへんの活動と歩調を合わせなければ, CCG運動の相乗効果も生まれてこなかったと思われる。

一段とびフォローでやる気が生まれた

さて話は製造部門の主任さんに移った。

「組ごとに目標時間を割りあてられましたが大変な数字で ,今までの倍以上の努力がなければ,とうてい目標達成などできないものでした。実行に移すには,何か良い知恵がないものかと ,改善案発見のチームを作ることにしました.現場の人たちとスタッフがペアになって,各人の得意な分野を生かすよう 割当てたのです.例えば,電気関係に強い人は配線部分について,機械の得意な人は,構造上の問題について取組み,誰もが得意でないところは,主任クラスが攻めるといった具合にやりました。

ところが,その改善案の報告が月に3回,剖長と私(主任)の間で一段とびフォローが行なわれるので,改善案の作成には死にものぐるいでやらねばならず,すっかりくたびれてしまいました。報告した内容はすぐガリ刷りで事業部内に知らされるため,ウソは言えないし…… .

また,今までの課長とのやりとりと違って,話もしなかったような部長さんから ,直接フォローされるために,われわれの意気込みも確かに上がっていたと思うのです。その点から一段とびフォローの実施で,職場のマンネリ化を防ぐ大きな起爆剤として, この運動にいっそうの活力を与えたことになると思います。 また,作業者の皆さんとは毎日 ,分科会をもって,改善案の検討のため,接していきました。そのときは,作業者のアイデア発掘に手を貸すよう努力しましたが,やはり ,能力の個人差もあり , 一生ケンメイ,喰いついてくる人もあれば,何もてきない人も当然でてきたのです」。

現場を案内してもらった時にも ,たしかに改善案の出せる人,出ない人のバラツキはひどかった. タテに発案数30件分の目盛, ココに作業者名のある俸グラフであるが,ある人は,棒線が上までいって折れ下がる約50件も出していた。2,3人右の人はゼロであった。 改善案のアイデアといっても ,内容的にはいろいろあろう。例えば図面どおり 作っていれば,ひどく工数がかかる .じゃ俺なら ,このビスの形を変えて丸形にすれば,かなり手間が省けると思うのだが! といった調子のものもある 。設計者にはわからない実践上の貴重な注意が多い。そのヘんで現場の改善案というのは,何もVA, IEといった形にはめる大ゲサなものでなくとも,標準化のヒント,工数低減のヒントなど ,作業者のみに与えられた特長を盛りこめば,スタッフにとってもきわめて役立つと思う。

話はわかるが体が受けつけない

そこでスタッフの悩みは現場の悩みにも通じるが製造部門のある班長さんに話を向 けた。お年は40も半ば ,現場のことは隅々まで心得た方である。 先程まで,課長,主任の話を聞いてきたが,現場の方の声を代表して話していただいた. 「課長,主任からは,コスト・ダウンの思想 , 実行の骨子といったものを,われわれにもよくわかるように話されました。実際,いわれたとおり企業防衛上の点からも ,そのとおりだと思うので すが ,体の方が受けつけないのです」。この計画の実施に当たって,「現場の風土」というものを無視してかかるわけにはいくまい.そこで班長の話が進む。
「日頃の作業は,指示された図面どおり ,一生 ケンメイにやっているわけで,その努力がそのまま ,製品の格,品質を守り ,そして売れることにつながってると思っているのです。その努力に ,さらに ,別の形で, コスト・ダウン を強いられるということになると ,上流で決められた企業防衛上の対策も,何か建前と本音の食い違いみたいなも のがあって,なかなか,実行にまで及ばなかったような状態でした.私も,板バサミのような格好で,何とか,職場のベクトルを合わせようと努力しました。しかし 課長からあんまり時間がかかりすぎるといわれ,与えられた50日間の調整期間も何となく過ぎようとしていたのです。 そこで,主任,課長を除き,われわれだけで徹底的なブレーン・ストーミングをして,腹を決めたのです。その腹を決めるに大いに役立ったのが 一段とびフォローでした,こいつのおかげで,今まで,課長→主任→自分といった馴れ合いめいたコミュニケーションをしていましたが,それがまるで違ってきましたね。直接,課長からの指示があるというだけで,すごく緊張感,責任感に包まれるのです。事実,主任が部長から直接フォローを受けているのを見るだけでも,何か職場の零囲気が燃えてきましたね」

 

アイデアがすぐ計画に反映

ここで職場の土気が燃え,それがキッカケて計 画の実行が具体的に始まった。何といっても,現 場にしかわからない設計のフィードバック情報をどのように作るか,そして,それを具体的にどんな道順で実効に結びつけていったか,改めて聞いてみた。要約すれば次のようになる. まず主任のいわれた,分科会の日頃の成果をガリ刷りの形で,発表者,責任者別に改善内容を作成したものをもとに,審議会で改善案を検討する。この会はCCGメンバーと,関係各部門のスタッフで固められ,例えば,設計変更の場合の部門間の承認と事務手続きを,その場てパッと処理できるようになっている(従来は変更の度に,各部門へ足を運んで所定の手続きをとり,手間と時間が大きくかった).したがって ,改善の努力がすぐに反映し,発案者の労もすぐねぎらわれる。ということて,職場の雰囲気に活性を与える一石二鳥の効果があった。

今は ,すっかりこの やり方が根づいて,受注促進のための大きなエネルギーというありがたい問題にぶつかっている。

「実践IE読本(編・日本能率協会・1971)」をアーカイブとして掲載するものです。この読本のの各章は現場生活のなかでぶつかるいろいろな問題を事例を通してとりあげています。職場生活の悩みのタネとなっているムリ・ムダ・ムラをどのように受けとめて、改善のヒントをつかんでいくかが、IE・インダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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