不良返品の原因はどこにある

実践IE読本 第1集 やさしい自己啓発教材
仕事の中のQ&A
不良返品の原因はどこにある
飯島信太郎
(現場改善インストラクタ ー)
この演習講座では,いろいろな事例を通して , みなさんに「問題を考える力」を養っていただきます。私達の職場で起きる問題を分析するために ORを始めとして,いろいろなIEの手法が開発されています。皆さんもすでにそうした手法を用いて問題を解決されていると思います。しかし, 手法はあくまでも問題を解くための手段なのです。問題を解く重要な鍵は,むしろその前後にあり,手法と同様に,あるいはそれ以上に大切なことが多いのです。いかに立派な手法であっても ,サシミ庖丁で肉を切るようなことでは困るのです.
そこで,この講座では,手法の解説ではなく, 問題そのものを考え抜き,いかにして問題解決の糸口をつかんで行くかを,皆さんと一緒に研究したいと思います.そのために,まず事例を出します。みなさんは,社内の友人から相談されたとして,あなたならどう答えるかを次回までに考えておいてください。私の方では,実際に何人かの方に意見を出していただき,それを参考にしながら解決策を考え,次回にのせます。その回答が,皆さんのものと合うこともあれば,合わないこともあるかと思いますが,それはそれなりにけっこうです.この欄での「回答者はあなた」であり ,間題を考える力をつけていただくのがこの講座の目的だからです.
〔 事例1 不良返品をなくせ〕
P社は,大手の電気機器メーカーにいろいろなスイッ チ類を納入している会社で,製造は自社の工場でやっています.
ある日,工場長が専務に呼ばれ,APW100スイッチについて ,得意先から苦情がきているので, 至急調査せよという命令を受けました。不良品が多いので,返品か値引きをせまられているそうです。APW100は P社で3カ月前から納入している新製品であり,従来の同種製品を3割程度小型にしたものです。P社の技術部は,得意先から , 小型化の要請ので ることを予知し,すでに 1年くらい前から研究していただけに,絶対の自信を持っていました。 しかし,ユーザーからは,時々で はあるが,うまく作動しないというクレームがで てきているため,P社としては 1日 も早く不良品の原因をつかまねばならないのです.
工場長は, IEトリオといわれてい るスタッフの田中,山本,鈴木 3君を呼び相談を始めました。 3君は相談のうえ,次のように工場長に提案しました。
(1)3日後に,各部門の責任者による合同会議を開く。
(2)会議の席上で,必ず原因と対策が決定できるという覚悟で出席する。
(3)各課では,自分の担当する仕事について検討することはもちろん,他課および全社的立場で検討すべき事項も同時に出すこと。 当日の部門別出席予定者と検討すべき事項例をひとつずつあげておきます。
(1)専務―わずかな不良品を値引の口実に使われていないか
(2)営業部門―値段のとりきめがあいまいになっていないか
(3)資材部門―原料は同じものを仕入れているか
(4)労務部門一人の質,環境に特に変化はないか
(5)工場長一新設備のため機械にムラがないか
(6)設計部門―得意先の図面と同じか。何らかの変更はないか
(7)技術部門―得意先での使用工程まで研究してあるか
(8)製造部門―仕事の流れ,組立順序等に矛盾はないか
(9)検査部門―検査方法,対象に問題点はないか
各部門の検討課題が決まり,それぞれの部門で検討が始まりました.製造課長から第5班長の林さんにも声がかかりました。林さんはスイッチのケースを作る工程を受持っています。そこで,彼は,製造課長から不良品の原因究明が全社的に行なわれており,製造課でも各工程について問題点の検討を始めるよう指示されました。
林さんはこの職場に入って約10年,ケースの製作工程は5年の経験を持っています。 いままでも , 不良品のことを耳にしたこともありましたが,林さんに声がかかったのは今回が初めてです。
そこで,自分の工程について,さっそく 調査を始めました.合成樹脂の粉末からケースを作る機械を5台担当 ,それぞれの機械に1名ずつ作業者がいます.林班長はゆっくり1台1台をみてまわりながら,機械や皆んなの調子を聞いてまわりました。しかし,皆んな順調であるという返事が戻ってきたのです.林班長は,さてどうしたものか,考えがまとまらず,課長の指示「仕事の流れ,組立順序等に矛盾はないか」という言葉を頭におきながら,もう一度現場をまわってみたが,これといった異常はありませんでした。
課長からは ,必ず何か検討事項を出すようにと ,強くいわれているだけに困ってしまいました.明日の午後課長に報告することになっているので,何とか今日中にひとつぐらいはみつけたいと思いながら,終業のベルが鳴ってしまったのてす。ベ ルを聞きながら,ふと友人の萩原君のことを思いだしました.萩原君と6時に会い,世間話などをした後で,不良品のことを話してみたところ,萩原君も他社で製造の仕事を担当している責任者だけに,いろいろと相談にのってくれました.くわしい話は省略しますが,林班長が特に強く感じた点は,他の工程もみたのかということと,調子はどうだと聞くよりも ,何か変ったことや,困っていることはないかと聞いた方が問題点を見つけやすいという2点でした.
林班長は,萩原君と別れてからの帰り道て工場の中の仕事を順序だてて追ってみたのです.どこに何があり,誰が何をしているのかを一生懸命思い出しているうちに,今日は確かにせまい見方をしていたなあと感じたのです。明日は,さっそく全工程の班長の意見を聞きにひとまわりしよう. また,自分のところの部下にも, 自分の工程と直接関係なくてもよいから ,特に何か変わったことがなかったかと聞いてみることにしました。皆さんも,次回までに,スイッチのケースを3割程度小型化したことによって不良品が増えることのないよう にするには ,どんな点に注意し たらよいかを列記してみてください。ケースの大きさ,ネジ止め,素材は何かといった条件は自です.みなさんの手近かにあるケースを例に考えてみてください。
(つ づく)