コラム・特集

1.4 モデル化のレベル

IEハンドブック
第14部 インダストリアル・エンジニアリングの最適化

第1章 最適化:概観

1.4 モデル化のレベル

最適化研究の実施は,多くの場合,金と時間のかかる仕事となる。まず第1に,非線形計画法ソフトウエアの信頼性と頑健性の現状からして,満足できる結果を得るまでには数多くの試行,パラメータ の調整,変数や関数のスケーリングの変更,初期変数の見積値の修正,制約条件を変えての実験を繰り返さなくてはならない。しかし,人手という点でいえば,最適化モデルを開発すること自身がもっと費用がかかるだろう。通常この仕事に関連する費用は,最適化計算を準備し実施するコンピュータの費用よりもはるかに大きいものである。

モデルの開発に金がかかるとすれば,モデルのレベルの選択に当たって,その研究の目標にふさわしく,システムに関する利用できる情報の品質に,バランスのとれたものを選ぶように適切な判断が必要となる。全体的な投入産出モデルで十分なときに,工場操業の詳細なダイナミック・モデルを開発することは明らかに望ましくない。さらに,係数評価に用いるデータが少なく信頼できないときに,複雑なモデルを作っても役には立たない。一方, 最適化されるのはモデルであって,現実のシステムではないのだから,真のシステムの最適値を適切に近似できないような,単純なモデルを使って最適化研究を実施しても無意味である。

モデル開発に当たっては「最適いい加減さの原理」と呼ばれる考え方が必要であるとよくいわれる。この原理は,モデルが与えられた研究の目標に対して,必要なぎりぎりの程度詳しければ十分であるということである。この目標の達成は常に難しい。特定のシステムでならば, モデルの複雑さはどのレベルが適切であるかについての勘を養うことは,成功や失敗の積み重ねを通して可能であろうが,この経験を他の応用に一般化することは通常難しい。いい加減さの最適レベルでモデルを開発するための唯一の安全第一の方法は,モデルの開発と最適化を一歩ずつ進めることで,始めはごく単純なモデルから出発して,得られた最適値の改善が,モデルで使ったデータの精度に相応したところで終える方法である。しかしながら,この方法は骨の折れる組織的な手順となり,ORアナリストの仕事に関してよくいわれる,アナリスト自身も持ちがちな「ORは早業である」という先入観に反する。このような段階的な展開を避ける一般的な方法は,そのときちょうど気にいっていたり,同僚の評判が高かったり,自分がそのとき一番よく知っている最適化手法にモデルを合わせてしまうことである。このような現象は新しい“異国風の”手法が発見されたり評判になったときに典型的に起こる。たとえば幾何計画法や動的計画法の全盛期には,それらの手法の信者たちがすべての問題をその手法に必要な特殊な鋳型に鋳込んでしまおうとしたものである。

ある問題を特殊なモデルの形に無理やりに当てはめることが必要な場合も起こる。整数計画法のモデル化に当たっては,その問題をある“扱い易い”型 に押し込むことが重要となる。たとえば,問題が上手に解けるようにネットヮークの形に当てはめてしまうことがある。重要なことは問題を特殊なモデルの形に押し込めたとき,解の品質にどのような影響を与えるかを知っておくことである。またモデルを開発するとき,利用できる最適化手法の能力と限界をよく,心得ておくことである。非線形計画問題が,商用の線形計画法ソフトウエアが使えるのと同じ次元の大きさで解けると考えるのは明らかにおかしい。しかしながら,モ デル化の段階では,このような配慮は主要な問題ではなく,二次的なことである。

最適化研究の実例
モデルを展開できるレベルがいくつもありうることを 例示するため,多製品ポリマーエ場での最適化研究を紹介しよう。 問題の工場は並列の装置が直列に数段階並んだもので,各段階の間には工程間在庫をもっている。

工程のプロック図を図表14.1.3に示す。

第1段階は数台の同一でない重合反応槽からなる。第2段階は能力の異なる数台の並列押し出しラインからなる。第3段階は,5ライン から なる混合工程で,各ラインには1台または複数台の混合ユニットが配置されている。最終の段階は包装工程である。包装工程にはバラ積み,箱詰め,袋詰めの3種類の方式がある。

この工場はポリマーの等級・型に応じて多品種の生産を行っており,したがって連続生産ではない.製品の切り替えを可能にするため,各工程段階ごとに一定量の工程間在庫が割り当てられている。さらに混合段階にはいくつかの大容量貯蔵槽があり,これにより製品の混合に備えて適切な在庫量を確保しておくことができる。

必要な意思決定はこれらの工程を「最適化」することである。現在の製品スレートは,この工場や生産設備が設計されたとき考えられた製品スレートとは実質的に変わってきているから,工場の収益性には改善の余地がある。

この研究の第1ステップとして,簡単な線形投入産出モデルが作られ,望ましい製品スレートは何かが検討された。この線形モデルは,各製品・各処理工程ごとに必要とする平均生産率と平均処理時間にもとづいており,「規格外れ品」(製品規格に合致していないもの)の平均生産率を用い,現状の原料供給レ ベル,現状の市場価格 ,需要の制限なしを仮定している。このモデルはパッケージ中の線形計画法コードを用いて解かれた。数ケースの計算によって,現在のスレート中のいくつかの製品は落とすべきであり,他の製品は増量すべきであるとの結論が明らかになった。

さらに研究を進めた結果,ある製品の生産率を増し ,他の製品は減らすことにより,中間規格外れ品の製造が増加してしまうことが明らかとなった。この材料は通常 内部的に回収されている。この内部回収サイクルの増加によって,押出し工程に隣路が発生しそうである。そこで最初の線形モデルは拡張されて,図表14.1.4に示すように,鍵をにぎるこの内部物質フローが加えられ,同時に最大・最小の許容中間処理率にもとづく新たな制約条件が加えられた。改訂されたモデルも,大きさはかなり 増したが,線形計画法による最適化計算に適した線型モデルであることには変わりない。この拡張モデルを用いたケース・スタディによって,押出し・混合両工程の能力が,最初に設定された最適製造スレートを事実上厳しく制限していることが判明した。明らかに一定量の能力拡張が望ましい。

追加設備に対する最適投資額を決めるために,モデルが改訂され,追加装置の投資額と運転コストに対する非線形コスト項が,そ れの生産高の関数として付け加えられた。投資による追加生産能力は線形制約条件に含めるだけでよいが,コスト項の非線形性により,目的関数が非線形になる。このようにして得られた線形制約つき非 線形計画問題が,既製のソフトウエアを利用して解かれ た。この最適化計算機 礎にして,工場の増強のための 適切な資本支出が提案された。この段階で研究チームの メンバーは,選択された付加能力はすべて平均生産率と, 現在使っている製品順序と同じ順序を用いるという仮定とに基づいていることに注目しているはずである。そこで別の生産順序や製造連の長さを考えてみる必要が起こるだろう。この工場モデルに対して,バッチの大きさ, 製造連の長さ,製品順序,切替え政策のような新たな考慮が必要となってくる。

たとえ一部であっても,このような要素を含めて考えようとすれば,このモデルは二進変数を含むものに修正されねばならない 二進変数を用いることによって,問題の順序づけの部分が反映されることになる。そこで次のような計算上の考慮が必要となる。利用できる混合整 数計画法のコードは非線形性には対応できないので,非線形コストの項をすべて固定コストと線形コストの項によって近似しなくてはならない。こうして得られた混合 整数計画問題を解けば,その解は,適切な生産順序の変 更と,より短い製造連への分割が望ましいことを示すことになろう。

この段階で計画モデルに期間を入れ,地区倉庫と物流ネットワークを研究に加えるのがよいかもしれない。あるいは装置の運転停止や立ち上がりの過渡状態の工場経済への影響に関する問題や,これらの期間中の規格外れ品生産に関する問題が起こるかもしれない。さらに工程間在庫や最終製品在庫水準に対して,より詳細な検討が必要になるかもしれない。もし複数期間の考慮が必要ならば,混合整数計画モデルはもっと拡張されねばならなくなるだろう。

一方,過渡状態や在庫の変化に重要な関心を持てば,全く違ったモデルの定式化が必要になるであろう。システムのダイナミックスを明らかにするために,離散事象型や離散・連続混合型のシミュレーションが実施されることもあろう。この場合にはケース・スタディによって,あるいは直接探索最適化アルゴリズムによるいくつかの変数上での直接探索によって,最適化が実施されるであろう。

最後に,一部のあるいはすべての加工工程の故障時や切替時において,生産率の変動がはっきり現われる場合には,モンテカルロ法によって発生させたこれらの変数の変動を,シミュレーション・モデルに含めることが必要となるであろう。この場合には,変動する観測値についての統計的データを集め,適当な分布関数を定め,モデルにこれらの確率論的特性を含ませることが必要になる。この型のモデルの場合には,直接的な最適化をめざと,普通コンピュータ時間のためにたいへんコスト がかかるので,いくつかのパラメータを変化させるケース ・スタディによって最適化を行うのが一番よい。

工場最適化に用いられるモデルは,研究の深さと方向に応じて,普通の大きさの線形モデルから,大規模線形計画法,大規模な混合整数計画法,非線形計画法,確定論的シミュレーション・モデル,モンテカルロ・シミュレーションヘと拡がる。もし一番単純なモデルによって改善の可能性は少ないことが示されてしまえば,一番複雑なモデルを使っ てこの研究を始めるのは明らかに無駄なことである。同様に確率論的モデルのパラメータを評価するのにデータがないのならば,詳細なシミュレーション・モデルを作り ,これを使うことは意味をなさなくなる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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