コラム・特集

1.3 最適化のモデル

IEハンドブック
第14部 インダストリアル・エンジニアリングの最適化

第1章 最適化:概観

1.3 最適化のモデル

理論的にいえば,実際のシステム上で直接実験を行うことにより,最適化研究を実施することができる。つまり,システムや工程を種々の政策の下で動かしてみて, 日標値のデータを集めることにより,最良の政策を選んで意思決定を行うことができる。場合によっては,そのような決定をするために,出カデータの統計解析をする必要もあろう。

実際には大部分の最適化研究は,対象とするシステムのモデルまたはモデル系列の助けを借りて実施されている。工学における最適化の本質は,モデルの構成とその利用にあるといっても過言ではない。ここでいう「モデル」とは,現実システムの単純化された表現であるといってよい。この用語では,モデルは一般的にいって完全ではない部分的な表現であるという意味を含んでいる。なぜモデルを使うのだろうか。“現実の”ものそれ自身よりも,その代用物を扱うほうを選ぶのには,いろいろな理由が考えられる。その動機が経済的理由からの場合も多い。資金,時間,資材の節約のためである。現実の 対象を動かすことによる危険を避けるための場合もある。現実の環境があまりにも 複雑なので,それを理解するた めだけに,あるいは他の人にそれを知らせるためだけに,モデル表現を必要とする場合もある。このようなモデルは生命科学,物理学,工学ではしばしば用いられている。何らかの現実の物が与えられたとしよう。これを「現実システム」と呼ぶ。この物を取り扱いたいというはっきりした理由が存在する。いいかえれば現実システムに関する“問題”が存在するとしよう。この問題は明らかな“ 結論”を求めている。この場合,モデル化プロセスは図表14.1.2のように示すことができる左側の破線は「直接法」とでも呼ぶべきものを示しているが,ここではそれとは違う方法を追求していこう。

最初のステップはモデルの構成である。これは「定式化」と書かれている実線で示されている。このステップでは,現実システムのどの特徴をモデルの中に組み込むべきか,どの特徴は無視すべきか,どういう仮定が可能であり,置くべきか,どういう形にモデルをまとめるべきか,などの一連の相関連する決定が必要となる.定式 化には特別な創造的技能を必要としない場合もあるが, 多くの場合,このほうが興味ある場合であるのだが,定式化はまさに一つの技術である。現実システムの中の本質的属性を選び出し,無関係のものを排除するに当たって,どんな精密なアルゴリズムでも決められない,ある種の選択能力を必要とする。

したがって定式化のステップは,ある程度任意性によって左右されることになる。という意味は,同じ能力をもつ研究者が,同じ現実のシステムを調べて,全く違ったモデルを作り出すこともありうるということである。

モデルを定式化する“ 正しい”方式を論ずることは,無意味になり勝ちである。しかし,このことは,あるモデルが他のものより良いモデルだということをいえないという意味ではない。この点については次の「信頼性」問題 によって例示しよう。

実例14.1.1 ある電子システムは3つの構成部品からなっており,システムが機能するためには,これらのすべての構成部品が働かなくてはならない。システムの信頼性(シ ステムが正しく働いている確率)は ,それぞれの構成部品にいくつかの待機部品を準備することによって改善することができる。システムの信頼性は各構成部品の信頼性の積によって与えられ,各構成部品の信頼性は,次表に示すように待機部品の個数の関数である。

たとえば,待機部品が全く無い場合には,構成部品2の信頼性は0.6であるが,2個の待機部品があれば,その信頼性は0.95となる。3種の構成部品に対する各待機部品のコストと重量は次表に与えられる。

すべての待機部品に対する予算の制限が150ドル,重量の制限が20kgであるとして,問 題はシステムの総信頼性を最大化するように,各構成部品に対して準備すべき待機部品数を決めることである。

この問題を定式化するため,次の変数を定めよう。

xij=1  i個の待機部品が第j構成部品に対して準備されるとき。
 =0 そうでないとき。

各構成部品に対して,準備すべき待機部品の数は 0,1,2,3,4,5のいずれかであることを示すため,次の形の制約条件が与えられる。

5∑i=0 xij=1   j=1,2,3に対して
構成部品1のコストは、
20(xij+2X2i+3x3i+4X4i+5X5i)

で与えられるから,システム全体でのコストの制約は

20∑ ixit+30 Σ icji2+40 Σ ixi3く 150

となる。同様にして,構成部品1の信頼性は、

R1=0.5×01+0.6×11+0.7×21+0.8×31+0.9×41+1.0×51   (1)

の形の非線形関数となり,これを最大化しなければならない。一方,構成部品1の信頼性を,

RI =(0.5^χ01)(0.6^χ 11)(0.7^X21)(0.8^X31)(0.9^X41)(l^X51) (2)

の形で与えれば,システムの信頼性R=Rl R2 R3は対数をとることによって線形化され,単なるlog n Rの最大化問題となる。式(1)(2)のいずれを用いても,xi1の許容値に対して同じ値を与えていることになるが,積形式((2)式)を用いることにより,目的関数の線形化が可能である。このように,適切な定式化がはっきり決まってくるまでに,モデル化プロセスの展開段階は何度も繰り返され,解析されることになるであろう。問題の定式化と定義がいったん決まれば,モデル化プロセスのより科学的なステップが始まる。

図表14.1.2に戻ろう。 「演繹」と書かれたステップでは,モデルの性質により種々の手法が用いられる。そこには方程式を解いたり,コンピュータ・プログラムを走らせたり,一連の論理式を表わしたり,そのモデルに関連する問題を解くのに必要なことすべてが含まれる。

もしも仮定が明確に述べられ,矛盾なく定められているならば,モデル化のこの段階では意見の相違など起こりようがない。論理は真であり,数学は厳密に正確である。 理屈のわかる人なら誰でも,たとえ必要な仮定のすべてに賛成できなくても,それらの仮定からこのモデルの結論が引き出されたことには同意するはずである。これは単に,使った手法に基づく計算の形式的なルールに従うだけの問題である。演繹過程のすべての要素を理論化し, 解析し,概念化することは,モデル化プロセスの重要な部分である。

最後のステップである「解釈」は,ふたたび人間の判断を含んでいるモデルにおける結論は,モデルとその実世界での対応物との間の起こり得る食い違いについて十分認識した上で,現実での結論に注意深く変換されなくてはならない。モデルを定式化したときに,意識的であれ無意識であれ見落とされた,現実システムの特徴が重要なものになってくる場合もある。モデルがある重要な要因を省略しなかったということを証明する方法はないのだから,道理のわかった人がモデルから得た結論の現実への適応について同意できない余地は十分あり,この解釈のステップでは,ある程度までは直観的判断による調整が必要であろう。

図表14.1.2によって明らかにされる最も重要な点は,モデルとそれが表わすシステムとの間の結び付きは,精々もっともらしい連想の結び付きにすぎず,いかなる人も,たとえどんなに有能な人でも,そこで完全なものを作り出すことはできないということである。モデルが受 け入れられるかどうかを決める,絶対的な基準など存在し得ないことは,モデルが現実システムの単純化された表現であるという,モデルの性質それ自身から出たことである。良いモデルと悪いモデルとを識別する絶対的基準は存在しえない,さ らにモデルの正しさの検証は,モデル化の全体の仕事の中では,必須の部分ではないといってもよいくらいである。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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