コラム・特集

1.1 最適化の意味

IEハンドブック
第14部 インダストリアル・エンジニアリングの最適化

第1章 最適化:概観

1.1 最適化の意味

工業組織の規模と複雑さは1960年代と70年代を通して巨大な成長を遂げた。経営者の意思決定は大量の労働者資材,設備を含む非常に複雑なものになってきた。IE エンジニアの役割は,これらの意思決定をより客観的に日常活動のベースの上で行い,経営者を援助することにある。IEエンジニアの観点からいうと,意思決定とはコストの最小化や,利益の最大化をめざして,与えられた技術システムや工程に対する“最良の”設計・操業を勧告することである。ここで“最良”という言葉を使うのは,意思決定に当たり,ある選択,つまりいくつかの行動の代替案が利用できるということを意味する。“最適” という言葉は,一般に最大または最小を指すのに使われており,最大化や最小化の一般的過程を“最適化”と 呼んでいる。IEエンジニアは工業システムやサービス・システムの設計における最適化問題に関心を持つだけでなく,これらのシステムが設計された後の製作や操業などの問題にも関心を持っている。

最適化研究の重要項目
最適化研究での重要項目は次の通り

1.システム境界の明確化
2.評価尺度
3.独立な決定変数
4.制御できない変数

システム境界
いかなる最適化研究を行う場合でも,あらかじめ研究しようとするシステムの境界を明確にしておくことが重要である。多くの場合,あるシステムを解析しようとすると,そのシステムの運営に影響を与えるいくつかの相互関連を持つシステムをも含めたくなって,システム境界を拡張する必要が起こる “ 最適性”は ,研究対象のシ ステムに限定したときだけ考えるもので,そ のシステム を取り巻くより広いシステムには当てはまらない場合も あることを承知しておくべきである。

一例として塗装ライン ・システムを考えてみよう。そこでは加工済部品が組立ライン上に載せられて,種々の 色に塗装されていくそれぞれの色に対する最適バッチ ・サイズと色の順序を決める問題を考えるには,塗装部 品を加工している加工部門を,この研究に含めて扱うかどうかを決めなくてはならない。システム境界を拡げると問題の大きさや複雑性が増えることは当然であるが, 必ずしもその研究の結果を改善するとは限らない。システム境界を明確化するとともに,最適化研究の目的と利用できる予算枠と時間の制限を確認しておくことも重要である。

評価尺度
最適化研究に用いられる評価尺度とは,種々の代替案 を比較するために用いる有効性の尺度である。最適化間題の多くは,いくつかの有効性の尺度をもっている。そのうち最も重要なものはどれかが,システムの明確化と研究目的決定のステップの中で明らかにされる。物的および経済的システムにおいては,一般に,評価尺度としてコスト,利益あるいは生産性を用いることが多いが,社会システムの場合には,複数個の評価尺度の最適化を考えねばならぬ場合も起こる。最適化研究において複数個の目的関数(評価尺度)が認められる場合には,そ れら の目的関数の間に矛盾が起こる可能性がある。塗装ライン・システムの例でいえば,ライン管理者はラインの生産性を最大化するため,長い中断のない製造連を望み, それによリラインでの色と部品の切り替えを最小にしようとするだろう。その結果,塗装された部品と色の限られた種類に対して,大きな在庫を作ってしまうおそれがある。販売部門は顧客の需要に応えるため,すべての色と部品に対して大きい在庫を持つことを望むであろう。 財務部門は資本投資を減らすために,できるだけ在庫レベルを低くするように努めるであろう。

独立な決定変数
最適化研究での第3の重要項目は管理上,制御可能な独立の決定変数を決めることである。最適化研究での既知定数である入力と,検討すべき種々の代替案を意味する決定変数を区別することはたいへん重要である。下手な,いいかえれば不適切な決定変数の選択は,最適化研究の結果を偏らせ,誤った結果を作り出すおそれがある。考慮されていない代替案は,たとえそれが望ましいことが明らかであっても,用いられるはずがない。

制御できない変数
もう1つの重要項目は,システムの運営に影響をもつ制御できない変数を決めることである。これらの変数は 管理上制御できないものであるが,変化して研究中のシステムの挙動に影響を与える可能性がある。塗装ライン・システムの例でいうと,装置の故障や作業者の欠勤は, ラインの操業と生産性に影響を与える。最適解を求める間,これらの制御できない変数に対して,適切な許容範囲が与えられていなくてはならない。これが適切でないと,実際には適用できないような政策が求められてしまうおそれがある。

最適化研究の目的
すべての最適化研究において,その主要な目的が,システムの“真の最適な”運営を決めようとするものであるとは限らない。実際には,研究中のシステムを理解すること,表,グラフ,コンピュータ・プログラム,数式などによって,定量的にそれを記述することが,最適化研究の主要な効果となるような場合も多い。このような定量的記述だけで,どこの運営を改善したらよいか,どこにシステムの際路があるのかを明らかにすることができる。最適化研究では,システムの重要な変数 (制御可能なものと制御不可能なもの)を確認し,これらの変数を効果的に取り扱う方法を示唆する。これにより,システムの理解をさらに深めるべき領域が正確に示されるだろう。

最適化研究が最も永続的に貢献する部分は,定量的なものより,むしろ定性的なものかも知れない数値計算なしでその問題が明確にされることも多いし,これにより,どのような決定がなされるべきかについての見通しが得られることも多い。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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