コラム・特集

10.4 統計処理

IEハンドブック
第13部 IE技術者の定量的方法論

第10章 コンピュータ・シミュレーション

10.4  統計処理

コンピュータによるシミュレーション・モデルの実行は,本質的に複雑なサンプリング実験となる。シミュレーション実験を設計し分析するための手順は,他の科学的な実験で使われる手法に類似している。その大きな違いは,シミュレーション分析者は実験条件をコントロー ルできる点にある。統計分析は次の理由によってシミュレーション研究に必要である。(1)シミュレーションで発生したデータをシステム性能の推定に効率的に使用する。(2)そのデータを基にした結論の展開と制約を明らかにする。第1の考慮はシミュレーションをいかに開始,実行, 終了させるかについての解答と同様に,データ収集や推定のための手法の選択を含んでいる。第2の考慮は,シミュレーションの妥当性と全体のレイアウトの正当性との両方を含んでいる。この節は,分析者がシミュレーション研究の際に直面する重要な統計的側面について調べる。

次のようなシミュレーション分類がアウトプット分析に関してなされる。

1.定常状態シミュレーション  このタイプのシミュレーション研究においては,十分長い期間の操作後,実システムの行動を支配する確率法則が安定すると仮定する。そのようなシステムに対して,システム性能の定常状態あるいは長期の期待値を求める。ここで述べる統計的手法の多くは,こ のカテゴリーにあてはまる。

2.一時的シミュレーション 基になっている確率法則が変化していると考えられる一定期間におけるシステムの行動を分析する場合に,システムはその期間のみシミュレートされる。そのような終わりのあるシミュレーションは次のような場合に行う。(1)現実のシステムが一定期間で閉じる,(2)「ショック」を確かめるために短期のシステム反応を研究する。このようなシミュレーションには応答分析が妥当な手法である。

インプット用確率分布の選択
シミュレーション・モデルの定式化において,特定の確率分布によって,システムの確率的な要素を特性化することが必要である。インプットとして適当な分布を選択するために,分析者はよく知られた分布の基本的な特性や,その分布が使われる状況について理解しなければ ならない。プリッカーはこれに関して書いている。シミュレーション研究のデータ収集段階においては, モデル化される各インプット項目ごとに,経験的分布を現実システムから収集しなければならない。これは仮説 分布に最尤法検定を適用することを可能にする。フィリ ップスによる書物には,もっともよく知られた最尤法検定と,頻度分布から理論分布を導くFORTRANプログラムが書いてある。

モデルの妥当性
妥当性は,シミュレーション・モデルが現実システムの合理的な表現であることを決定するにある。妥当性 は通常複数のステップで行われる。著者は妥当性がデータ・インプット,モデル要素,サブシステム,そしてインターフェイス・ポイントで行われるよう推薦する・シミュレーション・モデルの妥当性は,難しいけれども, 線型計画の定式化の妥当性に較べて易しいシミュレーション・モデルにはモデル要素とシステム要素とは一致する。それゆえに,合理性の判断には,モデル構造とシステム構造との比較,基本的な意思決定回数とサブシステムの仕事回数との比較が含まれる。

特別なタイプの妥当性には,シミュレーション・モデルに全部定数を使ったり,データ・インプットのパラメトリックな変化に対するアウトプットの感度解析を行うのがある妥当性研究をするのに,システム性能行動の過去のシステム・アウトプットや経験的な知識を使って比較が行われる。大事なことは,過去のシステム・アウトプットが,たまたま生じたサンプルの1つにすぎないことである。

シミュレーション・モデルの妥当性は,統計的な処理だけで済む問題ではないが,これに役立つたくさんの統計的手法がある。シャノンはインプット・アウトプット変換の比較をもとにした妥当性の手法を書いている:これはできるだけ理想的なインプットを使って,現実システムのアウトプットとモデルのアウトプットとを比較する。2サンプルの検定を使うことによって, 2種類の結果が同じ母集団から生ずるという仮説を検定することができる。ノン・パラメトリックなマンーウィットニーの検定,最尤法検定,スペクトル分析検定,正規性の仮定をベースにしたよく用いられる検定等が書かれている。さらに,シャノンは,分析者がモデルの妥当性に必要であるとみなされる多次元評価尺度を持っているときの, いくつかの2サンプル検定について検討している。しかしながら,現存システムのモデルの妥当性を評価する際には,現場にいる専門家の判断が優れていることを彼が強調していることを指摘しておく。

推定方法
シミュレーション・モデルがインプットに確率過程を組み入れている場合,ア ウトプットの評価尺度もまた確率変量に従う。そして,現存システムとの推定を行うときにはこれを考慮する必要がある。特に,システム・パラメータの最良推定値をいかに推定すべきかを決めたり, その推定値と関係する信頼性を評価する場合に必要である。シミュレーションから得られる推定値に対する信頼性の1つの尺度として,固有の推定誤差がある許容範囲内にある確率がある。統計学上はシステム・パラメータ の点推定値と区間推定値を求める必要がある。

シミュレーション実験と関連した推定問題の例として, 10章 2節の銀行出納員システムについて述べる。そこでは顧客の到着とサービス時間に対して,特定の確率分布が必要である。そして出納員によってサービスされる顧客の待ち時間(Wj)が,ある程度蓄積されるまで, 10章 2節で説明したシミュレーションを続けなければならない。このデータ集合に対して統計手法を適用するには , 2節で説明したシミュレーションを続けなければならない。このデータ集合に対して統計手法を適用するには , 観測値は独立で,それらすべてが同じ確率分布から発生することが必要である。銀行システムにおいては,顧客の待ち時間には強い相関がある。その上, j番目の顧客の待ち時間Wjを支配する待ち時間は顧客番号に従い, jが無限のときのみ極限値に収東する。シミュレーションで作られたデータを分析する手法の開発は,現在もっとも研究されている分野である。

推定方法としてもっとも使われているのは応答分析, 部分的区間サンプリング,そして再発生分析がある。

実験計画
シミュレーションの実行は1つの実験である。そこではシステムの性能の評価が,前もって決められた条件によって推定される。実験計画の専門語において,条件は「要因」と「処理」といわれる。ここで処理は要因の特定の水準である 実験計画の分野の文献はたくさんある。この節の目的は実験計画に関連しているが,シミュレー ション実験をいかに計画するかについて詳しく述べない。 実験計画と関連した統計的手法は13部 4章で検討される。 古典的な実験計画の基本原理はシミュレーション研究に応用するけれども,シミュレートされる実験のある面は伝統的な応用と異なっている。その相違している点を以下に示す。(1)シミュレーション・モデルの作成者は応答変量を作るプロセスの構造を詳細に知っている。(2)これらの変量の観測を追加することは容易である。(3)これらの変量の分散は時々コントロール可能である。

シミュレーション実験に含まれる主要な問題は,シミュレーション・モデルと関連している推測空間の定義と関連している。結果がシミュレーション・モデルからいかに広く得られたかについて演繹的に評価することはできる。そしてなされる推測を完全に理解することは,シミュレーション研究と関連した実験計画のもっとも 怠っている部分である。クレイジネンはこのことについて総合報告をしている。

一般に,シミュレーション実験の目的は,

1.実験によるアウトプットでコントロール変量の効果を知る
2.システム・パラメータを推定する
3.多数の代替案の中から1つを選択する
4.最適な反応をするすべての要因の処理水準を決定する

多次元の要因が含まれるとき, リストされた最初の2つの目的に対するアプローチとしては,多くの可能な実験計画の中から1つを選ぶことと,選択された実験計画に対して,分散分析するための仮説モデルをつくることである。実験計画はシミュレーション・モデルが実行されなければならない,おのおのの組み合わせに対する応答数による処理水準の組み合わせを決める。実験から得られたデータを使って,仮説モデルのパラメータが誤差項の推定を使って決定される。各要因の有意さが導かれたモデルをもとに判断され,システム・パラメータの推定値が計算される。

多数の代替案の中から1つを選択する問題において, ランキングや選択の統計処理が使用される クレイネン とデュードイッツ はこの分野の過去の研究を要約する。レビューを書いている。代替案の選択に必要なサンプル・サイズを決定する多くの処理方法が開発されている。そして代替案は,その母集団平均が,ある確率をもって表わされる値を使って得られる母集団平均よりも大きくなるように選択される。検定処理は得られたサンプル・サイズをもとに標本平均を計算し,観測された標本平均の中からもっとも大きいのを選ぶことからなる。

実験計画に関連する最後のトピックはシミュレーション・モデルの最適化である。この問題は,目的関数を最大にしたり最小にする,コントロール変量の値を求めるような,以前に述べたものとは異なる。

戦略計画
戦略計画の目的は,全体の実験計画により決まるシミュレーションを実行する際に,もっとも効率的にモデルを利用することである。ここでは3つの話題について述べる (1)初期バイアスを避けてモデルを始動させる戦略を決定する (2)アウトプットの分散を減らすようにモデルの実行をコントロールする (3)最終結果の信頼を高めるに十分な量のデータが収集できる実験の終了時を決定する。

始動戦略
始動戦略は, シミュレーション・モデルの初期条件を設定し,サンプル観測値の記録を開始する時期を決定する方法を扱う。初期条件は,モデルのウォームアップの持続期間を最小にすることであり,開始時期はそのウォームアップ期間の終わりを確認するのに使われる。実際上,それらの決定はモデルの予備テストの結果を吟味したり,定常状態の行動を発見するようなテストをすることによって行われるシミュレーション・モデルの操作の中に,自動的な始動戦略ができる手法を定式化する試みがなされている。これについては, ウイルソンとプリ ッカーが書いている。

開始時期の手法を使用すれば,性能の累積推定量は減らせるけれども,そのような手法は,サンプル情報が失われるために分散が大きくなることを知るべきである。始動戦略を適用したときに,性能推定量のバイアスと分散間のトレードオフはウイルソンとプリッカーにより詳細に分析されている。

分翻少手法
シミュレーションを基にした性能推定量の精度を高めるために,多数の分散減少手法が開発されている。それら手法のいくつかは,モデルの構造についての特定の情報を利用する。一方,他の手法は,ある方法でモデルの構造や操作を曲解している。それらの方法の中で, 2つの手法(一様乱数法と排反変数法)のみが,実際に広く使われている。この2つの手法の有効性は,使用するシミ ュレーション・モデルの行動に大いに影響される。どちらの手法も性能推定量の精度を高めることは保証されない。多数の他の分散減少手法は,回帰分析,層別サンプリングを基にしている。クレイジネンはこれらの手法の利点と欠点を述べている。

終了ルール
分析者が , システム性能の最終推定量に要求される信頼水準をあらかじめ決めるならは,対応する100(1-α) %信頼区間推定量に対する片側検定の条件となる。 この信頼条件を満足するサンプル・サイズが確実に決まるので,それを逐次的な終了時期の判定に使用する。ローとカーソンは部分的区間サンプリングをもとにした終了ルールを開発している。フィッシュマンは再発生分析にも
とづく逐次的終了ルー ルを提案している 。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

関連記事一覧

2019ものづくり公開セミナーガイド

B2Bデジタルマーケティングセミナー

ものづくり人材育成ソリューション

マーケティング分野オンラインセミナー