コラム・特集

5.4 分散既知の場合の平均値の検定

IEハンドブック
第13部 IE技術者の定量的方法論

第5章 仮説検定と統計的推測

5.4 分散既知の場合の平均値の検定

平均μ,分散σ 2をもつ1つの無限母集団からの大きさnの無作為標本を用いてxの値が計算されるとき,確率変数Z=(X― μ)/(σ/√n)の実現値が,点-Z・∂/2と点Z・∂/2との間に落ちる確率は1-∂である。

∂は0と1との間の数であり,また平均μを近似する確率変数nの実現値が本質的に-∂/2とZ∂/2との外側に落ちる確率を表わしている(正確には,Zの実現値が-Z∂/2とZ∂/2との外側に落ちる確率が∂である)。変換された確率変数Zの分布とともに,確率変数Xの本質的な行動を解釈することにより,真の平均μに関する仮説検定を構成することができる。 ∂=0.05として,次のステートメントを検定するものとする。

Ho:μ=μo
H1:μ=μ1

μoはμの仮定された値であり,すなわち仮説化された値である。Hoは「帰無仮説(“null” or “ primary ” hypothesis」で,H1は「対立仮説 ( “ alternate” or “ secondary ” hypothesis」 である。母集団から大きさnの無作為標本がとられるとき,

X=(∑n i=1・xi)/n

が計算される 。Xはμの最良点推定であり,μ はμoに等しいと仮定されているので,確率変数Z=(X―μo)/ (σ /√n)の実現値が,-Z∂/2=-Z・0.025と Z∂/2=Z・0.025との間に落ちる確率は95%となることが期待される。

-Z0.025と Z0.025との値は標準正規分布表(図表13.5.A 1参照)により決定でき,その値は±1.96である。この ± Z∂/2の値は棄却限界値(critical value)(Zの実現値が-Z∂/2と Z∂/2の外側に出るとき帰無仮説れを棄却し,内側に入るときHoを採択する )とよばれ,明らかに∂に依存する。そこで,もし実際帰無仮説が正しい場,∂はその帰無仮説を誤って棄却する確率として解釈される。この誤りはしばしば「第1種の誤り(error of type 1)」 とばれる。

これに対して,もし帰無仮説が誤っいる場合にも, Zの実現値が±1.96(α=0.05)の内側に落ちる可能性がある。この結果は,実際帰無仮説が誤っているとき,決定分析者にその帰無仮説を採択させることになる。この誤りの確率は一般にβで表わされ,「第2種の誤り(error of type 2)」とよばれる。次の表はこれらの決定過程を示したものである。

表1

 

統計的仮説検定の基本的手続きを説明するために,次の例を考察する。ある石油投資企業連合がテキサスのブロウ・ハード会社から油井の購入を検討している。現在の所有者は,その油井の生産が1日当り平均100バーレルで,分散も100バーレルであることを主張している。この主張を検定するために,企業連合は∂=0.05を選び,16日間にわたり毎日の生産量を観測した。その期間中の全生産量は1,690バーレルであった。所有者の主張に 反論できるであろうか。

仮定

μ=100
ó^2=100
母集団は無限
∂=0.05

仮説  

Ho:μ=100
H1:μ≠100

検定総計量

Z=(X-μ)/(ó√n)

       棄却限界値   

±Z・0.025=±1.96

 

Zの値は、

Z=(X-μ)/(ó/√n)=(105.63-100)/(10/4)=2.252

となる。Z=2,252の値はZ∂/2=1.96よりも大きいので,H1を支持してHoを棄却することになる。いいかえれば,もしHoが真であるとすると,大きさn=16の標本から,xの値が105.63となることは非常に起こりにくいことであり,その結果2の値が2.252というように大きくなっているそれでは,xのいかなる値が意思決定者にHoを採択させるであろうか。

Z∂/2=1.96であるから, 次の関係が定義できる。

1.96=(xc-100)/2.5

したがって,Xe=104.9がHoの採択を結論するための限界の平均日産量である。 次に,真の母集団平均(平均日産量)が 100バーレルではなく,µo=110と仮定しよう。このとき,帰無仮説が誤って採択される確率はいくらであろうか。分散はなおも一定であると仮定して,図表13.5.3を参照せよ。帰無仮説が誤って採択される確率は,βで示されている部分で与えられることに注意せよ。この領域は次のようにして計算される。

Z=(x-µo)/(ó/√n)

したがって、

Z=(104.9-110)/2.5

は,実際の平均値μ=110に対して限界値飛=104.9の左側の領域を指定する。ここで,Z=-204である。

図表13.5.A1から,βの確率はβ=0.0207となる。しかしながら,このβ誤差は-Z0.025=-1.96の左側の領域をも含んでいて,その領域に落ちるzの値はHoの棄却を指示することに注意せよ。この点に対応するxの値は

xc=95.1で ,µo=110のときこの領域に確率変数の実現値が落ちる確率は

Z=(95.1-110)/2.5=-14.9/2.5=-5.96

から決まる。図表13.5.A1から,xの値が95.1あるいはそれ以下となる確率はほとんど0である。 したがって,β= 0.0207は有効数字4桁の正確な値である。 いいかえると,μが実際にはµo=110のとき,帰無仮説を採択する確率は0.0207である。この確率は,指定されたαの値から唯一に定まるxc=95.1とみ=104.9との値をもとに計算される。明らかに,どのような場合でも真の母集団平均 (μ )は けっして分からない。したがって,帰無仮説と異なる値を設定しない限り,βの値を計算することはできない。たとえば,いろいろなµoの値に対して,βの値が次のように計算される。

表2

明らかに,µoが100に近づくと,第2種の誤り確率は β=1-α に近づくことが分かる。ちうどµo=100のところでは,帰無仮説は正しく,第2種の誤りはなくなる。したがってそこではβ=0となる。図表13.5.4は, 帰無仮説と指定されたα誤差とによって定められる最初の棄却限界のもとで,真の母集団平均(未知)に対するβ誤差の状態を図示したものである。この曲線は一つのOC曲線(operating characteristic curve)である。

βの計算は2つの棄却点(-Z∂/2・Z∂/2)に対して対立仮説ごとに計算される。以上のような仮説検定が「両側仮説検定 (two-tailed hypothesis test)」とよばれる。

無仮説は,油井の生産量がちょうど,100バーレル/日であることを述べていることに注意せよ。実際には,油井の購入者は,生産量が100バーレル/日か,またはそれ以上の場合には望ましいことであると考えるであろう。 このような場合,帰無仮説と対立仮説のとり方として次の2つのケースが出てくる。

表3

両方の仮説検定とも同一の目的を反映しているが,各ケースで用いられている決定基準には重要な差異がある。ケース1での帰無仮説は,油井の生産が100バーレル/日あるいはそれ以上であることを仮定していて,そうではないという統計的な検証が得られたときに,仮説Hoを棄却に導く。ケース2で の帰無仮説は,油井の生産が100バーレル/日あるいはそれ以下であることを仮定していて,得られたデータが100バーレル/日以上であることを示す場合に仮説Hoを棄却に導く。

両検定ともそれぞれの意味をもっており,これらは第1種の誤り確率が与えられたもとでの「片側仮説検定(one-tailed hypothesis test)」とよばれる。そこで,α=0.05としてもとのデータについて考えよう。本ページ下部の計算は各ケースについての検定を示している。

Zの値を計算するのに,両検定の場合とも100の値を用いているが,これは第1種の誤り確率をα以下に押さえるときに,第2種の誤り確率を最小にするように設定された値である。いまの場合,第2種の誤りは一方向のみにしか存在せず,したがってOC曲線は片側だけになることに注意せよ。

さらに詳しく述べると,帰無仮説は,その仮説に当てはまらない統計的な検証が得られない限り,その仮説を選択しようとする先験的な自然の状態である。統計学的には,帰無仮説を“採択する”というよりは,その場合はむしろ帰無仮説を“棄却できない”と考えるべきである。このような概念は,仮説検定が導かれている状況での考え方の基礎となっている確率的な性質と合致している。統計的推測を絶対的に確信することはけっしてできないことである。このような考え方から,仮説検定の方式は,標本をとった後ではなく,標本をとる前に選定されるべきである。すなわち,検定法(片側または両側)とα誤差の値の選択は,統計的に何らかの確信を得た後に行うべきではない。もしそのようにして行った統計的推測は明らかに妥当なものではない。

要約すると,意思決定者は第1種の誤り確率αの指定のもとに,片側あるいは両側仮説検定を適用することが可能である。第2種の誤り確率βは,実際の母集団平均が未知であるため,その値を知ることができない。しかしながら,このβ危険(第2種の誤り確率)はOC曲線によって特徴づけることが可能である。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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