コラム・特集

4.1 概 要

IEハンドブック
第13部 IE技術者の定量的方法論

第4章 IE技術者のための実験計画法

4.1 概 要

なぜIE技術者は実験計画に興味をもつのであろうか彼らは何年にもわたって,いわゆる実験によるデータを考察してきた。それらのうちいくつかのケースでは,理論や予想とかけ離れたデータが得られるというふうな混乱した結果が導かれることもあった。そのような場合,これまではその実験を完全に無視して実験をやり直したり,結果を少しでも良くするようにデータを変えたりしてきた。

実験計画には時間がかかりすぎるとか,技術者からこれ以上データを得られないといったような批判を統計学者はよく耳にする。多くの例では,データーーでたらめに取られることが多い――はすでに手元にある。このとき,なぜ統計学者がこれらのデータを分析し,その結果を解釈することができず,もっとデータを要求するのかは理解されていない。

実験計画によリデータを取ってくる主要な理由は,実験が注意深く計画されていたなら得られた結果に,確率的な表現付けをできることにある。また,ある結論を導くためにそのデータを利用する技術者は,どれくらいの範囲にわたってその結果を適用できるか推測空間(inference space)を知りたいものである。

データを取り扱うほとんどすべての場合,実験者は観測の回数を少なくしたがる。もし分散が既知であるなら, 注意深く計画された実験によれば,ある特別の問題に対しては最小のサンプル・サイズで済む。分散が未知なら (たいていの場合はこうであるが),全体の実験を行うまえに,分散を推定するために小サンプルの事前実験が行われる。

これらのすべてはマジックだろうか。
いいやそうではない,「交絡」(confounding)や「かたより」(biasedness)といったような基本概念を学ぶには,思考,協力作業,自発性などが要求される。

ここでこれまでに知られていることを少しだけ見ておこう。そして,2,3の簡単な実験計画の例を挙げ, いくつかの経営工学上の実験計画について論究し本章を終えよう。

実験を効率的に行うには,AndersonとMcLeanなどのような書物をよく研究する必要がある。

何世紀にもわたって,問題の解を見つけ出すため人は実験を行ってきた。非常に大きい集団(母集団:population)について結論を導くためにサンプルを取ってくるという考え方は新しくはない。

しかしCochranとCoxは無作為化(randomization)というのは比較的新しい概念であることを示し,AndersonとMcLeanは, 多くの研究者が実験結果をどれくらい広く適用できるか,推測空間を定義するのにあまり注意を払っていないと指摘している。

計画の例
鋳型製造者

研究者が,現実問題として実験計画に注意を払うべきかそうでないかを考えるために,以下の例を考察してみよう。ある小さな工場で,鋳型製造者が新しい旋盤を購入したいと思っていた。彼は2つのブランドのうちのどちらかを選ぶように絞っていた。これら2つの業者は,どちらを購入するか決めるまえに,それぞれの旋盤を試用してみるように申し出た。代理店から彼の工場に2つの旋盤が運び込まれ,彼はいずれを選ぶか決めるために実験を準備した。

仕様書通りのある1つの型を削るのに要する時間を選択の基本(規準)として用いるなら,16種類の型(切削するのにほぼ同じ時間がかかる)について検討すれば, 意思決定のためには十分であると彼は考えた。もちろん, 旋盤のコストが等しいので,型を削るのに要する時間の短いほうを購入することを意味している。

彼は“注意深い”実験者であったので,それぞれの機械で各型を使用した。これによって,それぞれの機械で型を切削するのに要する時間の差を明らかにでき,意思決定しやすくなる。

実験を始めるため,どちらの機械を実験の間最初に使うかを決めるのに,彼はコインをはじいた。実験のレイアウトは次のようになった。

表の内部の数字は型を旋盤で切削する順序を示している。

著者の経験によると,多くの実験はこのように行われており,研究者が実験を行っ ていくのをそのまま記録していけばよいため,第1次の無作為化も行わずに進められる。これは十分に計画された実験ではない。 なぜなら,もし鋳型製造者が旋盤1で型を作るときにその方法を学習すれば,旋盤2で作るときにその知識を多少なりとも使うであろうからである。よって,彼が旋盤2でより早く切削できたとしても,それが旋盤が “良い” ためであるのか,それとも旋盤1での切削による学習のためであるのか,確かには分からない。これは交絡,すなわち旋盤と学習の効果が分離できない1つの例である。このときは,旋盤の効果の偏った推定が行われることになる。

この簡単な実験の計画を改良するため,型の切削順序を完全に無作為化することがよく考えられる。完全無作 為化された実験計画の1つのレイアウト例は次のようである。

表中の数字は,型を特定の旋盤で切削する順序を示している。たとえば,第1回目の切削は型番号6のものを旋盤2で行い,最後のもの(32)は型番号15を旋盤2で切削する。

完全無作為化は,より十分計画された実験を与えはするが,妙な順序になることがある。いまのいわゆる完全無作為化計画で,まず旋盤2が最初の6回の切削に使用され,はじめて旋盤1が次の9回使用されていることに注意していただきたい。この順序によって,より良い旋盤を買うかそうでないかの意思決定が妨害されるかどうかは分からないが,完全無作為化によれば,効果の不偏推定値が得られることは(数学的に)知られている。

この実験の別の実施法(これが最良と考えている)は, 次のレイアウトによるものである。

このアプローチの実施手順はより込み入っており,詳細を説明するのはむずかしい。2つの旋盤が要する時間差の不偏推定値を得るためには,旋盤1と旋盤2とで同数の型を切削しなければいけない。型のあいだで予期しない旋盤との相性などが生じないように,種々の型を, 2つの異なった系列に無作為に割り当てるのがよいと考える。

1つの例は,前掲のレイアウトのように,系列1として型4,7,15,6,3,14,1,10を 割り付ける。さらに,疲労のような効果への予防も考えておく必要がある。これは,実際に型を削る順序をランダムにしておけばよい。このことは1から16までの数をランダムに選び出すことで実行できる。たとえば14,11,6,… …,10というふうににである。そこで,型14が旋盤2で切削され,続いて旋盤1で,次に型11がまず旋盤1で切削され,その後旋盤2で,というふうに進められる(必ずしも交互になる必要はない)。

この最後の計画については,後ほど詳しく述べるが,これは「交配法」(crossover design)と呼ばれているものである。

大量生産企業
もう1つの実験計画の例(これは定義のまずいものであるが)は ,何年も前の大量生産企業におけるものである。生産現場で働いているある人が,生産に使用している古い合金を新しい合金と取り換えるため,新合金をテストする実験を行うよう準備した。彼は新しい合金のたった1つの炉(バッチ)と,古い合金の別の炉についてテストした。それぞれの炉から1つのインゴットを取り出し,各インゴットから30片の金属試料を作りそれらの60片の試料について,検査しようとしている特性を調べた。 データに基づいて,インゴット内の試料を用い,合金についての一元配置分散分析を行った。誤差の自由度は58である。その結果,新しい合金は古いものより“より良い”ことが分かった。そこで実験者は生産担当の副社長に,将来には新合金を使用するよう生産方法を変更することを納得させた。実験者は “計画に基づいた実験”を行っており,データを “統計的に”検定していたので, 副社長は新合金のほうが良いという事実に間違いはないと結論した。

変更のため,会社は20万ドルを費やした。その方法に変更して2年後,新しい合金で作った製品についての苦情が,古い合金のときよりも多く寄せられるようになってきた。副社長はうんさりして,本章の著者の1人を呼び,その会社ではもう2度と計画に基づいた実験を認めないと言った.議論の後,どのように実験が組み立てられていたかを知るため,著者が実験者と話すことを副社長は認めた。

実験にかかる費用を低くするため,実験者は,検査しようとしている特性が炉から 炉へと,また,炉の中でもインゴットからインゴットヘとかなり変化することを考慮に入れなかった。分散分析の観点からは,彼の考えていた平均2乗期待値は次のようになる。

よって,合金による効果が0〔φ(4)=0〕を検定していたというよりも,むしろ,インゴット(I)炉(H),合金の総効果が0〔30σ^2I+30σ^2H+30φ (A)=0〕を検定していたことになる。新合金による製造を長期間行っても,実験のときのような改良がみられなかったのであるから, Φ(A)はゼロであるに違いない。よって, σ^2Iかσ^2H,あるいはその両方ともがゼロであってはならない。ここで用いた記号で,Φは固定効果,すなわち2つの合金の効 果を表わし,σ2は変動効果,たとえばインゴットはすべての可能性のあるインゴットからの無作為標本であることを表わす。

この結果を説明したので,副社長はこのタイプの問題に再び計画に基づく実験を用いることを認めた。しかし, 各合金に2つ以上の炉を検査することを主張した。

合成繊維製の帽子製造者
計画に基づく実験のもう1つの例(これは優れたものである)は,紳士用の合成フェルト帽子を作っている会 社のものである。本当のフェルト帽子に似せるため,成形されたゴム製の基材の上に毛を一様に植えていかねばならないので,この帽子を作るのに非常に苦労していた。 この問題を解決するため,開発技術者,製造職長,製造主任,販売部の代表者,そ して統計学者からなる委員会が構成された。統計学者の仕事は,他の委員から欠陥品となる原因のすべての可能性をつかむことである。議論に乗せられた要因は次のようなものである。ゴム製基材の厚さ,成形時の圧力,成形時間,成形されたゴム製基材に毛を植えつけるために使用するラテックスの粘度,ラテックスの新しさ,スプレーガンのノズルの大きさ,スプレーする方向,毛を植える条件,乾燥させるスピード,乾燥炉の中での位置による影響などである。

かなりの議論の末,最 も重大な問題は,ノズルの大きさとラテックスを吹き付けるときの圧力に関係しているとの結論に委員会は達した。これらの要因に到達するまでには,委員会は生産過程全体を詳しく調べなければならなかったが,そのおかげで過程を十分理解することができ,問題の解決に近づくことができた。この調査の中で,生産主任は,ノズルの大きさとラテックスを吹き付けるときの圧力の標準レベルを発表した。生産主任と話 しているうちに,ラテックスの粘度のためにラテックスの圧力がかなり変化することが分かった。この情報から, 圧力の種々の水準が最終的に得られることとなった。また,製造現場には, 2つの異なった大きさのノズルがあり,それらを交換して使用していることがさらに調査して判明した。その結果, 2つの大きさがノズルの水準として求まった。

このような委員会活動によって,ほとんどの場合,主 要な要因の現実的な水準を見出すことができると著者らは信じている。たまには見かけの生産作業の真の中身はどんなであるかを知るために,かなり骨を折らねばならないこともある。いまの例は,現実の生産作業が様々な水準のもとで行われていることを示している。もちろん最適水準の決定は,実験により求めている最終結果である。

合成繊維製の帽子製造の場面で想像できるように,生産品質を測定することはかなり困難なことである。よって,ここでの実験では,次の項目について目で見て,完成した帽子を分類した。その項目は,毛の薄くなった部 分があるか,毛にのりが出ていないか,つばが出ているかどうかである。研究を通じて,これらの応答は互いに独立であり,3つの別々の従属変数として取り扱え,1つずつ調べていけばよいことが分かった。これらの変数を分類していく基準は,再び委員会活動によってつかまえることができた。委員会により,最終的に表示板が作り出され,検査員が各変数について分類する手段を与えることができた。

企業実験のある種のタイプで最もむずかしい問題は, 従属変数を明確にすることである。どんな変数であるかは,普通きわめて明白であるが,その測定法となると往々にして壁にぶつかってしまう。理想的な場合,その値はある簡単な検査道具によって測定できる。しかしそれ以外の場合,値を測定するのはほとんど不可能であり, 1人あるいはそれ以上の検査員によって分類しなければならない。

分析すべき変数について合意がなされ,要因と水準として,6つのノズル位置で,それぞれについて高・低粘度のラテックスを用い,高・低圧力をかけ,2種類の基材を使うことが委員会で決定された。これは13の要因のすべての組合せを考える213要因分析を要する。

考察ののち,8192(2^13)の組合せのうち256を行う一部実施計画法 (fractional replicated design)が 適用さされた。この計画法によると,すべての主効果と2要因間の交互作用を明らかにできる。一部実施要因計画法(fractional factorials)の詳細はAndersonとMcLeanに述べられている。

実験には,ある種のブロッキング法(本章の後ほど述べる)を用いる必要があったが,結果はすばらしかった会社は吹き付けのメカニズムの困難な点を正確に示すことができ,必要な変更を加え, 6カ月の後にはもうかる製品を製造することができた。脇道にそれるが,実験を始めた段階では,会社は帽子1つにつき約8ドルの赤字を出しており,委員会には1年という問題解決の期限が切られていた。期限を超えるようなら生産は打ち切られることになっていた。それがこの実験結果により,会社は利益をあげられるようになり,その年のうちに競争会社が全工程を買い取りにきた。

次の節では,1974年以来用いてきている著者らの実験計画に対する基本的な原理を示そう。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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