コラム・特集

3.5 意思決定における原理

IEハンドブック
第13部 IE技術者の定量的方法論

第3章 決定原理と分析

3.5 意思決定における原理

行動の評価を生み出したり,行動を選択するための評価を比較検討するために,多くの原理が提案されている。これらの原理は,主観確率を推定する際の確信の度合や意思決定者のリスクに対する態度などの,意思決定者のさまざまな事柄を反映している。以下の議論や例では, 一般的な決定原理を説明している。

確実性の下での決定
結果が単一の基準で評価される確実性の下での決定では,行動評価の比較の基準は単純であり,決定のための原理を必要としない。単に評価の最も良い行動を選べばよい。確実性下の決定において複数の基準が用いられる場合は,すべての基準において最適であるか,少なくとも悪くはない行動を選ぶ優越の原理をあげることができる。ある1つの行動が,他のすべてに優越するならば,明らかにその行動が選ばれる。優越が存在しない意思決定においては,決定分析者や意思決定者は,通常トレードオフの原理を用いる。この原理では他の基準の単位当りの増加に対して,犠性にしてもよいと考えるある基準の限界値が存在する。もしこれらの限界トレードオフがすべての基準の間に設定されうるならば,またもし,トレードオフ比がその基準のとる値に関係なく一定であるならば,ある行動に対する各基準の評価は,Raiffa とSchlaiferゃ Farrar が示したように,加重係数をもつ1つの線形多項式に合成することができる。しかし,トレードオフ比が一定であるかどうかを確かめることには,十分注意を払うべきである。

不確実性の下における決定
不確実性下における決定には多くのむずかしさがある。そして多くの原理が,このタイプの意思決定のために提案された。ここでも優越原理は利用できる。もし1つの行動が,他の行動の評価に比べて,すべての事象ですぐれているならば,この行動は他のすべてに優越する。そしてそれが選択される。このような優越はあまり多く存在しないが,他の原理にはやや受け入れにくい点があるので,優越による決定ができないかどうかを調べる必要がある。結果の評価に1つの基準のみが用いられる不確実性下における意思決定では,優越解が存在するかを調べるのに各事象の評価結果を調べ,最良の評価が下された結果を選べばよい。もし,すべての事象で, 1つの行動のみが選ばれるならば,その行動が優越している。どの事象であっても, 1つの行動が,他のものより良くないときにも優越は存在する。他のすべてのものより良くない行動は,優越されているという。そして,その行動は分析を容易にするために無視できる。このことは後に, 例13.3.2で説明する。もし評価に複数の基準が用いられ, ある行動が,どの基準に関しても,すべての事象で,少なくとも等しい良さであるとき優越が存在する。優越が存在しないときは,他の原理が必要となるが,そのための多くの原理が存在する。これらの原理は,2つのグレープに分類される。(1)結果に関係した主観確率を使わないもの,(2)それを使うもの。

(1)のグループは一般に不確実性原理と呼ばれており,(2)はリスク原理と呼ばれている。このどちらを選ぶかは,主観確率の正確さと厳密さについての各人の自信の程度によって決められる。比較的 自信がないときは,不確実性原理を好むであろうし,逆に自信を持っている場合は, リスク原理を好むであろう。いろいろな不確実性原理とリスク原理が,この節の後半で議論されており,数値例が示されている。

不確実性原理
マクシミン 不確実性原理の最もよく知られたも のに,マクシミン基準がある。評価値の大きいほうが選好される場合は,全事象の中での最小の評価値によって各行動を評価するものである。この原理では,結果の評価が最小のものが最大である行動を選択することになる。評価値の小さいものを選好するような決定問題においては,逆にミニマックスのルールとなる。どちらの場合も,最悪の評価のものが,行動の基準となっている(他の評価結果は無視している)。 例13.3.2は,マキシミン 原理と他の不確実性原理を説明しており,マキシミン原理の保守的性格が示されている。この原理は,統計学者Abraham Waldにより示されたもので,ゲーム理論の応用 の特殊な場合である。

ミニマックス ・リ グレット
もう1つの不確実性原理は,有名なベイズ統計学者L.J.Savageによるミニマックス・リグレット原理である。この原理では「リグレット」は,ある事象の下で可能な最良の評価値と現実の評価値との差異と定義される。価値によって結果が評価されるとき,行動αiと事象ejに関したリグレットは,事象ejにおける最大の価値からuijを引いたものである。費用によって評価される場合のリグレットは,uijから事象ejにおける最小費用を引いたものである。 意思決定における結果の評価が,上記のどちらかによってリグレットに変換されると,行動の評価は,その行動の最大リグレット値で行われる。また,この原理の下では,最小の行動評価のものを選択するので,リグレットの最大のものが最小となる行動が選ばれる。この原理は,例13.3.2で説明している。この原理ではもとの評価が,費用であっても,価値であっても,リグレットに変換した後はリグレットに関する共通の手順で行われる。

ハーヴィッツ原理 
次に議論する不確実性原理は,よく知られた経済学者L.Hurwicz が示したものである。 この原理を用いて,意思決定者は0(まったく悲観的である)から,1(楽観的である)までの数字で彼の楽観性の程度を表現する。

αをこの楽観度合の係数とすると , 各行動に対して最良結果の評価にはαが掛けられ,最悪のものには1-α が掛けられる。この両者の合計がハーヴィッツ基準である。もしある結果が価値で評価されるなら,最大のハーヴィッツ基準の行動が選ばれる。費用で評価されるなら,最小のハーヴィッツの行動を選ぶ。例13.3.2はこの原理を示している。αの値が0の場合はマクシミン原理に等しく,1の場合は,いわゆる「マクシマックス原理」と呼ばれるものになる。そのため0と1の間の任意のαによって,これらの原理の線形結合が得られる。

ラプラス原理
ここで議論される最後の不確実性原理 は,Laplace によって述べられた原理を適用したものである。ここでは信頼できる主観確率が存在しないため,すべての事象は,ほぼ等確率に生起すると仮定し,期待価値最大の行動をとる。もし,結果の評価が費用によってなされるならば,費用最小の行動をとる。m個の異なる事象について,その生起確率が1/mであると仮定すると,この仮定の下における行動の期待価値は

E(U1)-∑・1/2Uij=1/m・∑Uij

である。つまり,ラプラス原理では,すべての事象について評価された結果の価値(または費用)の合計を用いている。そして最大価値の基準か,最小費用の基準で行動が選択される。例13.3.2はこの原理を説明している。 不確実性の下における決定に関する行動の評価において, ラプラス原理だけが,行動のすべての評価結果を用いている。

である。各行動の最大のリグレット値が,右端の列に示されている。行動α4は,最大リグレットが最小である場合で,この原理の下ではα4が選ばれる。

次にハーヴィッツ原理の下で,楽観値α=3/4とし分析する。この場合は,1つの行動の 最大の費用低減額に3/4が掛けられ ,最小の費用低減額に1/4が掛けられる。両者を合計したハーヴィッッ基準は

である。このように,選ばれる行動がおのおの異なっているのは,これらの不確実性原理の視点と仮定が異なっているためである。

批 評
マキシミン価値原理では,どの行動が選択された場合も,意思決定者にとって最も悪い事象が選択されると考えている。このような意味合いがあてはまらない場合も多く存在するが,この悲観的な見方は,安全性を重視する意思決定環境やゲーム理論においてよく適合している。ミニマックス・リグレット原理においても,最悪のリグレットだけが行動の評価に用いられているために,同様の批判がある。さらに,全体の行動を評価するために1つまたは2つの評価結果のみを用いているということが,これらの原理に対する批判点であり,ハーヴィッツ原理も同様である。これらのことや,他の論理的な欠点,十分性等についてRaiffaとSchlaiferゃMorrisが議論している。そして,これらの欠点のほとんどのものは,ラプラス原理で克服されている。

リスク原理
不確実性原理では,一般に行動の評価に主観確率を使用しないが,リスク原理では使用する。しかし,主観確率の用い方はさまさまであり,さまざまな統計量が行動評価を得るために用いられる。

期待値最大化
リスク原理のうちで最もよく用いられるのは,期待価値最大化であり,これは期待費用最小化と等価である。この原理では期待価値 (または費用)は

E(Ui)=m∑j=1・ Pijuij         (1)

であり,最大期待価値(または最小期待費用)の行動が選ばれる。このことは例13.3.3で説明されている。期待価値最大化原理では,平均的事象が最もよくなる行動が選ばれる。この原理では,さまざまな評価結果をもつ行動が選択される。

最小期待リグレット
もう1つの原理に,最小期待リグレットがある。本質的に,価値や費用の評価は,前に述べたようにリグレットに変換される。これらのリグレット値は,式(1)の Uijに代入され,最小期待リグレット E(Ri)の行動が選ばれる。つまり,最小期待リグレット原理では期待価値原理と同じ行動が選ばれる。これらは双対原理である。期待リグレットは期待価値よりも計算がやっかいであるので,期待リグレット原理はあまり用いられない。しかし,後で議論される決定情報の概念に関係しているので簡単に記述しておいた。

価値または費用の分散最小化
一般に, リスクとは行動評価の変動であると考えられている。この考えから, 価値・費用の分散最小化原理が生まれる。つまりこの原理の下での行動評価は

V(Ui)=m∑j=i・[uij-E(Ui)]^2py             (2)

となる。式(1)を 用いてE(υi)を計算し,式(2)に代入し,その行動の分散が計算される。この原理では,最小分散の行動が選ばれる。これは例13.3.3で説明されている。

 

ファラール原理
期待価値最大化原理は,結果の変動を無視しているのに対して,最小分散の原理は,期待価値を無視している。これら2つの原理を組み合わせることは自然な考え方である。これらの統計量を直観的に組み合わせる方法がファラールによって提案された。 彼は価値分散(SD)の平方根と定数々の積を期待価値から引くことを提案した。ここで力は重み(トレードオフ比)であり,期待価値に対して意思決定者が結果の変動をどの程度重視するかを表わしている。結果が価値でなく,費用で評価されるときは,費用のSDとκの積が期待コストに加えられる。ここでの考え方は,信頼区間のように価値の下限,またはコストの上限によって行動の評価を行うことである。例13.3.3はこの原理の応用を示している。

準分散原理
最小分散の原理や分散と期待価値(または期待費用)を組み合わせるファラール原理は,分散をリスクの対称的測度とみなしており,価値や費用の非対称性を無視している。この欠点を改善するには,リスクを期待価値より下側の分散,または期待費用より上側の分散(これらは準分散である)で測ればよいことが推測される。価値尺度の場合の平均価値についての準分散は

SVd=m∑j=i・[E(Ui)-uij|uij<E(ui)]^2Pij

で,費用尺度の場合の平均費用についての上側分散は

SVd=m∑j=i・[uij-E(Ui)|uij>E(ui)]^2Pij

である。おのおのの期待価値からκ倍の√SVdを引いたものか,期待費用にk倍の√SVuを加えたものが, 各行動の評価となる。ここでkは√SV(これは価値または費用の準標準偏差である)の重みである。通常kは1とされる。図表13.3.2に示すように,結果の行動評価は方向(下側か上側)が問題である片側信頼区間に似ている。

この原理は片側の変動を無視しているが,対称的分散に比べて,同じ期待値や分散で方向をもった非対称的効果をうまくとらえている。価値で結果を評価した場合は,プロジェクトAはB,Cより相対的に優れていて,費用で評価した場合は,プロジェクトCは A,Bより優れていることがわかる。

要求水準
リスク原理の最後のものは,要求水準原理である。この原理は「満足化」の概念をもとにしているので,他の原理とはかなり異なっている。要求水準原理では,意思決定者は達成したい価値の水準,またはそれ以下におさえたいと思う費用の水準を示す必要ある。そのためこの原理では,要求水準が達成される主観確率を最大にする行動を選択することになる。このように要求水準は満足水準に類似しており,この原理では,最も要求を満足しやすい行動が選ばれる。例13.3.3は,ここで述べられている他のリスク原理との比較を示している。

まとめ
リスク決定原理の中では,最大期待価値や最小期待コストの原理が最もよく用いられている。これらの原理は,必要である半面不十分なものであるともいえる。この不十分さから,より多くの統計量を用いたほうがよいという考えになり,期待値分散や期待値準分散の原理が用いられることになる。統計量を多くすると認識が困難となり,その決定にとって必要以上に多くの分析を要することになる場合もある。

である。この例ではα2とa3が優れている。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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