コラム・特集

2.3 確率論

IEハンドブック
第13部 IE技術者の定量的方法論

第2章 確率の概念

 

2.3 確率論

確率理論では,ランダムあるいは偶然の実験を取り扱う。一つの実験は,任意の明確な行為であって,これによってデータが得られる。実験の結果は偶然に支配されるから,確実に予測できないものと仮定する。だから, 実験の結果は,それぞれが等しい生起の機会を持つという意味でランダムであると考えられる。ある実験のすべての可能な結果の集合を,その実験の「標本空間」Sと呼ぶ。ある標本空間の中の任意の一つの結果を,その標本空間の「基本要素」または「標本点」と呼ぶ。標本空間は,

S={すべての可能な実験結果}

と示すことができる。実験結果は,実際には,文字,数あるいはその問題にとって最も都合のよい,あるいは最も適したいろいろのものによって,括弧の中に表記されたり,括弧の中の記載内容と照合される。説明のために, 以下の例を考えよう。

硬貨を投げるときに,標本空間は硬貨の表,裏という結果で構成される。これは,S={H ,T}と書き,ここでH,Tはそれぞれ表,裏を示す。表および裏のことをそれぞれ1,0という数字で表わすと,S=(1,0)となる。これは,事象の結果の数が有限で,すべてを書き並べることができるから,離散的な標本空間の一例である。離散的な標本空間の他の型は,非常に多数の結果をもつものである。たとえば,ある多量生産工程によって1年間に生産される製品の数を事象の結果とするならば,そのとき生成される標本空間の要素の個数は非常に大きい数,S={0,1,… …,年間生産個数}となる。

このような状態においては,その空間をすべての自然数 (正の整数)の集合と考えるのが適当である。この標本空間は「可算無限」であるといわれる。標本空間は,有限あるいは可算無限の数の結果をもつならば,離散的で ある。

サイコロをころがして,上を向いた面の目の数を数えるときには,標本空間は,X={1,2,3,4,5,6}となる。これは,また離散的な標本空間である。鋼棒の長さの測定において,標本空間は,S=(X l X>0)となる。ここで,Xは正の実数を示す。Sは, 1本の鋼棒についてのすべての可能な長さの測定値の集合である。概念的に言えば,この標本空間は,一つの連続な物指しの 上の適当な区間にあるすべての点 (これらは,無限数の事象の結果を示している)からなる。このような標本空間は,可算でなく,かつ一般に「連続標本空間」と呼ば れる。連続標本空間は,測 定装置が標本空間を真に連続 となさせるのに性能上の限界があるので,時として離散的な標本空間によって近似される。測定値は,測定単位によって,たとえば 1.502 cmま たは 15.02 mmのように, 異なる数で記録される。精度は測定装置の性能によって 決まる。たとえば, 1.502 cmという値は, 1.5015 cmか ら1.5024 cmまでの間の連続値を代表している。 鋼棒の長さの測定などの例では,諸測定値は連続標本空間を形成するが,たとえば,10,000個の製品の生産 ロットにおいて,規格外の鋼棒の数を監視する場合には, 標本空間は,S={0,1,2,3, ・ ・ ・.,10,000}となり,これは離散的標本空間である。いかなる単純あるいは複雑な実験が行われても,それぞれ対応する標本空間が存在する。この標本空間を記述できるということが,確率を決定する第一段階である。

事象の定義
1つあるいはそれ以上の標本点の集合を「事象」という。これは,E={結 果の集まり}のように大文字で書かれる 。いくつかの例を挙げよう。硬貨を投げるときに表が出るという事象を考える。

標本空間はS={H ,T}である 。事象E={表}={H}となる。次に,サイコロをころがし,上向きの面の数が偶数であるという事象を考える。

このとき,S={1,2,3,4,5,6}であって,E=上向きの面が偶数={2,4,6}となる。 また, シャフトの直径を測定するとき,直径が1.500± 0.02cmの範囲内にあるという事象を考える。この場合

S={x/x>0}
E=規格寸法以内シャフト
={x|1,498cm≦X≦1,502cm}

しばしば,2つ以上の事象の組み合わせの場合が出てくる。事象間の関係はベン図によって表わすことができる。

1.積集合
事象AとBとの交わりは,4∩βと書き, 4とθとに共通のすべての結果を含む標本空間の部分である(図表13.2.1参照)。―〔例〕Aが,ある乗客がデンバー行きの正午の飛行機の座席を手に入れたいと思う事象,Bが1つの座席が利用できる という事象とすると、4∩βが販売される座席である。

a.零事象は,時には「不可能事象」または「空事象」と呼ばれるが,こ れは何の結果も含まない。これは, 記号φによって示される。――〔例〕ある発電所の全出力が用いられつつあるならば,さらに追加の出力を利用できるという事象Eは零事象である。
b.互いに排反的な事象は,共通の結果を持たない。これらの事象は同時に生じることはない。記号で示すと,A∩B=φ となる ――〔例〕Aは, ある乗客がある飛行機の出発に間に合う事象,Bは間に合わない事象とすると,A,Bは互いに排反な事象である。

2.和集合  事象AとBとの合併は,事象AまたはBまたは両方のすべての結果を含む事象である。それは, AuBのように書く(図表13.2.2参照)。
―― [例]あるシステムが2つの要素χおよびyからなる。このシステムは,い ずれかの要素または両方が欠陥を生じると働かなくなることが知られている。Aは,要素Xに欠陥を生じる事象,またBは,要素Yに欠陥を生じる事象とすると,事象A∪Bは,Xに欠陥が生じるか,Yに欠陥が生じるか,または両方に欠 陥が生じるかのいずれかの事象である。

あるシステムが2つの要素XおよびYからなる。このシステムは,いずれかの要素または両方が欠陥を生じると働かなくなることが知られている。Aは , 要素Xに欠陥を生じる事象,またBは,要素Yに欠陥を生じる事象とすると,事象A∪Bは,Xに欠陥が生じるか,Yに欠陥が生じるか,または両方に欠陥が生じるかのいずれかの事象である。

3.補事象  標本空間Sについての事象Aの補事象とは,Sの中で,Aに含まれないすべての結果の集合である。Aの補事象はĀまたはA’のように書く(図表13.2.3参照)。――〔例〕ある地方銀行で, 当座預金の残高が最低200ドルを維持している顧客に対しては,小切手の使用を認めているとすると,事象Aがその銀行に200ドル以上の当座残高を持つ顧客とすると,ĀはAの補集合で200ドル未満の当座残高の顧客を表わすことになる。

事象の確率の定義  実験がN回行われ,事象Eの起こる回数ƒを記録し, 相対頻度ƒ/Nを計算する。Nが無限大に近づくときの比 ƒ/Nの極限値が事象Eの確率であり,P(E)と書く。記号的には、

lim(ƒ/N)=P(E)

確率の性質  確率の性質は次のとおりである。
1.事象Eの確率は 0と1との間の数である。
0く P(E)く 1
2.与えられた標本空間におけるすべての可能な結果の確率の和は1に等しい。
P(S)=1
3.AとBとが Sにおける互いに排反な事象であれば、
P(A∪B)=P(A)+P(B)
4.EをSにおける任意の対象とすると,P(not E)=P(Ē)=1-P(E)となる。これは,「余確率」と呼ばれる。

5.条件付確率および乗法則――ある事象Aが起こったということが分かってからのちの事象Bの生起の確率は,条件付確立と呼ばれる。これは,P(B\V)と書かれ、

P(B\A)=P(A∩B)/P(A)           (1)
ただし P(A) ≠ 0

または、P(A\B)=P(A∩B)/P(B)         (2)
ただし P(B) ≠ 0

によって与えられる。 P(A|B)=P(4)でかつP(B|A)=P(B)ならば,事象AとBとは互いに独立であるといい,次のようにいえる。すなわち,事象AとBとは,

P(A∩B)=P(A)P(B)                                                (3)

であるときに限り独立である。 n個の事象が互いに独立であるならば、それらの同時確率は,それぞれの確率の積であり,次のように与えられる。

P(A1∩A2∩・・・・An )=P(A1)P(A2)・・・・P(An)      (4)

条件付確率の一般的な場合は,「ベイズ理論」で具体化される。この理論は,統計解析の分野,特に主観的あるいは個性的な確率(主観確率という)の分野で応用が多い。

 

6.加法法則――A,ABが任意の2つの事象であるならば,それらのうちの「少なくとも1つ」が起こる確率は,

P∪(AorB)=P(A∪B) =P(A)+P(B)-P(A∩B)          (5)

A,Bおよび Cが任意の3つの事象であるならば,
P(AorBorC)=P(A∪B∪C)=P(A)+P(B)+P(C)-P(AB)-P(AC)-P(BC)+P(A∩B∩C)   (6)

2つの事象A,Bが互いに排反な事象であるならば ,すなわち両方が同時に起こり得ないならば,この場合の加法法則は,P(A∪B)=P(A)+P(B)

となる。n個の 互いに排反な事象については,加法法則は ,

P(A1∪A2∪・・・∪・An)=P(An)

となる。

 

確率の計算に用いられる計算法則
事象Aの確率や相対頻度ƒ/Nの計算においては,事象Aの生起の数ƒと,実験におけるすべての結果の数Nとを決定することが必要である。これらの値を決定するのに一般に用いられている基本的な原理は「組み合わせ論」として知られている。これは,いろいろの状態を数える場合の基本原理であって,いま1つの実験でN個の結果が生じ,かつ,もう1つの実験でN個の結果が生じるものとすると,これらを合わせて2つの実験の結果としてNR個の結果が存在することになる。一般に,第1の実験でN1個の結果が,第2の実験でN2個の結果が,第3の実験でN3個の結果が,そして第k番目の実験でNk個の結果がそれぞれ生じるものとすると,この場合のk回の実験の結果は,N1, N2 ,N3……… Nk個存在することとなる 。たとえば,ある装置を組み立てるのに3つの部品 4, 3およびCを用いるものとし,ここで,部品A,BおよびCはそれぞれ4,5および6個所の供給源から供給されるものとすると,部品選択の可能な組み合わせ方法は, 4× 5× 6=120通り存在する。

1群の対象,たとえば3文字D,G,Fの 配列に際しては,配列の順序が重要である場合には,これらの文字の配列には , DGF,DFC,FGD,GDF,FDG,GFDのように6通りの配列となる。これらの順序配置は「順列」と呼ばれる。

N個の異なる対象についての順列の数は ,N!=N( N-1)(N-2)・・・ 3×2×1である。前記の例では, 3つの文字の順序配列の数は3!=3× 2×1=6である。

N個の異なる対象から一度にr個とる順列の数はNPr=N !/(N-r)!である。いまのD,G,Fの配列の例では, 3つのグループから一度に2つの文字または部分を選ぶとすると,その配列の総数は,

 

3P2=3!/(3-2)!=3×2×1/1=6

で,この場合の順列は,DC,DF,GF,GD,FD,FGとなる。

もしも,配列の順序が重要でないならば,これらの配列を組み合わせと呼ぶ。言い換えると,組み合わせは,順序付けを無視する順列である。N個のものからr個を一度にとる組み合わせの数は

他にも,順列,組み合わせ,母集団や標本空間の分割に関する一般的な理論や概念があるが,今ここで論じたことが最も有用なものである。読者がさらに詳しい情報を得たいときには,Blank,WalpoleおよびMyers, Parzenの各著書を参照されたい。

  本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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