コラム・特集

4.4 在庫管理

IEハンドブック
第11部 計画と管理

第4章 総合生産計画

4.4 在庫管理

在庫計画問題の特質
在庫管理業務の取扱い量や複雑性は企業によって異なる。スーパーマーケットやデパートは非常に多くの在庫アイテムを取り扱うため,トラックの輸送問題は,ハンバーガースタンドよりも明らかに複雑である。製造企業も, 1製品しか扱わない小企業から,複雑で技術水準の高い製品を作り出している大企業まで, いろいろな形態がある。作られる製品数と部品数によって,企業の在庫システムの総アイテム数が決定される。平均的な製造企業では,このアイテム数は,10,000から50,000ぐらいである。さらにアイテムは,数量,重量,腐敗しやすさ, 搬送/保管方法,保管時間に影響を与える要因によって分類しなければならない。

在庫の管理は,資材のトラック輸送問題よりはるかに複雑である。在庫管理の企業方針を打ち出すのは,トップ層の責任である。これらの方針は,各在庫分類毎に, 例えば, 3カ月分の保管といった在庫投資目標で表わされる。在庫分類とは,原材料/仕掛品/完成品,または,循環在庫,安全在庫等である。

管理者は,しばしば「在庫をどのぐらい持っていれば十分なのか?」という質問をするが, この問題は個別に解決できるものではなく,在庫水準,顧客へのサービス, 生産性などの重要な方針指標との関係から決められるのである。そして,管理者は,そのような効率を表わす指標を満足させるために,各在庫分類にどれくらいの投資をするか,トレードオフして決めなければならないのである。

各在庫分類に対する投資額を決定する問題は非常に難しい。最初に,個々のアイテムについて考慮するのは,多大な時間と労力がかかるために,トップは,個々のアイテムの代わりに,在庫分類を管理対象とする。これは,ある生産工程内の類似製品のような,資材グループを扱うことを意味しており,多くの場合,数ではなく金額で管理する在庫決定は,多くの場合,経験的に,最近の在庫水準,または企業の目標を達成させるための水準をもとに行われる。

ある製造企業で,例えば,完成品の在庫水準を変更する場合,全体の在庫システムに大きな効果をもたらすであろう。完成品の在庫水準を変更するために必要な原材料や仕掛品の在庫水準は,過去のデータや経営的な経験・判断から推定される。MRPシステムを用いて,生産と需要とのシミュレーションを行い,結果在庫を推定することができる。同様に,シミュレーションは,小売業にとっても有効な手法である。しかし,シミュレーショ ンには,多くの時間と費用がかかるため,大方の企業では用いられていない。

企業は,在庫分類の計画をすることによって,利益や ROI,そして生産/流通のアクティビティのフレームワークを確立することができる。製造企業では,トップの在庫分類への意思決定によって,マスタースケジュールや詳細な在庫管理の形態が決められる。しかし,実際の在庫管理は,個々のアイテムを対象とする

在庫管理の手法を紹介する前に,在庫管理の目的や効率指標について述べる。目標や効率を測定する方法がない場合には,管理は実行できないトップは,在庫分類に対して,需要予測,顧客へのサービス水準,財務的制 約,生産能力,資材の有効性を包括的に考慮した後,在庫水準を決定する。この決定は,利益やROIの 目標をもとに行われる。個々のアイテムに対する意思決定が, 在庫管理モデルによって自動的に行われるところでは,もっとも一般的な基準として費用が用いられている。これは,ある制限のもとに在庫費用を最小化することで行われる。在庫費用は3つの役割をもっている。1つは目標の表示であり ,もう1つは効率測定の方法の提供であり,最後には,費用からみた在庫効率を決定する在庫モデルに取り入れられる。

在庫費用
在庫には,一般に3つのタイプの費用が存在する一資材発注費用,在庫資材の維持費用,直接在庫によっ て需要を満たすことができない場合のペナルティー。
以下に各タイプの費用について,製造・流通在庫両面から述べる。さらに詳しく,在庫費用について知りたい場合には,他の文献を当たっていただきたい。

発注費用
発注費用とは,生産指示を出したり,供給業者へ発注したりするときの費用である。個々の発注費は,購入費用と生産指示費用とで,別々に集計することができる。しかし,現実には,在庫システムの個々のアイテムごとに発注費用を算出することは不可能である,したがって, この場合に用いられる費用は,類似アイテム単位に求められているものでなければならない。

購入アイテムに対しては,以下のアクティビティが,資材発注に関連して行われる。

・供給業者を探す
・供給業者を選定する
・供給業者と交渉する
・資材の発注をする
・品物を受け取る
・品物を検査する
・不良品を返却する
・品物を倉庫に入れる

アイテムの発注費用は,人,設備,資材という3つのリソース面から決定される。設備,資材とは,便せん,スタンプ,電話,コピー,タイプ,ワードプロセッサー やコンピュータのようなアイテムである。

正確に個々の発注費用を算出するのは,固定費と変動費両方を考慮しなければならないため困難である。このために産業界においては,購買部門の年間総費用(人的工数,資材,設備)を推定し,この費用を年間総発注数で割るといったアプローチが共通的に用いられている (より正確なアプローチは,アイテムの各分類に対して費用を分配することである。これにより,各分類ごとに,明確な発注費用を算出することができる)。この方法によって推定される発注費用は,平均費用であって,限界費用ではない。すなわち ,固定費と変動費両方をいっしょに考慮するために,発注費用は,追加オーダーが出されたときの増加費用や,オ ーダーが取り消しになったときの費用の減少分が反映されないのである。

しかし,限界費用は時間当たりに何回発注するべきかを決定するときに必要になる。例えば,供給業者のコンピュータからアウトプットされた資材要求を送る場合 ,この費用は大変小さく,ほとんど無視できる。経済的にみると,それぞれの費用は小さいから,発注回数を増やすほうが好ましい。しかし ,発注回数が増加すれば,人・設備の諸資源をより多く必要とし,発注1回当たりの平均費用を増加させてしまう。一方,人員を増強するか または設備を増設した後でも ,発注1回当たりの限界費用を同一に保つことができる。これは,発注費用が,基本的にシステムの処理能力が限界となり,能カアップしなければなら ない時点までの階段関数になっているために起こる(図表11.4.4参照)。

企業は,一般的には平均費用法を使うように推奨されるが,多くの場合,この方法は発注費用を多目にカウントしてしまう。企業が興味をもつのは,発注が与える全体的なインパクトであって,個々のアイテムに起こる変化ではない。そこで,在庫システムの全アイテムの発注費用に変化が起こったときには,とくに注意が必要である。

生産資材に対しては,以 下の費用が発注費用に追加される(これは,”組立費用″と呼ばれる) 。

・段取費用――  一次作業への準備段階での機械 ・設備の調整

・補助資材費用―― 例えば,フイックスチャー ,ツール

・マテハン費用―― 倉庫内での資材の配置/搬送,作業現場への搬送

・生産性の費用―― 長期間同じ製品が生産されるときのペナルティ費用.習熟効果の結果として,単位費用が減少する。

・検査費用―― 生産された製品が検査する必要がある場合にかかる。

・廃棄費用―― 廃棄品が出た場合, その数量に比例した費用としてカウントする。

・アイドル ・タイムの費用―― 生産設備が次作業の準備の間,不稼動状態の時間に対する費用。

・情報処理およびプリント費用―― 例えば,製造への発注

上記の費用要素は,費用が発注ごとに一定で,かつ, 発注サイズのような他の要因に関連しない場合にだけ明確となる 限界費用と平均費用については,生産資材に関して述べる。人がすでに雇い入れられているならば,その人が他の機械をもう1台段取するための費用はかからないはずである。しかし,多くの企業は,段取替えの標準時間と1時間当たりの標準労働費をかけたものを発注費用に含めてしまう。しばしばこれが考慮される唯一の費用となり,その結果,発注費用を安く見積もりすきてしまうことがある。しかし,実際には,ここで述べている生産性や 遊び時間に関する費用は評価するのが難しい。労働費だけを発注費用として算出する企業は,実際にかかる費用の大部分を捕えることができるであろう。しかし,これについては,場合に応じて研究しなければならない。

在庫維持費用
在庫を維持するための費用には,いくつかの要素が存在する。以下の費用要素が集まって在庫維持費用を構成する 。

・在庫に投資される資本の費用
・倉庫内の保管費用
・マテハンおよびその設備の費用
・品物と倉庫にかける保険費用
・在庫への課税費用
・破損や紛失の費用
・陳腐化の費用
・在庫計数の費用
・在庫維持のための情報処理およびプリントの費用

時間当たりの維持費用は, 2つの要因 I,Cの積で表わされる。Cは,保管されているアイテムの費用(価値) の金額表示であり, Iは,単位時間当たりの維持費用をパーセント表示したものである。このようにする理由は以下の通りである。

1.単位時間当たりの在庫維持費用は,アイテムの単位費用に正比例すると仮定される (1アイテムは, 購入費用,または製造費用で価値を表わす)。
2. 1が一定であれば, I×Cは,維持費用が個々のアイテムに対して調整されたことを意味する。
3.資本費用が一定であり,かつ, Iがここであげた他の費用よりもはるかに大きいため, Iは,すべてのアイテムに対し一定と仮定される。
4.維持費用の変化は,年間在庫管理費用(%)を変えることによって,すべてのアイテムに対し簡単に反映させることができる。

前記の費用要素のすべてが,あ らゆる資材に適用できるわけではない。それらは状況によって本質的な違いがある。例えば,紛失費用は,鉄工業よりも薬局のほうがより多いし,陳腐化率はファッション産業や電子産業のような技術革新の激しい産業では非常に大きいが,他の産業では小さいであろう。年間在庫管理費用の多くの要 素は,単位費用に比例しないし,時間に対し一定でもな い。実際,このような特徴をもつ唯一の要素は資本費用である。ランバー トとラ・ロンデの最近の研究には,資本費用が年間在庫管理費用の約84%を占めることが示されている。たとえ,少数の企業のサンプルだけの調査だとしても,資本費用が維持費用の大部分を占めている という事実を証明するものであろう。

発注費用の場合と同様に,維持費用もアイテムごとに,またはアイテムのグループごとに異なる (すなわち,維持費用は,アイテムの単位当たり費用に比例しない)。したがって,企業は置かれた状況を考え,統一的な年間在庫管理費用が適用できるのか,状況によって変えなければならないのかを判断しなければならない。年間在庫管理費用を簡易的に決定するには,マテハン,倉庫,保険,税金などの1年当たりの推定総費用を集計し,平均在庫投資費用で割って得る方法がある。1年当たりのパーセ ト表示で与えられる資本費用に,前記数値を加えて,総維持費用が得られる。この数値例を図表11.4.5に示す。

資本費用は維持費用の中で最も代表的な要因である。これは,資本投下に伴う負担を表わすもので,経営方針的な変数である。したがって,資本費用を,あるプロジェクトヘの投資の見返りを反映する機会費用と見ることができる投資からの見返りは変化し続けるため,資本費用も同様に理論的に変化し続ける。ゆえに,資本費用は,実用的に器材を準備するための資本として用いられる。例えば,経営者が資本費用を年間25%と定めた場合, それよりも低い率でしか見返りが期待できない投資は採 用されない。年間在庫管理費用に,この要素を取り入れ ることによって,在庫投資費用を最も効率よく運用する ことができる。

アメリカ生産・在庫管理協会(APICS)が1973年に行った研究によると, 4分 の3の企業は在庫維持費用を用いている。そのうち,50%の企業は21%以上の年間在庫管理費用を用いているが,中央値は20%であった。ランバートによる1951年から1974年に行われた調査では,年間在庫管理費用は12~35%の間であり,平均は約25%であった。この推定値は,年ごとの変化が少なく安定していることが特徴的である。しかし,公定歩合の急速な増加に伴い,平均在庫維持費用は,従来よりも高くなっている。

不足費用
企業が,顧客に製品をすぐ納入できない場合, 2つのケースが考えられる 1つ は,顧客がいま納入されるものだけを受け取り,残りを後で受けとることを承諾する場合である。もう1つは,一部分だけを納入させ,残りを競合企業に変えてしまうか,オーダーをキャンセ ルし, 他企業からすべてを納入させる場合である。どちらの場合にも不足が生じる最初の場合は,顧客が1企業に製品を納入させるケースであり,”バックオーダー状態″と呼ばれる。2番目は,販売機会を失わせてしまう不足状態を表わしている。

機会損失は,企業が販売によって受けたであろう利益に等しくない製品の納入ができなかった結果として評判を落とし,信用を失ってしまうであろう。 顧客が,将来とも,その企業から購入しないとすれば,将来の潜在的販売総額が理論的には ,不足費用に含まれなければならない。顧客がバックオーダーを容認する場合,すなわち ,製品納入を待ってくれる場合には ,供給企業の損失は遥かに少ないであろう。しかし,これはサービスの悪さを表わすものであり,バックオーダーに伴う費用は, 生産計画を変更するような特別な対応を行うならば,極めて大きくなる。

発注・維持費用に関して,不足費用を推定するのは困 難である。この評価をするには,標準会計データが有効であろう。実際には,多くの管理者はこの費用の発生を無視してしまうか,または在庫切れの確率やサービス・レベルのような代わりの指標を用いている。在庫モデルの中で不足費用を扱うのは,比較的複雑なため,この章では,これ以上述べない関心のある読者は,ハドレイとウイチン,またはピーターソンとシンバーを参照していただきたい。

在庫回転率
個々のアイテムの在庫管理目標は,需要やサービス水準の制約下で,単位時間当たりの総在庫費用を最小化するものとして定式化できる。この目標を達成するモデルについては,次節で述べる在庫管理システムの効率を測定するためには,おおかた個々のアイテムから在庫分類へと着目点が移っていく。しかし,費用,とくに発注・不足費用は,在庫の効率を測定する手段として,現在あまり用いられていないもっとも一般的な在庫分類レベルでの在庫効率を表わす指標として,在庫回転率(I T)が使われる在庫回転率は,以下のように定義され る。

IT= 年間使用金額($) / 平均在庫投資($)
    =年間使用数 (個 ) / 平均在庫数 (個 )

在庫が費用で測られるならば,年間使用量や売上高も同じ単位で測らなければならない。例えば, 1製品の正味売上高が1年間で製品コストベースで600万ドルであり ,製品在庫の平均価値が150万ドルとすれば,回転率は6/15,すなわち, 4回転となる。回転率は,需要を満たすために, 1年間に在庫が平均して何回満たされ,消費されたかということを表わすものである 。企業が在庫を減らして,かつ同じ 売上高を維持することができれば, 在庫回転率は向上する。在庫投資を150万ドルから50万ドルヘ減らすと,在庫回転率は12回転ということになる。

在庫回転率は,原材料や完成品のような単一アイテム, 類似製品や種々の材料に対して計算することができる。また,総在庫回転率も,企業の総在庫価値に対する年間売上高の比として計算できる。

回転率を算出し,期間ごとに比較をすることによって, 相対的な効率の傾向を見ることができる。回転数が増加していれば,良い傾向を表わしており,一方,減少傾向は,警戒信号を表わしている企業は,また,競合企業や産業全体と回転率を比較することができる。このように,回転率は事後の状況を表わすものであったり,日標変数になったりする。収益性の良い企業は,収益性の悪い競合企業より,在庫回転率が高い値を示している。したがって,企業は,在庫管理の目標として, もっとも回転率の高い競合企業の値を用いるのが合理的であろう。

しかし , 日標変数としてあまり高い回転率を用いるのは危険である。これにはいくつかの理由がある。まず,単一アイ テムとアイテムのグループとでは,実際の回転率は異なるということである。したがって,すべての資材に対して,同じ比率を用いるのは好ましい方針ではない。他の理由は,在庫回転率は単に代用的な指標であって,間接的に分母の在庫投資に対する維持費用の比率を表わしているにすぎない。このメジャーは,発注費用や保管切れ費用のような他の在庫関係の費用を省いている。在庫回転率を高く保つことは,それ自身は好ましいことである が,発注費用の増加(回転数を上げるため)や保管切れ率の増加(在庫減少のため)を招き,その結果,以前よりも 在庫維持費用が増加してしまうこともあり得る。 最後に,在庫管理をうまく運営する要因の1つに,トップの在庫分類レベルの在庫計画への関心が挙げられる。技巧を凝らしたシステムや野望的な回転率目標だけでは, 競合企業の最良値を達成することはできないであろう。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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