コラム・特集

5.5 連続事象の現在価値の期待値

IEハンドブック

第9部 エンジニアリング・エコノミー

第5章 リスク分析

5.5 連続事象の現在価値の期待値

たぶん,経済リスク分析の方法の中で,もっともよく使われ,受け入れられているものは,期待割引キャッシュフローの方法である。

例9.5.2は離散型事象にこの方法を適用したもので,現在価値は,割引キヤッシュフローの評価基準として示している。その例では,不確実な変数の1つは,発生時点ないしは,キャッシュフローの継続という,時間の変数である。時間に対して離散的な事象を検討するのに,代替的であり,一層十分な方策は,時間を連続的な確率変数とみなし,そして,割り引くことを連続的な動きとみなすことである。1年の割引連続式はつぎのようになる。

j乗 =1+i                   (2)

ここで, iは年間MARRで, jは等価値の連続割引率である.もしも,(2)式の両辺が累乗によりt年間増加しても,等価関係は保たれる。

将来の一時払いのFドルのキャッシュフローに対して,その現在価値はつぎのようになる。

E(PW)=∫:FP(t)e-jt乗dt=F∫∞.0 P(t)e-jt乗dt      (3)

ここで,p(t)はこの一時払いキャッシュフロー発生の確率(密度),この例の場合には,一時払いキャッシュフロー時点の連続確率関数で,(3)式の最右端の積分は,確率密度関数やそのパラメータ値に従属している。実際,この積分は,特定の関数に対して,つぎの(4)式で決められている。

 

ここで,右辺の最後の係数は,種々のp(t)の関数に対して,図表9.5.4の第2欄に示した。例9.5.3は,一時払いのキャッシュフローが,時間的に不確実なときの現在価値の期待値を求める簡単な例である。

例9.5.3 -時払いの現金流入$10,000が生じることが分かったが,その時点は不確実であり,それは等しい程度で2~4年にばらつく。この場合MARRを22%とすると,連続割引率はつぎのとおりである。

ej=1+0.22

両辺の自然対数をとって, jが約20%となる。時点はa=2年とb=4年の間で一様分布で連続変化すると,E(e jt)の値は図表9.5.4により,つぎのようになる。

E(e-jt)=〔e-(1.2)2_e-(0.2)4〕/0.2(4-2)=0.552478

(4)式より期待現在価値をもとめる.

E(PW)=$10,000(0.552478)=$5524.78

-時払いの将来のキャッシュフローFの額も確率変数で,時点の確率変数とは独立であるとき, (4)式のFはE(F)と置き換えられる。そこで,Fの平均値が決定され,独立性を保つことが確実である限りは,将来の一時払いの額を,これらの数式で求めることができ,これを例9.5.4に示す。

例9.5.4 -時払いの将来のキャッシュフローの額が不確実で,$8,000~ $12,000の一様分布で与えられ,このフローの時点が,期待時点3年の負の指数関数で分布すると仮定する.Fの期待値は(8,000+12,000)/2=$10,000となり,割引時点の期待値は図表9.5.4の公式にj=20%を代入して,つぎのように求められる。

E(e-jt)=1/1+0.2(3)=0.625

したがって,期待現在価値はつぎのようになる.

E(PW)=10,000(0.625)=$6,250

この例の期待値Fと期待値tとは,前例と同じではあるが,現在価値はかなり大きな値になっている.これは,負の指数関数の分布では,一様分布の場合より,確率的により早期発生時点が大きな値を持つからである.年当りAドルの連続等額払いキャッシュフローは,一部継続期間tにより決定される現在価値を有している(表9.5.1参照)。もし,継続期間が不確実で,しかし,この確率変数が特定の変数の確率密度関数で表わされるならば,期待現在価値はつぎのようになる。

E(PW)=Á{〔1-E(e-jt)〕/ j}         (5)

現在価値を計算するために,図表9.5.4の第2欄に示すE(e-jt)を求める公式を,直接(5)式に代入してもよい。しかし,(5)式の右辺の大カッコでくくられている全要因に対する公式を,読者の便宜のために,この図表の第3欄に示してある。これらの連続等額払いキャッシュフローの現価係数は,一時払いのE(e-jt)の公式と同じように用いられている。このことは,Aが連続等額払いキャッシュフローの継続期間に統計的に独立であって,E(A)が(5)式でAにかわるところでは,Aを確率変数として処理することも可能である,ということになる。

例9.5.5 等額払いのキャッシュフローが毎年$5,000と期待されている。しかし,この額が不確実である。ガウス(正規)分布の標準偏差(SD)がσ=$1,000に決められたとき,この不確実性は合理的に記述されたことになる。また,継続期間は5年とし,その不確実性の分散を1年とする。この場合,図表9.5.4の第1欄より,つぎのようになる。

a+b/2=5   、   (b-a)2乗/12=1

ここで,パラメータの値はa=327,b=673と計算される。j=20%での期待現在価値は(5)式と図表9.5.4の第3欄より,つぎのようになる。

E(PW)=$5000〔(1/0.2)-e-0.2(3.27)-e-0.2(6.73)/0.04(6.73-3.27)]=$15,617.97

(5)式の連続等額払いキャッシュフローは,直ちに始まり,不確実な期間続くと仮定している。最初からのフローの期間が統計的に与えられ,スタートが,ちょうどS時間(年)おくれるとすれば,期待現在価値は(5)式で計算される値にちょうどe-jsを乗じた値になる。

等額払いキャッシュフローSのスタートが統計的に期間tと期間当りの額Aの両者に独立であれば,(5)式の右辺はE(e-jt)を乗じる。このように,スタートのおくれの不確実性に対しては,E(e-jt)の公式を用いて計算する(図表9.5.4参照)。

現在価値の分散
もし,キャッシュフローの要素に不確実性が存在しないならば,確定的な数式は図表9.5.1に示すように記述できる。これらの数式では,将来のキャッシュフローの発生時点とキャッシュフローの額または継続時間,毎年のフローの額は数式の積となる。これらの時点と額は不確実な場合,確率変数である。これらの確率変数が統計的に独立であるとき,確率変数の積の期待値は各期待値の積に等しい。しかし,このことは,積の分散については正しくない。将来の一時払いのキャッシュフローに対する確率変数Fとe-jtの積の分散はつぎのようになる。

V(PW)=V(F)V(e-jt)+v(F)E(e-jt)2乗+V(e-jt)E(F)2乗    (6)

それゆえに,時点が不確実な将来の一時払いキャッシュフローの要素の現在価値の分散を計算する際に決定的なものは, tの種々の確率密度関数に対するV(e-jt)である。不確実な継続期間tの連続等額払いキャッシュフローで,年当り額Aが不確実な場合,現在価値の分散はつぎのようになる。

V(PW)=V(Ā)〔1-v(e-jt〕/j+v(Ā)
(〔1-E(e-jt)2乗〕/j}十(〔1-v(e-jt)〕/j}E(Ā)2乗

ここで再び,V(e-jt)は(6)式の計算のために必要となり,この公式は,確率変数tの一様分布,ガウス(正規)分布,そしてガンマ分布に対して,図表9.5.5に示してある。例9.5.7は(6)式に関連づけてこれらの公式を使用する例である。

例9.5.7 前例9.5.4に示したキャッシュフローの要素を考えて,一時払いキャッシュフローFの額はa=$8,000からb=$12,000まで一様に分散している。したがって,V(F)は図表9.5.4の第1欄よりつぎのように計算される。

V(F)=(b-a)2乗/12=(12,000-8,000)2乗/12=1.333×10 6乗

 

Fの時点が,平均3年の負の指数関数で与えられているので,この時点の分布の中のパラメータbは3となる。したがって,図表9.5.5のa=1のガンマ分布の公式で,つぎのようになる。

V(e-jt)=[ 1+2(0.2)3)〕[1+0.2(3)]-2乗=0..6392

それは,例9.5.4では,E(F)=$10,000,E(e-jt)=0.625と示された。(6)式で割引率20%の現在価値の分散は,つぎのようになる。

V(PW)=(1333… ×10 6乗)(0.06392)+(1.333× 10 6乗)(0.625)2乗+(0.06392)(10,000)2乗=$ 6,998,060

そして,現在価値の標準偏差は$2645.39となる。

他の関数のキャッシュフロー・モデル
上記の展開により,一時払いや連続等額払いのキャッシュフローの期待値と分散を組み合わすことが可能になる。しかし,傾斜したり,衰退したりする他の関数のキャッシュフローについては,そのような処理はできない。図表9.5.6は連続等額,傾斜,衰退の各キャッシュフロー関数の現在価値の期待値を求める公式である。図表9.5.6の公式は,図表9.5.1に示した確定的な場合の現在価値のe-jkをE(e-jt)に置き換えた点を除いて同じである。

E(e-jt)の値は,図表9.5.4に示される公式で計算できる。しかし,図表9.5.6に示す連続傾斜現在価値の期待値の成分の1つは,E(e-jt)ではなくして,E(te-jt)である。

変数tの確率密度関数に依存するE(te-jt)の値は,図表9.5.4の最後の欄の公式で求められ,Z inn等が述べている。

V(te-jt)の公式は図表9.5.5の最下欄に示され,Hlllier ,Rosenthal,waglell等が述べている。これらの追加した公式は,広範囲な種類の連続キャッシュフロー関数の現在価値の期待値と分散を計算する方法に拡張することができる。

現在価値の期待値一分散の判定基準
必要な判定基準として,現在価値の期待値をあげることにあまり異議はおきない。しかし,多くの者は,これだけでは不十分だと考えている。意思決定のすべての非経済的側面や,現金流入のパターンを無視するならば,大きな現在価値を有するプロジェクトは,大きな変化性をもちやすく,したがって,企業を潜在的損失の危険にさらしがちになる。

このことにより,期待値と併行して,現在価値の分散ないし標準偏差を計算に入れて考えることになる。この期待値一分散(E― V)判定基準を支持する者は多い。13部3章では,この判定基準のいくつかのバリエーションと,背後の理由づけについて述べている。

要素のキャッシュフローの現在価値の期待値と徽を,すでに説明した方法で計算してしまうと,期待値と分散は別々に,すでに議論したように,組み合わしてもよい。その結果,プロジェクトの現在価値が(中心極限定理10の下で)正規分布をすると考えられると,期待される現在価値に関する信頼区間は,標準偏差(すなわち,分散の平方根)に標準正規確率の偏差をかけ合わして推定することができる。信頼限界90%,95%,99%に対する正規確率偏差はそれれ,Z=1645,1960,2575である。

排反的プロジェクトと独立的プロジェクト
排反的プロジェクトとは,定義により,ただ1つのプロジェクトのみが選択されるものである。この状態は,典型的には,同じ目的を達成するのに,いくつかの違った方法が考えられるときに生じる。こういう場合は,普通,2つの質問が出る。

すなわち,(1)どちらのプロジェクトを選べば,経済的に最適か,12)最良のプロジェクトは経済的に健全か。期待現在価値最大化原理の下で,最初の質問への解答は,各将来のプロジェクトの期待現在価値を計算し,最大の期待値を有するプロジェクトを選択すればよい。この方法は,現在価値の分散と,それによって生じるリスクとを明らかに無視している。もし,E― V判定基準を用いると,もっとも信頼区間の低いプロジェクトが選択される。いずれの場合にも,どちらの判定基準に対しても,基準値(すなわち,期待現在価値が低いほうの信頼区間)がゼロより大きいかどうかを考えて,第2の質問に答えることができる。

独立の関係にある,将来の一連のプロジェクトの場合は:利用可能な資金によって,2つ以上のプロジェクトが選ばれる。この選択においては,そのプロジェクトの組み合わせ結果による現在価値の統言十量は,これらの組み合わせの統計的な関係によって違ってくる。もし,諸プロジェクトが統計的に独立であれば,組み合わせに対する正味現在価値の期待値と分散は,単純に加算され,低いほうの信頼区間は,それにつれて変化する。分散に対する期待現在価値の比率が高いプロジェクトの組み合わせは, リスクの低い決定になるであろう。逆もまた成り立つ。独立関係のプロジェクトを組み合わせるとき,リスクを大まかに混合させるには,リスクの高いプロジェクトと, リスクの低いプロジェクトを,バランスさせて選択すればよい。トレードオフの関係にある組み合わせは,現在価値の期待値と,受け入れられるリスクとの間で決められよう。

もし,独立のプロジェクトが統計的に独立でなけれぎ,リスクは,プロジェクト間の統計的な依存関係を反映する。この状態での処理手順は,Buckにより示された。

それは, もし相関関係が推定されるならば,分散の調整がされるし,その1つの手法は,Canada,wadsworthらが示している。再度述べるが,プロジェクトの組み合わせは,リスクの受容水準と期待現在価値によって決定される。この種の問題は,資本予算と順位づけで生じ,「ポート・フォリオ問題」として知られている。

効用モデル
効用理論は,そのいくつかの難点に関連して,13部3章で概説している.要するに,効用は,1つまたは複数の事柄の集合の,好ましさの程度を表わす唯一の測定値である.それは,好ましさが最大であれば1とし,好ましさが全然なければ0とする。すべての個やその集合である集団は,整って,この両極端の値の間のどこかに位置する。

現金の収支の額は, 0からその値までのいずれかになる関数に変換される。この理論では,現金の賭けは,直線にそって損失の効用と,勝ちの効用との間で,確率的に比例するような期待効用を有する,勝ち負けの額の一次結合とみなしうる.ひとたび,ある人の効用関数が導かれたならば,効用の理論は,自分の明示した目標を一貫して保持するために,いかに行動するかを,うまく説明してくれる。したがって,効用理論は,いくつかの明確にされた原理に基づく,規範的経済行動を説明している。

したがって,多くのこの理論の推奨者は,効用関数を作って,この理論によって経済リスク分析をするべきだと推奨している。すなわち,最大期待効用を有するプロジェクトは,合理的な意思決定者によって選択されるべきである。という。これには多くの無理強いがある。しかし,それには,効用関数の十分必要な開発を要するが,決して容易なことではない。

すなわち,誰の効用関数がその企業を代表するのか,あるいは,他の複雑な問題も含まれている。また,リスク・キャッシュフロー分析にに関する現在の方法は,合理的であり,論理的に効用理論の方法に近いものであることが示されている。また,現状の効用の理論の原理に挑んでいるものもある。あれこれの悪国のために,効用理論の方法は,多くの実務家の間であまり好評でない。

デシジョン・ツリー
13部3章には,また,決定をネットワークの形式で明確に表現する,デジション・ツリーの概念が述べられている。たいていの決定は,1つ以上の統制不可能な事象(機会結合点)の,可能性(選択肢)を有する代替行動間の,意思決定者の行動の選択で構成されているから,決定のネットワークは,通常,ツリー形式において,分岐肢から分岐肢へと広がった図になる,これがデシジョン・ツリーの名称のいわれである。2つ以上の一連の決定が,プロジェクトと関連している場合,減少ツリーが決定を構成する道を与えることになる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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