コラム・特集

5.3 経済リスク分析の概念

IEハンドブック

第9部 エンジニアリング・エコノミー

第5章 リスク分析

5.3 経済リスク分析の概念

リスクとは,投資に対する収益が予想に至らない失敗のことである。この失敗の原因は,経済性分析でのキャッシュフローに関する推定のプロセスで,不十分であったためであるかもしれない 要素のキャッシュフローの見落し,費用や報収やそれらの時点の推定が不正確であったためとも考えられる。不正確さの生じるあれこれの理由は,未来予測の技法の未熟さにある。

長年にわたって,将来に関する1つまたは複数のプロジェクトにともなって生ずるリスクを評価するのに,数多くの手法が用いられてきた。これらの手法の多くは,「経験則」を基にしていたり,計算を楽にするように工夫されている。その理由の1つは,多くの将来のキャッシュフローは推定するのがより困難となり,その結果,よリリスクを生じやすいということである。

この経験則によると,計画期間を限定することになり,ここに述べる回収期間法を採用することになる。経験則と推定の修正を必要とする考え方に立つ他の2つの方法は, リスクに対する割引方法と控えめな修正方法であり,これらについて検討を加える。経済的リスク分析へのこれらのアプローチとROI(投資収益率)が,他の手法よりもいっそう推定値の影響を受けるということで,感度分析を行うようになった。リスク分析へのこれらのアプローチは,一般に,現代の文献に紹介されている確率論的方法で展開され,それについては本章の後のほうで触れることにする。非確率論的方法は,たしかに多くの難点を有してはいるが,それらは一般に,計算が容易であって,ある状況では主要な,または副次的な評価基準として十分役立っている。

一定計画期間法と回収期間法
リスク分析の一定計画期間法においては,プロジェクトの分析に際して,最初からの一定期間を前もって設定しておく.したがって,この計画期間より後に生じるすべてのキャッシュフローは,信頼できないという考え方に立って,それらを無視してしまう。それゆえに,プロジェクトのこの計画期間内の正味キャッシュフローの累積額を比較することになる。すなわち,正味キャッシュフロー(現金流入から現金流出を差し引いたもの)の総額の最大のものが,リスクの最も少ないプロジェクトとみなすことになる。

3章に述べたように,回収期間法は,前もって決める計画期間の任意性を回避しようとするものである。というのは,判定基準は,初期投資が累積正味キャッシュフローによって回収される期間であるからである。一般に,回収期間が短いことは好まれるので,この方法は直観的に受け入れやすい基準となった。しかし,この方法は,回収期間以後のキャッシュフロニを無視している。この見落しで,安全ではあるが,経済的に劣ったプロジェクトを選びがちとなる。また,この方法は,.資金の時間的価値を計算しないし,資産の経済寿命も考慮していない。これらの欠点のために,回収期間法は割引率法より,主たる判定尺度としては,あまり用いられていない。この方法は,副次的な判定尺度としては,よく用いられる。すなわち,いかに早く初期投資が回収できるかについて計算する方法と,それによるプロジェクトのリスクの一指標としてである。

リスクの割引法と修正法
リスク分析のリスク割引法では,将来のキャッシュフローほど,大きいリスクがあると仮定している。_定計画期間法や回収期間法で使用しているような,切捨て時点として,将来のある一時点を設定する代わりに,推定の信頼性を高めるために,割引率を大きくすることが考えられる。したがって, リスクのない割引率も,特定のプロジェクトの推定で,分析者がリスクを感じる要因次第で大きくもなる。もちろん,プロジェクトのあらゆるリスクや推定過程の主観をとらまえるような要因を,ただ一つ指定することは大変難しい。いくつかの企業では,プロジェクトのリスクを分類し,分析者は高い割引率のクラスを選ぶことによって,この難点を,無くすることはできないまでも,減少させようとしている。

もっとも,リスク分析のためのひかえめな修正方法を用いると,リスク割引法の難点のいくつかは回避できる。この方法では, 1つまたは複数の要素のキャッシュフローの金額や時点を少なめの現金流入や,多めの現金支出,短めのプロジェクト寿命として測定する。すなわち,普通なら投資に高めの報収が期待されるプロジェクトの,要素のキャッシュフローやその他の変数は,不確実性を扱う分析者の理解の程度に比例して,少なめの報収として計測する。そして,割引率はリスクがない場合のままにする。その結果,割り引いたプロジェクトのキャッシュフローは,ひかえめな推定となり,それを意思決定で他のプロジェクトの数値と比較することになる。時としては,二,三のひかえめの水準が用意され,弱い,中程度,強い程度などのひかえめな修正を行う。そして,代替案は同一の水準内で比較する。

感度分析
「経済的」リスク状態に接近する主要な方法は2つある。(1)不確実性の推定を最少にする,(2)リスクの量を数量化する,である。感度分析は,要素のキャッシュフロー変数の主要な経済的基準に対する相対的重要さを識別することにより,不確実性を減らすのに役立っている。

感度分析の手順は簡単である。
第1に,プロジェクトに関する関連状態を明白にする。代表的なこととしては,もっとも可能性の高いケースを選ぶ。
第2に,キャッシュフロー・モデル変数を別々に動かしてみて,あれこれ検討してみる。結果の微動変化は,各変数の偏量を与える。

そして他の条件を一定にしての,諸変数の相対的効果が出てくる。一度にただ1つの変数を動かすという仮定を超えて,いっそう完全な感度分析を行うには,理論上は,すべての変化の組み合わせを検討すればよい しかし,この方法は,考慮すべき要因が多いときは現実的でない。また,非線型の関係にあるときは,変数の不確実な値の広範囲にわたって,いくつかの点で,微動変化を行ってみるべきである。例9.5.1は,キャッシュフロー・モデルの中で,3つの変数が不確実な簡単なプロジェクトに対する感度分析を示している。この分析結果は図表9.5.2,9.5.3に示す。プロジェクトの年価は,年々の収入にもっとも敏感であり,年々の操業費,保全費,最小期待収益率(MARR)のそれぞれには,あまり敏感でないことを明らかにしている。

年価(AW)法は,プロジェクトの収益性を明らかにするのに使用する。ここでは,初期投資とプロジェクトの寿命が確定的で既知とする。しかし,年々の収入,操業費,保全費およびMARRは確定的でないとする。仮定された確定条件の下での意思決定に対しては,もっとも可能性の高い推定値を,あたかもこれが確定的なものであるかのように使用する。したがって,プロジェクトの年価はつぎのように計算される。

AW(1=10%)=3,000-1,000-10,000(A/P,10%,10)=$373

ここで,記号(A/P,10%,10)は資本回収係数である したがって,このプロジェクトは,MARRより大きい収益率となるから,仮定された確実性のもとでは採用される。しかし,収入,費用,MARRは不確実なものになりやすいから,プロジェクトの経済的効果は,この3つの変数が仮定する実際の数値によって,大きな影響をうける。

この3つの変数に対して,最良の推定値からの変を-25%,-10%,+10%,+25%とする。そして, 3つ(収入,費用,MARR)の各変化に対する計算を行い,図表9.5.2にまとめてある。この図表に示した結果を,すべての要因に対して説明することは容易ではない。もし,一度に1つだけが変化するものとうまく仮定できるならば,図表9.5.3に示すようなものが利用できる。収入がもっとも敏感な変数であることが分かるので,収入に対して,いっそう精密な推定をする価値があると思われる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

関連記事一覧

2019ものづくり公開セミナーガイド

B2Bデジタルマーケティングセミナー

ものづくり人材育成ソリューション

マーケティング分野オンラインセミナー