コラム・特集

2.10  事前見積り法と精密見積り法

IEハンドブック

第9部 エンジニアリング・エコノミー

第2章 コストの見積り

2.10 事前見積り法と精密見積り法

事前見積り法は主に設計段階で使われ,素早く大さっぱにコストを推定するのに利用される。それに対し精密見積り法は価格の決定とか入札のために,定量的に1コストを推定する方法である。それらの手法について説明しよう。

協議方式
見積り作業で個人的判断が介入するのは,見積り作業の最終段階である。勘に頼るのは望ましくないという人もいるが,データや時間がない場合は主観的判断に頼らぎるを得ないことがある。逆にいえば,コスト見積り担当者はそれだけの知識や経験をもっているがゆえに,その仕事を任されたと考えてもよいと思う。

協議方式はコスト見積り担当者の経験や主観的判断にもとづくコスト推定法である。実施法にはいろいろなパターンがあるが,普通,各部門からコスト見積り業務に関連した人達が集まって作業が行われる。時には見積り部門内のみで行われることもある.協議方式の欠点は,解析が勘や経験に頼るために,時として推定が不十分になること,また推定の根拠があいまいであること等が指摘される。

比較方式
比較方式は協議方式と似ているが,一つの論理にもとづいてコスト見積りが行われるという点で協議方式と異なっている。たとえば,いま直面している問題を問題Aとしてみよう.そして問題Aと似ていて,もうすでに見積り額の分かった問題を問題Bとする。そのときに,

CA (DA) く CB (DB)

といった関係式が導けるとしよう。CA(DA)は問題Aのコスト見積り額,CB(DB)|ま問題Bの見積り額を表わしている。つまり類似した問題Bのコスト見積りから当面する問題Aのコスト見積り額の上限をおさえてしまうのである。同様に類似した問題Cがあったとして,それにより当面する問題Aの下限を設定することもできる。

Cc (Dc) く CA (DA) く CB (DB)

同じような方法は標準原価の計算でも使われている。

単位コスト方式
単位コスト方式は事前見積り法として広く用いられている。たとえば坪当り建築コスト,鋳込み当り部品コスト,1kw当り電気料,年間教育費,バレル当り化学プラント建設コスト,工数当りの工場コスト等である。

これらのコスト資料は技術文献,政府,銀行,あるいは原価計算部門から収集できる.ただし見積り単位が「何とか当り」になっているので,財務資料を用いて単位コストを求める場合には若千の修正が必要になる。

例として旋盤加工を考えてみよう。作業指図票より旋盤作業の総時間を集計し,この数値を加工した長さ(センチメートル)で割れば,単位長さ当りの加工時間が求まる。この例は非常に簡単ではあるが単位コスト方式としてよく用いられる。

コスト見積り関係式と時間見積り関係式
これら2つの方法はコストや時間を見積もるための数学モデルあるいは図式モデルである。すでに述べた回帰によるコストの予測も,学習曲線による推定もこの方法の1つの例である。次の式は学習曲線の一例である。

TuあるいはTAC=KNS        (3)

ただし
Tu=N番目のユニットを生産するのに要する時間,コストあるいはマンアワー
TAC=N個のユニットを生産するのに要する平均累積時間
N =ユニット番号, 1,2,3,… …
K =最初(N=1)のユニットに対する定数
S =学習効果定数(S=logΦ /log 2, Φ=学習効果)もし,学習効果が93%であれば,S=log0.93/log2=-0.1047となる。

学習曲線には生産ユニット数を増していったときの増分をとる方法(ユニット平均)と,生産ユニットを累積して平均値をとる方法(累積平均)がある。両対数グラフの上では累積平均は直線となり,ユニット平均はユニット数が1から10(あるいは20)までは曲線で,それ以上のユニット数では累積平均線と並行線になる。これら2つの方法による計算結果の例を図表9.2.1に示す。学習曲線に関する詳細な議論はQstwald に,またGallagherには学習曲線に関するいくつかの数表が掲載されている。

 次のようになる。

C=Cr(Qe/Qr)m乗                                (4)

ただし,
Qr=既存製品のサイズ
Cr=既存製品の総コスト(既知)
Qc=設計中の製品のサイズ
C =設計中の製品コスト見積り額m =定数(0くmく1)
(4)式を変形して,単位コスト(C/Qc)を表わす式を導くこともできる。

C/Cc=(C/Qr)(Qc/Qr)m-1乗    (5)

もしm=1とすれば,コストはサイズに比例して決まるという関係になる。一般に化学プラントではmが06くらいの数値になるので,このモデルを6/10モデルと呼ぶことがある。このモデルに物価変動の影響CIを盛り込んで,次のように表わすこともある。

C=Cr(Qc/Qr)m乗(Ic/Ir)+Cr

その他のコスト見積り関係式としてC=K Qm(Kはスケール定数)がある。さらに変数をも、やした次のようなモデル式もよく使われる。

C=KQ・m乗 N・S1乗            (6)

確率的アプローチ
コストは,推定するあらゆる要素に不確実性がなければ,確かな値として推定できる。しかし情報の不十分さや手法の精度により,コスト見積り値は必ず誤差をともなうといってよい。そこでコストを確率変数と考え,確率手法を用いてコスト見積りを行う方法が考えられる。その代表的な手法を次に紹介する。

期待値法
リスクを含むプロジェクトでは将来起こり得る状況を想定し,その状況が実現する可能性を推定する。その値がいわゆる確率である。そこであるコスト見積りを行うときに,将来起こり得るいろいろな状況に対してコストを推定し,各コストの値にその状況が発生する確率を掛けて総和を求めた値が期待値である。このことを数学的に次のように表わすことができる。

C(i)=n∑j.PjXij                                    (7)

ただし,
C(i)=代替案iのコストの期待値

Pj=Xが値利をとる確率(n∑j=1.Pj=1)
Xij=j番目の状況に対する推定コスト

コンピュータ・シミュレーション
シミュレーションは直接実験することができない実世界の仮想モデルを作り,モデルの上でさまさまな現象を観察する手法である。シミュレーションについては13部10章を参照して欲しい。

百分位数
不確実さを表現する方法として(100分の)10,(100分の)50,(100分の)90の3点を考え,その3点でコストを推定する方法がある。50はそのコスト推定値がもっともらしいと思う点,10はコスト推定値がそれより低くなる確率が1/10である点,逆に90はコスト推定値がそれより高くなる確率が1/10である点である。大さっぱにいって,これらは普通,最善,最悪の3つのケースと考えてよい。たとえば次の例を考えてみよう。

標準時間データ
直接労務費を見積もる最も正確な方法は,標準時間データを利用することである.現場の生のデータには測定のまずさ,状況の不適切さ,作業者の技能のばらつき等が含まれているから,これらを修正あるいは調整したデータ,すなわち標準時間データを用いる必要がある。標準時間データは一貫性があり,さまさまなコスト見積りの担当者が必要に応じて随時使用できるという点ですぐれている。

標準時間の設定は,製造業ではタイムスタディとPTSが主である.建設業や病院ではワークサンプリングや工数報告書,さらに郵便業務や軍などの政府関係の仕事では,ワークサンプリングや工数方式が算定の基準となる。標準時間の表現法は表の形がすぐれており,曲線のあてはめや公式化は手間がかかり,時おり間違った推定をするのであまり好ましくない。機械加工の標準時間はすでに表の形になっており4,製造関係の標準時間はNordhoff に数多く掲載されている。

要因方式
要因方式はコスト見積りをしようとする対象物を要因ごとに分け,各要因ごとにコストを見積もって総和を求める方法である。たとえば一つのプラントの概略コストを推定するには,まず坪当り単価に総面積をかけてコストを見積もり,それに暖房,照明,配線なども同様に単位コストに各量をかけて見積もり,それらの合計を計算すればよい。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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