コラム・特集

1.3 原価管理と収益性の分析

IEハンドブック

第9部 エンジニアリング・エコノミー

第1章 企業と原価会計

1.3 原価管理と収益性の分析

標準原価
原価の変動は直接に利益の変動をもたらすゆえに,原価管理は企業にとっても,その管理者にとっても重要な役割をもつ。個々の管理者は,その責任範囲の業務で発生する原価がよく管理されているかを知るための情報を必要とする。そのためには,原価の管理状態をみるための判断の尺度となる標準原価を設定しておかなければならない。期末に実際原価の発生額を測定し,その値をあらかじめ設定されている標準原価と対比する。そこで,もし実際原価が標準を上回る場合(負の差異)は,原価管理はうまく行われていなかったことになり,逆に下回る場合(正の差異)は,よく行われていることを意味する。

原価管理における公正で正確な分析が行われるか否かは,そこで使用される標準原価によって決まる。標準原価の概念は実際の原価を意味するのではなく,毎期を通じて代表的な役割をする原価あるいはモデルなのである。標準がゆるくあるいはきつく設定されすぎると,業務に対するモチベーションが失われることになる。従って,標準は望ましい状態を反映しているものでなければならないが,それと同時に正常の操業条件下で達成できるものでなければならない。実際の価格や数量が少々変動することにより,実際原価と標準原価との間に差が生じることになるだろうが,管理者にとってこのような差は重要ではなく,もっと大きな差異,すなわち必要最大限の改善努力によって生じる差異に関心が向けられるのである。

直接原価の差異分析 
図表9.1.17に,原価差異分析で必要となる種々の計算 式を用いた分析例を示してある。直接材料と直接労働力 は同じ性格の原価なので,両者共に3つの計算式を用いて管理の結果を評価することになる。

そのはじめの計算 式は, 1単位当りの標準原価に実績数量を掛けて得られ る値から実績原価を差し引いて得られる総額差異を求めるものである。

この総額差異の値が,負の場合は好ましくない差異を意味することになる。次に,この総額差異は価格差異と数量差異に分解される。1単位当りの標準原価は,あらかじめ設定されている1単位当りの標準数量と標準価格の積で構成されていることに注目しよう。そうすると,図表9.1.17に示すように,価格の実績値と標準値の違いから生じる価格差異と1単位当りに使われた実績値と標準値の差から得られる数量差異が計算できることになる。この2種の差異をつかむことにより,総額差異が主にどの要因から生じたかが分かる。

数値例では,労務費の好ましくない総額差異は,賃率の変動によって生じたことを示している。製造部門の管理者は,支払い賃率については管理下にないとすれば,この総額差異についての責任はないことになる。そして,彼の管理下にある数量については,好ましい差異が生じており,管理の成果が評価されるわけである。

間接費の差異分析
間接費の差異分析は,変動的な標準を用いて行われる。というのは,間接費は固定的な部分と変動的な部分から成っているからである。まず,許容変動間接費を図表9.1.17の差異計算にあるように,製品1単位当りの標準変動間接費$1200/単位と実際生産量40,000単位の積で与える。この考えは,直接材料,直接労働力について標準変動数量が実際生産量で与えられるのと同じである。生産量と関係しない固定間接費については,別の決め方をする。すなわち,標準固定間接費として,単に生産量で調整しない固定間接費予算額を用いる。これら許容変動間接費と固定間接費予算額の和が間接費の標準となり,実際間接費をこれから差し引いた差異を間接費予算差異と呼ぶ。

間接費の3つの差異分析法
間接費予算差異に加えて,さらに2種類の間接費差異が用いられる(図表9.1.17を参照).これら2種類の差異は,管理の良し悪しの評価に直接用いるためのものではなく,むしろ間接費の配賦が過大であるか過小であるの理由を説明するためのものといえよう。

製造間接費は,変動および固定間接費率の和に実際生産量を掛けたものの和の額が製造した製品に配賦される.従って,その配賦の総額は変動的なものになる。

ところが,固定的な間接費率の算定の基礎になっている正常操業度のもとで製造しない限り,固定間接費の額は正しい配賦を意味しないことになる。このように,操業度が正常値よりもずれたことによる固定間接費の配賦の偏りは,操業度差異で測定されることになる。また,間接費の配賦額は,算定基準になっている,例えば直接労務費に生じる差異によってゆがめられることにもなる。もし,その基準値がまずい管理の結果, 45%高くなったとすると,間接費の配賦額も45%増すことになる。このようなことから生じる偏りは,能率差異で測定される。

 

投資収益率
企業における経営状態の良さを測定するのに,純利益と総資本の比で与えられる投資収益率(ROI)が,しばしば用いられる。経営者の任務には,経営資源の投資が最善になるように決定すること,販売量を確保できるような価格設定を行うこと,販売により適切な利益が得られるようにコストを管理すること,などがある。企業におけるこのような経営過程の中で,企業規模の大小を問わず,適切な投資収益率を達成することが試みられているといえよう。

投資収益率を売上高純利益率と総資本回転率の積に分解することにより,一定の投資収益率の値が,なぜ得られたかについて分析を助けることも可能になる。

(中村善太郎)

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

関連記事一覧

2019ものづくり公開セミナーガイド

B2Bデジタルマーケティングセミナー

ものづくり人材育成ソリューション

マーケティング分野オンラインセミナー