コラム・特集

1.2 製造原価の決め方と表わし方

IEハンドブック

第9部 エンジニアリング・エコノミー

第1章 企業と原価会計

 

1.2 製造原価の決め方と表わし方

製造原価の種類
製造原価は,基本的には3種類に分類される(図表9.1.4)。はじめの2種類は直接原価で,製造の過程で製品に直接的に付加されるものである。1単位の製品を製造するために必要となる材料の数量と労働力の数量という概念が計算の中で用いられる.例えば,技術設計により1個の製品をつくるのに1001b(45kg)の鋼が必要で,一方,購買部門によれば,この鋼の値段は$0.40/1bだとすると,製品1個当りの材料費は$40/個で,1,000個については$40,000になるという見積りができることになる。

材料費と労務費の中味がすべて直接的なものではない.切削油とか潤滑油といった様々の補助材料が製造のために用いられる。また,一般管理,事務業務の賃金といったような直接的でない労働力も必要となる これらの直接的でない費用,すなわち操業上必要ではあるが,製品の中に直接付加されないものは間接費として分類される。
ただし,何が直接費で何が間接費であるかを区別する正確な定義はないことに注意しておこう。例えば,接着剤といったものは,ときに応じいずれにも分類されることにもなる。製造に使われた接着剤の量を個々の製品別にとらえることが出来ることもあるし,また使用した接着剤の総量を,接着剤容器の残量で期末に測定してつかむしか方法がないこともある。製品1単位当りの原価を決めたり,その原価を直接原価として扱うにはかなりの手間がかかるが,そうすることにより,その原価はコントロールされやすくなる。管理者は,そのような手間をかけ,きめ細かいコントロールをするに値するか否かの判断をしなければならない。

製造間接費は種々の原価の分類項目から成り立っている(図表9.1.4)。このなかで,補助材料費とか不良損失といったようなものは,生産量に応じて決まる度合が強いものである。他の間接費,たとえば管理費,減価償却費といったものは,操業度に応じて決まるものではない。すなわち,これらの原価は企業が維持する生産能力に関係しており,生産能力の稼動水準には依存しないものである。

減価償却
間接費の1つである減価償却費は,その性格が誤解されやすいのであらためて説明しておかねばならない。減価償却費は,工場施設,装置,その他工場での資産を使用することから生じる原価で,人為的な見積りによって求められるものである。

例えば,1台の機械が$100,000で購入され,8年間使用した後に$20,000で売却されたとしよう。明らかに,この固定資産は,8年間の耐用年数の全体でそれを使用するために$80,000の原価が発生したとみなせる。ところが,損益計算は各年ごとに行われるので,この資産のおのおのの年度別の使用に応じた原価を明らかにせねばならぬ問題が生じるのである。

この問題に対する1つの答えは,$80,000を耐用年数の全体にわたって年ごとに均等に分割し,年当り$10,000の減価償却費を各年度に配賦計上する方法である。いずれにしても, 1つの資産の耐用年数のなかでの各年度ことに損益計算書が作成されることから,各年度における減価償却費は,資産の耐用年数と残存価値の見積りに基づいて計算しなければならないのである。

図表9.1.5には,この計算の内容と固定資産の帳簿上の簿価(購入価額からすでに発生した減価償却費の総額を差し引いた値)の年度別の動きを示すグラフが示されている。この簿価の値が年数に関して,直線的に減少する動きをするような減価償却費の決め方を“定額償却法”と呼んでいる。

固定資産を減価償却するねらいは,損益計算書のうえで,その資産を使用したことによる費用として,収益から控除する際の公正な値を決めることにある。このような減価償却の考え方は,資産を使用するに従い,その市場価値が逓減することとは無関係であり,資産の簿価がそのときの市場価値になると考えてはいけない。事実,市場価値は資産を購入したり処分するときにのみ考慮される。

固定資産は使うために取得するもので,使用期間の中間段階での市場価値は考慮の対象にはならないのである。また簿価自体は,その資産の実質価値を示すものでもない。例えば,たとえ1つの資産が償却済となり,簿価が零であっても,企業の中でその機能を何年間か果たし続けることもある。

簿価はまた,取替費用とは無関係である。取替設備がたとえ高価なものであっても,現有設備が現実に取り替えられるまでは減価償却費と簿価は,以前からある資産にのっとってきめられる(固定資産の取替に関する経済分析は,第9部第4章を参照のこと)。

定額法は,資産の耐用年数でのおのおのの年度に等額の減価償却費を計上するものであるが,一方,「定率償却法」と呼ばれる方法は,資産の寿命のなかで早めに多くの額を償却してしまうものである。この早めに償却する方法では,資産の簿価は定額法と比べ,寿命の始めの時期で急速に減少することになる(図表9.1.5の点線を参照)。しかし,寿命の終わりの時期では,簿価の減少はごく小さくなって最終的には残存価値に至ることになる。定率償却法は,資産の寿命の後半の負担額をはじめのほうに再配分したものである。

多くの企業では会計簿記や税金計算のうえで,定額法よりも定率法を用いている。見積もられた耐用年数になる手前で資産が取り替えられたとすると,処分損が発生してしまうことがある。 この損失が小さいほど,当該年度の純利益のゆがみは少なくなる。現実には,定率法のほうが定額法よりゆがみは小さくなる傾向が強い。また,定率法のもとでは,税金の支払いを遅らせる結果になる。資産の寿命の始めのほうで償却を多くすればするほど,課税所得は少なくなり,税金は少なくなる。そして,後半では償却費は少なくなり,税金は多くなる。もし,同ー総額の税金を支払うのであれば,企業は税金の支払いが遅れたほうが資金を有効に活用できることになる。

間接費配賦率:その使用目的′計算方法と利用法
管理者は1単位の製品を製造するのにかかる原価を知る必要がある。この1単位当りの原価情報は,販売価格の決定や原価管理に用いられる標準の設定の基礎として使われる.製品1単位当りの直接材料費や直接労務費は, 1単位の製品に使われる量を直接見積もることにより明らかにされる。すなわち, 1単位当りの使用量を見積もり,価格をつかみ,両者を掛け合わせて求めることになる(図表9.1.6の例を参照)。

これに対し,製造間接費の中味は,さまさまの資源についての費用項目から構成されており,その中には1単位の製品の製造にかかる額を直接決められないものも含まれている。例えば, 1単位の製品を得るのに管理費とか減価償却費がいくら使われているのか,という質問に直接答えられないのである。それゆえ, 1単位の製品当りに相当する間接費の額を決める手段を講じなければならなくなる。その決める手段になるのが,「間接費配賦率」なのである。

間接費配賦率は,次のようにして求められる。当該期間の製造間接費の総額の見積り額と,例えば,直接労務費などの間接費の配賦基準になる費用の総額の見込み額との比として求めるのである(計算式とその例は図表9.1.7を参照)。

このようにして得られた間接費の平均的な配賦率を,配賦基準として用いた費用(例えば労務費)の1単位当りの額に掛けることにより,個々の製品の1単位当りの間接費が見積もられる。

間接費の配賦基準は,間接費の総額を製品1単位当りに配分する働きをする.適切な配分をしようとすれば,例えば,直接材料費,直接労務費あるいは設備稼動時間といったような製品1単位に対して,明確にとらえられる項目を基準にとって行わねばならない。どの費用項目を配賦基準として用いるべきかは,直接作業の中で支配的な役割を演じている費用項目に注目して決めることになる。例えば,労働集約的な作業では,直接作業時間や直接労務費が基準になるだろうし,高度に自動化されている作業では,設備の稼動時間を基準にするのが妥当なやり方になる。

なお, 1つの企業で複数の製品を製造している場合は,生産量を間接費の配賦基準にするのは好ましくない。というのは,おのおのの製品間にある製造のための手間のかかり方の違いが無視された配賦がなされてしまうからである。

間接費における文字通りの間接的な性格は,また,製品を製造したときに直ちにその製品に対応する部分の間接費を指定できないという問題をひきおこす。

実際の直接材料費は,材料を購入した時点で決められるし,実際の直接労務費は,作業の実施記録,すなわち作業票に基づいて決めることができる。しかし,実際の間接費の総額は,当該会計期間が終了した時点ではじめて明らかになる性質をもつ.従って,製造が完了し,関係するすべての費用が製品に対応づけられた場合を想定して,間接費についての見積もりが行われることになる この見積もりのことを,「製造間接費配賦Jと呼び,それは間接費配賦率に配賦基準の実際値を掛ける計算で行われる(この計算の例は,図表9.1.7参照)。


製造間接費の配賦は,仮定に基づいた1つの見積もりであるので,期間の終了時点で決まる実際の値と往々にして異なることになり,期末に修正を必要とする。配賦が多すぎる場合は「超過配賦J,少なすぎる場合は「不足配賦」と呼ぶ調整が行われねばならない。一般に,この修正は製品が販売された期における売上原価に対して行われる。

製造原価サイクル
製造原価の計算は,原材料の購入から完成品を市場で販売するまでに至る製造品の物の流れに沿った記録に基づいて行われる。4種類の異なるタイプの在庫が原価の記録の中で用いられる。すなわち,原材料についての記録は,扱われる項目の種類に応じて,直接材料か補助材料で記録される.仕掛品原価と製品原価は共に,棚卸資産勘定の名のもとで記録される。これらの製造原価の棚卸資産勘定に沿った流れは,図表9.1.8に詳しく述べてある。図表9.1.9には,製造原価の計算に沿った原価の記録を表わす数値例が示してある。


一定期間における製造原価の内容は,企業内用として製造原価報告書で報告される(図表9.1.10)。この報告書も一連の棚卸資産勘定を製造品の物的な流れに沿った形式で表示したものである。この報告書で行われている基本的な計算の仕組みは,それ自体とりあげてみても独立した意味をもっている.それは「投入一産出分析」と,しばしば呼ばれているもので,在庫量に関する4種類の項目,すなわち,期首有高,期末有高,流入量,流出量の関係に基づいた計算が行われる。

これらの4種の項目のうち,3項目についてその値が分かれば,残りの1項目の値は決まる。この報告書の中で,この基本的な計算が3段階で行われることに注意されたい。そこでは,おのおのの流出量が次の在庫に入り込んでいる。まずはじめは,直接材料の在庫についてこの計算が行われている.当該期間で使われた直接材料の原価は,仕掛品の中に加えられる項目の1つになっている。

2番目には,仕掛品在庫の計算で行われている.そこでは,当期に完成した製品の原価が明らかにされ,これは次の完成品在庫に投入されることになる.終わりに,完成品在庫からの流出量の計算は,その期における売上原価を求めることとなる。

変動および固定間接費配賦率
直接材料費,直接労務費および間接費の一部のもの(補助材,小物の工具,仕損じなど)は,生産量にほぼ比例して決まるので「変動費」といわれ,他方,これ以外の間接費(管理費,減価償却費,固定資産税など)は,生産量よりも工場の生産能力に関係して決まるので「個定費」と呼ばれる。この固定費は生産量1単位当りでみると,生産量が増加するに従い,減少することになる。(図表9.1.11)。

a.基本形:期間内の発生額(購入,追加費用,完成)+初期在庫=期間内の利用総量(製造費,製品在庫)一期末在庫=期間内の売上原価と製品在庫

製品1単位当りの原価は,販売価格設定の基礎になるが,一度決められた価格は,原価の値が変わることでその都度変更されるものではない。従って,固定費の部分の1単位当りの原価が,必要に応じて変わることは管理者にとってあまり好ましいことではないのである。例えば,図表9.1.12に示すように,生産量が多い年度は1単位当りの原価は安く,生産量が少ない年度は高くなってしまう。このような不安定な状況を避けるために「基準生産量」と呼ばれる平均的な生産量を設定し,それに基づいて原価を決めることが行われる。


耐久消費財を扱っている企業でその需要量が大きく変動するような場合は,次年度の間接費の推定を2つの部分に分けて行うことがある。

その1つの部分は,見積り間接費の固定部分であり,それは基準生産量に基づいて決められ,生産量とは無関係な間接費の配賦率が得ら
れる(図表9.1.13,図表9.1.14参照)。他の1つの部分は,変動部分であり,定められた一定率を用いて生産量に応じて決められる。

全部原価計算と変動原価計算
製造会社の内部では,2つの異なる損益計算書が使われることがある 両者の違いは,固定費のとらえ方にあり,その1つは,全部原価計算書に基づくものである。

この計算書は,外部報告用にも用いられる伝統的な財務資料で,製造原価の中に固定間接費も含めたすべての費用を計上するものである.他の1つは,変動あるいは直接原価計算書と呼ばれるもので,製造原価には変動費だけが計上され,固定間接費は期間費用とみなされて,おのおのの会計期間に対して計上されるものである。

変動原価計算の1つの長所は,固定間接費が仕掛在庫に配賦されないので,生産数量による製品原価の大幅な変動が避けられる点である.もう1つの長所は,貢献利益が明らかにされる点である.貢献利益は販売価格から変動費を差し引いて得られる額で,その額は固定費を負担し,さらに利益を生みだすべきものとしての意味をもっている(第9部第4章での損益分岐点分析を参照のこと)。

コストセンターと部門間接費率
製造における仕事は,例えば,鋳造,加工,塗装というように,いくつかの部門に分かれて行われる。もし,部門内原価の把握と間接費率の設定がおのおのの部門の中で独立にできるように,この部門の分類がなされれば,いくつかの利点が生じることになる。その1つは,原価管理を行う際に1人の管理者がその部門に関する原価責任を負うことができることである。これに加えて,例えば直接労務費についても部門別に分解し,きめ細かい管理が可能になる。

その2つは,部門ごとに間接費配賦率を設定することにより,製品別の間接費の配賦がやりやすくなることである。その結果,製品の価格設定に役立つ原価資料が得られやすくなる。図表9.1.15の例で,この点が明らかにされている。この例では,製品AとBは共に製品1単位当りの製造原価における直接労務費の値が同じになっているのだが,もし,全部門に対して共通の間接費率を適用すると,この例のような場合では,おのおのの製品に同一の間接費が配賦されることになってしまう。

しかし,この例では製品Aのほうが間接費は少なくなっている。というのは,製品Aでは,間接費が少ない鋳造部門での労務費の占める割合が多くなっているからである。また,製品Cは塗装部門しか通らないものなので,塗装部門の間接費率は大きい値になっていて,それに応じて製品Cの間接費も配賦率も大きくなっている。


コストセンターをどのように区分しいくつにするかは,要求されるデータのきめ細かさとデータをつかむ手間を勘案して決めねばならない。その際に,間接費の配賦基準になる原価の発生が,それぞれの領域別でどのように片寄るかということが考慮されねばならない。

一般工場間接費と管理部門費の配賦
製造業ではここまで述べてきた諸原価以外に,例えば,工場設備の保全にかかる費用,計画や管理業務の費用,建物の減価償却費,保険といったような種々のサービス部門に関する費用も発生する。

もし,製造に関するすべての費用を製品に付加しようとすれば,これらのサービス部門費や一般工場間接費を製造部門に配分しなければならない。製造部門にこれらの費用が配賦されると,それらは部門間接費率の中に加えられ,最終的に製品に配賦されることになる(図表9.1.16を参照)。

個別原価計算と総合原価計算
製造原価を明らかにする際に,直接材料費,直接労務費,工場間接費という基本的な分類に従って記録が行われるのだが,これらの諸費用の記録の仕方,まとめ方にいくつかの異なる方法がある。その1つの典型は,個別原価計算と呼ばれる方法で,製造される製品別あるいは個々の仕事における仕掛品別に,材料費,労務費,工場間接費についての発生原価を記録し集約するものである。個別原価計算は,例えば,工作機械メーカーのように個別の受注仕様に基づいて製造する工場で行われる。これとは対照的なもう1つの方法は,総合(工程別)原価計算と呼ばれるもので,一連の工程に沿って標準品を大量に生産する工場で行われる。この方法では,原価は部門別に記録,集約される.そして,各部門はそれぞれの仕掛品を持つ異なったコストセンターの役割をすることになる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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