コラム・特集

8.3 政令によって求められていること

IEハンドブック

第6部 人間工学

第3章 安全管理

 

8.3 政令によって求められていること

970年のOSHAによって,初めて安全についての責任が明確になった。OSHAでは雇用者は,従業員に仕事を与えるとともに死亡や重大な事故になるような事前に「知ることができる危険」あるいは,事故の原因から防護することを義務づけており,「一般的義務条項(General Duty Clause)」といわれている。雇用者は,この一般的義務として,(1)「予知できる危険Jからの保護ばかりでなく,(2)法律に定められている安全と健康に関する規準に従うこと,(3)OSHAで定めているその他の要求,規定に従うことを定めている。

一般的義務である「危険の予知」

作業場所における危険の予知についての規準はANSI (American National Standards Institute:アメリカ規格協会,以下ANSIという)や全米消防協会〔National Fire Protection Association(NFPA)〕といった機関の規準として展開されている。こうした規準は,政府が求めているOSHAの規準に準拠していることはいうまでもない。この法律に基づいて,企業は,従業員を死亡あるいは重篤な傷害を与えるような危険を事前に発見して,改善しなければならない。

一般的義務でいう危険は,事故記録を収集して分析し たり,労働者にインタビューしたり,事故の調査研究をしたり,同じような工場を持つ経営者間で情報交換したり,行政組織および私企業で実施している調査研究の結 果をもとにして知ることができるような顕著な事故原因のことをさしている。OSHAの視察の場合にも同じよ うなよりどころにそって,設備の状態を調査したり,危 険が認められるか,法律違反があるかを行っている。事 故の原因を探し出すことは,雇用者の一般的義務である。

OSHAが特別に求めていること
前述した一般的義務に加えて,OSHAが特別に求めている事項がある。

従業員に対する告知
従業員は,職場における安全と健康の状況について知らされていなければならない。従業員がたびたび目にするような,日立った場所に情報を掲示する方法をとり,その内容は次のようなものを含んでいる必要がある。

1.安全と健康の擁護 従業員の安全と健康を擁護する法律のめさすところ,従業員の安全と健康は,使用者の責任であること,従業員は,危険が感じられる場所あるいは,改善を必要とするような場所で働くことを拒否する権利があること,を明示する。

2.年間の事故と疾病の発生状況の要約1年に1回,保存されている記録を要約して掲示,従業員が,自分たちの安全と健康がどのような状態であるのか知ることができるようにする。

3.召喚,罰金,刑罰′違反 仮にOSHAの視察官が違反を見つけ,雇用者を召喚したような場合,その召喚による罰金や刑罰がとられたのか, また,それはどのような基準に違反していたのか等を告知する。

4.有毒物の暴露に対する注意 従業員が,有毒物,あるいは有害物に暴露する危険を知り,それによって適切な回避行動がとれるように,その場所,その濃度レベル等を告知する。

通常行っている作業の記録
通常行っている作業のなかで,見出した危険をいかに除去するか,見出した危険やエラーの要素を設計のなかにどう生かしていくかという問題は,安全管理者,安全技術者にとって,非常に困難をともなった作業ではない。そこでは, IE,人間工学,安全工学の手法を統合した手法が,有力な武器とし用いられる.そうした手法の1つに職務分析と呼ばれる方法がある。その手順を概略示すと次のようである。

(1)事故のデータをもとにして分析対象となる危険の多い作業を選定する.
(2)作業を構成する一連の段階,要素に分解する.
(3)危険性の高い要素を見出し,起こりうる事故を識別する.
(4)危険を除去する方法,あるいは起こり得る事故を防止する方法を決定する.
(5)改善を実施するにあたって,実施機関およびその運営法つまリリーダーシップおよび協力関係を準備する.

職務分析の応用は一定の方式があるのではなく,個々の場合に合わせて考えていったほうがよいといえる。それにともなって,機械工学,電気工学,人間工学, IE,管理工学,安全工学,健康管理学等幅広い知識,訓練が必要となる。
職務分析の手法に加えて,もう1つの有力な方法として「FTA分析(Fault Tree Analysis)」がある。事故の様相,あるいは事故の起こる可育レ性を,作業,用具,製品の関連から分析をして,最終的にその構造を樹木図に書き表わすもので,作業,人間の行動,製品をいったん,細かな要素にまで分解し,それから,その要素間の因果関係を整理しようとするものである。この技法は,事故がどのようにして起こるのか再現するのに有効な方法である.その他にいま行われている作業を分析したり,予定されているシステムや製品の図面から機械工学,電気工学的なモードや作業態様などを予測するためにも有効である。FTA法がかなり幅広い応用性を有しているため,最近,安全の専門家が製品安全や職場安全の業務において多用するようになってきた.マラスキーは,この技法の応用について優れた手引書を出している。

保護具の装備
可能なかぎり危険を除去したとしても,ある種の危険は存在する。そのような危険に対しては,直接身に着けるような保護具を用いて防護することになる。

例えば,ヘルメット,安全メガネ,手袋,前掛け,耳栓,安全靴等があり,目的にかなった保護具を使用する。OSHAの規定では,「傷害の発生する可能性があるような場所では,保護具によって事故の防止を図る」というように,保護具の装備を命じている。とともに,実際に十分に,保護の機能を果たすように,保護具の構造,型式を定め,ANSIの基準にもとづいて検定を行い,合格しなければ保護具としての使用を認めていない。

保護具についていくつかの問題点がある。

その第1は保護具を使用するとき,その装着は任意の意思にまかせるのかどうか,

第2はANSIの規準は,精密でないかりか大雑把であると批判されている。例えば,安全靴`ぎについて,つま先の保護ばかり気をつけて靴底の滑り止めを考慮していないというような点にみられる。

第3は,購入者は製造会社の言葉を信頼するだけで,ANSIの規準に真に適合しているのかどうか判らない。最近,政府が行ったサンプル・テストの結果によれば売られている保護具のなかにはANSIの規準を満足していないものがあると報告されている。

第4は,こうした保護具の実際的な使用の仕方である。使用されなければ,作業者の安全は図れないことはいうまでもないが,忘れたり,無くしたり,汚れていたり,不便であったり,不快であったり,作業の妨げになったりといった理由でしばしば使われていないことがある.いかなる理由があるにせよ,車のシートベルトのように,もし使われていないならば保護されることはない。

この第4の問題点が最も重要な点である。多くの事故がその保護具がたとえ完全に規準を満たしていなくともつけてさえいれば防げたものであり,つけていないがため起こったとぃぇる.このことは裏を返せば,多くの場合,事故は保護具の性能や構造の限界ぎりぎりのところで起こるのではなく,一般にその限界内で起こることが多いということである.たとえば,日の負傷事故を例に挙げると,安全めがねが,たとえ推奨されたガラスでなくて標準品であっても飛散物から目を守るには十分役に立つということとある。

 

保護具の着用があまり人気がなく浸透しない背景には,このような着用無視という実態の一般化を指摘せさるを得ない。しかし,他にすぐに替わるよい対策が見当たらない以上は,その種の保護具をとにかく着用する以外に良い手はない。着用に対して消極的な作業者には,訓練,使用感の改善,使い勝手の改善や究極的には根本的な原理原則論に訴えることによって対応するしかない。必要ならば,保護具着用の原則は法的にも有効になるし,労働組合や政府行政の側でも完全に支持するところである。

有害物に対する管理者責任
経営管理者の行うこと何でもかんでもすべて「管理者責任」とされてしまうが,安全に関して管理者責任の範疇に入るものとして危険有害物への暴露時間の制限,人事配置が挙げられる。著者によってはこの中に,さらに不安全行動の制限を図る計画などを含める人もいる。それぞれ重要なので1つ1つ取り上げてみる。

作業時間の計画管理 騒音,放射線,中毒性有害物質などの暴露による身体健康への影響は普通,暴露時間,暴露量によって左右される.NIOSHが研究中の他の有害因子,たとえば,振動,繰り返し性重量物挙上,繰り返し性身体動作による健康障害も,暴露時間と密接に関係していることがいずれ明らかにされることと思われる。この種の状況下では有害因子を除去したり,保護具の支給で現実的には対応できないことが多く,管理の方策としては作業者を1日の労働時間のある部分を,何か別の異なる作業に従事させるしかない。このような作業交代方式を採用することにより,作業者を同一有害因子に連続暴露させることなく,かつある安全の範囲内に暴露を留めることができる.管理的によく行われる具体的方法は作業者グループを編成し,各作業ごとに暴露時間を記録しながら何種類かの作業の間をローテーションさせるやり方である。

人事配置
ある作業の有害度には個人差がある。別ないい方をすると,ある状況下でのある特定タイプの事故の起こり易さは部分的に当事者個人の性格にもよるということである。一時期,「事故傾性」者という概念が取り沙汰されたことがある。今日専門家の間では,ある特定の有害危険因子に敏感に反応する人間特性があること,そしてそれが究極的に事故の発生確率や発生強度を決めていることなどについて,合意が得られている。しかし,どのような特性がこれに該当するかについては合意はなく,ただ考えられる特性としては重量物挙上その他筋力に関する特性,反応時間,視力および知覚,決断力,短期および長期の言己憶力,年齢,身体の大きさ,精神ストレス,精神運動技能,教育水準,経験,訓練などがある.性差は入っていないことに注意したい。

事故によってこうむる生産性損失,設備損失,労働者の救済給付金,医療。リハビリテーションにかかる費用,新規採用者の訓練にかかる費用などの不利益の増大が無視できないため,経営管理者は生産性向上,事故低減のため個々の作業者をよりよく作業に適合させるために,作業の人事配置についてのあり方を研究するようになってきた。例を挙げると,いくつかの大企業では,採用前に筋カテストを行い,個々の筋力と重筋作業で重量物挙上に関連した事故。障害の起こし易さとの間に相関があるかないかを研究している。その種のデータはその種の作業に従事した場合永久的な障害をこうむりかねない可能性のある作業者は,それに配属させない根拠として活用されるわけである。

不安全行動の管理
安全について,今日,大きく2つの見解に分かれているといわれている。その1つは,事故の90%は人間の不注意が原因となっている いかに機械設備を設計するかは関係がなく, それを操作する人間に責任があるとする見解である。

もう一方の見解は,事故の基本的な責任は,設計者―製造者にあり,製造した物に「きびしい責任」を負うべきであるとする見解である。この考え方によれば,たとえ,訓練されていない人であっても,エラーや不注意から人を護るようにフェイル・セイフ機能を備えるように設計することになる。OSHAの考え方,あるいは,労働者の代表,弁護士,多くの技術者,人間工学者は,こうした考え方に近いといえる。

いままでみてきた2つの見解の中間的な考え方がある。
事故原因の第1は,用具,機械,システムがフェイル・セイフに設言十されていないことであり,ある種のエラーが事故に結びついている。第2は,平均的な従業員は理性的であり,注意深く,入念な人であるにもかかわらず,たびたび起こる不注意,エラーの結果が不安全行動となって表出する。さらに,このような不安全行動,エラーは,知識の不足,技能の不足,経験の不足,不注意,疲労,精神的なストレスに起因しているという見方である。

安全計画のなかでは,不安全行動をいかに制御するかが基本的な活動の1つといえる.不安全行動を制限しようとする活動は,仕事から危険を除去したり,より安全な製品を作るように設計したり,危険に対して十分な補償をしたりすることに限られてしまう。加えて,危険を除去することに力を注いだとしても,不安全行動を完全になくすことはできない。とはいっても,訓練あるいは不安全行動を制限するような計画は,危険を除去する上で,可能性をより少なくさせるために効果があるといえる。

一般的に,適切な訓練を与えられ,モチベーションがあれば,多くの作業場面では,作業者は責任感があり,聡明で,能率的に作業を進めよう,あるいは安全性を高めようと考えているものである.特に新人の従業員には,そうした訓練が効果を発揮するのはいうまでもない。したがって,会社は新人を登用するときに,知識,技育し,仕事の危険性を十分に修得するまで,熟練した人と同じように扱うべきでないといえよう。また,そうした対応をとらなければ,新しい従業員によって,大きな損害をもたらすような事故を起こす可能性がより高くなるであろう。安全に関していえば新人教育の計画は,作業のなかにある危険を知ることから始まり,作業工程を遂行するときの安全について,その実地訓練や教科,熟練従業員をまじえた討議から構成されなければならない。最近になって,健康と安全計画の新たなやり方として,不安全行動を管理するとか,安全計画の運営にあたって,「従業員の参加」のもとに行われるようになってきた.労働協約のなかでも,労使ともに協力して,安全計画の推進を義務づけているものが多い。このような考え方は,新しい危険を探し出すときにも,事故を減らすように改善活動を推し進めるときにも,あるいは作業の安全キ旨針を展開するときにも,好結果をもたらすといえる。労働組合が結成されていない企業においても,選出された従業員の代表との間に,同じような機能をもつことができる。

従業員に対する差別の禁止
法律によって従業員は,雇用者がOSHAの基準に違反している場合に,地域のOSHA事務所に訴えることができるようになっている.訴えによっては,OSHAの視察官が作業現場にきたり,あるいは雇用者に召喚状が発行されることとなる.雇用者のなかには,そのような行動をとった従業員に報復処置をとることがある。そのような処置がとられたことを従業員から訴えられときには,厳しく罰せられる。さらにまた法律(従業員が法律のもとで保障されている正当な権利に対して,いかなる場合も,報復処置をとることを禁止する)に違反したことになる。

死亡あるいは重大事故の即時報告
1人以上の死亡事故,あるいは5人以上の入院カロ療を必要とする事故の発生したときに,雇用者は,48時間以内に口頭あるいは書類をもって,最も近いOSHA事務所に報告しなければならない。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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