コラム・特集

6.4 障害状態

IEハンドブック

第6部 人間工学

第6章 障害者と就労

6.4 障害状態

1974年の国民健康調査の結果では, 16~ 64歳の労働者122,546,000人のうち26%が,労働,家事,登校などの主な日常生活行動に困難を伴う慢性的な状態にあり,また,7.7%は主な日常生活行動すべてまたはその一部にある限界があり, 39%は主な日常生活行動以外に何らかの限界がある。

行動に制限をもたらす一般的な原因のヒストグラム(図表6.6.4)では,約40%が筋骨格系,25%が循環系,13%が呼吸器系,6%が特殊な感覚系,3%がガン,14%が代謝系,胃腸系,泌尿器系疾患である。疾患をもった作業者を実際に配置したり,彼らへの配慮を行うときの各疾患とその影響を受ける行動や活動との関係を図表6.6.5に示した。

作業者を現場に配置する前に,その個人の作業遂行能力を,医師またはリハビリテーションの専門家らによって評価しておく必要がある。個人の障害が生命を脅かすかもしれない場合は特に重要である。

職務評価,障害者への配慮の増進,障害者の管理などについて雇用者の協力は労働復帰を促進させるものである。

障害者を現場に配置する場合,最初に考慮しなくてはならないことは,その障害状態が進行性なのか進行しないものか,またはその職務が障害状態を悪化させるものかどうか見極めることである。進行性の状態は,一般的には,病気が進行している場合で,進行性でないものは,一般的には,事故,先天性欠陥,過去の病気などによるもので,例えば,手足の切断,短肢症,小児麻痺などがある。

進行性でない障害者の作業遂行能力は安定しており,また治療法によっては能力を増進させることができる。

障害者への配慮には,職務遂行上の要求水準を軽減するための作業や作業場の改善または適切な装置などによって,作業者の生産性を高めることなども含まれる。その配慮の基本は,障害者が応じえない職務要件を障害者の耐え得るレベルまで減ずるか,または完全に取り除いてしまうことである.もし,そのような要件を取り除いたり,耐え得るレベルまで減ずることができない場合,そのうち,最も困難な要件を,遂行可能な作業者に移行するよう職務の再構成が行われるべきである。

補助具には,車椅子,補装具類,義肢,めがね,補聴器などが,作業場の改善には,特別な作業手続,特殊な治具,道具,車椅子への傾斜面の配慮,点字による計器類のコード化などが含まれる。

身体障害に知覚,感覚,精神障害が付随している場合や,または後者だけ障害の場合,その障害に対する配慮には,より以上の困難を伴い, しばしば,各個人独自のものとなる場合が多い。

最も遍在する欠陥の1つは,知覚上の障害であり,脳腫瘍,脳血管性障害,複合の硬化症等に関連した知覚障害は広範囲にわたっている。脳障害の範囲には,ちょっとした観察で明らかに分かるものと,そうでないものもあり,また,その障害者自身には自覚がないものもある。

身体障害
障害の大部分は,筋,腱,骨格系に関するもので,身体的な動きや力の発揮が要求される職務要件を遂行する能力に影響を与えている(図表6.6.5参照)。


例えば,下肢を使用するため作業遂行が困難な場合,特殊な椅子,車椅子,杖などによって配慮することができる。車椅子や杖を使用している人の作業場への安全な出入を可能にするためには,特別な考慮が必要である.車椅子での出入の建築工学的な指針に対するANS 122による推奨値が図表6.6.6に示されている。


米国における68万の車椅子使用者の42%が,対麻痺,脚の切断,部分的な神経麻痺,進行性の脚の関節炎,心臓病の人たちであると推定されている。この人たちにとって座った状態でのリーチ動作自体には何ら障害はない。車椅子使用者に対するANSIによるリーチの限界の推奨値は図表6.6.6に示されている。特殊な障害を持った人に対するリーチまたは力に関するデータの公表は非常に希である,なぜなら,筋一骨格系障害を持った人のリーチ動作の遂行能力は非常に変動しやすく,また,力やリーチの遂行能力の平均値は非常に過大評価であったり過小評価であったりすることが多いからである。以上のように障害者の遂行能力は,個々の場合に応じた評価がなされるべきである(63参照)。

力は身体と荷との位置関係に依存するもので,一般的には,その荷を身体から遠ざければ力は減少する。力のテストでは,その職務に要求される姿勢やリーチの条件を正確に反映するもので,これらの情報は, 63でも述べたように,身体的な職務要件の分析から得ることができる。

身体的作業能力に対する種々のテストの遂行およびその解釈は,医学的な行為とみなされ,医師またはリハビリテーションの専門家の監督の下で行われるべきであり,その障害が進行性の場合には特にそうである。等尺性の筋カテストは,頻回な重量物挙上作業の作業能力を推定する1旨標として有効であるが,挙上作業が繰り返し性の強い場合は疲労余裕を考えねばならない。ところが,まずいことに,現在使われている疲労余裕の考えの中には障害状態に対する配慮がない。だから,筋力テストのデータの解釈と疲労余裕の採用には資格のある医療スタフの協力が必要である。

リーチと筋力を制約している要因は,作業に必要な要件と作業者の潜在能力を比較すれば明らかになる.身体障害者への一般的な配慮には,日標を身近に近づける再配置や作業者を目標に近づける再配置または必要な操作力の減少,動力補助装置の使用などが含まれる。

“shadow”または“buddy”システムもいくつかの現場で利用されている.これは医学的に労働の制限のない作業者がかなりの努力を要する仕事に対し,制限のある作業者を援助するため割り当てられるシステムである。

心肺機能障害
心肺機能と身体的労働との関係については3章で述べられているが,心肺機能障害がどの程度であれ,それは身体的労働の遂行能力を減ずるのみでなく,時には死をも引き起こす場合があるといっても過言ではない。しかし,身体的労働要件が大きすぎると,疲労や他の健康上の悪影響を及ぼすが,ある程度の身体的活動が身体的作業能力を高めることもある。

心肺機能障害を持った人々の雇用には,専門的な医療スタッフによる注意深い取り扱いが必要である。しかし,雇用者にとっては,身体的労働要件の分析,より高度な配慮の促進,作業管理などの面からの援助が可育贅ある。

踏台昇降,歩行,自転車などによる負荷テストは,連続的に高いレベルでの定常状態を形成し,そして,その結果は,最大酸素消費量,エネルギー消費量,などとして報告される.また最高心拍数,心電図異常,胸痛,頻呼吸などは労働強度を反映したものと考えられる。酸素消費量およびエネルギー消費量は,よく体重1kg当たりに対する値として表わされ,metsは心臓疾患のリハビリテーションで最も一般的に利用される方法である。

心拍数,血圧,酸素消費量などを含む多くのパラメータは,ストレス下での心肺機能の指標として測定,記録される。また,血圧,酸素消費量は,労働条件下で容易に測定できないので,心拍数が循環系ストレスの指標として最もよく利用されている。

3つのレベルの健康状態に対する労働強度と心拍数との関係が図表6.6.7に示されている。図から,作業者の健康状態が良い状態よりも悪い状態のほうが,より大きな負担が,と心臓にかかっていることが分かる。


また, 3章,図表6.3.4に示されている作業に対するエネルギー要求量は,類似の作業に必要なエネルギーの大まかな推定に使用することができる。心肺機能に関する他の重要な要素として労働形態,温熱環境,化学的,物理的条件がある。

労働形態は,労働負担が身体各部にどのように分布するか,または筋収縮が静的か動的かなどを決定する。実験的な研究では,身体全体に対する労働強度よりも,上肢の動的な労働強度に対してのほうが,より心拍数や血圧を高進させている。

さらに,全身作業より上肢作業のほうが作業能力は小さいことも示されている。また,見かけ上は全エネルギー消費量に対して低レベルの座位作業でも,静的筋収縮により明らかに循環系に負担を生じる例もある。

Jackson らは,荷物を持った立位作業のような静的筋作業において起こる冠状動脈性疾患による胸痛に「空港狭心症」という言葉を用いている。

図表6.6.8は,持続的で,静的な把持作業の3種の強度に対する循環系反応について示したものである。Lind,McNical Petrofsky,Lind らは,心臓血管または脳血管の傷害に陥りやすい人は,静的筋作業の危険性をよく承知すべきであると警告している。杷持,保持,姿勢保持のような持続的で,静的な作業は,心臓血管障害を持った人に対しては最小限にすべきである。特殊な循環系の負担としては,温熱環境下での労働やある種の化学物質への暴露などがある。高温環境下では,血液の流動性や電解質の低下,末梢血液流量の増加,重い保護具のための消費エネルギー増加などによる循環系の負担の増大が生じる。このような負担に影響を与える重要な要素としては,気温,相対湿度,気流,放射熱,労働強度などがある。


また,心肺機能障害のある人は,ある種の化学物質や電磁波に対して過敏になっていることもある。そのような化学物質には,アンモニア,塩素,一酸化炭素,ニトログリセリン,二硫化炭素,アゾ化合物,塩素化物,ニトロベンゼンなどがある。過度に電磁波を受けると,心臓疾患の発生を増大させるという報告があるが,より重大な関心事は,心臓のペースメーカーヘの超短波の影響である。

化学物質や電磁波の測定には,特殊な装置と訓練された専門家が必要であるが,雇用者は,化学物質や電磁波の存在を知っていなければならない。結局,もし障害者が,その職務に耐えられなくなった場合,何をなすべきかの準備がなされていることである。

すなわち,他の作業者が負傷しないよう装置の管理や,装置などに接触することによって起こる作業者の負傷を防いたりすること,救急処置そして適切な医療施設への輸送である。また,緊急事態への訓練を受けた人が障害者を監督する“buddy”システムは非常に有効となる。この“buddy”システムは,負担の大きな仕事の補助や障害者にとって重要な心の支えになるものである。

知覚′感覚その他の精神障害
知覚,感覚その他の精神的属性などを測定するテスト法があるが,職務評価は作業遂行能力を測定するための一方法である。そこにはカウンセラーによるインタビューなども含まれる。また,米国職業安定所のGATB(General Aptitude Test Battery一般適性検査器具一式)やAMI(Available Motion Inventory動作能力検査)のような職業適性検査法の利用もある。

さらに,実際の労働の場での作業者評価や,代表的な労働や職務による作業能力評価等もある。それらの評価には,人事部,産業医, IEスタッフらの協力が必要である。 また,それらは感覚,知覚,認知その他の属性における最も一般的な障害の影響を知るための手助けともなる。

意思決定は,重要な労働活動の1つである。左右どちらの手またはどの指を使用するか,どんな握り方を行うかなどの選択や,その手順など最も単純な作業の遂行にも,いくつかの意思決定がなされている。多くの場合,作業者は感覚によって,その作業からの直接的な生まの情報をとり出している。その情報は,抽象化され,翻訳され,作業に対して意味ある形となる。

知覚,感覚障害は最も一般的な障害の1つで,視野狭窄,単眼または両眼の視力低下,半盲,周辺機能際,色覚異常などは脳性麻痺,緑内障,網膜疾患などによっても生じる障害である.斜視,単眼または両眼の水晶体欠陥,眼険下垂症,瞳孔疾患などの特殊な視覚障害にも注意が必要である。

複視症,幾何学的図形の知覚的歪み,失認症(これは脳機能障害,脳損傷,脳性麻痺,精神薄弱などに,しばしば共通して随伴するもの)または,脊髄損傷による神経障害,複合的な硬化症等のような他の知覚的な障害も明らかにされている。

感覚的な障害すなわち情報の理解力,言語障害,卒倒・めまい。発作の感覚,非協調性,忍耐力,方向感覚,記号の認知不能,言葉の理解や表現の障害である失語症,失行症などの学習能力上での知覚障害などは明白にすることは容易にはできない。学習能力の喪失,聴覚刺激に対する理解度の喪失,健忘症などの中枢性感覚の不調もまた障害となる。

他の感覚的障害には,無感覚症や痛覚,触圧感 温熱感に対する損傷も含まれる。職務分析に対しては,これらの障害は反応時間の極端な遅れとされるが,それ以降の作業の遂行能力は十分にある。どのような場合でも,職務設計者は,作業者の情報処理能力の評価を行い,それと仕事に必要な情報量とを適合させなくてはならない。

障害者が処理できるレベルまで,各要素作業に含まれる情報を減ずることによって,その職務の遂行が可能となる。障害のある感覚部位を補強するための補助具の使用または作業者に必要な情報が得られるような別の方法を講じることは1つの良い方法である.また,職務設計者は,障害者が通常では入手困難な情報はなくてもよいように配慮すべきである。

さらに,視覚障害者に対する職務設計での考慮点は,その障害者を細かな作業や窮屈な場所での仕事に従事させないことである。しかし,作業者に提示する情報は,いつも視覚や聴覚が必要ではなく,影響を受けていない他の感覚による場合も多々ある。例えば,単眼視のため距離感の判断ができない場合でも,空間での目標物間の位置関係を測定できる新たな方法もある。しかし,職場配置上考慮すべき点は,短時間の内に距離や速度の正確な判断が要求されるような場所に,このような障害者の配置を控えることである。すなわち,職務設計者は,障害者が,対処できないような環境条件は取り除くべきであり,どんな場合でも個人の適切な保護が行われるべきである。

精神薄弱者で知覚障害を伴う人は特殊な場合であり,精神薄弱は学習能力,成熟度,社会生活を営む機能に障害のあるものと特徴づけられる。さらに情報処理能力にも限界があるため,手作業や事務作業に対する配置上の配慮が重要となる。また,精神障害者の社会生活面に対して,職務設計上重要な考慮すべき点がある。それは,身の回りの世話を他人に頼らなければならないほど重度の精神障害や社会性の欠如した障害者もいるということである。

米国精神障害者協会では,知恵遅れの段階を軽度,中度,重度,極重度の4つのレベルに分けている。軽度の精神薄弱の89%はごく小さな脳障害である。中程度の精神薄弱は,社会生活を送る上で若千の問題はあるが,正常な運動発達がみられるので半独立的な形で仕事を遂行する能力を持っている。一方,重度,極重度の精神薄弱には十分な運動発達がみられない。

精神薄弱者の属性を考慮した適正配置が行われれば,彼らの多くは与えられた仕事を健常者と同様に,効率的に速く遂行することができる。実際,規則的な繰り返し作業に対しては,正確,速く,飽きることなしに遂行できる。日常的な繰返し作業に対して,精神薄弱者はむしろ高い職務充実感を示すものである。以上のように,適切な職業訓練や適正配置が行われれば,精神薄弱者は十分職務を果たすことができる。

その他の障害
知覚的学習能力障害と比較して,関節炎,筋発達異常,筋無力症,小児麻痺,片麻痺,対麻痺,四肢麻痺,パーキンソン病,脳腫瘍,頭部外傷などの他の障害は,運動学習能力障害,精神運動障害,運動感覚障害等と表現できる。

粗大なまたは微細な運動に対する運動の協調師は,知覚的欠陥に関連したものであり,他の運動障害は,運動麻痺,不随意運動,痙れん性,随意振頭,運動失調症,運動発達異常などに関連したものである。

職務設計を行う場合,障害者が簡単に疲労してしまうか,すぐに気が散るか,注意の集中ができないでいるかなどの評価を行うことも重要である.手作業の微細動作の巧緻性を評価するPurdueのぺをドテスト,Bennet,Grawfordらの巧緻性をみる種々のテスト法やGATBなども,その評価法として利用可能である。

また,人に何ができるか,例えば(1)コインや紙幣の認知,(2)簡単な説明で符号や図形を読み取る能力,(3)簡単な伝言を書く能力,(4)長さや重さを測定する能力,(5)ある順序に配列する能力などを指標として利用するには,ある種の熟練が必要となってくる。

さらに,仕事に関連した基本的技能には,電話を利用する育旨力,色,大きさ,形などの特徴によって分類する能力,荷作りしたり,紐を結んだりする能力,清潔にしたり,整頓したりする能力が含まれる。

障害の多くは感情面とも強く関連している。だから障害状態を心理学的に評価するには,個人の作業に対する個性の3つの側面,すなわち,知性,人格,能力の精神運動面に焦点を絞って行われる。仕事に対するモチベーション,移動性,成熟度,組織力,自覚,生産性,学習能力などを評価する標準的な方法が他の章に述べられているので,これらの利用も可能である。

人生上の障害,不満,危機,その他の出来事に直面した時の自我の強さを知る指標などもほしいところである。

脳組織に関連した障害には,痴呆症,テンカン,精神錯乱,感情の爆発などが含まれる.痴呆症では,洞察力や判断力の障害による人格や知性のゆっくりした崩壊がみられ,職務遂行面で新たな技能の習得が困難な認知障害もある。

精神錯乱は,脳の組織的な要因によって引き起こされる障害で,意識が朦朧となったり,ちょっと前の出来事の記憶が困難となる。

テンカンの人に対して,職務設計者は,その発作の特徴を正しく評価しておくことが重要である。10~30秒程度の小発作に襲われた経験のある人は,その発作直後には軽い意識朦朧状態になり,活動が突然停止したりするが,一般的に,脳障害はみられず知性は高い。また,大きな発作,テンカン発作重積状態の人は,発作の間,意識のなくなる時間が続くということに注意が必要である。

 

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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