コラム・特集

6.3 労働要件の分析

IEハンドブック

第6部 人間工学

第6章 障害者と就労

6.3 労働要件の分析

障害が雇用に対する弊害となるのは,その障害が与えられた仕事を遂行するための能力を損なっている場合であるので,弊害を論じる場合,個別の労働要件に関して論議されなければならない。また,職務分析については,第2部第1章に詳細に記されており,障害者の雇用に対する適応面での重要性について,ここでは述べる。

職務分析の目的は,仕事を安全に,的確に遂行するために要求される身体的,精神的要件すべてを明らかにすることである.この職務分析によって得られる情報は,就業希望者の評価や訓練にも利用でき,さらには障害者に対して,どのような配慮が必要かどうかの決定にも利用できる。最も簡単で,早くできる分析法は,例えば1946年のBridges によって使用された古典的な方法であるが,仕事に必要な条件や作業場の属性に関するチェックリストを利用することである。また,この方法や他の種々の分析法に対する情報は,次の5つの方法によって容易に得ることができる。すなわち,(1)現存の仕事の正確な記述,(2)監督者のインタビュー,(3)責任者のインタビュー,(4)労働の状況観察,(5)作業場の各種計測などである。

これらの方法では,職務に対応した各属性が容易にチェックができる。職務分析は,その職務をそれ以上の区分が困難な,身体的,精神的要素を伴う機能レベルまで分けることによって,より完全なものとすることができる。例えば,つかむ(Grasp),持ち上げる(Lift),手を伸ばす(Reach),運ぶ(Transport)等の身体的要素作業である。

このように,各仕事に関連した身体的,精神的属性を調べることは可能であるが,その活動の順序を明確にすることは困難なこともある。選別作業の分析例を図表6.6.1に示した。この選別作業は,2つの作業に分けることができる。すなわち,ワッシャーのストックを取ることとヮッシャーの選別である。さらに後者の作業は,10の連続した要素作業に分けられる。これらの要素作業の定義には確固たる法則がないので,数回の試行やエラーなどが,どの程度のレベルの要素作業に分けるべきかの基準を見つけ出すために必要となる。また,職務分析には,作業場レイアウトのスケッチも含まれる。すなわち環境面からの化学的,身体的,生物学的ストレスなどの記述や,仕事に要求される工具類,防護装置等のリストである。

これらの情報は,要素作業の分析や障害者への配慮を行うときの手助けとなる。選別作業に対する作業場のスケッチを図表6.6.2に示した。

身体的′精神的諸条件の分析
身体的,精神的属性は,図表6.6.1の上端に示した通りである。この図表は,各要素作業に必要な属性を調べるためのチェックリストとして用いることができる。これらの属性には,頻度,持続時間,身体の動き, リーチ,力,消費エネルギー,手の動き,手の力,知覚,感覚,精神運動,認知,感情などの属性が含まれている。「頻度と持続時間」は,各要素作業を遂行する時間と,その回数で示される.この要素作業の測定には,伝統的なIE手法が用いられ, 32章, 33章に詳細に論じられている。

「身体の動き」については,身体がどのように使われ,どのような姿勢をとるかなどについて記される.具体的な例としては,手を伸ばす,持ち上げ,位置決め,押す,運ぶなどが含まれる.「身体の動き」の観測には,作業者が姿勢の支えとして作業台の端や壁にもたれたり,椅子に座っているかなどの記録も含まれる。また,脚注は特別な情報の記録に用いられるべきである.さらに,各要素作業に対する「身体の動き」に関する情報は,インタビューや観察によっても容易に得られる。

「リーチ」には,ある固定した座標系に対する左右の手の水平,垂直,側方の各位置関係が含まれ,また,立って移動を伴う作業者に対しては,図表6.6.3(a)に示されているように脚の位置関係が座標系となり,また,両足の踵を結んだ直線の中間点が座標原点となる。

移動の伴わない座位作業者に対しては,図表6.6.3(b)に示されているように,作業台が固定座標系となる。「力」は,荷の移動によるもので,その力は,左右別々または両手の合力として記録でき,さらに,その力は力量計によって容易に測定できる。

「エネルギー」は,与えられた仕事を遂行するために要する代謝量の測定である。このエネルギーについては,毎分当りの消費kcal.毎分当たりの酸素消費量,ワットあるいはmets(安静時エネルギー消費量に対する労働時エネルギー消費量の比)などの単位が報告されている。
また,作業者の体重により,体重1kg当たりの消費量に換算して表現する場合もある。63章で示されているような,エネルギー消費量の一覧表は10,類似の作業に要求されるエネルギー消費量の推定に利用できる。

各要素作業のエネルギー消費量推定のための実験的な関係式がGargllによって示されている。労働に要求されるエネルギーは,その仕事に実際に就いている作業者の酸素消費量を測定することによって評価できる。酸素消費量の測定には,特殊な装置と熟練した専門家が必要である。

「手の動きJには,どのように手が使われるか,両手が必要か,または片手かなどが記される.具体例としては,母指と,他の4指が対立位におかれ,手全体でつかむ(Power Grip),屈曲した指と手掌の間でつかむ(Hook Grip),第2指または他の指による接触つかみ(Press),母指と第2~3指が対立位におかれ指腹でのつかみ(Pulp Pinch),母指頭と第2指の指側でつかむ(Lateral Pinch)などが含まれる。

手のつかみ型は,注意深い観察によって決定できるが,フィルムやビデオテープを用いたスロー再生による分析が最も有効である。「手の力」は,両手の合力または片手の力の測きあり,多くの場合,直接測定が不可能なので推定値が用いられる。筋電図などが,これらの測定に有効な場合が多々ある。

各職務や各要素作業に必要な心理生理学的な要件は,作業者の能力に適したある範囲内まで単純化することができる。また,すべての工場または事務作業には,知覚,感覚,精神活動,認知,感情などの属性が必要である。

これらの属性は,おのおの独立して考えることはできず,知覚作用,認知作用,運動神経作用などは相互に関係したものである。しかし,これらの属性はそれぞれ固有のメカニズムを有するのでここでは手短に述べておく.

「知覚」は,目的物や文字,図式,言葉などで表わされたものに対して,その位置や形状,色,構造その他の特徴に気が付くかどうかの能力を意味し,さらに視覚的な比較または識別能力をも意味している。視覚作業分析は総合的な職務分析の一環としてよく行われるが,作業過程の中で視覚を要する部分の特定と,関連した他の要件との対応を明らかにする。

「感覚」は,視覚,味覚,聴覚,触覚,臭覚,さらには平衡感覚,方向感覚などを含む属性である。感覚と知覚を明確に区別することは困難で,知覚的情報処理の種々の過程で,種々の感覚が要求される。例えば,運動の計画段階,運動の開始段階,制御の段階,運動の終了段階

さらには結果が満足しているかどうか確認するためのフィードバックによるチェックの各段階である。周辺視機能を含めた視力,色覚,奥行感覚などは,市販されている種々の視覚検査器を用いて測定が可能である。聴力はオージオメーターで測定され,触覚,触圧感覚などは,Geldardの方法によって測定が可能である。

筋肉の状態,姿勢の調整,体の位置感覚などを示す平衡感覚,方向感覚は次のような一般的な手法によって定性的に測定できる.すなわち,直線上の歩行または閉眼で両腕を前後または左右に開いた状態での片足立ち,人差し指を鼻の先端へ接触させる方法などである。平衡感覚の維持や触覚などは,しばしば見落とされる障害状態であるが,詳細については6.6.4項で述べてある。

「認知」は,知覚に基づいた現象であり,「認知」と「知覚」との区別は困難である.すなわち,認知能力には,感覚や知覚現象から引き出された結果や,その意味付けを含んでいる。認知は,知性,思考,記憶,記号化,言語等をも含んだ高度な精神活動である。

すべての作業には,ある範囲の認知が必要である。例えば,部品箱のヮッシャーに手を伸ばす動作(図表661の1番目の要素作業)と,治具への位置決め動作(4番目の要素作業)とは異なった反応が起こっている。

1番目の要素作業「リーチ」は,指を用いた終局動作「つかみ」に先行した動作であり,4番目の要素作業「位置決め」では,その動作を完遂するためには感覚的なフィードバックが要求される。両者とも,知性,判断,運動の1頂序付けを決定する能力などの認知が含まれている。

「精神運動」の属性は,視覚,聴覚,触覚その他の刺激と手足との協調運動能力に関係したものである。この能力には,運動感覚や関節の位置,動きに対する運動の協調性なども含まれる。精神運動能力は,種々の精神運動能カテストによって計測できるが,標準化されたテスト法はない。さらに,制御の精密さ,複数肢々間の協調性,反応方向,反応時間,腕の運動速度,速度調整,手の器用さ,指の器用さ,指の運動速度などの要素がテストされる.WechslerのテストやBenderの視覚運動テストのような他の種々のテストも利用される。DottとMckelvey らによって報告されているトラッキング作業では,精神運動能力の1つの指標が示されている。

「感覚」の属性には,モチベーション,感情の安定性,自信,性格,興味,忍耐力,衝動性,考えの厳格さ,適応性,同輩または上司に対する態度などの要素がある。脳血管性の機能障害,脳腫瘍傷害,頭部傷害,精神薄弱などの障害状態に対して,これらの人々は,あまり期待や興奮なしに生活しているため,このことが障害者の人としての社会的役割の遂行を本気で考えようとするモチベーションや熱意を少なくしてしまっている.障害者自身の障害状態に対する態度や自覚を理解することは,職務設計者にとって重要なことである。

感情的属性を定性的に評価することは,それを特定の障害者に適用する場合有効となる場合もあるが,その得られた結果について異なった解釈が行われたり,また,すべての障害者を考慮したテストでないので,これらのテストを使用する場合,ある条件を付けるか,制限を設けて使用されるべきである。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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