コラム・特集

5.5 職業性ストレスの管理

IEハンドブック

第6部 人間工学


第5章 職業上のストレス

5.5 職業性ストレスの管理

理想的には,職業性ストレスの管理方法など考えなくてよい状況が好ましい。産業組織心理,作業者の選抜と配置の原理,作業場の設計における人間的要素の重要性,様々な作業に従事する作業者の仕事や職務に関連したストレス反応についてなど,おびただしい数の文献があるので,我々の最終目標を職業性ストレスの予防に定めるのがより現実であろう。このような接近法では実際に,ストレスの管理計画,すなわち予防手段の大部分を包合する.不幸にも,予測,すなわち前提条件の多くは正確ではない。作業場および組織の設計がもつ長期的な影響がしばしば十分に理解されていないため,作業場の設計者は,特定の作業環境における様々な出来事を,相互に影響し合う複雑なものに調節することがほとんどできない。それゆえ,ストレス管理においては対症療法的アプローチと,予防的方法とが一体になる必要がある.このアプローチは,作業者を,仕事や作業環境との関係で系統だてて評価した結果に基づく職務再設計によって行われる。

作業者の高いレベルのストレスを和らげるのに有効な方法として,個人的対処方法の開発および評価法が,急速に認められてきている。このことは,作業者がストレスだと感じ,評価したものは,作業者が利用してきた対処方法の短期的および長期的影響と結びつくという考えに基づいている。いくつかの有効な対処方法を図表6.5.5.に挙げる。

ブルーカラーとホワイトカラーに主に利用されるストレス管理方法については,次の2つの小節で論じる。しかしながら,これらの方法の多くは両方にあてはまるものである。

プルーカラー作業者におけるストレス管理
ブルーカラー作業者のストレス管理は,職務再設計の方法により最も効果的に実現される。ある例では,生化学的および心理学的な(モード・チェックリストによる)データに基づいて,作業者を交替作業からはずしたり,昼と夜の交替作業の時間を変えたりしている。たとえば,アドレナリンのリズムが交替作業にそって比較的敏速に変化し,交替作業によっても社会的,家庭的活動に大きな障害のない作業者は,いかなる交替作業においてもすみやかに適応するであろう。

その他の例としては,M/P作業があげられるであろう。一定の機械作業速度では,作業日を通しての作業者の能力の変化は考慮されていない。そこで,生理的,作業成績,心理的測定といった指標で決定される作業者の1日の能力変動に最適に合うように,作業速度を調整したり,或いはそれと交互に,作業者が作業ペースを自己決定することにより,作業者の時間とともに変化する能力に最良に合致させることで,潜在的な最少負荷,過剰負荷の状態をなくすことができる.作業状況の評価にあたって, これらの測定が相互に矛盾する場合には,作業者,経営者双方の興味に合うよう変えなければならない。すなわち,各測定項目の優先権や重要性について合意する必要がある。

作業設計や職務再設計において,作業者のストレスの原因を知るうえで信頼できる方法を利用することは,しばしば重要である。そのような方法の1つとして,人間工学的作業分析があり,作業者の福利の増進のため,客観的に作業状況を系統的に分析する。これは,あらゆる作業負荷を構成する作業の要素を評価するにあたって,手助けとなるチェックリストの作成によって一般的に達成される。人間工学的作業分析は,新しい作業方法,あるいは古くからある作業方法のいずれに適用されるかによって,予防的,あるいは治療的になるという点で非常に有効である。

 

電信技師の作業負担に関する研究は,予防的かつ治療的な改善対策の提言及びブルーカラーの作業分野に拡大応用できることを結論付けた,これらの対策は,次の通りである。

1.適当な選抜に有用な,作業歴や病歴の記録,率直な感情障害の記録の利用。
2.職務拡大,つまり同一性,係わりあい,交流等の拡大,そして,個人の人間関係の能力を増すため,管理者や会社の社会心理学スタッフの訓練。
3.権力を分散し,自発性や責任を増し,管理の剛直性を減らす。
4. 職場健康サービスの一環として,また作業要求に個人の性格を合わせる支援として,精神的困難を予防するために,精神衛生プログラムを導入する。

このようなプログラムは,結婚生活への適応,栄養,タバコ,酒,その他の薬物使用の影響,余暇の活用を内容とする個人および社会心理の教育が含まれるであろう。

しばしば注意を要する他の要素は,入り組んだ配置転 換とそれが欠勤や転職に及ぼす影響,成果の評価を知る。必要性,そして作業者に自立の感覚を浸透させることである。この後者の要素は,特に作業者が速度や方法に関して管理したがる組立てライン作業において重敷ある。先に述べたのこぎり引き作業者の研究はこのことをよく示している。この研究の研究者たちは,技能の修得や短時間に行う経済的決定への興味ややりがい感は,作業 速度や方法が作業者ではなく,機械によってコントロールされているという事実によって,なくなってしまうと 述べている。その必然的結果として,作業者はその能力にあった良い仕事を行うに十分な時間が許されていないのである。

ホワイトカラー作業者におけるストレス管理 
ホワイトカラー作業者に適用できるストレス管理法に ついての最も理解しやすい文献として,NewmanとBeehr56の論文がある。これらの研究者がしばしば遭遇した問題は,この分野における評価方法の不足である。そのため,方法の多くはせいぜい示唆的なものである。なぜこう云う状況になっているかというと,大部分,職業性ストレス分野の観察者が,ある対照(中立)条件との比較において,作業者の反応を評価する傾向にあるためである.ストレス管理のプログラムを計画し,実行し,評価するという論理的なステップには,ほとんど注意が向けられなかった.

ところで,職場環境において問題がでてくる人々を対象とした心理療法的アプローチは,急速に受け入れられてきている.報告によると,作業より生じる感情的問題に対して,大企業では内部に精神病治療の施設を備えているが,中小企業では使用者に助言する外部のコンサルタントを使っている。例として,次の5つの経験が管理者に特にストレスとなることがわかった。(1)初めての仕事,(2)初めての昇進,(3)新しい職場への配置転換,(4)初めての監督業務,(5)退職.企業は,プロのカウンセラーにこような状況への対処法の助言を求めることにより,管理者たちの緊張を軽減することができる。

すでに処方されている多くの摂生態度として,まず,タバコ,高血圧,肥満などの心臓危険因子の存在を減らすことを目標としている.イギリスにおけるストレス・クリニックは,患者の冠心疾患の素質についての洗練された診察に役立つ,分析的かつ予防的な一連のチェックリストと,栄養,運動,姿勢等の管理を含む治療的予防的処置法が用意されている._人件費や経費を究極的に節約するためにも,企業はたぶんこの種の問題にかかわることが必要となろう。

最後に,企業用に作られた緊張をほぐすバイオフィードバック・プログラムは,簡単で比較的安く,高血圧などの状態をコントロールできる方法を供給するかもしれない。深遠な瞑想に似た手順に基づいた単純な低緊張反応が,血圧を下げるに大変有効なことがわかった。この方法は,血圧をコントロールするための継続的な薬物服用をやめたいとする人には特に望ましい。これらの著者たちは,企業の中に,「低緊張反応休憩」(そこでは,筋緊張低下を特に目的としたリラックス方法がとられている)が小休憩の場で利用できるプログラムを用意すべきだと指摘している。バイオフィードバックによるアプローチでは,視覚もしくは聴覚信号によって瞬間的な生理的計測状態についての情報を連続的に与えることにより,自分で血圧のような反応を変えることができるようになる.しかしながら,この方法については,さらに企業との関係においてもっと評価的な研究を重ねていく必要がある。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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