コラム・特集

5.4 職業性ストレスの原因

IEハンドブック

第6部 人間工学


第5章 職業上のストレス

5.4 職業性ストレスの原因

単に直感に基づいてストレスの原因を列挙するだけでは,労働生活の質の改善を目的とした,職務再設計につながる方針のための確固たる骨組みを得ることはできない。さらに重要なことは,予見される原因の量的,質的影響を検討することである。すなわち,この影響があると思われる人々の種類,潜在的にこの影響を緩和する職場の種類,最も効果的なストレスの管理方法などを検討する。それに先立って原因の分類大系をしておくことが必要である。

一般的に,作業環境におけるストレスは,(1)個人(たとえば,個性によるもの),(2)環境(仕事やレジャーにおける社会的,物理的環境),(3)作業(たとえば,精神的負荷,速度),の3つの原因により生じる。おそらく,この分類は単純化しすぎており,現実にはこれらの原因には複雑な相互作用がある。しかし単純化のために,これらをそれぞれ分けて論じる。図表6.5.3に,これらの原因および要素が,精神的衛生や心臓疾病にいかにかかわるかを示した。

個人的な原因
個人的に関係した職業性ストレスの主な原因は,(1)健康に関する要素,(2)作業者が実際に従事する仕事とその人の能力,および作業環境に関係してくる好き嫌いの程度,(3)個人を構成する個性,の3つである。

作業者と作業の不適合に関していえば,調査に際して,ストレスおよび個人と作業環境の適合度合の関係を考慮して,作業ストレスの程度やその予想をすることが行われている。これらいわゆる人一環境適合モデルでは,個人の性格と作業環境における潜在的なストレス要因との間の相互作用が,対応または不適応行動の程度やその後のストレスに関係した徴候を決定する。不適合が大きいほど,作業者が経験するストレスも大きくなる。

組立てライン作業では,この種の作業に反発またはうまく適応する個性の類型化につき,詳細な注意が払われてきた。これまでに得られた結果は,以下の通りである。

(1)不安もしくは自律神経的に不安定な人物(すなわち,非常に活発な生理的体系を持った人)は,組立てライン作業に対して欲求不満となる。(2)自我の強い人は,他律的に作業速度が決められる作業に最もよく適応する。(3)神経過敏な人物は,組立てラインには向かない。(4)権威主義の強い人物(自分たちの職務の変更に抵抗する人々)は,組立てライン作業によく適応する。

作業に関するさまさまな状況に対して,個人の反応を変えさせる重要な要素である他の個人的要因は,外向性

もしくは神経質の程度(アイゼンク性格調査票で測る)とA型の個性に対するB型の個性である。

アイゼンク性格調査票は,さまざまな作業に対する個人の感受性を予測する上で有用である。たとえば,機械によって速度が決められる作業の多くは,社会的関係を阻止した状態で行われるので,内向的な作業者とは逆に,外向的な作業者では,不平の原因となる。この性格調査の数値は,また個人の覚醒の程度(覚醒の項参照)と関連する。低い覚醒状態は,しばしば,疲労,退屈,事故の増加,作業成績質の低下,などを伴うので,ある職場では,現場の方策を促進する上で,この種の個性の測定を利用している。

A型,B型の性格は,冠動脈疲患の発生に最も関係する。A型のある種の行動様式は,次のような言葉で特徴づけられる。「おおげさ,過激,大志,競争心, しばしばの職業上の衝突,時間の切迫感」.比較的このような作動様式の欠如したものをB型とよぶ.B型と比べて,A型の人は,冠動脈疾患にかかりやすいことがわかっている。このように行動型を分類できるので作業者の採用配置に生かせる。つまり,作業と作業者をより適合させることにより,職業性ストレスおよび冠動脈疾患を最少にできるのである。 しかしながら,このことを実際に実行できるようにするためには,A型の区別に際して,明らかに信頼できる方法を利用する必要がある。

環境上の原因
作業者のストレスに影響を及ぼすかもしれない社会的,要素については,組織要因,作業の構成,物理的作業環境要因では,騒音,照明,有害物質などがある。作業者の仕事に対するストレスの原因が,家庭あるいは私生活に関係するかどうかは,社会的再調整度評価尺度(SRRS)で示すことができる(心理学的測定の項参照)。

仕事に関係した原因
一般に仕事に関係したストレスの研究で研究者に利用されてきたのは,職場におけるストレス調査,および統計的に計画された実験の2つの基本的な方法である。

職場におけるストレス調査
この方法では,ストレスが人に関係しているのか,環境に関係しているのか,仕事に関係しているのかを立証することはできない。しかし,この方法は,様々な作業活動に従事する人々に関する多くの断片データを得るのに有効である。

この種の調査のすぐれた例は,NIOSH調査である。これは,23の雑多な業務に従事する2,010人を対象としてアンケート調査を行い,390人をサンプルとして選び出して8つの職種に分け詳しい生理学的な測定が行われた。結論のいくつかを次に述べる。

1.性格は,心理的,生理的負担に直接影響しない(以前の報告と少し矛盾するが)。
2.仕事に対する不満は,技術や能力の不十分な活用,単純繰り返し作業,自分の仕事に影響を及ぼす物事に対する意思決定権が乏しいこと,仕事の不安定さ,直接の上司か同僚からの社会的支援が乏しいこと,により大きく影響される。
3.機械が速度を決める組立てラインに従事する組立て作業者や失業救済事業作業者は,この調査における他のどの作業者よりも高いレベルのストレスと負担がみられた。

他の調査では,スウェーデンとアメリカの作業者の一面について検討している。職業性ストレスの原因は,作業側の要求と作業に対する意思決定範囲(作業者に許された決定権)の2つに要約できる.すなわち,作業側の要求は「個人を動機づけて,活性的なストレス状態におくもの」で,作業に対する意思決定範囲は,「ストレス(潜在エネルギー)が活動エネルギーに変換するのを調節する東縛」とみなせる。心理的負担は,「職務の要求と,そのような要求に対して許される作業者の意思決定権(職権)の範囲の相互影響Jの結果だと考えるモデルを開発した。

図表6.5.4は作業側の要求と作業に対する意思決定範囲との組み合わせを図示したものであり,それは,比較的重症の抑圧や消耗(上方の矢印は,解決されない過労の方向である)が経験される確率(パーセント)を伴っている。この研究の著者は,要求もしくは決定範囲のみの(直線の)傾きから結果が考察されるなら,不明瞭な関係が表われるだろうと警告している。この研究者は,作業の負担と作業に対する意思決定範囲の相互の関係から,「意思決定することは大きな問題であり,作業者が作業に対してほとんど意思決定できないことと同様に上層部の人間に影響を及ぼす課題である」と述べている。職場におけるストレス実験機械が速度を決める(M/P)作業と自分で速度を決める(S/P)作業との比較研究の実験により,作業設計がストレスに及ぼす影響に関連する有用な多くの事実が明らかになった。この種の研究では,両条件とも仕事の量,時間を同一とし,さらに,両条件ともに同一の作業者が,順序を変えながら行う。

図表6.5.4 職務要求と職務意思決定に関する自由度がストレスに及ぼす影響。あらゆる職務要求において,職務意思決定の自由度はストレスに作用する。特に職務要求が高いときに影響を及ぼし,同様に意思決定の自由度が増加するにつれ,ストレスに関する訴えが顕著に減少する(引用文献42より)。

この種の研究で利用される作業は,軽組立て作業,コンピュータ対話作業,上肢エルゴメーター,視覚検査が圧倒的に多い。重筋作業では,評価の基準としてエネルギー消費が用いられるのに対して,軽筋肉作業では,SAが用いられる。これらの研究から得られた結論のいくつかを以下に述べる。

初期のM/P作業とS/P作業の影響を比較する研究では,主にこれらの規制条件下における生理的影響に注意
が向けられていた。重筋作業の場合,若い作業者(20歳~45歳)ではS/P作業において生理的効率が最高となる
のに対して,高齢の作業者ではM/P作業で最高となる。作業者の生理的効率が高いほど,より長く高い生
産性が維持され,低い生理的効率の作業者に比べてストレスのレベルも低い。

その後の生理学的研究は,職場でますます一般的となりつつあるような非常に軽い筋肉作業でありながら,高いレベルの意思決定が要求される作業状況に関心が集中していった.作業ストレスの指標としてSAを使った結果,S/P作業においてM/P作業よりも高いストレス・レベルにあることがわかった。これは,S/P作業では「生体内部の速度機構」である時間を測る要素力ちるためである。

一方,M/P作業では,作業者に時間を測る負荷がなく,機械によって外部から時間が管理される。精神的作業負荷の変化に対してSAの測定が敏感なことから,S/P作業は作業者により大きな精神的作業負荷を負わすことを意味する。しかしながら,そのような作業が単にストレスが大きいということを示唆するにすぎないかもしれない。S/P作業において作業者が大きなストレスを経験するということを明らかにするためには,主観的測定結果など,他の測定結果と合わせてみることが必要である。

その後の研究で,これらの基本的見解は,高度の意思決定を必要とする作業では立証されたが,意思決定の必要性が低い作業では立証されないことがゎかった。個人の最適な覚醒レベルの概念とも関連しているが(覚醒の項参照),「低い水準のストレス」作業における誤りの頻度は,「高い水準のストレス」作業よりも大であった。作業成績のフィードバックを利用した場合の影響をみると,S/P作業において作業成績のフィードバックが正確に行われるにつれて,ストレスのレベルが低下することがゎかった。特に,作業成績のフィードバックがない作業では,M/P作業よりもストレスのレベルははるかに高い。

しかしながら,この違いは,系統的に作業の結果に関する知識が増えるにつれて逆転する。最後に,軽電器組立て作業を含む現場の研究において,M/P作業はS/P作業に比べて,作業に関係のない動作が2倍も多いことがわかった。また,それぞれの規制条件において,意思決定の必要性が高い作業では,作業に関係のない動作の数が多く,必要性の低い作業では少なかった。作業に無関係な動作の出現は潜在的なストレスの徴候であり,作業者の努力を生産ではなく,非生産的作業に向けることによって,人の作業能率に障害を及ぼす。

同じ研究によると,態度や,知識や個性についてのアンケートの結果,独断的,想像力豊富,鋭敏,自信過剰,そして知性の高い作業者は,M/P作業よりもS/P作業を好み,一方,控えめ,実際的,率直,集団依存的,そして知性の低い作業者は,S/P作業よりもM/P作業を好むことがわかった。この種の知見は,個人の指導や配置に役立つ可能性がある。

統計的に計画されたM/PおよびS/P作業の実験は非常に正確な管理に対して有効であるが,たとえばS/P作業のストレスが大であるという実験結果を,実際の産業現場に一般化させるには少し疑間がある。一方,FrankennhaenserやGardellなどの統計的に計画調整されない現場の研究によると,M/P作業のほうがよリストレスが強いと述べている。しかし,この種の研究において, しばしば我々は,観察された違いが,作業速度に起因するのか,人に起因するのか(両条件の作業者は同一ではない),作業に起因するのか(両条件の作業内容や構成が異なる)を知らない。さらに,他の研究では,異なった方法を用いてストレスを測定しており,また, これらの測定が同じ現象を反映していない可能性もある。 しかしながら,33人の作業者がM/P, S/P両方の条件で作業を行い,統計的によく整理された最近の産業研究では,収縮期,拡張期,および平均血圧,平均HR, SA,RRの測定の結果,M/P, S/P作業の差異はないと結論づけている。このことから,両方のうち,どちらがよリストレスが強いかを示す結論的な証拠はいまのところ存在しないように思われる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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