コラム・特集

5.3 ストレスの測定

IEハンドブック

第6部 人間工学

第5章 職業上のストレス

5.3 ストレスの測定

ストレスの原因と影響は多次元的である。したがって,ストレスの測定も多次元的なアプローチを取るべきである。職業性ストレスは以下の4つのカテゴリーの中の一部あるいはすべてを利用して測定することができる。(1)生理学的,(2)生化学的,(3)心理学的,(4)作業成績.これらの中から最適な測定法を選択することは,往々にして困難である.通常,選択にあたっては,研究者の専門的意見,利用可能な機器,機器の感度,研究対象作業に必要とされる類のない知識等が反映される。一般には,オペレーターに自覚されるストレスの段階を示すのに役立つ主観的なストレスの測定と,より客観的な生理学的測定および作業量の測定をするのが最もよいと思われる。

 

生理学的測定法
生理学的方法は,肉体作業および精神作業の両方の評価に利用できる.肉体作業に対しては,この方法は一般に休憩余裕の設定,もしくは作業方法の改善の基礎として利用されている。

生理学的な記録,測定技術の進歩により,さまざまな作業に伴う生理的な負担の現場レベルでの評価が可能となってきている.測定技術の進歩として,作業者のベルトに装着し24時間の連続記録が可能な磁気カセットテープレコーダーの利用,無線による遠隔測定技術,通常の活動を比較的じゃませずに酸素消費量や換気量を測定する呼気分析器などがあげられる。このような技術革新の結果,今日では生理学的な測定方法を用いて,作業時間中はもとより,休息中や睡眠中も測定可能となっている。

心拍数(HR),心拍変動(HRV),血圧(BP),呼吸数(RR),筋電図(EMG)などの生理学的測定の記録は,あらゆる期間にわたって連続計測ができる。このような測定が,内部(例えば,病苦)および外部(例えば,上司からのおどしや,問題解決の困難さなど)刺激への即座の反応と考えられる生理システムを反映するという事実が,この種の測定の有用性を示している。要するに,それらは,より瞬時的な情報を伝えることができる。その結果,1分ごともしくは10分間隔の測定により,仕事の要素ごとの影響を分離してみることができる。そのため,カセットテープレコーダーの4つの入カチャンネルの1つを,心拍数などの生理的反応と作業のサイクルとが簡単に関連づけて出来事を記録するために利用されている。

たとえば, トラック組立てラインの作業者と看護婦の研究でもこの手法が取られている.HRの連続記録の結果,この両群の作業活動の詳細な分析が可能となった。HRの結果から,看護婦は,組立てライン作業者と異なり,情動性ストレスに対して敏感であることが示された組立てライン作業者のHRの反応は,肉体的作業活動に対して,より敏感であることが明らかになった。 このことから,エネルギー消費のデータにもかかわらず,両者とも軽作業に分類されることが明らかになった.さらに他の研究2~24も,作業者のストレスに関連する作業要素を確認するにあたって,この種の演1定結果をどのように適用するかを示している.現代のコンピュータおよびセンサー技術の利用により,組立てライン作業者のHR,RR,およびBPを,作業のじゃまにならずに測定する方法論が進歩した.ある研究では, 作業日における管理わHRの‐夕を集めている。このデータは, 1日の管理者が経験する活動に関連しており,ホワイトカラーのストレスを評価するにあたって,この種の測定が利用できることを示している。

生化学的測定法
アドレナリン,ノルアドレナリンといった生化学的測定は,尿,血液,唾液などさまざまな体液から得ることができる。尿の分析は,すぐに利用でき,採取にあたって,作業を妨げることも少ないことから,最も一般的に用いられている。
職業性ストレスの分析において,この種の測定が利用されるのは,次の理由による。

1.さまざまな臓器とその系統の機能的障害において,アドレナレンおよびノルアドレナリンの慢性的な上昇が関係するという臨床的症例,さらに,それが,心身症や心臓血管系の疾患に結びつくこと.
2 交替勤務の評価にあたって,この種の測定結果が,通常のリズム・パターンからどの程度まで変動するかという観点から評価することができる。
3.数々の自動分析が利用可能なこと,そして,後に生化学的に興味ある成分を三十測すること.
4 作業中,作業後とも,簡単に必要な検体が採取できること.

アドレナリンおよびノルアドレナリンの長期的な評価が,心臓病に結びつくという事実は,潜在的な心臓病の徴候を示す作業者の作業配置を考えるうえで意味のある基準となる.他の生理学的測定も,おそらくこのことは可能であろう。たとえば,特に肉体的作業負荷が無視できるような作業において,高い血圧が繰り返し観察されたならば,通常,高血圧のような慢性疾患があると推測される。

さまざまな交替勤務のあり方を検討する上で,生化学的測定を用いて,特に1日のリズム・パターン(国内の分泌の高低)を示すことは非常に有益である。3週間の日勤に続いて3週間の夜勤を行う鉄道従業員のアドレナリン分泌パターンを検討した結果26,夜勤3日目では,アドレナリン分泌はほとんど上昇していないことがわかった.このことは,作業者のアドレナリン・レベルが,昼間も高いレベルにあり,アドレナリンの分泌が通常のパターンに一致していることを意味する.不幸にも,作業者たちはこの時間に睡眠をとることを強いられている。

交替作業者の不眠の原因の1つに,高いアドレナリン・レベルにあることがしばしば報告されている.事実,これら作業者のアドレナリン分泌パターンは,第3週目の夜勤においても,日周期適応がみられなかった。

作業後における作業ストレスの1旨標を得ることには別の利点がある.ある特定の職場に東縛されると,個人のストレスの反応が妨げられることが,時々ある。一方,作業者は作業後にストレス反応を示しやすい。比較的容易な尿の採取によって,作業に関連したストレスの有無を作業後に明らかにすることができる。

HRやRRの測定と異なり,生化学的測定の採取手‖贋における実際的制約は,それらがかなり長い時間(たとえば数時間もしくは数日)のストレス反応を反映しているということを肝に命じなければならないことである。その結果,生化学的測定で,作業のいかなる部分も最もストレスになるかを明かにすることは,相対的に不可能である.職業ストレスヘの評価を目的として2つの測定法を選択する上で,上記の要因が最も重要な点となる.実際に生化学的測定を行うにあたって生じる問題点は,一般に作業者の飲食物の種類と量を厳密に調べる必要があるという点である.生化学的測定法の使用を考えるにあたっての詳細については,Leviの論文に述べられている。

 

心理学的測定法
職業性ストレスを評価する上で,多くの標準化された測定が利用できる.そのうちのいくつかについて以下で論じる。

ストレスは,動因や状況によって生じる再調整や適応しようとする強さによって特徴付けられるというセリエの概念に基づいて,2人の研究者が社会的再調整度評価尺度(SRRS)を開発した。この計測法は,一連の生活の変化に引き続いて起こる様々な日常の出来事のストレス度を数量化しようと試みたものである.生活危機の大きさと,健康上の変化の危険率との間に直線の関係がみられた。職業性ストレスの研究に適用するにあたって,この評点はどのような反応(たとえば心身的な不満)が,職場とは無関係な要素に起因して起きる反応かを認識し評価する方法を示している。

心理的反応の基準を確認する一般的な方法として,主観的チェックリストが使われている.この種の測定法は,作業者のその時の感情状態を測定することができ,比較的処理が簡単である。あるチェックリストを用いることにより,ストレスを覚醒と区別できることがわかった。この種のチェックリストの妥当性,これら2つの要素が様々な環境や作業の結果に対して異なった感受性を示すという研究,たとえば,長時間の単調な作業の繰り返し後では,自己報告によるストレスの著しい増加が,自己
報告による覚醒の著しい減少を伴って表われることにより支持されている。もう1つの主観的チェックリストである一対比較情意チェックリストは,ある時点の,あるいは毎日の心配の程度を測定するのに有用であり,また作業遂行能力とも関係することがわかっている。

作業成績による測定法
作業成績の測定を利用して職業性ストレスの研究をするには,作業者の特定の作業に対して,どの作業成績を指標として用いるかを決めなければならない.作業の達成量,質,変動などが,最もよく用いられる。個人の属性は, しばしば作業成績に大きな影響を与え,作業に伴うストレスの強さを推論することができる。たとえば,(1)作業者の能力と職務の要求と彼らの能力を一致させようとして採用する実際の作業方法, (2)ストレス下における作業方法の変更,(3)加齢による全身的な変化,たとえば,SN比(信号を発見する確率の低下),記憶および速度に関係した変化,(4)作業者の性格の反映などである。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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