コラム・特集

5.2 ストレスに関係する要因

IEハンドブック

第6部 人間工学

第5章 職業上のストレス

 

5.2 ストレスに関係する要因

ストレスに関係する要因はたくさんあるが,最も密接なものは,精神的な作業負荷や疲労,個人の覚醒レベルなどである。この節では,これらの要素を,特に職業性ストレスの分野における相互の関係や,特徴にもとづいて区別してみる。

精神的作業負荷
精神的作業負荷は,肉体的労力をまず要求されるような作業とは異なり,意思決定が大部分を占める作業に関連している。以前は,生理学的な手法を用いて肉体的作業負荷のストレスを評価することに興味が注がれていた。なぜならば,作業をどのように変えたらこの種の測定が意味する負担(コスト)をいかに下げられるか薇し,これによって作業手順の改善と,作業余裕の設定のための基礎を得るためであった。最近,関心事項は,第1に精神的作業負荷要素からなる仕事へ移りつつある。コンピュータ化された生産システムやロボット,OA,そして多くの産業におけるコンピュータ技術に対する全面的な信頼の出現とともに,作業形態は次のような作業にますますなりつつある.(1)看視作業化,(2)コンピュータ化されたVDT作業,(3)意思決定活動,(4)責任要素。

このような形態における作業者の副作用は,その場その場の不確定さの増大に対処していく問題である。一連の実験研究によると,連続する′らヽ拍数〔洞性不整脈(SA)〕の時間的な変動性が,精神的作業負荷に関係するかもしれないという証拠が示されている5.特に,平均心拍数には変化はないにもかかわらず,精神的作業負荷が増大するにつれてSAが減少することが示された。
すなわち,心拍数ではなく鼓動の分布が精神的作業負荷を評価する上で重要であることを示している。これらの知見で重要な点は,もしかすると人間工学者が従来から用いてきた方法が増えるかもしれないということであり,そのことにより,肉体作業とともに精神作業の評価も可能になる.職務設計におけるSAの測定の有用性は,作業におけるストレス実験の節において論じる.

実験研究と異なり,産業現場における作業を対象とした場合,作業者の技能や作業方法,そして肉体作業と精神作業の相互作用などの要因により,精神的作業負荷要素の評価が困難になる.SAの測定が有効であったとしても, 精神的作業負荷がどの程度まで受け入れ可能かを示す際に,なお一層困難となるであろう。さらにSAの測定は,本来「最大負荷」 の瞬間を示すことが可能で,与えられた時間内における最大負荷を示した回数は,精神的作業負荷の有用な指標となる。

その他の精神的作業負荷の評価方法として,どれだけ他に注意をそらすことができるかでストレスをみる方法がある.基本的に,この方法は, 1次作業の困難度を変化させ,2次作業の低下を観察するものである。精神的作業負荷を評価する上で2次作業を用いるのは一般的だが,多くの解釈上の問題が生じる。精神的作業負荷の測定に2次作業を用いる上で起こる方法論的,理論的問題についての考察は,Ogdenらの論文にみることができる.精神的作業負荷の行動的,生理的測定については,WilligesとWierwille 9,およびWierwille 10 の3の論文がそれぞれ参考となる。


疲 労
疲労に影響する要因を図表6.5.2に示す。疲労の要因は.様々な意味をもつに至っている。以下に示すように,熟練した作業能に影響する技能の低下と考えられている。(1)反応の遅延または過敏,(2)反応が必要以上の強さで表われる。(3)ときとして典型的に反応の欠如が表われる。(4)疲労が増大すると生産性が低下する周期が多様化する傾向がある,(5)平均作業時間の増加.疲労は,激しいか,または持続的な身体作業とも関係し,生理的な効率の低下となって表われる(63章参照).疲労の主観的側面もまた,人間における感覚実験やラットを使っての実験等で研究されてきている。産業においては従来は急性疲労の問題に関心をよせてきた。

この場合,一般に,それを認識し,評価し,治療することは容易である。ある作業状況においては,興味の焦点は,慢性疲労へと向かっている。民間航空機乗務員の調査では,この後者の型の疲労を長時間のストレスの一般的反応と解釈している。この意味で,作業現場における累積効果が重要となる。つまり,疲労の強さを評価する上で,回復に要する時間が適当な評価基準となることを意味している。疲労をこのようにみるとき,日常の休息,レクリエーション,毎日の作業の間にとる睡眠などで完全に回復することはなさそうにみえる。産業における肉体的疲労(すなわち急性疲労)の間題は,今後減少すると思われる。それは,産業界の疲労に対する考え方を,たとえば,日,週,月,さらには年といった累積的影響にそった方向に修正する必要を示唆している。産業の慢性疲労現象への実際的な係わり合いおよびこの問題へのいくつかの可能な解決策についてはComeron の論文に述べられている。

 

覚 醒
覚醒もしくは,行動における一般的な注意レベルの基本は脳の神経経路における選択的活動である。覚醒とストレスとの関係は,脳の活動におけるある種のサーモスタットのようなセットポイントを仮定するとより明確になる。そして,その機能は,個体における最適な覚醒レベルを維持することにある.刺激が過少(たとえば,呼び出しの少ない夜警のような仕事)もしくは過剰と考えられる仕事は,このセットポイントをおびやかし,さらにセリエのいう,再調整の要求へと導く感覚(図表6.5.2,図表6.5.1参照)のストレス状態を引き起こす。このような要求を伴う場合の多くは,生理的であり,ストレス反応曲線の特性に合う。それゆえ過少刺激および過大刺激は,どちらもストレスになると思われる。

実際の現場において,このストレスの概念に関連した例として,スゥェーデンののこ弓|き作業者の研究がある。この作業における,機械的作業,標準化された動作パターン,短周期動作の連続繰り返し等は,過少負荷(過少刺激)作業の例と考えられる.一方,検査作業のように,一部に注意が集中し,さらに,高度の注意が要求されるものは過剰負荷(過剰刺激)の例である。この種の作業におけるストレスの様子は,その熟練した判断すなわち,短時間(速い機械速度)に注意集中が要求され,同時に時間にせかされつつ単調さを形作っているような職場において,より明確になる.この両方の状態とも再調整(反対方向でも)への強い要求を持っているため,結局作業者が高いストレス状態となることは避けられない。

生理的反応の生産性に及ぼす影響は,一般に逆U字型である。すなわち,低いあるいは高いレベルの生理的反応においては,最大以下の生産性しかあげられないが,中間のレベルにおいては最大の生産性をあげることができる。後者のレベルは,ある意味で過少刺激と過剰刺激の間にある最良のバランスに一致するわけであり,おそらくそれは,人と職場の両方の機能であると思われる.この概念の詳細についてはWelford の論文を参照されたい。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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