コラム・特集

4.5 身体的不快の評価

IEハンドブック

第6部 人間工学


第4章 作業に伴う身体的不快

4.5 身体的不快の評価

身体的不快というものは,きわめて主観的な現象であるため,その評価に有効な方法はそう多くはない。そうした中で,精神物理的方法がよく用いられる。実際にはこれらの方法は,

1.作業にもとづく身体の不快があるかどうか
2.もしあるならば,その不快が他の働き方に比べてどの程度厳しいか
3.身体の何処にその不快があるか.を調べていくのである

別の方法による評価としては,身体的不快をひき起こす要因が,職場にあるかどうかを調べるやり方がある。
これには,その職場の人間工学的分析が有効である。

身体的不快の評価法
身体的不快を評価するにはいろいろの方法があるが,問題のあらゆる側面を網羅できるような方法は1つもない。 どの方法も,ある特定の側面を論じるのに有効なのであって, したがって何を知りたいか目的によって適切な方法を選ばなければならない。

観察法
作業研究にたずさわる技術者や現場の職長は,いつも作業を観察しており,時には身体的不快を発見する.有能な観察者は,誰かの仕事ぶりを一瞥するだけで,作業,作業の負担および身体的不快に関する有益な情報を得ることができる。
作業者がしゃがんで休んでいるのを見た人は,その作業者が休憩をとるまで激しい仕事を続けていたと,考えるであろう 作業者が背中に手をあてながら立ち上がったり,キーパンチャーが首や肩をのばしたりするのは,身体のどこかに不快があるじるしである 残念なことに,こういう観察をするには感情の移入と経験とが必要で,どちらも簡単には教わったり身につけたりすることのできないものである。系統だった観察(ヮークサンプリングなど),写真,ビデオなどは,不快に関連する行動の記録に用いられる。例えば,乗客の不快に関連する研究では,不快を減らそうとしてとる乗客の行動が研究対象となる。

フィンランドの鉄鋼会社では,作業研究に用いられるワークサンプリングの手法と姿勢の不自然さを評価する方法とを組み合わせた方法を試みた.12作業研究の技術者たちは姿勢を観察し記録し分析する訓練を受けた後,日常的に観察を実施して,現場から72の基本姿勢の組合せを見出した。すべての姿勢は4段階の不快尺度で評価された その不快尺度で最高に評価されるような姿勢は,直ちに改善を要することを意味する.不快尺度上での段階付けに際しては,経験を積んだ現場の鉄鋼労働者の評価を基本とし,その上で既存の医学的,生理学的,人間工学的データで重みをつけて実施した。図表6.4.2は,特に注意を要する姿勢と,非常に楽な姿勢をそれぞれ5つあげたものである この方法の優れた点は,作業研究の技術者たちと現場作業の経験者たちとを結びつけて,不快に関するデータの収集に実務的なやり方を採り入れたことである。

自己評定法
不快の研究に際して最も一般的に用いられるのは,被検者自身がその不快をどのように評価しているかを調べる方法である それには,言語や数量を用いて比較するとか,あるいはもうすこし工夫したものとか,様々の方法や手続きがある.もちろん,信頼性のあるデータを収集するには,仕事そのものをどのように評価し尺度化するかに関する基礎的な知識が必要である。

不快の評価に関しては,さらに重要な点が2つある。

第1は,言語を使った表現を評価尺度に用いたときには,その応答に質的。内容的な限界があることである.したがって各設間は十分に吟味して,あいまいさがないように作成する必要がある。

第2は,言葉の問題は一般に考えられている以上に重要であることである。語いと表現とが,作業者とその直属の管理者とでさえかなり異なっていることがよくあり,このことは誤解を招くもとである.したがって評価尺度に用いる設間は,これから調査しようとする対象群に有効なものにしなくてはならない。

コーレットとビショップは,不快を評価するのに,図解的で具体的な方法を開発している。彼らは,スポット熔接機とのかかわりで熔接工の不快をこの方法で分析して,満足すべき結果を得ている 彼らの方法は,不快さを段階的に評価するとともに,身体部位上でも評価するのである すなわち,ある一定の時間間隔で,被検者に身体図を見せて,最も痛みを感じている部位を示してもらう 次に, 2番目に痛みを感じている部位を示してもらう これを繰り返して痛みを感じる部位がなくなるまで続ける その上で,得られた何枚かの痛む部位を記録した身体部位図から,身体的不快を評価する。総合不快指数は,被検者に直接質問して,7段階尺度上にて評価させて求める。

コーレットたちは,この方法を用いて,スポット熔接機の人間工学的分析と,その熔接機を使用する熔接工の不快の分析を実施した。すなわち,多くの熔接機を分析すると共に,60人の熔接工の生体計測を実施した。 その結果,多くの熔接機が熔接工の人体寸法を考慮した設計になっていないことを見出した。そこで,これらの熔接機の中から3台を選んで,その寸法や操作具を若千変更し,その変更の前後で不快がどのように変化するかを分析した.その結果, 3台の熔接機のどれについても,変更後のほうが,作業姿勢が良くなりまた操作も容易になったため,全身的にも局部的にも,身体的不快は改善された。とりわけ,腰背部と頸部付近の不快が著しく改善された。そのため,熔接機の稼働率が高まり遊休時間が減少した。このコーレットたちの例が示すように,作業に伴う身体の不快を把握することにより,信頼性のある有用なデータを工業デザインのために得られるのである。

その他の方法
不快を図に書いて評価するという方法があるが,これは被検者にとって自分たちの不快を表現するのに,容易でしかも信頼性がある方法のように考えられる。ウィットハムとグリッフィンは,振動による不快を評価するのにこの方法を考案した。被検者を振動に暴露した後,最も不快を感じる部位に,用意された人体図にしるしをつけさせた。図表6.4.3が示すように,振動の周波数と不快との関係は明白である。


身体的不快の評価と職場の健康管理者の役割職場の健康管理や衛生管理の担当者は,作業に伴う苦痛を分析し記録する上で,中枢的な役割を果たすべき立場にある。しかし残念なことに,これらの社内の健康管理センターなどが実施した観察その他の諸検査で得られた情報が,設計者や生産技術者にうまく流れるようにはなっていないのが多くの現実である。保健婦・看護婦や心理療法士を設計者と医師とを結ぶかけはじとしてうまく活用することも有効なやり方となるのではないか。

フィンランドの労働衛生研究所では,頸部と上肢の不調と不快を分析するシステムを開発した。その手続きは,訓練された心理療法士が実施するうまく構成された検査が基本となっている。この方法によると,疫学データに加えて,不快や不調の症候およびその兆しの職場での分布やその程度を詳細に分析できる。

包括的分析法による評価の強化
身体的不快の評価は多くの場合,ある特定の設計により不快が現われるか否かといった課題に答えるだけの,不快の有無の分析だけに終わってしまう。身体的不快に関連する多くの因子について,より堀り下げた全体像を知るためには,作業状況を把握するための包括的な作業分析が必要である。これに関連する方法はいろいろあるが,そのうち2例を,完全に紹介する余裕はないが,あげておく。ローメルトらは,マッコーミックの職務分析法をもとに,AET分析(稼働分析のための労働科学的手法)を考案した。これは様式も整い,体系もあり,教育の方法もできている実用的な方法である。

AET分析では,作業組織,作業課題,課題達成の要件の3つが用意された様式に沿って分析される。すなわち,作業組織に関する143項目,作業の課題に関する32項目,課題達成の要件に関する41項目の全部で216項目から成る設間に,観察により答えていく一種のチェックリストである。

その結果をワーク・プロフィールにまとめあげる。若干工夫を加えた分析では,作業の内容,筋力の産出,知覚運動機有旨の協応,情報処理,情報の産出などに関する様々の知見を得ることができるこうして,AET分析における多項目は,身体的不快を生み出す諸要因に関する知見をもたらすのである。

フランスの自動車会社ルノー社のルーカスは,「作業場所のプロフィール」とよぶ,作業場所の分析法を提案している。この作業場所のプロフィール法の構成は,先に述べたAET分析よりもさらに実務的効用を志向している。 この分析では,作業場所に関する527項目について,あらかじめ定めておいた手順で記録する。これらの項目群の主なものは,レイアウト関係(4項目),安全関係(1項目),人間工学的因子(14項目),社会心理学的要因(8項目)などである。すべての項目を,(主として)5つのカテゴリーに分類する この方法を用いても,最終的にはやはり分析的なワーク・プロフィールを得ることができる。AET分析とこの作業場所のプロフィールとのどちらの方法にも共通している特徴は,実際の職場で活用できることを志向している点と,多面的に把握しようとしている点である。分析者を教育し,ある程度分析サービスをしようという気持があれば,この方法はシステムとして完璧なものとなる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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