コラム・特集

3.5 静的作業

IEハンドブック

第6部 人間工学


第3章 作業・休憩計画の生理学的基礎

3.5 静的作業

筋が長さを変えないで収縮するときには,外部仕事はなされないが,収縮がつづく間中エネルギーは消費される。このような等尺性収縮は,2つの通常の労働状況でみられる。(1)手や足(pedal)で力に対抗しているとき.唸)重力に引かれる体部位(体幹,上下肢)を支える姿勢を維持するとき.

静的作業においては,支点となる関節の周りのトルクが平衡した状態にある。筋の生じる張力はそこで,対抗する力あるいはトルクで表わせる。たとえば手首に50kgを吊るして肘を90° に屈曲した状態では,前腕長03mとすると,筋の張力は491Nまたは147 Newton‐ meters(n× m)と表わせる.等尺性筋張力を,トルクで表わしたほうが,測定法や寸法の違いによる差が小さくなるのでよい。トルクの測定,標準値,実用についての詳細は省略する。

最大随意収縮
ある関節に対して筋の出す力には限度がある.最大随意収縮(MVC)は抵抗に対して少なくとも3秒間急速な収縮を行ったときの最大張力である。MVCの値は関節によって異なり,また同じ関節でも角度によって異なる。産業現場で使われることの多い関節角度でのMVCの平均値を図表6.3.11に示してある。男ではMVCは加齢につれて年1%の割合で低下する。女性についてはよく知られていない。
ある最大下強度の等尺性収縮を行うときの生理的反応は,MVCの個人差が大きいため,違いが大きい。しかし最大下張力のMVCに対する割合(/MVC)をとることで,反応を規準化することができる。

生理的反応
等尺性筋収縮を持続すると,VE,血圧およびHRの著しい増加が起こる.等尺性収縮中の他の変化に,筋放電の持続と乳酸産生の増加がある。これらの反応は発揮張力(/MVC)と,関与する筋の量とに対応している。

呼吸反応
等尺性収縮はわずかなVo2の増加と,不釣り合いに大きな換気量(VE)の増加を生じる。0.40 MVCでVEは35L /minにまで達することがあり, これは動的作業では75kca1/minを要する強度でみられる値である(表6.3.5)。

循環反応
持続性等尺性収縮中に,収縮期および拡張期血圧(BP)とHRが上昇する。040MVCを持久限度まで続けたとき,これらは連続的に上昇し,収縮/拡張期圧は180/120mmHg,HRは120拍/minにまで達することが知られている。血圧上昇は,心疾患や高血圧のある労働者に対して医学的に重要な意味がある。このような人々は長時間あるいは強度の等尺性作業を行うべきでない。

電気的活動
筋収縮は筋の膜電位の変化をともなう。この変化は組織を伝播していき,適当に増幅すれば,皮膚表面から検出できる。記録された筋電図(EMCs)の頻度と振幅は,収縮強度と持続につれて増大する。またEMG信号の特性は筋の疲労状態にも依存している。したがって,信号の積分とパワースペクトル分析によってEMGを定量化し,筋負担や筋疲労を測るために使うことが試みられている。

乳 酸
収縮筋は組織内部に静水圧を生じ,それが血管を圧迫する.等尺性収縮による絞り効果は血流を阻害し,またある張力では血液供給が遮断される。血流遮断の起こる/MVCは筋によって異なる。たとえば020 MVC,0.50MVC,0.70MV Cでそれぞれ足の底屈筋,肘屈筋,前腕の把握筋の血流が遮断される。血流が制限されると,筋と血液間のガスおよび代謝産物の交換が阻害される。そうすると筋は無酸素的エネルギー源にたよるようになり,その結果,筋中乳酸量が増加しつづける。収縮を止めると,血流が反応性に増加して筋から乳酸を洗い出す血流阻害は筋組織の機能に影響し,また乳酸による酸性化は正常な生化学的過程を阻害する。以上のことから,静的作業がごく短い期間しか持続できず,また長い回復期間を要するのは当然である。

持久時間
動的作業の場合と同様に,静的作業の持久時間も/MVCによって規準化できる(図表6.3.12)。いろいろな機会に集められたデータを用いて,持久時間を予測する1つの式を作ろうとした試みは成功したとはいいがたい。
1つの提案式は,Tを分単位で表わして,

T=019/(/MVC)2.42                     (8)

である。この式は/MVC<0.75では持続収縮のデータに合っているようだが,0.75MVC以上では合わない。
0.75MVCとMVCの間では,データは持久時間の強度に対する回帰直線に,よりよく合うようである。したがって,図表6.3.12に示した式を用いて持久時間の期待値を推定するのが適当であろう。

持久時間は許容限度を示すもので,産業現場では一般的でない。ふつうは,あるfMVCでの等尺性収縮はTより小さい tだけ続く((t/T)<1).

 

回 復
等尺性収縮による疲労は,疲労前には可能だったレベルと期間でfMVCを維持できなくなることで明らかである。静的作業での回復速度は2つの要因で決まる。

(1)収縮強度(/MVC),および(2)最大許容時間Tに対する持続時間tの割合(t/T)。それぞれが1に近いほど,回復に要する時間は長い。ある広範な研究では,収縮により上昇したHRの低下率が回復の基準として使われた。休息時間設定値として示唆された式は,RA=18(t/T)1・4(/Mvc-0.15)05(9)で,RAは収縮時間tの比率であり,Tは持続時間の限界((8)式または図表6.3.12)である.015 MVCでは,疲労は長い収縮の後に生じ(図表6.3.12),HRはほとんど上昇しない。

次に,等尺性収縮をふくむ作業のペースを計画するときに上記の知識を用いる例を示す。ポリエチレン繊維製造工場で,繊維はスプールに巻き取られる。1つのスプールは片手で持てるほど小さい。作業は手をスプールの下に置き,軽く握って,回転軸から箱にスプールを移すことである。作業の主な部分は肘関節を90°に曲げる肘屈筋によってなされる。作業は主に女性によっていた.以下のような観察と計算が行われた。

 

1,スプール1個の重量は10kg。1つのスプールを収納箱に置くのに要する時間,tは01分.
2,女性の平均的てこの腕(肘から手首)の長さは0.3mで,MVCは43n× m(図表6.3.11).
3,スプールを運ぶときの肘のトルクは294n×m(10kg×981×0.3)で, これは0.68MVC(29.4/3)にあたる.
4,0.68MVCに対するTは0.48分(図表6.3.12または式(8Dであり,6秒の支持時間は0.21Tである。(t/T=0.21).
5,(9)式を用いると,RAは1.46t,すなわち876秒.
6,全運搬時間はスプール当たり1476秒, いいかえると1分間にスプール約4個.

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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