コラム・特集

3.3 持久性と回復

IEハンドブック

第6部 人間工学


第3章 作業・休憩計画の生理学的基礎

 

3.3 持久性と回復

持久性
持久性は作業強度に反比例する.最大強度では,ふつうの体力をもつ人の持久性は約3分が限度である。最大下強度の場合,持久時間は0.8Vo2,m aXで30分,0.5Vo2,maxで2時間,0.33Vo2,maXで8時間に延びる.たとえばアルミニウム融解炉の鉱滓取り作業で(10.5 kca1/min)(図表6.3.4),女性では最大能力またはそれに近い努力をしなければならないが,平均的な男性では0.63V02,maXですむ。女性は数分しか作業を続けられないが,男は少なくとも30分は持続できる.体力があれば持久性は向上し,体力の特に高い人では,0.8Vo2,maXおよび0.5Vo2,maXの作業を,それぞれ2および8時間持続できる。

健全な労働の実行には,安全かつ受容できる作業条件が必要である。疲労にいたるような労働はどちらも満たせない。作業者が疲労困想にいたるような作業時間を課すのは望ましくない。疲労を防ぐのに最適な断続的作業スケジュールを見出そうとする試みはあまりなされていない。だいたいのところ,高強度の作業負荷では,疲はいに至る時間の半分に作業時間を設定すると全作業時間が増し,HRが上昇しなくなることからみて生体負担も軽減していることが知られている。疲はいにいたる時間の1/3の作業時間にすると,0.5 Vo2,maXから

V02,maXの範囲のどの強度の作業でも, 妥当な式は,

Tw=40/fVo2,max-39        (5)

である。ここでTwは分単位の作業時間であり,fVo2,maxは実測できない場合には図表6.3.6の値を用いることができる。例として45歳の男性と35歳の女性が13L /minのVo2を要する鉄工場作業を行う場合を考えよう。
彼らのVo2,maX推定値は26L /minと2L /minである(図表6.3.6)。したがってそれぞれの相対作業強度は0.50Vo2,maXと0.65Vo2,maXである。(5)式を用いると,安全で受容しうる作業時間はそれぞれ41分と225分|こなる。作業ペースの決定に責任のあるエンジニアは,このように著しい差異を考慮に入れる必要がある。

別の例として,炭鉱でのトラス組立て作業をあげよう。差し込んだ棒を屋根に締めつけるのに216′ /minが必要である(図表6.3.4)。20代半ばの男女でこの作業はそれぞれ068 Vo2,maX(216/316)とl Vo2,maX(216/214)となる安全かつ受容しうる作業時間の推定値は,男性198分と女性1分とである〔式働〕。しかし2つの点に注意しなければならない。(1)女性ではボルト締め作業間の休息時間を長くとらねばならず, したがって作業反復のペース配分が重要となる。(2)平均的な女性の能力を超えるような,高頻度の反復であっても,すべての女性にとってこの作業が不可能であるわけではない。仮に平均値より1標準偏差高いVo2,maxをもつ女性(241L /min)であれば,トラスのボルト締め作業は0.90Vo2,maXを要することになり,54分間持続することができ回復時間も少なくてすむ。もし作業計画が5分のボルト作業と適当な休息というスケジュールにしたがうものであれば,34%の女性(平均値よりISD以上のVo2,maXを持つもの)はこの作業をこなすことができる。次になすべきことは,期待される生理的回復に基づいて,必要な休息時間を決めることである。

回 復
回復には動的作業の強度と持続時間とが影響する。運動生理学者の一致した見解では,V02,maXにおける疲はいにいたる作業は, 3ないし5分ほど持続可能なのだが,1日に1回,多くても2回が限度である。したがって最大努力が再び可能になる程度に回復するためには,4ないし8時間の休息が必要となる。最大下の0.40Vo2,maXの作業負荷では,通常の食事と2回の休憩時間があれば,特別の休息期間を要しない。身体的作業に慣れた作業者は,勤務時間中0.50Vo2,maXの強度を保ちつづけることができる場合も多い。身体的作業のペースを自分で選べる場合には,0.35から0.5Vo2,maXの作業を実際に行うようである。
かつてドイツの労働生理学者たちは,休息余裕率の一般式を提唱した。

RA=(M/4.2-1)×100        (6)

RAは作業時間のパーセントで表わした休息余裕率であり,Mは作業の代謝コスト(kca1/min),そして42は休息を必要としない基礎的作業のコストである.42 kca1/minという値は,第1次および第2次世界大戦中に,長期にわたって労働者の栄養所要量を追跡調査した結果から,エネルギー所要量を計算して求めたものである.この値は平均的な男性の0.30Vo2,maXに近いから,この式を若年男性の休息時間のおよその見積もりに使うことができる。しかし,現在では作業能力の性差と年齢差が知られているので,休息時間をより正しく計画できる.式(6)の1つの改良案は,Mの代わりにfVo2,maXを用い,42の代わりに0.30Vo2,maXを用いることである。さらに手の込んだ方法を次に述べる。

0.50Vo2,maXを超える作業負荷では休息時間を組まなければならない.生理学的にみると,作業強度が05V02,maX以上になると,無酸素的代謝が増加し,その結果,乳酸産生が指数関数的に増加する。酸性は,筋組織を含む組織の機能を阻害する大きな要因と考えられる.休息によって乳酸が除去され,正常な筋機能力酒碓ける。休息の基準として乳酸産生量を用いるための基礎となるのは,(1)作業期間中の乳酸産生量の推定値と,(2)休息期間中に血液中に乳酸が現われ,それから除かれていく速さである。

たとえば,070Vo2,maXの作業でできた乳酸は,10分間の休息中に血液に現われそして除去される。090 Vo2,maxの場合には,15分間で出現,消失する。乳酸除去速度はおよそ3 mg%/minで一定である。筋中に産出する乳酸量の推定値とその除去速度とから,血中乳酸量が安静時の2倍にまで減少するのに要する時間は

Tr =88Ln(fVo2,maX-0.5)+246                (7)

となる。ここでTrは分単位の休息時間である(図表6.3.8)0.30Vo2,maX程度の軽作業では,乳酸除去速度は3mg%/minの倍になることが知られている。そうなると重労働のあとでは完全な休息よりも軽作業を行ったほうがよいことになるが,これは望ましくない。疲労には乳酸以外の因子(主として神経系にかかわる)も作用する。したがって完全体息と軽作業を組み合わせるのが,もっとも効果的な休息計画ということになりうる.たとえば,Vo2,maXで1分間働いたとすると,必要な休息時間は185分である。しかし85分の休息後に軽作業(0.25Vo2,maX)をわずか5分間行うことで完全な回復が期待できる。

集団的考慮
多くの作業でエネルギー所要量は身体作業の特性に依存するから,個人別に作業ペースが決められない以上,作業成績には当然個人差があるものとみなければならない。したがって作業成績を予測するには,少なくとも集団の平均的な体力にもとづくことが望ましい。

予測には次のような段階を要する。

1,作業あるいは労働のV02の測定か推定.
2,作業時間(Tw)の測定.
3,Twに対するf Vo2,maXを式(5)の変形,fVo2,maX=40/(Tw+39)から求める.
4,作業を安全に行うための最小のVo2,maXを決める. そのVo2,maX=実測Vo2/fVo2,maX.
5,計算したVo2,maXを図表6.3.6の適当な平均値および標準偏差と比較し,安全作業を行うことのできる労働者のパーセンタイルを求める.

以下の例は薄い炭層の採炭についてのものである。木組み作業は,かがみ姿勢をとるため,ふつうの木組みより多くのエネルギーを要する。実測したVo2は148L/minであった.15本の材木を設置する1連続作業の時間は608分であった。

U式より,この作業は0.89Vo2,max以下であれば安全に行うことができる。すなわち作業者のVo2,maXは166と1minより大きくなければならない.この作業は典型的な上肢作業だから,図表6.3.6のVo2,maXの値は,08倍に減らさなければならない。この修正をし,同図表の標準偏差をみると,20~ 40歳のすべての男性はこの作業を行えるはずである。

女性のVo2,maxは20~29歳で17L ±0.25,30~ 39歳で16± 023である。したがって,それぞれの年齢群について作業可能な女性の割合は58および40%である。しかしこれらの女性もこの作業ペースを持続するためには,一連続作業と次の作業の間に適当な休息を置く必要がある.時間研究によると,8単位の材木を設置する時間は21時間である。すなわち1単位の時間は1575分である.1単位に対する608分の作業時間ということは,967分の休息がとられるということである。

148L /分で608分働くということは,0.89Vo2,maXを要するということである。しかしこの強さの負担では,休息時間は967分ではなく,163分なければいけない。女性では作業強度を0.68Vo2,maXより低くするか,あるいは作業対休息の比を小さくする必要がある。機械化できないのであれぎ,作業単位の材木設置数を15本より減らして,総設置数のための時間を長くするのが合理的である。

まとめると,作業計画者の選択肢は,作業負荷を作業者に合わせて下げるのか,あるいは作業負荷に見合った作業者を選択し,かつ必要な休息時間に応じて作業ペースを調節するかである。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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