コラム・特集

3.2 動的作業

IEハンドブック

第6部 人間工学


第3章 作業・休憩計画の生理学的基礎

3.2 動的作業

動的筋作業は多数の筋の律動的な収縮である。その時なされる外界への仕事は,筋にある化学的エネルギーの変換によって表わされる。変換には炭水化物と脂肪という主栄養素の酸化が必要である。これら成分の燃焼により,消費酸素1リットル当たり5kcalのエネルギーが得られる。これは5.68ワット時に相当する。

支援システム
動的筋作業は酸化によって維持されるので,空気中の酸素を筋に運ぶ呼吸循環系に依存することになる。仕事中の呼吸循環活動は,作業の強度に応じて増カロする。収縮と収縮の間の弛緩期に,酸素を供給し二酸化炭素を除去するのに十分な量の血液が筋に与えられる.筋と血液の間のガス交換が,呼吸循環器の機能を調節し筋収縮を持続させている中枢機構,すなわち中枢神経系(CNS)へのフィードバックの主要径路となる。

収縮筋,呼吸循環系およびフィードバック機構の間の関係を図表6.3.1に示す.二酸化炭素産生が換気調節のための基本的フィードバックであり,酸素需要が循環系に対する主要因であることが示されている。前者は実証されているが,後者は仮説といってよい。筋作業時の循環系調節機構についてはあまりわかっていない。図に示した神経路によるフィードバックは,脳から直接送られる興奮性の交感神経インパルスによって,呼吸循環系の反応をひきおこす。フィードバックが神経性であることは,動作開始に対して直ちに一過性の反応が生じることでわかる。筋と血液との物質交換による化学的フィードバックには時間がかかるが,反応は持続的である。

過渡応答
休息から仕事に転じるとき,あるいは作業強度を変えるときには,呼吸循環系の調節はゆっくりと行われる。酸素摂取と心拍数は,新たな作業強度の開始から2,3分経って定常状態に達する.定常状態の間には,要求される酸素が充足される.過渡期間には酸素不足が起こり,筋収縮に必要なエネルギーは,直接の酸素供給を要さない,無酸素的な化学反応によって得られる.酸素の不足分,すなわち酸素負債は,回復期の休息によって解消される(図表6.3.2)。

定常応答

酸素摂取
定常状態における1分間の酸素摂取量(V02)は,なされた外部仕事量に比例する。図表6.3.3に,抵抗負荷に対する自転車作業や,重力に抗する登上作業における,この関係が示されている。

 

動的作業の効率
動的作業の効率は,伴いがちな静的作業を除外すれば約20%である。たとえば,シャベル作業の効率は,体幹の姿勢を維持するのに必要な静的収縮が関わるため,ただの6%にしかならない。作業の効率(Ef)は次のように定義される。

Ef= 外部に対する仕事/純消費エネルギー        (1)

純消費エネルギーは2つの方法で知ることができる:
(1)V02W―V02rとして。 ここでVo2WとV02rは, 作業時と坐位安静時の1分間の酸素摂取量である.lがお2W―V02Zとして,Vo2Zは仕事ゼロのときのVo2を表わす(図表6.3.3)に示す,外部仕事に対するVo2の回帰直線のy切片である)。Vo2Zは作業中の姿勢維持(たとえばはしごや階段昇りでじっとしている状態とか,抵抗負荷なしで自転車をこいでいる状態)における摂取率にあたる。外部仕事と酸素摂取率(Vo2)はエネルギー単位で表わせる。すなわち仕事1kpm(キロポンドメートル)|ま2.34gcal(グラムカロリー),酸素消費1mlは5gcalである。

V02rを使うと,機械的効率(Efm)は,

Efm={ kp x m/min x 2.34} / {(Vozw-Vo2r)ml/min x 5}  (2)

となる。V.o2Zを使うと,分母のVo2W-V02Z は外部仕事に対するVo2回帰直線の勾配bである。b=1/kpmであるから,生理学的効率(Efp)として

Efp=1×2.34/b×5=0.47/b                  (3)

が得られる。

Vo2ZはふつうVo2rより大きいので,EfpもEfmより大きい。例として70kgの人が12m/minの速さで登る作業をするとき,機械的効率は(Vo2r=350md/minとして),
Efm= 12× 70× 234/(1680-350)×5= 0.20
となり,生理学的効率は,図表6.3.3の回帰直線の勾配を用いて,

 Efp=0.47/2=0.24  となる。

負の仕事
はしごや階段を降りるときのV02の回帰は0.5ml/kpmにすぎない(図表6.3.3)。したがって生理学的効率は0.47/05=0.96である。降りは重力に対する抵抗であるが,昇りは重力に抗する仕事である.降りでは収縮中の筋が引き伸ばされる〔伸展性(エクセントリック)収縮〕.昇りでは筋は短縮する〔短縮性(コンセントリック収縮〕.エクセントリック収縮をともなう動的仕事は「負の仕事(ネガティブワーク)」とよばれる。ネガティブワークでは効率は100%近く,正の仕事(ポジティブワーク,コンセントリック収縮)の平均20%の効率と対照的である。

各種作業の効率
筋の伸展性収縮と短縮性収縮とが混在する作勤ゞある。これらの作業の効率は正の仕事の効率より高い。歩いたり走ったりするときには,ステップごとに両方の収縮が混在しており,効率は30%にもなりうる。余分な静的筋収縮や体幹の動きによって,効率は低下する。静的収縮では,酸素を消費するにもかかわらず外部仕事はなされないから,効率が低下する.余分な体幹の動きによって加わる外部仕事は,体幹の重心の動く範囲を測定することにより求められる。このような注意をはらえば,効率は正の動的仕事に期待される20%に近いものになろう。例としてシャベル使用作業や持ち上げ作業(リフティング)があげられる。負荷を動かすという外部仕事だけをとれば,どちらの作業でも効率は約6%である。シャベル作業時の体幹の動きやリフティングの全身の動きによる外部仕事を計算にいれると,効率は15ないし20%に近くなる.それでも脚だけの作業での20から25%の効率より低いが,これは筋の静的収縮のせいである。

水平面での歩行では外部仕事は実際にはなされない。ふつう歩行速度からVo2が推定される.しかし登り坂を歩くときには体重を垂直に上昇させるための外部仕事が行われる。Vo2と歩行の仕事との関係は次のようになることが見出されている。

Vo2=7+0.001S2+0.012S× G            (4)

Vo2は体重1kg当たり毎分当たりのml,Sは1m/minで表わした速度,Gは移動距離に対するパーセントで表わした上り勾配である。この式から,ある一定速度で歩くときのVo2と外部仕事(体を上昇させる)との関係は直線的であることがわかる.30kg以下の荷物を,体と荷物全体の重心線が足底面におちるようにして体幹につけても,kg当たりのエネルギーは余分に必要とならない。全重量1kg当たりのVo2はに)式で求められる。しかし負荷を体の前で手で持って運ぶときは効率は低下し,負荷1kgに対する余分のコストは,体重1kg当たりのコスト増よりも50%大きくなる。

動的作業のエネルギーコストの推定
ある作業のエネルギー所要量は,呼気ガスを採取し,その酸素濃度と大気中の酸素濃度20.9%との差に呼気ガス量を乗ずることにより,直接測定できる。しかし,直接測定せずに推定することも可能である.式に)と図表633から導くこともできるし,外部仕事の測定と作業の効率推定値から求めることもできる。‐般的な産業労働についてのエネルギーコストが図表6.3.4に例示してある。

エネルギー消費は,酸素需要に応じる支援系の能力に依存するから,肺換気量や心拍数をVo2推定と,さらに生体負担の評価との基準になしうる。

換気量
呼気ガス量(VE)と酸素摂取量(Vo2)との間に,十分に良い相関のあることが知られている。図表6.3.5に,歩行,這行,シャベル作業,運搬作業中の数百例の測定値が示してある。V02のVEに対する回帰は曲線であるが,V02の低い範囲では直線をあてはめることができる。高いVo2範囲では,最大酸素摂取量に近づくので,過剰なCo2産出と,VEがC02に依存する(図表6.3.1)ため,換気率は比例的でなくなる。Vo2の増加につれは急激に増加するが,肺の酸素供給能力が作業の限界を決めるのではない。

循 環
循環系が酸素供給を限定する。これはおそらく′らヽ臓の機能的能力によるものである.心臓のポンプ能力を決める要素は1拍毎の拍出量(SV)と心拍数(HR)とである。すなわち心拍出量(CO)は,

CO=SV× HR

である。ここでCOは′/rnin,sVは′/拍,HRは拍/minである。それぞれの要素の変化は作業強度に偽ける。Vo2がおよそ1′ /minまではCOはまずSVによって変わる。Vo2が1′/minを超えると,SVは最大値に達し,COはHRに従って変わるようになる。vo2とHRの関係は直線的になる. しかしながら,HRとVo2との回帰には著しい個人差があり,これは主として体力差による。体力のある人では弱い人に比べ安静時のHRは低く,HRのVo2に対する勾配もゆるやかである。

最大有酸素作業能一一動的作業の限界

Vo2の増加には限界があり,作業負荷を増してもVo2はそれ以上増えない。平均的な男性のはしご登り作業の最大酸素摂取量(Vo2,maX)の平均値を図表6.3.3に示してある。

最大有酸素作業能すなわち最大酸素摂取量(Vo2,max)は,2ないし3分間継続可能な最大強度の作業における終わりの1分間に測定される。Vo2,maXを超える作業負荷を短い時間続けることができる。これは筋がエネルギー産生の無気的過程をとるようになるからである。

最大心拍数
HRの増加にも限度がある.最大心拍数(HR max)は年齢によって異なるが,平均値はHR=220-年齢(年齢は年で表わす)(S=7拍/分)の式から推定でる。HRmaxは通常Vo2,maXと関連している。このことは作業能の限界が個々人の心臓機能を表わしていることを示す。

Vo2,maXの推定
HRmaxに個人差がある一方で,心拍数に対するVo2の回帰にも差があることが,Vo2,maXの個人差として現われる。これらの差異は,年齢,性および体力に依存する。一群の作業者の仕事を計画するにあたって,年齢と性は重要である。図表6.3.6にVo2,maXの平均値を示す。しかし体力はVo2,maXによって区分される。たとえば表に示された30-39歳の男性の平均値288′/minに比べて,体力の弱い者ではVo2,maXは23′ /min以下となりうるし,体力の高い者では37′ /minを超えうる。図表6.3.6の値は,産業労働で一般的な,手と足の作業が混合したものについての期待値である.図表の値に比べ,脚作業(歩行と自転車こぎ)でのVo2,maXは20%高く,上肢作業(クランキング)では20%低い。本文ではVo2,maXは,平均的な体重を持つ人についてのものとする。

相対的Vo2一一f Vo2,maX
Vo2とHRとの関係を,Vo2の絶対値ではなく相対値を用いることにより規準化できる。つまり,最大下Vo2のVo2,maXに対する割合を用いる(fVo2,maXあるいは%Vo2,maX).例として線東ね作業をとると(図表6.3.4),Vo2として2′ /min(10kcal/min)が必要である。図表6.4.6の20-29歳群のVo2,maXの値と比べると,Vo22′ /minは男のVo2,maXの0.63(2/316)であり,女では0.93 Vo2,maX(2/214)である。作業に要求される酸素摂取量がVo2,maXに近いほど,心臓の予備能力(H Rmaxが限界)が少なくなる。このことは特に周囲のストレス環境,たとえば熱などが関わっているときに重要である。

fV02,maXのHRに対する直線回帰を図表6.3.7に示す。年齢別の回帰直線は0 3Vo2,maXおよびHR 100ないし110拍/minのところで始まり,HRmaxで終わる。
HRmaxは年齢とともに低下する.0 3Vo2,maXのところでは年齢によるHRの低下は無視できる。あるHRに対するfVo2,maX(%Vo2,maX)は若年者より高年者で,また男より女で高いことがわかる。事実,0.3Vo2,maXにおいて,女性のHRは110拍/minとなり,男では100拍/minとなる。図には20-29歳の女性についての回帰直線だけを示してある。この直線を男性のそれと比べると,女性の回帰直線の勾配は,10歳年長の男性についてのそれとほぼ一致しているようである。

現在では作業者の活動を妨げることなしにHRを測l定できる装置がある.HRにより,fVo2,m aXとしての生体負担を評価できる。推定されたfVo2,maXは作業と休憩の計画に利用できる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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