コラム・特集

2.5 エラー発生の可能性を減少させる方法

IEハンドブック

第6部 人間工学


第2章 人間エラーの低減

2.5 エラー発生の可能性を減少させる方法


2つの方法
生産の質を向上させる方法として2つ考えられる.両者はもちろん相互に関連をもっている。1つは,伝統的なやり方で,従業員の仕事のやり方を変えさせることに力点を置く方法である。

もう1つは,生産のやり方を従業員が仕事をやり易いように設計することに力点を置く方法である.これは,“作業状況”を人間工学的に吟味して,従業員の育旨力,限界,欲求と矛盾しないようにすることに力を入れるのである。この2つの方法は相互に矛盾するわけではなく,努力する力点が異なっているだけである。したがって実際には,2つの方法を適切に活用する必要があるが,しかし,人間工学的に配慮された“作業状況”を創りだすことに,一層の努力をするべきである。なぜならば,採用も訓練も一般的にはたった1回限りのことであって,経営サイドが特別にそれをやるのは,エラーを起こした従業員に“活”を入れようとするとき,および再訓練のときくらいのものであるからである。したがって,この“作業状況”
をエラーが起きにくいものにするという方法を,実際の生産活動を開始するに際して活用すべきであり,さらにその後も,何かエラーが起きることに活用してその再発防止に役立てるべきである.特に最も有効な進め方は,“作業状況”を設計する段階から,エラーの起きる可能性を極力小さくするように吟味することである.設計段階でこうした配慮を施すほうが,後から変更するよりも相対的にコストは安いものである.

一般的にいって,実際の生産システムが稼動を開始したあとになって手を加えて改善しようとしても,作業手順も作業方法も限られた範囲でしか変更はできず,また付属設備や操作具にしても,ほんの僅かな変更しかできない場合が多いのである。

生産システムの設計段階で,起こり得るエラーを予測しこれをりF除するために必要な方法について,ここで詳述する余裕はない。しかし端的に述べるならは各職務と具体的な作業について分析して,エラー誘発条件(ELS,error‐ likely situation)を見出し,それらを排除するために必要な設計変更を勧告できるように,人間―機械系の吟味をすることである

生産システムを適切に設計することによって,エラー誘発条件をりF除することが最も望ましい進め方ではあるが,実際問題となると決して容易ではない.IE技術者は,すでにできあがっている生産システムにおいて,高頻度に発生するエラーの減少にしばしば直面させられることを覚悟しておく必要がある。

スウェインが提起しているエラー原因除去活動(EC cause removal)は,それが労使の協力というなかなか困難な条件を必要としているという,いささか現実的ではない面もあるが,以下,これについて若千紹介することとする。

エラー原因除去活動
この活動の主な特徴の1つは,具合の悪いことが起きたあとに改善する,というよりもむしろ,そうしたことが起きないように予防的に事を進めることである。したがつて,エラー誘発条件の検証と分析は,過去に発生したエラーについての検証と分析と同様に,どうしても必要なことである。

エラー原因除去活動を効果的に進める上で重要なことは,必要なデータの収集,分析およびこの活動に沿った改善,勧告のあらゆる過程に,検査工,組立工,運搬工,機械工,修理工などの,生産に直接かかわる従業員が直接参加することである。これらの従業員自身が自分たちの“作業状況”を注意深く観察することは,この活動を進める上で最も有効である。エラー原因除去活動は,前言己の生産に直接かかわる従業員とまとめ役とから成るチームが推進していく。

このまとめ役になる人は,技能的にも,集団をまとめていく力の上でも十分に優れている人でさえあれば,管理者でも一般従業員でもどちらでもよい。まとめ役の役割は集団としての活動がその目的からはずれないようにすることである.集団の大きさとしては,8~ 12人以下がよく,メンバーはもちろん普段一諸に働いている人々である。

エラーとエラー誘発条件については,チームの定期的会合においてメンバーの従業員全員が報告する.各メンバーからの報告について,全員で討議して改善案を作成する.作成された改善案を,まとめ役を通じて経営サイドに提出し,それを受けた経営サイドはその妥当性を検討した上で実行に移す。人間工学あるいはIEの専門家は,各チームの活動を援助すると共に,経営サイドに対しては,各チームから提出される改善案を検討する際に助言をするのである。

なお,このエラー原因除去活動は,エラー発生の可能性を減少させるために,現行の“作業状況”に改善のための再設計を要する何らかの問題の発見に限定して推進させる必要がある.このこと以外の,例えば生産量を増加させる,というような別の目的をカロえてこの活動の性質および目的を不純なものにしてはならない。そうしないと,この活動を推進させようとする試みは,「単に生産速度を上げるためのものだ」というように,従業員が疑いの目で見たりすることがよく起きるのである。

エラー原因除去活動を成功させる要件

1.この活動に関係する人は,活動の持つている価値について十分に教育されていること.
2.チームを構成する一般従業員とまとめ役とは,この活動に用いられるデータの集め方と分析法について訓練されていること.
3.一般従業員自身が,エラーとエラー誘発条件について報告すること.彼らはこの報告を分析して,エラーの原因を見極め,その上でうした原因を取り除くために提起されている設計上の対策をより良いものにカロエするのである.
4.経営サイドとIEや人間工学の専門家とは,ケームから提案された設計上の変更について,その価値とコストとから吟味して,最も良い方法で実行に移すこと。それが不可能な場合はそれに代わる対策を進めること.
5.経営サイドは,この活動に参加している生産部門の従業員の努力を正しく認識すること.
6.IEや人間工学の専門家は,この活動を通じて継続的に推進される生産システムの設計変更による影響を正しく評価すること.

この最後の点は特に重要である。エラー誘発条件を改善する活動を開始した影響を正しく評価することは大変重要であり,またこの活動はある期間だけ進めるのではなく継続的に推進していくものと考える必要がある。この活動の初期の段階においては,みんなが積極的に参加するようにすることがまとめ役の大事な役割である。もし,この活動がおどし,強制,使用者側の何らかの策略,などと間違って受け止められたりすると,各チームが良い機能を発揮することは期待できないことになってしまう。この活動は,決して形を変えたコスト低減活動でもなければ,提案され承認された設計上の変更にいかなる金銭上の価値を見出すものでもない。

経営サイドは,たとえ提案された設計変更を技術的またはコスト的理由から実行に移せないとしても,過去および将来にわたって,その種のエラーが発生しても仕方がないような生産上の問題があるという,貴重な情報を得ることができたという事実は明らかにしておかなければならない.

また経営サイドは,従業員がチームを自分たちで組織することを認める必要がある。しかし,この活動に対する参加は義務づけておくほうがよい。そうすれば,この活動に対してすべての従業員が同じように熱心ではなくても,この活動に参加することが余分な仕事をやることになるという感じは持たなくてすむからである。

エラー原因除去活動で用いる分析この活動で収集すべき資料は,エラー,エラー誘発条件,および事故誘発条件(APS,accident prone situation)に関するものである.特にほとんどの事故は,それに至るエラーを引き起こしやすい“作業状況”が原因となっていることを考えれば,最後の事故誘発条件に関する資料の収集は重要である。

産業におけるほとんどのエラーは,生産過程の欠陥,事故,未然事故に関係を持っている.製品の品質がはっきりと判るような生産現場では,生産過程の欠陥はその対策を考える上であまり問題はない。これに対して,製品に現われているある現象が不良であるかどうかについて,一致した見解が得られない場合がある.こうした場合は,欠陥かどうかを決定しやすくするために,許容範囲について一層詳しく定義する必要がある。

エラーというものは,たとえそれによって重大な結果が生じなかったとしても,大変重要なものである。なぜならばそういうエラーでも,あとになってもっと重大なエラーを導くことになるかもしれない生産過程の何らかの欠陥を示しているからである。この点は従業員に十分に強調して知らせておく必要がある。というのは彼らはあるエラーと別のエラーとの間には関連性があるということを普通よくは知らなくて,重大な結果に至らなかったエラーを軽視してしまうからである。 このことは,事故と未然事故との関係についても同様である。

エラー誘発条件および事故誘発条件の分析の真のねらいは,“ 作業状況”が望ましいものではなく,そこで働く従業員に過度の要求をしているような条件を持っていることを,正しく把握することである。したがって明らかにすべき点は,例えば次のような諸点である。

仕事の具体的内容は,従業員の能力で遂行できるものであるか.また,従業員を疲労させたり不快にさせるような事柄を含んでいないか。情報のフィードバックは十分か。過度の正確性や動作を要求していないか.温度,騒音,照明などの物理的環境は適切であるか。実際には前掲の図表6.2.3に掲げてあるような諸点のおのおのについて明らかにしていかなければならない。
おのおののエラー原因除去活動チームは,定期的に会合をもって(経営サイドは参加せずに),持ちよったメンバーからの報告を吟味する。その上で全員が提案づくりをして合意を得る。合意した内容は,経営サイドに提出するエラー報告書,エラー誘発条件報告書,事故誘発条件報告書に書きカロえておく。こうしてできあがった報告書はすべて,企業の上部組織に必ず提出しなければならない。そうすれば,たとえそれらの提案が具体的に実現されない場合でも,少なくとも問題が存在することだけは全社的に明らかにしておくことができるからである.

エラー原因除去活動における諸提案の評価各チームからの提案については,専門家で構成された委員会が正しく評価しなければならない。その際には,次の諸点から吟味する必要がある。

1.技術的な価値 提案された再設計は,本当にエラーとその影響を減少できるかどうか。
2.非技術的な価値 提案された再設計は,例えばよリー層の職務満足を生み出すというような,技術的な面だけではない他の面での改善を生み出すかどうか.これらの非技術的要因のなかには,無形ではあるが金銭的には計り知れないほどのものもあるのである。例えば定着率を高めたり欠勤率を下げたり,職場の苦情を減らせることもよくあることである.
3.コスト効果 再設計のために要するコストは,推定されているエラーの減少やその他の価値あることに引き合うか.
経営サイドが,エラー,エラー誘発条件,事故誘発条件を正しく評価するためには,経営サイドにとって何が重要であるかを明確にしておかなければならない.この何が重要であるかは,金銭ないし顧客を減少させることによる損失,エラー発生のきさし,提案に対する正しい対応に要するコスト,の3つの要素で決定するのがよいが,それぞれの要素は,次に示すスケールで計算して相対的に評価することができる(スウェインより改表)。

く評価に際しての1つのスケール>

1 潜在しているエラー誘発条件の結果

a.100,000ドル以上の損失と1,000人以上の顧客の喪失
b. 10,000    ″      100  〃
C. 1,000     ″     10  〃
d. 100      ″     1   〃
e.問題とする必要がない

2.同じエラーが起きる傾向

a.1月に数回
b.1月に1回
C.1年に数回
d.1年に1回
e.1年に1回以下

3.改善に要する費用

a. ~ 100       ドル以下
b. 100 ~ 1000     〃
c. 1,001~10,001    〃
d. 10,001~100,000   〃
e. 100,000       ドル以上

このスケールが粗いものであることは明らかであるが,経営サイドが処理しなければならないエラー誘発条件をある程度数量化する方法を示している.すなわち,それぞれのスケールでeに分類されるエラー誘発条件もしくは事故誘発条件はさておくとしても, aに分類されるものについては真剣に取り組まなければならないことは明白である。

QCサークル活動
エラー原因除去活動の変形がQCサークル活動である.QCサークルは1963年に日本で始まり,それ以え品質管理の面で日本で非常に成功をおさめたものである。

QCサークルの本質は,従業員の全社的参加によって問題の解決をはかろうとすることである.まず同じ職場であるいは相互に関係のある仕事をしている警員,管理者,生産技術者の8~ 10人で自主的にサークルを組織する.彼らは品質管理の統計的手法をはじめとしてアメリカでなら品質管理の専門技師になろうとする人が受けるような訓練を受ける。こうした訓練のなかには,不良品を生み出す主要な問題を取り出すパレート図,一種のFTA図のような特性要因図,ヒストグラム,各種の図,管理図,層別,二項分布,などの使い方も含まれている。

サークルの会合は,最低1月に1回は開かれるが,これには特別の手当が普通支払われる。会合では1人の進行役(たいてい管理者がなるが)の進行lζ より,製品の不良に影響ある問題や解決すべき問題を選び出す。次いでパレート図を使って,見出されている不良に最も大きく影響している要因を分析する。さらに,その問題の特定の原因を決定するため特性要因図を作成する.そうして,不良率の減少をきちんと見込んだ上で,生産手順の改善,設計変更などの考えられる解決策をサークルとして勧告し,解決のため実行を試みるのである。これらの総てのことに対し,経営サイドが積極的に協力するのはもちろんである。

事故原因除去活動とQCサークル活動との基本的内容は,多くの共通点をもっている。例えば,問題解決を志向していること,メンバーが同等の立場で参加すること,経営,技術,生産の各部門が互いに関連をもっていること,等々の諸点である。ただし、QCサークルは,たとえそれが学問的であるよりはむしろ実際的であるとしても,品質管理の統計的手法の訓練を受けていること,間題の発見に際してパレート図や特性要因図を使用するなど,きちんとしたやり方をすること,さらにこれは最も重要なことであるがチームヮーク,誇り,会社との一体感などが重要視されていること,等々の点でエラー原因除去活動とは異なっている。これらの点は,アメリカの経営者にとっては極めて日本的と見える点でもある。

QCサークルが用いる分析手法
QCサークル活動の訓練では,パレート図と特性要因図の2つが重要な柱である。

パレート図 問題解決の枠組みを設定するために,データを重要性にもとづいて整理し互いに結びつける手法のことをパレート分析という。次に紹介する内容は,アメリカの品質管理学会編の『QCサークル訓練の手引き』からの引用である.パレート分布は,問題にしようとしている個々の要素に対して,その数量的な値そのものよりも,値の順位にもとづいているものである.具体的には次のような手順による。

1.関係のあるすべての要因の列挙.
2.個々の要因を同一単位の尺度で計算する。
3.計算結果にもとづいて各要因を順番に並べる。この際,要因の分類はしない.
4.各項目と各要因の計算結果の累積分布を求める。具体例を下に示す.

こうして得た分布は,例えば縦軸をパーセントに,横軸を不良の種類として, 1つの曲線にすること力おきる.これがパレート図で,これを見れば誰でも,いくつかの要因が他の要因に比して異常に大きいこと, したがってそれゆえにこそ,その要因に徹底的に取り組む必要があることが一日で判る。下に掲げた具体例でみれば,Aという不良が全体の80%を占めていることが明確で,この不良にこそしっかりと注目しなくてはならない。

特性要因図 この手法は1950年に石川が開発したもので,ある結果が起きることを明確にし,その上でその原因となる因子を減少させようとするものである。因子間の相互関係は図表6.2.4に示すように,ちょうど魚の骨の図のように画く。

この図を画くことによって,主要な要因はまず人間の能力(manpower),機械(machine),生産方法(method),資材(material)の4つのMにわけて列挙することができ,次いで順次下位原因に分類していくことができる.この手順を起こり得るすべての原因が挙がるまで続けていく。こうして種々の要因をそれがある結果なり問題にどのように影響するかという観点から徹底的に分析するのである。

QCサークルの考え方に対する主な批判は,「あれは日本人の社会でしか使えないやり方である」ということである.換言すれば,西欧化された従業員たちからは,QCサークルに必要な協力,チームヮーク,やる気を得ることは困難である,ということである。

QCサークルというやり方は,日本で最初に採用され,確かに日本では非常に成功をおさめており,また多数のアメリカのプラントで試みられ良い結果を示したであろう.しかしこの方法はアメリカ全土で広範囲に試みられるということはなかった. その理由は,アメリカの企業の経営者がこの方法に抵抗を感じているからである.

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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