コラム・特集

2.1 はじめに

Eハンドブック

第6部 人間工学


第2章 人間エラーの低減

2.1 はじめに

生産過程における人間のエラーを減少させるために今までに行われてきた方法を考えてみると,「欠陥製品を作るな」というスローガンのもとに従業員の採用,配置,訓練に重点を置く,というやり方に頼ってきたといえよう。 しかしながらこうしたやり方は,ある水準のコストで最高の品質を得られることが予想されている場合に,活用されてきたのである。

こうした活用は,生産過程における人間のエラーの性質,頻度,および影響に関する正しい理解を基礎としている場合には,その目的を達成すると考えられてきた。さらに,「もっとしっかりとやらなくてはいけない」と従業員のやる気を起こさせるZD運動のようなやり方ではなくて,「作業に関係する1つ1つの要素のほうが,エラーの原因になり得る」と従業員が自主的に考えるように仕向けることができれば,エラーを減少させることに対する従業員の態度を一層積極的にすることができる。このようなやり方でもある「作業状況改善法Jとよばれる考え方(スウェイン)は,従業員の消極的な態度を問題にするのではなくて,エラーを起こし易い傾向を持っている“作業状況”を問題にする,という特徴をもっている。換言すれば,エラーを意識的に,あるいは意図的にしでかす従業員はまず存在しない,という考え方を基礎にしている。

「作業状況改善法Jは,エラーと生産不良を生み出す蓋然性を減少させるために,次のような事柄について慎重に設計しようとするものである。(1)何を生産するのか(製品),(2)どうやって作るか(道具。工作機械など),(3)設計図と生産上の諸指示とをどのように書きあげるか,(4)生産の手順をどうするか,(5)作業環境をどのように設定するか。この「作業状況改善法」の鍵は,生産現場の個々の従業員を設計チームの一員として活用しようとすることである。

もし,生産するための具体的仕事内容がすでに定められている場合には,この「作業状況改善法」は,エラーを誘発しそうな状況の把握とその排除または変更に重点を置くことになる.いずれにしても,最終的な結果は同じで,従業員が遂行する具体的な仕事を,その従業員の能力や限界と矛盾しないようにすることで,これは,ルクが「真の生産力の倉J造」とよんだものである。

人間のエラーの性質
人間のエラーの減少について考える前に,まずエラーとは何かについて知る必要がある.すべてのエラーというものは,みんな異なっているからである.人間のエラーは,発生する頻度も発生の仕方も変わる。特に重要なことは原因によっていろいろと変わるといことである。例えば, 1つのエラーが製品の品質に影響する場合もあれば,そうではない場合もある.影響するにしても,それが大きい場合もあれば小さい場合もある。様々の製造工程でエラーは発生するのである。また,エラーは様々な原因から生ずるものである.例えば,不正確であったり説明不足の設計図や生産指示書,不適切な工具,劣悪な作業環境,人間工学的に配慮されていない生産設備,生産現場のレイアウトのまずさ,等々,エラーの原因は数多くあり,種類も豊富である。

製品不良,製品の破損,事故というものは確かに人間のエラーの結果ではある。しかし次の点は重要である。もし機器の材料,構成要素,あるいは装置の一部が正しくその役割を果たしていないとするならば,それは間違って設計され選択され,適用され,製作され,受け入れられ,取り付けられ,使用され,保守された結果である.これを同じように,もし従業員がその仕事に向いていないためにエラーが起きるのであるならば,それは会社の採用,配置,および訓練システムが適切ではなかった結果なのである.そもそも従業員というものは単なる生産システムの一部であり,一方その生産システムは自然にできあがっているものではなく意識的かつ意図的に作られたものであることを考えれば,そのシステムを設計した人々は,そのシステムで起こり得るいかなる不適切な出来事に対しても責任があるとしなければならない。したがって, もしシステムが適切に作られていないために,エラーが起きるのであるならば,システムを改善することによって,同じエラーは避けることも排除することもできる。人間のエラーとはそういうものであ。

人間の可変性
人間のエラーを理解するには,人間の可変性についてまず理解する必要がある。エラーというものは,この可変性という因子が果たす1つの働きであるからである.人間という存在ほど可変性を持っているものはない。同じことを三度同じようにできる人はいない。 したがって人間の1つ1つの動作は,それぞれがエラーとなり得るものである。

機械工作においてある水準の許容誤差の存在を認めさるを得ないと同じように,人間のエラーを完全に排除することはほとんど不可能である.しかし,“ 作業状況”が不適当であるために起きるエラーは排除できる.どうしてエラーが起きるのかということと,それらのエラーに関し何ができるかということとを,もっと学ばなければならない.そのためにはすでにできあがっている“作業状況”で発生する可変性には2つのタイプがあるという事実を知る必要がある。

例として,ライフル射撃について考えてみよう.的を狙って10回射撃して中心からはずれたものをエラーとすることにする。命中する場所は的の上でいろいろと散布するが,この散布の仕方は,これまでに述べてきた可変性と考えることができ,大きく2種類に分けられる。第1のタイプは,「不規則的可変性Jで,図表6.2.1に示すように,的の中央を中心としてある程度まとまった範囲に散布しているという特徴を持っている.変化性が大きいときは,的そのものにも命中しないことがある.この命中点の散布に注目しなければならない。

これらの図表6.2.1 不規則な散布 図表6.2.2 規則的散布規則性の無いエラーは主として人間が持って生まれた変化性から生じるものであり,従業員の採用,訓練,管理,能力開発によってある程度は抑制できるものである.例えばこのライフル射撃の場合でも,訓練によって射手が自分の可変性(不安定性)を減少させ散布を集中させることができるようになる。

第2のタイプは,「規則的可変性Jで,図表6.2.2にあるように命中点が的の右側に偏する,というように一定の傾向を示すという特徴を持っている。全体としての散布度は小さいが,照尺の調整が不適切,というような何らかの要因によって右側に偏した散布になっている。この要因を見出して適当に処理すれば,こうした偏りは解消する。

このライフル射撃の例が示すように,ある種のエラーというものは,“ 作業状況”そのものが持つ何らかの要因(この例の場合,照尺の調整が不適切)によって生み出されているものであり, IEの技術者や人間工学の専門家が発見して排除しなくてはならない性質のものである.もし従業員が適切に選択され訓練されているならば,規則性の無いエラーは許容すべき最低の水準以下におさまっているはずである。したがって,従業員の選択や訓練が適切であるにもかかわらず,生産過程におけるエラーの発生が多い場合は,“ 作業状況”に何か原因があるのであって,それは発見して対策を講じることができるはずのものである。

エラーの発生に規則性が無い場合は,従業員の採用および訓練に焦点をしばってエラーの減少に努力することが効果的である.一方,エラーに規則性がある場合は,“作業状況”そのものに何か原因が無いかどうかに目を向けるべきであり,改善の努力もこの方向に沿って進めなければならない。

したがって,問題のエラーがどんなタイプのものかをはっきりとさせない限り,その減少のための有効な対策
を講じることはできない.さてそのエラーのタイプは,次の4つに大きく分類することができる。

1,必要なことをやり間違えるというエラー.
2,しなくてもよいことをしてしまうというエラー.
3,必要なことではあるが,タイミングを間違えるというエラー.
4,標準以下の下手なやり方をしてしまうというエラー.

以上が大きな分類であるが,アルトマンがェラーをもっと詳細に分類しているのは大変参考になる。

ところで,エラーというものは,それが発生した“作業状況”と明確な関連を持っているものである。そうして,あるエラーがある1つの原因によって発生するということは大変まれで,たいていの場合はたくさんの原因が働いているものである。すなわち,作業に関係する人間の行動・動作に影響し得る要因はすべ作業に関連したエラーを発生させうるのである.

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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