コラム・特集

1.6 情報処理能力の特性

IEハンドブック

第6部 人間工学


第1章 精神運動作業能力

1.6 情報処理能力の特性

知 覚
情報の検出は最初の重要な認知機能である.精神運動パフォーマンスにとって最も重要なのは,視覚系と運動感覚系である。後者は,オペレーターの手足の位置や動作の情報を提供する。一般に,知覚情報は,刺激の変化によって伝達される。たとえば,明るさの変化のごとく.感覚系はこのような変化に敏感である。したがって,検出可能な最小の刺激変化,つまり最小可知差異(JND),云い換えると閾値を考えるとよい。視覚系は,さまざまな感覚のうちでも典型的で, JNDはその変化が背景状況に対して一定の割合で増加していく,この比例性からウェーバー比が生まれる(図表6.1.7)。


運動感覚系が情報を伝える能力は,他の感覚系の場合と類似しているようである.マルテニーク(Marteniuk)らは,オペレーターに45° ,90° ,125° の水平運動を再生するように要求した。彼らの研究結果では,JND感受性はそれぞれ195° ,220° , 213° となった。これらの値は非常に低いが,むしろ,重要なのはそれぞれ0.043(195/45),0024,および0.017のウェーバー比がえられたことである。言い換えれば,運動感覚系は,比例的に一定な感受性ではなく一定した絶対感受性を示す点で,他の多くの感覚とは異なっているようだ.このJND感受性には比較という基本的機能が含まれている。“並列的”比較では,オペレーターは通常きわめて多くの異なった対象物を識別できる.ずっと難しい機能は絶対判断である。この場合, 1つだけ独立に提示された対象物を認識したり識別することが要求される。人間は驚くほどこの能力に限界がある。絶対判断で効率よく伝達できる情報量の限界は,約3ビット(ビット/秒ではない。ビットは情報量の単位である.1ビットは同じ可能性をもつ2つのものから1つの正確な識別を可能にする情報量である)らしい。このことは,オペレーターが単一の感覚次元で確実に認識できるのは約8段階にすぎないことを示している.たとえば,ポラッ(Pollack)は,大きさだけが異なるか,または音の高さだけが異なる聴覚刺激を識別できるようにオペレーターを訓練した。彼らは大きさが異なる刺激では5つ,音の高さが異なるものでは5.5の刺激を弁別できたにすぎなかった。

このことは,日常経験と矛盾するようにみえる。私たちは多くの異なった音をたやすく識別できる。

しかし,これらは通常,同一時点でみれば多くの感覚側面で異なっているからである。人間は,自分の絶対判断能力を向上するために,これらの同時的相違を利用できる.しかし,異なった感覚次元が組み合わせられると,絶対判断は加算的には増えない。たとえば,ポラックは,刺滉いゞ音の高さと大きさの両方で異なっているとき,105(大きさ弁別では5,高さ弁別では5.5)ではなく, 8刺激しか識別できないことを明らかにした。

運動感覚における絶対判断能力も同じくまったく低い。たとえば,マルテニークは,異なった長さの動作を識別するように被験者に求めたが, 6つの動作しか正確に識別できないことを明らかにした。

これらの事実が示していることは,絶対判断を必要とする作業設計はできることなら避けたほうがよい,ということである.非常に熟練した作業者は,比較の基準として用いられる優れた内的枠組み,またはモデルをつくり上げることによって,多少ともこの限界を克服することができる.経験ある作業者は,良い製品はどのような外見でなければならないかについて自分なりの正確な考えをもっている。だから,検査のためのテスト製品が提示されると,“ 並列的”比較――これは人間の優れている技能である一一と同じことをやるのである。しかし,新人にとっては,絶対判断でやろうとするのでずっと困難なものとなるのである。

意思決定
意思決定とは,オペレーターが知覚処理で利用可能となった情報を評価する過程のことである.意思決定は,動作の過程を選ぶところで終る.意思決定には重要な特性が2つある。すなわち,必要な時間と精度である。決定の遅れは,限界容量と不応期の制約という2つの原因から生じる.限界容量は,一定の速さでしか情報を処理できないために生じる.1つの決定に含まれる情報の伝達量は,提示可能な刺激数およびオペレーターが選択する選択反応数にともなって対数的に増加する。一般に,提示可能な刺激数と反応数が2倍になると, 1ビット伝達情報が増す.たとえば,オペレーターが2つの異なった部品を2つの部品箱に選り分けなくてはならないとき,それぞれの決定には1ビットの情報量が含まれている。4つの部品の選別の場合は,それぞれの決定は2ビットになる。 もっと細かくいえば,

Ht((伝達情報量,ビット)=Hr+Hs一Hsr

ここで,

Hr(反応情報量,ビット)=― Pilog Pi,

ここで,Pi=i番目の反応が発生する確率

Hs=(束」激情報量,ビット)=― Pilog Pi,

ここで,Pj=j番目の刺激が発生する確率

 Hsr(S― R結合情報量,ビット)=― Pij logPij

ここで,Pij=刺激jと反応iが結合して発生する確率(これは決定の密度を表わす尺度でもある。)

N個の同じ刺激数と反応数で完全に正確な決定が行われる場合には,上記のHtの公式は次のようになる。

   Ht=logN

ヒック(HiCk)18は,単純な決定の反応時間は,現在,ヒックの法則とよばれている次の関数にしたがうことを明らかにした。

 RT=Kp+Cd× Ht

ここでKpは,意思決定と関連していないすべての遅れの総和を示し,またCdは1ビットの情報を処理するのに必要な時間である。つまり, 1/Cdは処理容量の1つの尺度である。視覚的な情報に関しては,ヒックは,Kpは150 msec,Cdは220 msec/ビットの値であることを明らかにした。

何も意思決定が行われないとき(つまり,いつ,どのような情報が提示され,どのような反応がなされなければならないかをオペレーターがあらかじめ知っているとき)反応は最も速い。図表6.1.6は,このような条件下で様々な感覚系に提示された情報に期待される最小反応時間(Kpの値)を示す(示された値の範囲は刺激強度の効果を表わす)。

意思決定過程で伝達される情報は,その成果の平均的な正確性に依存している.もし平均的な決定精度が低くなると,それぞれの決定には少ない情報処理ですみ,その結果速く処理される。これは速度―精度のトレードオフ効果である.もしオペレーターが多くエラーしてもかまわないならば,その意思決定の速度を速くすることができる。ヒックは,制約範囲が広い場合,スピードの増加は精度の損失によって補われること,だから,単位時間当たりの情報伝達率は約1ビット/220 msecで一定であることを明らかにした。しかし,オペレーターが非常に速く行動するようにしてこの制約範囲を広げようとするならば,精度は急速に低下して,情報伝達率は下がってしまう。

このような現象は,オペレーターが速度を約20%以上あげようと努力するときに起こる.意思決定の遅れをもたらす他の原因は,継続的決定を分離させる約300 msecの固定した遅れである.これはいわゆる心理的不応期といわれるものである。先の決定がなされてから300 msec経過しない内に情報が提示されると,意思決定は心理的不応期が終わるまで延期される。この不応期の遅れは練習によっても短くならない。

決定の遅れとヒックの法則の勾配は,ともにS― R適合性が大きくなるにつれて急速に低下していく.S― R適合性とは,結合する刺激と反応の間の“自然さ”のことである.自然な関連をもついくつかの例は,人間の生得的な特性を反映している.したがって,押しボタンを効果的に照明すればそれを押す反応が引き出される。これとは別の関連の例もある。たとえば,アメリカでは,室内灯をつけるにはスイッチを上方にたおすといった例がそうである。

決定の精度は,オペレーターがとる反応速度と精度の戦略だけでなく,内在的な心理的性質にも基づいている。これらのいくつかの心理的性質を図表6.1.8にあげた。

反応制御
動作の正確性は,反応制御段階で大きな制約をうける。フィッツは情報理論にのっとって動作の困難性(ID)の指標を次のように定義した。

 ID(ビット)=log(2A/W)

ここでAはオペレーターが動作を完了するために動かさなければならない動きの大きさまたは距離であり,またWはオペレーターがねらう目標域の幅である。

フィッツは開始された動作を完了するのに必要な時間は,その動作のIDから次のように予測できることを明らかにした。

 MT=Km+Cm× ID

ここではKmは反応する身体部位に依存する遅れの常数(つまり,足と手はKmに関して違った値をもつ:手の動作では,Kmの一般値は0177秒)である。また,Cm(秒/ビット)は反応制御段階の情報処理能力の指標である(1/Cmはそのチャネル容量である。一般は,Cmはおよそ0.1 sec/ビットかそれ以上である。2つの目標位置の間を前後に動くような反復反応の場合にはCmは単純な1つだけの動作の場合よりもわずかに小さい)。

動作に関するより詳しい研究によって,動作には次の2つの側面があることが明らかにされている。1つは,最初の大まかな弾道的な位相で,オペレーターが目標のごく近くまで(動作の動き幅の約7%の誤差で)動作する場合であり,その次にオペレーターが一連の徴細で正確な修正的制御動作をする第2の閉ループ相が続く。それぞれの動作の修正には約300 msecが必要であり,93%エラーが減少する.第2相の動作には視覚情報が用いられる。この第2の相は,260 msec以下の動作にはみられない。少なくとも視覚的補助は,この時間より短い動作には用いられない。方向や速度の急速な変化(つまり修正)を含む動作には,高い精神負担が伴うので,避けられるべきである.なめらかで連続的な動作ほどより効率的である。

全体的なパフォーマンス特性
知覚,意思決定,および反応制御の諸特性は一つに組合わせられる。閾値を十分超えた信号の場合には,図表6.1.6にあげられた反応時間が,知覚処理やその他の避けられない遅れの予想値として用いられる。これらの要因が組合わ反応を選び,対応する動作を遂行するのに必要な時間は次のようになろう。

全体時間=〔知覚遅れ〕+〔意思決定遅れ〕+〔動作時間〕
全体時間=〔Kp〕+〔Cd× Ht〕+〔Km+Cm×log(2A/W)〕

この公式で,動作,決定,および知覚の各変数の関数として,動作に必要とされる時間の変化が予測できる.

応用例
上に述べた公式の応用例として,色分けされた部品の入っている共通部品箱に手をのばし, 1つを取り出し,各部品にも、さわしい特定の部品箱までそれを運び,その中に入れるという選別作業を考えてみよう。N種類の部品(従ってN個の部品箱)があるとしよう。また共通箱からその特定の各部品箱までの距離はA。その特定部品箱のおのおのの幅はWであるとしよう。特定部品箱からもどって共通箱から部品を取り出すのに必要な時間Kwは10 sec と仮定する。

図表6.1.9は,理想的な形では,この作業の重要なパラメータ,すなわちN,W,Aの関数としてサイクル時間がどのように変わるかを示している。この計算では,部品の色を識別するのに150 msecの知覚遅れがあると仮定している(実際の作業状況では,作業者は作業を遂行する間,眼や頭を動かさなくてはならないだろうし,日の焦点調節なども必要であろう。これらの時間は合計で0.75 secで,動作の大きさのようなパラメータで変わるけれども,元来精神的操作と結びついた遅れに限定したこの理想的な例では,まったく考慮されていない)。


ここでは,とり出した部品をどの部品箱に入れるのか決定するのに, 1ビット/220 msecの処理をすると仮定されている。精度が強く求められているので,エラーはまれにしかおこらないと考えられる。Kmには0.177 msecの値を入れ,オペレーターの動作制御チャンネル容量は, 0 2 sec/ビットとする。“ 目標の幅”(つまリオペレーターが選別した部品を入れる特定の部品箱の大きさW)と,必要な移動距離Aの長さは完全に,相互に補償しあつていることが表からわかる。

 

上の議論では,離散的な動作に焦点をあててきたけれども,この考え方はトラッキングのような連続作業にも同様にあてはまる。人間の情報処理システムに固有な遅れは,オペレーターが反応する連続的情報の頻度に上限をもたらす。人間はl Hz以下の連続的な信号に対してのみ,効率よく処理できる。連続的な,時間とともに変わる入力信号に反応する人間は,1秒当り約2回の速さで一連の断続的な修正動作を行うサーボ機構としてモデル化できる。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

関連記事一覧

2019ものづくり公開セミナーガイド

B2Bデジタルマーケティングセミナー

ものづくり人材育成ソリューション

マーケティング分野オンラインセミナー