コラム・特集

1.4 精神運動パフォーマンスの精神的側面と情報処理的側面

IEハンドブック

第6部 人間工学


第1章 精神運動作業能力

1.4 精神運動パフォーマンスの精神的側面と情報処理的側面

精神的活動
精神運動パフォーマンスでなされる一見単純な動作でさえ,通常は複雑な一連の精神活動に依存している。クロスマン(Crossman)はたいていの精神運動作業には,5つの主要な精神的活動または段階があることを指摘した.すなわちそれらは,計画,開始,制御,終了,そして照合である。

計画では,オペレーターは何がなされなければならないのかを判断し,その目標を達成するのにも、さわしい一連の活動を選8ゞ.適切な時点で筋肉群を活性化する神経信号が流され,一連の活動が始まる。それから,動作やその他の活動を制御して,それらが計画通り進行していること,最終の目標を過不足なく達していること,そして予期しない事態が生じても修正されていることなどを確かめる。最後に,オペレーターはいつ動作が終わらなければならないかを知らなければならない。その後,一連の活動の総合的な効果を最初の計画の目標と照合し活動がさらに必要かどうかを決める.

これら5つの精神活動は,オペレーターの作業全体(たとえば,毎日の生産割り当てを満たすこと)や作業全体を構成している要素動作(たとえば,ワイヤーや他の小さな部品へのリーチ)を記述するのに用いることができる。
精神運動パフォーマンスの情報処理モデルこの重要な精神的活動を遂行するオペレーターの能力,つまり効率的に精神運動作業を行う有旨力は,認知の過程やその機能を基礎としている。これらの基礎的な精神的機能および過程(また段階)は図表6.15にあるとおりで,これは,人間が作業をするときの情報処理モデルを示している。


このモデルでは,オペレーターは遂行作業に関する情報を絶えず提示され,自分の作業目的を達成するために用いる(つまり処理する).オペレーターは情報が流れる1つのチャンネルと考えられる。図表6.1.5のモデルでは,3つの主要な情報処理段階が示されている.すなわち,知覚,意思決定および反応制御である。さらに,作業遂行に必要とされる情報を貯えるための3つの記憶システム(感覚記憶,短期記憶,長期言己憶)も示されている。全体としての精神運動パフォーマンスは,これら3つの主要な段階の情報処理容量と3つの記憶システムの貯蔵特性に依存しており,またそれらによって制約をうけている。

 

情報の過剰負担と選択の必要性
精神運動パフォーマンスは,情報処理の諸段階の次の2つの特性により,それなりに限界を生じる。すなわち,(1)それらが機能を果たすためには最小限の時間を必要とすることと,唸)それらが単位時間当たり処理できる情報量には限度があるということである。もし情報があまりに高速で到達すれば,過剰負担となり,効率よく処理できない.この情報を処理できる(つまり伝達できる)速度限界が,つまリチャンネル容量である。

この限界いっぱいになるには,3通りの状況がある。まず,作業がもともと難しく,ある特定の段階に過度に情報が送られることである.もし関連する(諸)段階の処理容量が増すならば,精神運動パフォーマンスはよくなる。 カルスベーク(Kalsbeek)とサイクス(Sykes)は筆記作業の研究を行い,反応制御段階での容量増加に限界があるという証拠を見出した。

第2の過剰負担状況は未経験者によく見られるものである。典型的には,オペレーターの自由になる情報の多くは関係のないものか冗長なものである。ところが新人のオペレーターはこのことがわからず,必要以上に情報を処理しようとする。これは過剰負担をもたらし,その結果低いパフォーマンスにつながる。たとえば,オペレーターが製品の外見にそのわずかな,また関係ない細部まで多大な注意を払う(つまり処理する)ので,その結果,重大な欠陥を見つけることができなくなる。

同様に,動く対象物(たとえば,絶えず動いているコンベア上の製品)を取り扱っているオペレーターは,絶えず変化する位置を追い続けなければならない.もしその動きが速ければそれは,より難しくなる.しかし,このような場合でも,経験のあるオペレーターは,対象物の動きの冗長さをうまく利用できる。つまり,次のようなことである。ある時間tにおける対象物の位置Xは,時間t― Xという具合に,その位置を完全に予測できる。経験あるオペレーターは,単位時間Xごとに対象物の位置を見るだけでよい.現実には,経験あるオペレーターでも,必要の約2倍もの頻度で位置を見る。

しかし,新人のオペレーターはそれよりもっと頻回にこの情報をとるため,様々な処理段階で不必要な負担をもたらすことになる。

オペレーターが作業の本質的な情報だけに注意を向けるようになる過程は,精神運動スキルの発達の基礎となるきわめて重要なメカニズムである.冗長さを利用するためには,オペレーターは,作業の内的モデルを作り上げていかなければならない.この内的な認知モデルは,次にくる作業要求を予測するのに役立つ情報を用いる。したがって,先の例でいうと,コンベア上を製品が動く規則性をすでに知っていたオペレーターは,製品の位置を予測でき,不必要な情報の処理をすることはしない.熟練したオペレーターが新人よりも顕著に勝れている長所は,作業の正確な内的モデルをうまく利用できる点にある。

過剰負担が生じる3番目の状況は,2つの作業がオペレーターの注意を奪いあい,同じ限界容量に同時に情報を送り込む場合である.オペレーターは1つの作業だけの情報を処理するようになり,したがってもう一方の作業の遂行を思い切って無視するか,また,それぞれの作業からすこしずつ情報を処理するようになり,結局両方とも作業成績は低下するかのどちらかになる。

前に述べたモデルでは,産業オペレーターを情報流通率(つまり伝達率)に鋭敏な一連の段階として理解しているわけであるが,そのモデルは,過剰負担からオペレーターを守るためには情報選択機構が必要であることを強調している.内的モデルをもつことにより,本質的な情報だけを適切に選び出す能力は向上する.熟練したオペレーターとは,精神運動活動過程において処理すべき必要な情報だけを効率的に選び出す人のことである。

記憶システム
情報処理モデルには3つの記憶システムが含まれており,精神運動パフォーマンスのいくつかの本質的な機能に大いに関係がある.高速で到達する感覚情報を一時的に(1~ 2秒)貯える緩衝器(バッファー)として働く(感覚記憶).また情報を7“ チャンク”(言葉,名前,数字など)まで一時的に貯える(短期記憶),最後に,習熟や精神運動パフォーマンスの改善の基礎となる長期記憶である(長期記憶)。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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