コラム・特集

1.1 はじめに

IEハンドブック

第5部 人的資源の評価と管理

第1章 パフォーマンスの主観的側面


1.1 はじめに

本章の目的は,労働者,監督者,管理者たちのさまさまな主観的反応を,それらが仕事のパフォーマンス,究極的には企業の有効性(生産性)に関連しているので,再検討することである。主観的反応のデータを得るためにフォーマルのみならずインフォーマルな技法が論じられているが,仕事のパフォーマンスを向上させるためにもこのようなデータの効用について論議されている.明細な題目としては,疲労,ストレス,努力,快適さ,不快感,職務満足,そして避けなければならない方法論の落とし穴を含んでいる。

主観的諸反応― その重要性と順位
この章では「主観的Jという言葉は心の中に存在するものとして定義することができる。そのようなわけで,主観的諸反応は次のような口頭と文書にした表現を含んでいる.

すなわち,
・感情と気分
・意見
・態度
・判断
・不平
・評価

主観的反応により,個人の執務状況,集団のパフォーマンス,あるいは組織全体や工業会社の有効性を洞察することができる。本章の例からわかるように,いくつかの主観的諸反応(例えば,評価と感情)は,有効性の評価や日々の仕事の実施を指導するのに慣例的に使われているはずである。他の諸反応(判断と不平)は,個人の作業スペースやさらには広範囲な作業環境を設計したり再設計するときに役立つことができる さらに他の反応(例えば,意見)は,一つの組織のパフォーマンスヘの総合的有効性― あるいは多分,さらに一般的には非有効性――を評価するのに用いることができる.この後者の場合,状況は内科医が患者の脈博をとっているのに似ている.組織に何か具合の悪いところがあると(経営者によって)判断されると,指はその人間の構成要素に向けられる.具合の悪いところを発見する一つの方法は,感情,態度,不平,不満を評価することにより組織の「人的部分」の調査を行うことである.端的にいえば,主観的諸反応は「産出尺度」あるいは企業の能率の諸指標とみなすことができる。

ここで主観的とは別個のものとしての客観的な諸尺度について解説をさしはさむことが役立つかも知れない.IE技術者は,個人の福祉やパフォーマンス自体に対置される人的生産性に一般に最も関心をもつという意味で, システムのパフォーマンスの客観的な諸指標
に注意を集中することはよりありそうなことである.例えば,工場で技術者は製造単位,品質管理で不合格になった品々,売り手や消費者たちによって返却された欠陥生産物,故障や材料待ちなどによる機械や労働者の休止時間,材料歩留まり,工具破損量を気にするだろう.このような例は「客観的」の定義に該当する。

すなわち,知ることのできること,偏見を含まないこと,個人的な感情の入らない事項である。ここで主観的反応に焦点を合わせるならば,これらが個人的感情を含んでいるので,典型的IE技術者は主観的反応のデータを収集する諸技法について特別に教育されていないということが問題となる.人間を扱うときには,次のことを心にとどめておかなければならない。すなわち,人間は時々感情的になるし,理性がなくなると,何をしでかすか予測のつかない存在である。このような事柄は, IE技術者の領域よりも産業心理学者の領域に該当する。人間の主観的反応は長い間,無断欠勤,労働移動,災害,苦情,サボタージュのような生産に対しての「隠れた」コストの中,こヽにあると思われてきた。

1970年代には,工場労働者の「福祉Jへの関心が,労働安全衛生局(OSHA)の変遷と,「労働生活の質Jとして知られるようになってきたことへ興味がでてきたことにより高まった.ますますIE技術者は,労働者の福祉に関心を持たなければならない。この意見は2つの含みをもっている。

すなわち,(1)IE技術者は,パフォーマンス向上の目標に対して産業心理学者および人間工学者と密接に協働すべきであるそのために,(2)IE技術者は,主観的反応のデータの利用に精通するようにならなければならない。

個人差の問題
人間の心理の研究において立証したいくつかの基本的なことの1つは,人間はそれぞれ違っているということである 我々は非常に多くの点で一一遺伝的背景,性格,能力,興味,価値観,動機づけ,情緒の応答性――異なっている。そして年齢,性,身体の大きさや体型,体調のような他の変数が個人差の基盤に付加される 個々の従業員のパフォーマンスを予測することまでするならば,その課業カリト常に難しくなるのは不思議でない単純なモデルあるいは1つの式――すなわち,パフォーマンス=能力×動機づけ――を考えてみよ.我々はある時期での個人の能力水準を道理にあった出世で判断することができるかもしれないが,動機づけを測定する我々の能力は,しばしば同一人への特殊な場合に対するものと限定されなければならない.すなわち,動機づけは捕えどころがなく,変わり易く,不安定な存在である。

本章で論議された主観的反応のいくつかによって一般に影響を受けるような動機づけもある 次の2つの例は,人間のパフォーマンスに関するものとして個人差(及び主観的反応)の役割を明らかにするために呈示されたものである.まず最初は,自主的に仕事をする集団のケースを取り上げよう。生産性に対するこのアプローチの目標は,集団内での個人間の熟練の開発である.課業がある周期的な基準で(例えば,毎日とか1日以内)メンバーの間で交替することのできるところまで開発することであり,これはまぎれもなく産業での倦怠の問題を処理するためである。

しかし,それぞれの新しい交替制を始めるときには,誰が何をするのかということについての決定がなされなければならない.これは検討を要する.総ての労働者たちが喜んで,あるいは動機づけられて,このような集団の討論や決定に参加すると仮定できるとすれば,それは結構なことであるが,しかしケースとはならない.実に愚かにも,少しも気にしない労働者がおり,さらに誰かが彼らを変えるよう動機づけるという見込みはほとんどないしたがってこれが自主的な作業集団が,いつも効果的に仕事をするとは限らない1つの理由であり,あるいは少なくとも幾人かの個人が集団に単純に所属しないという理由である.また,それがこのような作業集団を組織したり,参加したりする態度を評価する理論的基礎の構成要素となる。

では1つの組織内でのコミュニケーション・チャネル(ネットワーク)の設計を考えてみよう1.何人かの理論家は組織内での集団(部,支店)を構成している個人間での平等主義で,マルチチャネル・ネットワークに賛成を唱えるかもしれない.事実,幾人かの個人たちは,特に階層制のなかで権力のある立場にある人たちは,注目の焦点や中心になり,すなわちコミュニケーションの中心となることで成功する人もいる。 しかし,このような喜びを共有しない人も何人かいるかもしれないということを憶えていなければならない。それらの人たちは自分の仕事をするのに,個人間のコミュニケーションは避けたいときめているので,むしろ一人でおかれたほうが良いと思っている.さらには,このような人たちを交際させるよう効果的に動機づけることのできる人はいない.また,そのような人たちを識別することが,組織内の適切な配置のために重要なことは明白である.このような人たちは「誤まった配置」をされており,コミュニケーション・チャネルの効率が高まらぬことの一因となるかもしれない程度までは,主観的反応のデータ(例えば,意見と不平)が,仕事のパフォーマンスに関係する人間の動機づけについての個人差を識別するのに役立つかもしれない。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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