コラム・特集

3.10 余裕時間

IEハンドブック

4部 作業の成果測定と管理


第3章 時間研究

3.10 余裕時間

遂行度レーティングに次いで,正常時間に割り付けられる適切な余裕時間の大きさが,時間研究手法の最も論点となる問題である。実情に即さない余裕時間の適用は,適正な正常時間を作成する場合の正確さと配慮をすべてぶち壊す可能性がある。作業者の1日中の作業遂行に対して現実的な許容時間を作成するためには,公正な余裕時間を正常時間に付加しなければならない。ストップウォッチ時間研究は比較的短期間に行われ,平均時間または選定時間を求める際,異常値,避けることのできない遅れ,人的要求のための時間など,時間研究から除外されるから,避けることのできない遅れやその他の正当な消失時間に対して,いくらかの付加時間を与えることが必要である。

余裕時間は,人的要求,避けることのできない遅れ, 疲労による遂行度の総体的な低下のために消費される時間を補償するために与えられる。できるだけ正確に公正な余裕時間を求めることが重要である。余裕時間は, 労使交渉における取引の問題であってはならない。

一般に,適用される余裕時間は,その時間研究のすべての要素作業に対して同一の割合ではない。ある種の余裕係数はすべての要素作業に適用され,他の余裕係数は努力要素にのみ適用され,また他の余裕係数は機械支配要素にのみ適用される。

人的遅れと避けることのできない遅れとに対する余裕構造を決めるために, 2つの方法が用いられる。これらの方法は,全日生産時間研究とワーク・サンプリング法とである。

生産時間研究法のもとでは,観測者は同一種類の作業を行う小集団の作業者(通常3,4人)を 1日中観測する観測者は,各遊休時間の長さと理由を記録する。代表的なサンプルのデータを取ったのち(これには数日まれるだろう),観測者はそれぞれの作業中断に対して 消費された時間割合を計算する。例えば,工具修理,人的要求の処理,作業者支配外の機械休止時間など,作業者に対する支障のために消費された時間率を観測者は計算する。これらの作業中断時間に対してもまた遂行度レーティングを行う必要がある。なぜならば,このようにして得られたデータは,いずれの時間研究に対するものと同じように,正常遂行水準に調整されなければならないからである。

この生産時間研究法は,観測者と時間研究の対象となっている作業者との双方にとって,非常にうんさりするものである。数日間にわたって,朝職場についた時から夕方タイムカードを押して退出するまで詳細に観測されると,全く当惑させられてしまう。生産時間研究の他の1つの短所は,データがしばしはわずか2または3日間に対して収集されることである。これは,不適切なサンプル,またはその母集団からかなり偏りのあるサンプルですらあるかもしれない。

適切な余裕時間を設定するよりよい方法は,ワーク・サンプリングである.これは,ある1つの作業状況を構成する色々な行動のために消費される時間の,総時間に対する割合を調べるために用いられる手法である。このワーク・サンプリング法では,長期間 (通常2週間以上)にわたってとられた多数の観測値(通常2,000以上) が,ランダムな時点で色々の作業者についてとられる。もし作業者が関与する作業以外の正当な事象の総発生回数を作業中であった観測総数で割れば,その答はその作業者集団が現在とっている作業時間に対する余裕時間の割合に等しい。 図表4.3.11は,14台の切削設備を含む重機械工場における,避けることのできない遅れと人的遅れに対する,余裕時間を求めるためにとられたワーク・サンプリングの要約を示す。

この調査では,作業者は人的余裕のために作業日のうちの25%しか消費しなかった。避けることのできない遅れである「クレーン待ち」は,作業日のうちの4.8%を占めていた これら2.5%や48%は,正常時間に付加されるべき余裕率を表していないことに読者は注意しな ければならない。なぜならば,このような余裕率は,全国8時間に依拠しているからである。正常時間に付加されるべき余裕時間は,正常時間に対する割合に依拠しな ければならない。

余裕時間資料を収集するためにワーク・サンプリングを用いる場合,前もって次の諸点に注意しなければならないサンプリング法では,ストップウォッチは用いられない。というのは,観測者はランダムな時刻に時間研究の対象となっている工場部分を通り抜けて,観測時点で作業者が何をしているかを精密に記録することしかしていないからである。このようなわけで,ワーク・サンプリングでは,調査者はその調査期間中パートタイム的な仕事しか必要としない。

これに対して,生産時間研究では,調査者はその調査期間中の全時間を通じて忙しく調査活動を行っている。

1.組合および当該作業者が,ワーク・サンプリングが行われていることを承知しているかどうかを確認すること。
2.そのワーク・サンプリング調査を類似の機械または施設集団に限定すること。
3.実状に合った大きさのサンプルを用いることサンプルの大きさは,次式から推定することができる。
4.ランダムな観測を行うに当たって,そのランダムな正確な観測時点で何が起こっているかを予想するのではなく,何が起こっているかのみを記録することに注意しなければならない。
5.個々の観測が,調査対象となっている直のすべての就業時間中の,ランダムな時刻に行われることを確かめなければならない(この目的のために乱数表を用いることができる)。
6.適度に長期間にわたって毎日観測を行う(2週間以上がよい)。

人的遅れ
あらゆる許容時間には,従業員がその全般的な安寧を維持していくための時間が含まれていない。これらの時間は,休憩室や水飲み場への歩行に使われ,典型的には作業日当り約20分となる。人的理由のために作業者が必要とする時間は,その作業条件,遂行されている作業の種類,作業者の年齢・体調・習慣に依存する。通常,作業日の5%に相当する 余裕時間(24分)が適当であることが分かるだろう。というわけで,もし正常作業時間 (余裕時間を除く)が420分で,作業日の5 %に相当する余裕時間を与えたいのであれば,その作業 時間に57%の余裕時間を付加すればよい(24/420=5.7%) 会社は,人的遅れ余裕の大きさについて取り引きをしてはならない。その大きさは,ワーク・サンプリングかそれとも生産時間研究の,いずれかに基づいていなければならない。10ないし15分間の小休憩時間を与えた会社は,このような給付を作業日の時間短縮とみなすべきであって,作業時間標準を作成するに当たって考慮に入れるべき余裕時間とみなしてはならない。今日,5%の人的遅れ余裕がアメリカの大多数の作業環境に適切である。この余裕はその時間研究のすべての要素作業に習慣的に適用されている。

疲労
時間研究の対象となっている努力要素に伴う疲労に対して,余裕時間を与えるのがよい方法と考えられている。これは,機械支配要素には適用されない。なぜならば,その間に,作業者は休憩し,蓄積された疲労を回復することができるからである。疲労は,作業能力の減退として定義することができるが,測定することが最もむずかしい。経験される疲労の量は,人によって大いに異なるばかりでなく,同一の人であっても日によって大いに変化する。それはどんな点からみても同質ではない。それは,厳密に肉体的なものから,純粋に心理的なものまであり,肉体的・心理的両方の結合したものもある。それは,ある人にとっては著しい影響を及ぼすが,他の人にとってはほとんど影響しないこともある。

3つの主要因が疲労の原因となる第1の要因は一般的な作業環境であり,明るさ,混度,湿度,空気の鮮度などが含まれる作業環境に関連のある。その他の条件としては,騒音水準とその時間長,作業域の彩色,直接環境などが含まれる。

疲労の原因となる第2の要因は,遂行されつつある作業の性質である身体運動の単調度が疲労度に影響を及ぼすが,これは実際の肉体的努力や筋肉のストレスからくる筋肉疲労についても同様である。

第3に,作業者の一般的な健康状態が経験される疲労の量に重要な影響を及ぼす肉体的健康状態と精神的健 康状態の両方が疲労と関係があるというわけで,疲労は従業員の家庭状況によっても影響を受け,情動安定性,摂取した休憩の量,食欲,年齢,一般的な体調によっても同様な影響を受ける。

産業界全体としての肉体的疲労の量は減少しつつあるというのは,職務設計と作業条件との両面で改善が行われてきたからである。ことに,機械化と自動化の進展によって,重労働の多くが職務から取り除かれてきた。しかしながら不幸なことに,大部分の疲労は肉体的なものではなくて,心理的なものである。労使関係部門の努力による注意深い職務割当によって,心理的疲労の量を最小限にとどめることができる。

疲労に対する適切な余裕時間は,作業条件と職務設計の両方に関して与えられるべきである。これらは両方とも,経験する疲労の量に直接影響を及ぼす。疲労度に影響を及ぼす一般的な健康要因に対しては,疲労余裕を与えてはならないというわけで,情動安定性,休息,食欲,年齢,肉体的成長度,力などの条件は,従業員選考の際に考慮すべきことである。

典型的には,作業日の終わり近くで生産性が低下する。このような生産性の減少は,疲労が大きく原因して いる。常に,生産率は一日のうちの早期部分で増大し, 第3時間以後減少し始めるという傾向がある。通常,昼食時間後の短時間,生産性の増大を期待することができる。しかしながら,生産性は間もなく減少し始め,その後その日の残りの時間部分,産出量は減少し続ける。

国際労働機構(ILO)は,人的遅れと疲労に対する。余裕率を定めるために,作業条件の影響を表にまとめている。これらの値は,図表4.3.12に示されている。この図を調べてみると,適切な余裕時間は時間研究の対象となっている各要素作業に対して計算されるべきことを指摘している。例えば,重さ30ポ ンド(約13.6kg)の鋳物の機械加工の時間研究では,「力の使用」に対する。5%の余裕率は,「鋳物を取り上げてチャックにはめる」と「チャックから鋳物を取り出してわきにおく」という要素作業にのみ適用される。

作業方法技師は,作業場を設計するに当たって,理想的な作業条件およびその結果得られる作業時間標準のなかの,疲労余裕部分の低減を通して節約の可能性があるこ とに気付かなければならない。

作業者が坐位の姿勢で,ほとんど力を使うことなく, 適切な照明・温度管理のもとで作業することができるよう作業場設計をすることは,あ る種の作業要素に対しては45%もの生産性の増大となりうる。

避けることのできない遅れ
避けることのできない遅れに対する余裕時間は,時間研究の対象となっているもののうち,努力要素にのみ適用される避けることの できない遅れの典型的な原因には ,一日のうちで職長・進行係・検査員・運搬工などによる色々な作業中断が含まれる。そしてま た,ときおり材料異常があり,材料が標準と考えられているものおよび時間研究が行われていたときに使用されていたものに比べて,いくらか大きすぎたり,硬すぎたり,あるいは異なった場所にあったりする。

機械干渉
作業者が1台以上の機械を運転すべく割り当てられたとき,避けることのできない遅れに対して,余裕時間を付加する。他の1つの重要な理由は,「機械干渉」に対して余裕時間を与えることにある。干渉余裕は,作業者がある1台の機械の面倒をみていて,その作業が終了するまで他の1台以上の機械が待たなければならない。その待ち時間を補償するものである。1人の作業者により多くの機械が割り当てられるほど,「干渉」遅れ余裕が大きくなるはずである。もちろん発生する干渉の量は,その作業者の作業遂行度と直接の関係がある。作業者が正常以上の水準で作業を遂行しつつあるときは,作業者が停止機械の面倒をみるために,正常より以上の時間を費 やして不手際に作業を遂行しているときに比べて干渉の度合は小さい。サイクル時間を計算するために,1単位の産出物を生産するために必要な機械運転時間に付加すべ き正常干渉時間と,作業者が停止機械の面倒をみるために必要とする正常時間とを決定することは,時間研究員の責任である。

というわけで , C=T1+T2+T3 

ここに ,
C=1単位の産出物を生産するためのサイクル時間
T1=1単位の産出物を生産するための運転時間
T2=停止機械の面倒をみるための正常時間
T3=機械干渉のために正常作業者が失う作業時間。 各機械の運転時間をサイクル時間で割り,作業者に割り当てられた機械台数を掛ければ,1時間当りの平均機械運転時間が求まる。

このようなわけで ,
M=nT1/C

ここに ,

M=1時間当りの機械運転時間
n=作業者に割り当てられた機械台数

待ち行列理論の手法を用いて,サ ービス間の時間間隔が指数分布に従い,かつサービス時間が指数分布または 一定であるときの表が作成されている。 図表4.3.13は, 色々なT2/T1の比率(これは力として与えられてい る)に対する数表を与える。例えば,もしn=25,運転時間が120分 ,サービス時間(作業測定によって求められる)が360分であるとすれば,そのときたは

3.60/120=0.03

図表4.3.13を参照し ,かつサービ ス時間が指数分布に従うことを仮定すれば,T3=サイク ル 時間の4.7%, T1=サイクル時間の92.5%となる。このようにして,

 

C=T1+T2+T3
=120+3.60+0.047C
0.93C=123.60
C=129.70分

そして、

T3=0.047C
=6.10分

このようなわけで,許容サイクル時間を求めるためには,運転時間とサービ ス時間に6.10分の干渉遅れ時間を付加しなければならない。

避けることのできる遅れ
避けることのできる遅れに対しては,正常時間になんらの余裕時間も付加しない典型的な避けることのできる。 遅れとしては,社会的理由による他の従業員との面談,疲労回復のための休憩以外の遊休,人的遅れ余裕に該当しない。喫煙やサンドイッチの食事などのような個人的理由のための時間が含まれる避けることのできる遅れであっても,それを取り げてしまうと作業者の生産性に害を及ぼす場合には,その避けることのできる遅れが許容されることを知るべきである。一般に,作業者のその日の産出量が標準量に等しいかそれ以上であるかぎり,作業者が自ら選んだだけの避けることのできる遅れ時間をとる権利がある。しかしながら,好まし い賃金支払い制度や監督制度のもとでは,作業者は避けることのでき 遅れ時間を不当にとることにより,その産出量を制限することはほとんどない。

追加余裕
追加余裕には2種類ある。第1の追加余裕は,異常な状況を考慮して付加される余裕で,ある特定の1つのロッ トまたはランに対してのみ適用される。例えば,標準から偏りのある1荷の鋳物が受け入れられたとしても,そ の製品が緊急に必要なため,生産現場へ直接送られる。これらの鋳物は,それらを加工機器にぴったり合わせる ためには,若千の追加的なやすり作業時間を必要とするかもしれない。あるいは,ある部品の特定の一つのラン に空気打出機が開いていないために,作業者はそのオー ダーを手で打ち出しせさるをえないかもしれない。時間研究によって規定された方法から偏りがあって,少量の追加作業を必要とするものは,「追加余裕」を付加することによって処理することができる。もしその方法の偏りがかなりのものであれば,新しい時間標準を設定し, 現行の方法とは明確に区別すべきである。この種類の追加余裕は,それが追力酢牒を必要とする特定のオーダー, ロット, ランに対してのみ適用されるよう明確に区別されなければならない。

第2の種類の追加余裕は,その作業サイクルのうちの「注意時間」中の余裕に関する規定である。ここでの目 的は,作業者が運転しつつある機械支配設備をフルに利用してくれている作業者に返報することにある。この注意時間余裕によって,機械支配要素作業に従事している作業者は刺激賃金を稼ぐことができ,あるいは努カペース作業に主として従事している作業者に匹敵できる能率レーティング値が与えられる。この追加余裕がないならば,たとえ作業者の受け持つ機械がそのシフト(就業直) の全時間中フル運転し続けたとしても,その正常な人的疲労または避けることのできない遅れ余裕を超えて成果 を稼ぐことは可能でなかろう。この注意時間余裕の量は,その作業サイクル中運転注意を必要とする部分に基づいて決められなければならない。このような追加余裕が適用されれば,その作業者は機械ペース作業に割り当てられていない直接労働従業員の平均成果とほぼ同じ成果を達成するはずである。

図表4.3.14は,いろいろの会社で用いられてきた典型的な余裕を示す。これらの余裕は,これらの会社で満足な時間標準の作成に適用されてきたものである。ある特定の工場環境のもとでは,これらの余裕が適当である場合もそうでない場合もあるだろう。しかしながら,信 頼できる標準時間を作成するために,正常時間に付加される公正な余裕時間を設定する場合の案内となるだろう。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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