コラム・特集

2.3 人的習熟

IEハンドブック

4部 作業の成果測定と管理

第2章 習熟曲線

2.3 人的習熟

人が繰返し作業を行うときの習熟率に影響を与える要因は多く存在する。作業の複雑性あるいは作業遂行に固有の偶然性効果が習熟率に影響する。また作業者の能力も影響を及ぼす。これらの話題に関しては多くのことが述べられているが,ここではそれらの結果を要約するだけに止めておこう。 精神運動遂行度の基本的概念については第6部第1章を参照のこと

作業の複雑性
作業の複雑性は3次元の状況において考察される。なぜならば,習熟の観点から見れば,作業の複雑性に影響 を与える3つの重要な変数が存在するからである。それらは次のようなものである。

1.サイクル長さ  一般に,サイクル時間が長い作業ほど複雑であると考えられている。というのは,作業者が繰返し行為の間に作業を忘れてしまうことが大きいからである。サイクル長さは,少なくとも部分的には,習熟曲線式の中で考慮されている。なぜならば,累積時間がサイクル長さの関数として増加するからである。

2.動作に内在する不確実性の度合 一般に,不確実性は,含まれている高度技能を要する動作の数によって測られる。例えば,よ り難しい位置決め,同時動作およびつかむ動作である。その課業の不確実性が大きければ大きいほど,作業者がその作業を遂行するための習熟所要時間が長くかかる。これについてはMTM-1システムを用いて考察されている。

3.前訓練の度合 多くの作業では,作業者はある種 の部分作業によって,すでに高度な技能を修得している。作業勧潮能を修得するのに十分な実践の機会をもっているならば,忘却率は非常に低い。一例としては,バ ットでボールを打つ技能がそれである。 作業環境における典型的な例としては,計算器,ハンダごて,マイクロメータなどを使う技能があげられる。 MTM-1習熟曲線法 もまたこの点について考慮にいれている。

人的能力

大多数の作業環境に対して,重要な人的能力は精神運動能力である。この能力は,人が感覚機能と関連させて手や足を使う能力をいい,人によって異なる。したがって,人の精神運動能力を活かすための習熟能力もまた人によって異なる。習熟に影響を与える要因のいくつかは次のようなものである。

1.年齢 確かにすべてではないが,大多数の年とった人は,若い人よりも精神運動技能の習熟が遅い習熟率は,ほぼ18歳から35歳 までは比較的一定であるが,多くの人々にとって,それ以後は減少するようである。

2. 過去において習熟を必要とした度合 もし人が年 をとるにつれて新規作業の遂行のための習熟を中断したならば,その習熟能力は減退することを示すいくらかの 証拠がある。ここで「減退」とは,新規作業の遂行のための習熟時間がより長くかかること しかしなお習熟することは可能であることを意味している。

3.神経系と身体能力 人の神経系の質は年齢とともに減退する。若い時に良好な神経系をもっていた人は,若い時に比較的悪い神経系をもっていた人よりは,年齢による減退の度合が少ないという傾向がある。人の身体 能力もまた年齢とともに減退するが,年齢的にはより遅い時期から減退しはじめ,その減退率は作業の遂行にそれほど重大な影響を与えない。このようなわけで,多 くの人々が年をとるにつれて,高度な情報内容をもつ作業よりも肉体的な作業を選ぶ傾向にある。

習熟の仕方

前述した複雑性の状況下において,どのようにすれば, 個人またはグループの習熟率を予測することができるだろうか? その答はこうである。すなわち,種々の要因が習熟に影響を与えているけれども,習熟率の範囲は, パーセント習熟関数によって測定した場合,習熟すべき作業部分に対して,おおよそ88%と92%の間にあると思われる。もし年とった人を労働力に入れるのであれば,おそらく 高いほうのパーセント値を選ぶのが望ましい。

作業に習熟する日数でもって推定値とする方法があるが,これは現在多くの状況において用いられている推定値よりもかなり小さいものである。この差異の理由はいろいろあるが1つの重要な局面は,人々に「閾習熟」を教えるために用いる方法にある.閾習熟とは,作業者が外部の助力なしにその作業の仕方を辛うじて知るまでに起こる習熟である。閾習熟は習熟曲線式の中に含まれていない。なぜならば,用いら れる方法が定まっていないために,正確に予測することができないからである。このように,習熟曲線式によって予測される時間に閾習熟時間を加えなければならない。習熟曲線式には「条件つき習熟時間」が含まれている。これは,作業者が作業の遂行方法を辛うじて知ったのち,作業者が習熟するのに要する時間である。

閾時間の観察ならびに測定によってかなり証明されていることであるが,作業者が何らの公式的な指導を受けることもなく ,自分自身で作業の仕方をあみだすよういわれるところの試行錯誤習熟が,最も長い閾習熟時間になる。残念なことに,この方法が産業界で最も 一般的に用いられている方法である。遂行すべき作業を完全に熟知していて,作業者にその作業方法を正しく指導する能力をもっ ている人によって公式的な指導が行われるならば,かなりの費用の節約が可能である。

習熟曲線式は作業者が円滑な率で習熟していくことを暗示しているけれども ,一般にはそうではない 図表 4.2.6は人が課業を習熟する1つの例を示している。実際の曲線は,のこぎりの歯のような形で現れる。

これは主として,習熟過程中,眼球運動の回数が不均一な率で減少するからである。人がある運動性課業を遂行し始めるとき,目をしばしば動かして情報を探る必要がある。人がその課業を繰り返して遂行し続けるに従って,情報を「チャンクする」チャンキングは,人が凝視当りの情報をより多く得る過程であり,したがって作 業サイクル数の増加とともに目の使用回数が次第に少なくてすむようになる。のこぎりの歯のような曲線が現れ るが,これは凝視回数を減少させようとする過程において,人はしばしばその回数を過度に減少させてしまい,その結果,動作を遅くしなければならなくなり,そしてこのような状況が起こったとき,人は次のサイクルで凝視回数がより多くなるからである。

人は ,情報をチャンク(まとめて収集)することによってサイクル時間を減少させようと試みるのみならず,低次元の感覚,とくに運動感覚(位置の感覚)および触覚 (接触感覚)を用いて,必要な情報を得ようと試みる。この努力の動機は,目を使うことは,より低次元の感覚を用いるよりも多くの時間が費やされるためである。経験をもった作業者が1つの課業を遂行する状況を観察することによっ て,彼らが目を最小限に使っていることが分かる。それゆえ,インダストリアル・エンジニアは,作業者の目を見ることによって作業者の経験水準を知ることができる方々を見回すことができ,しかも邪魔されずに作業を遂行できる作業者が熟練作業者である。こ の ような状況が多くの管理者を困らせることとなっ ている。というのは,管理者がこのために作業者が自分の行っている作業に注意を払っていないと感違いし,ときどき作業者を戒めることになるからである。もちろん,もし作業者がこの戒めに対して応答して,目をもっと使うようになったとしたら,おそらく彼らの生産性は減少するであろう。

時間標準の作成に及ぼす人的習熟の影響

人的習熟を理解することは,生産標準の設定に責任のあるイングストリアル・エンジニアにとって大変重要なことである。時間研究を適用するエンジニアにとって,未経験作業者に時間研究を適用するときの影響の大きさからしてとくに重要である。前節の例1について見れば, 最初の50サイクルの平均時間は6.43分であるのに対して, 次の150サイクルの平均時間は481分である(前節の例6) このように,限られた訓練機会しかもたない作業者に適用される時間研究は結果的に緩い標準となろう。ただし,その作業者もしくは別の作業者が時間研究が行われたとき以降にそれ以上に実践機会をもたない場合はこの限りではない。

人が習熟しつつある期間,習熟曲線についての知識のないインダストリアル・エンジニアにとって,作業者が 速いペースで作業を行っているように見えるという事実によって,状況はさらに複雑になる。その結果,与えらるべき値よりもさらに速いペースのレーティングとなり, 標準をさらにつり上げることになる。前節の例2では, 50番目のサイクル時間は552分と予測されるが,習熟曲線上のこの点における作業者は,通常は大変努力をしているように見えるだろう。もしインダストリアル・エンジ ニアがこの人に対して130と評価したとするならば,標準時間は552× 130=7.18分となる_時間研究者は,ペースを推定し(これは通常高く見積もる),次に機能水準を推定し(これは通常低く見積もる。(―凝視回数,躊躇回数,ファンブル回数が多すぎる一),そしてこれらの2つの推定値を平均するのが最良の方法である。

多くの時間研究者がするように,標準時間を経験のある作業者に適用したとするなら ば,作業者が経験者となるまでに,どれくらいのサイクル数を遂行しなければならないだろうか。もちろん,サイクル時間は減少していくが,一定時間値にはならない 人が数百万回の繰返しサイクル作業を実行する様子を調べてみると,図表4.2.7 に示すように,サイクル時間が連続的に減少することが分かる。したがって時間標準は,あるランの長さ(連続実行時間長)を仮定している。もしランの長さが短ければ標準はきつくなる。もしランの長さが一定であるにしても,生産率が増大するならば,標準もまたその達成が困難になる。

それでは正しい手続きはどのようなものか 時間研究が用いられる多くの種類の作業に対して,おそらく最も実際的方法は次のようなものである5,6 1.作業者が標準を達成することができなければならない許容期間を決定する(以下の例題は,この期間の設定が,結果として求められる標準時間に関して重要であることを示している)。2.ステップ1から条件つき習熟段階がはじまるまでの時間を引く 3.条件つき習熟段階にある数人の作業者に対して, 異なるサイクル数でいし、それ以上の時間研究を行う。習熟期間中に起こるより高い努力とより低い技能に対して注意深く補正しながら遂行度を求める。また,時間研究が行われたときのサイクル数を注意して記録する。4.次式を用いて習熟曲線のスおよびκの値を求める。ただし,Y1と Y2は それぞれ第X1サイクルと第X2サイクルに対する正常時間である。

Y1=KX1-A乗

Y2=KX2-A乗

…(7)

既定時間システムを用いた習熟率の予測

いくつかある既定時間システムのうちMTM-1シス テムは標準を達成するまでに必要とする。 条件つき習熟時間を決定する1つの方法を与えている。その方法は別のところで詳細に述べられており, 適用に便利なコンピュータ・プログラムをMTM協会から入手することができる。1次予測式が,ほとんどのMTM-1要素に対して用いられている。それらは容易に加算されて,式(Dに対する1次近似を求めることができる.習熟率はその標準の中に現れ種々のMTM動作の相対頻度の関数である。種々のMTM動作の習熟率に関する 研究によって, つかむ,位置決めなどの高次動作のほうが,のばす,運ぶなどの低次動作よりも習熟により多くの時間がかかることが分かっている。この方法は他の作業状況から訓練機会が与えられる部分作業に対してと同様に,1サイクル内で繰り返し行われる部分動作に対しても適用される作業者が習熟期間中にあるときの繰り返し作業機会の取り扱い方も含まれている。いったん特定の適用例に対して予測式が展開されると, 標準に到達するまでのサイクル数,与えられたサイクル に対するサイクル時間,種々のサイクル数に対する平均 時間を計算することができる。 MTM-1法では,κの値は通常25と仮定されている。一方,時間研究では,κの値は一般に計算によって求められる.κの値が2.5と仮定される根拠は,産業への適用研究における習熟曲線から,第1サイクルが通常MTM-1標準のおよそ25倍のサイクル時間で遂行されることが分かったからである。別のκの値がより適当であることが分かった場合にも ,この方法は適用できる。

作業グループに対する標準時間と習熟時間の決定

時間研究によって習熟曲線を適用する際に遭遇する状況の1つは,正常標準時間,あるいはMTM-1標準時間が「低課業」時間と称されているものであることである。すなわち,それらは健康で,経験を積んだ労働人口の大多数が達成し,長期間維持することのできる。 標準時間である。

図表4.2.8は,持続可能な最高ペースで作業を行った場合に,標準時間と作業者集団の遂行度との関係を示す分布図である。いろいろの著者が高いモチベーション状況における作業者の平均産出量に関してわずかに異なる分布図を提示している。図表4.2.8は研究データ並びに実務経験から求められたもので,余裕率は5%ないしそれ以下である。また別の著者によっては9,10,作業者の平均動機づけ遂行度を125から130%であると推定している。残念ながら,そこでは用いられている余裕率について述べられていないが,おそらく10から15%の範囲であろう。作業者集団の大部分が正常時間に等しいかそれをしのぐことができるから,正常時間を十分達成できるように習熟した人々のほとんどは十分には習熟しないだろう。このように,時間研究の例題のなかで求められた449.20というサイクル数は,平均的な作業者が低課業標準を達成すべきサイクル数である。統計的には,50%の作業者がより早く習熟し,50%の作業者がより遅く習熟するから,次のような設間が考えられる。

 

1.大多数の作業者(95%以上)が463分の標準時間を達成することができるまでのその作業の習熟時間はいくらか ?
2.463分が4サイクル後の平均達成時間であるとし, さらにこの時点で誰もが標準を達成することができるとするならば,正常時間標準はどれだけか ? 設問1の答は次のとおりである。

4.63./1.20=平均集団能力=3.86分
3.86=10.5810X-0.1354乗
χ=1,716サイクル

したがって1,716サイクルは,作業者のおよそ 95%が少なくとも463分を達成するのに必要なサイクル 数の推 定値である。

式 (4)から累積時間は次のように求められる。

C=7.656分

したがって作業者の95%が4.63分の標準時間で課業を遂行するようになるまでには,7,656分すなわち12760時間を必要とする。 設問2はグループの平均が463分のとき,最も習熟の遅い作業者は20%遅く,463×120=556分となる。もしグループの大多数が2,400分で標準を達成すべきである。とするならば,標準は556分でなければならない。

 本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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