コラム・特集

2.9 職務設計をサポートする分析的方法

IEハンドブック
第2部 職務とジョブ・デザイン

第2章 職務設計

2.9 職務設計をサポートする分析的方法

本節のねらいは,タスクとタスク群を分類するためのいくつかの方法を示すことである。これらの分析方法の目的は,職務設計者が,職務間の技術的境界と組織的境界を明確にするのを援助することである。

変換フローチャート

生産実体としての組織を概念化するために,職務設計者は,製品やサービスがそのインプット状態からアウトプッ ト状態へいかに進行するかを示す,フローチャートを図示することを望むかもしれない。インダストリアル・エ ンジニァリング・フローチャートは,しばしば設備の選択と配置,そして時には職務の設計さえも前もって仮定して,活動をあまりに細かく分割しがちである。変換フローチャート(transformation flowchart)の目的は,設計者が特定の技術的あるいは社会的決定に閉さされることなく,生産要件を概念化するのを可能にすることである。

変換フローチャートは図表2.2.8にその例が示してあるが,(1製品あるいはサービスの進行状態と,(2製品あるいはサービスがある状態から他の状態に変換される「単位作業」を示している製品あるいはサービスの状態には次の3つのタイプがある。つまリインプット,仕掛りとアウトプットである。インプットは,組織によって変換されるべき原材料もしくは入力状態である。アウトプットは,その工程を離れる完成製品,最終状態あるいは余った材料である。仕掛りはその工程内の仕事の中間状態である。

単位作業は ,インプット状態からアウトプット状態に, 材料,情報,あるいは人の形態の対象物の変換を記述する,工程の独立した部分である。これらは変換される対象物の状態変化を記述している。状態変化を実行するためには, タスクが遂行される必要がある。したがって,単位作業は遂行されるべきタスクを示している。職務設計者はそのタスクを分類するか,1つの職務に割り当てる。

単位作業は,実行される変換あるいはサービスによって表現される。特定の機械が製品状態の特定の変化を意味するとすれば,これらの機械によって単位作業を表現することが有益であるかもしれない。技術システムの代替案がり排除されないよう注意が払われねばならない。検査は通常それが変換が生じたことを単に,検証するのに役立つだけならば,別個の単位作業としては示されない。 他方,変換を検証したり,生産工程を統制するためにだけ使用されるのではない,カルテのような永久の記録を作ったり更新したりすることは,別個の単位作業と考えられるかもしれない。在庫は製品状態の望ましい変化にしろ, 望ましくない変化にしろ,いくつかの変化が在庫の間に生じないならば,単位作業とはふつう考えない。意思決 定,計算,段取り,位置決め等は,それ自体では単位作業として表現するのではなく,むしろ単位作業に属するタスクと考えられる。

設備の選択と配置および職務の設計は,従業員に彼らが働いている様子を,変換フローチャートで見ることができ るようにすべきである。職務あるいはチームの境界は, 1つかそれ以上の単位作業を含むべきである。その結果,それそれの職務あるいはチームは,識別でき,測定可能な成果を持つ変換プロセスの,異なった部分を割り当てられ,そしてある状態から別の状態への,製品あるいはプロセスの実際の変換に責任を持つことができる。

バリアンス分析

完全な技術的確実性の下では,中間状態での偏差あるいは妨害は存在しないだろう。しかしながら,たいていの組織は技術的不確実性のくばみに直面しており,人間が干渉して変動性を統制することが重要である。バリアンス分析(variance analysis)の日的は,変換あるいは生産]i程における技術的不確実性の領域を識別し,究極的には職務担当者が,個人的にもしくはチームまたは集団で,変動性が生ずる所でそれを有効に統制することができるように,職務を設計することである。

「バリアンス」は,明細もしくは望ましい状態と実際の状態との間の望ましくない差異である。しばしば明細書は,偏差が認められる許容範囲として示される。2つのタイプのバリアンスがある。1つは製品状態(あるいはサービス状態)バ リアンスで,これはインプット,仕掛り,そしてアウトプット明細書に関係するバリアンスである。もう1つはシステム・バリアンスであり,これは設備と周囲の物理的環境(温熱,ちり,湿度等)に関係しているバリアンスである。

バリアンスの概念は,人間のパフォーマンス,技能,モチベーション等における差異にもたやすく拡張されるが,このことはあまりに多くの変数を一緒に混同させてしまうだろう。それゆえ,バリアンスの概念は,技術システムにのみ適用される。バリアンス分析のプロセスは, 最初に,原因となる技術的変動性を統制するのに必要な,人間の干渉の種類と場所を識別する。そして第2に,バリアンス(差異あるいは乱れ)の統告もしくは制御をうまく行うのに必要な情報,技能 ,そして決定を識別する。

バリアンス分析の最初の段階は,生産あるいはサービスエ程を妨害する。すべてのバリアンスを列挙することである。些細なバリ アンスは無視してもよいが,疑わしいときにはそのリストにそのバリアンスを含める。しばしば図表2.2.9で示された様式で,バリアンスのリストを作ることが役に立つ。

バリアンスを識別するいくつかのガイドラインを示そう。

・バリアンスはそれがどこで究極的に検出されるかには関係なく,それが生ずる単位作業に関係させて列挙されるべきである。

・バリアンスを単に変数としてよりは,むしろ偏差として表現することが時には望ましい。たとえば,「水温」というよりはむしろ「かなり冷たい水」というように.しかしながら,単に変数名で列挙することを好む分析家もいる。 バリアンスは,工程用語によってよりもむしろ状態の用語で表現するほうがよい。たとえば ,「洗っていない皿」というよりも「きたない皿」というように

・明細書の精密性と客観性の程度を反映するように,バリアンスを表現することが有益である。たとえば, 温度は「かなり冷たい水」として述べられると主観的バリアンスであり,「92℃以下の水」として述べられると客観的バリアンスである。

バリアンス分析の第2段階は,バリアンスの間の依存関係あるいは因果関係を識別することである。このためには,バリアィス相互関係マトリックスが役に立つ.製 紙工場での職務の再設計で使用された例が ,図表2.2.10に示されている。マトリックスの様式は,道路地図の都市間の料金表のそれに似ている。マトリックスのそれぞれのセルは,2つのバリアンス間の関係性の程度を示している。空自のセルは関係性がないことを示しているが, 図表2.2.10の22と42の数字をつけられたバリアンスの間のような「3」は,たいへん重要な関係性を示している。このマトリックスは,職務設計者が変換あるいは生産システムの部分がいかに互いに依存じ合っているかを理解するのに助けとなる.職務を設計する上で,バリアンスの間の依存関係を反映するように,タスクは分類され,職務は結合されるべきである。

第3段階は,「キー・バリアンス」の識別である。これを統制することが,生産システムの成果を高めるためには最も重要である。職務設計は,キー・バリアンスの統制に焦点を合わせるべきである。パレートの原理 (inciple)を言い換えると,生産システムにおける問題の大部分は,バリアンスのわずかな部分によって引き起こされることになる。キー・バリアンスは,次の属性を持っている。(1)その理論的ではなく実際的な聖起は,生産の品質,数量,コスト,人的資源,技術的資源を厳しく害する,(2)それは多くの他の変数と相互作用しているし,多くの変数に乱れを引き起こす,(3)それは確率的に生ずる一一生起の時間,場所,頻度あるいは強度は,確実には予測されえない,(4)それはタイミングよく,適切な人間活動によって検出され,予防され,修正され統制されうる。

バリアンス分析の第4段階は,キー・バリアンス統制の表を作ることである。その様式が,図表2.2.11に示されている。この図表はキー・バリアンスがそれぞれ,いかに,どこで,誰によって生じ ,検出され,修正され,予防されるのかについての要約的記述を含むべきである。それぞれのキー・バリアンスについての情報が,いかに伝達されるかについても記述すべきである。「フィードフォワード」は,バリアンスが検出されるポイントからそのバリアンスが修正されるか,統制の下におかれるまで伝達される情報である。

第5段階は,キー・バリアンスを統制するために人々に要求される技能,知識,情報そして権限の表を作ることである。そのような表のための様式が,図表2.2.12に示されている。職務担当者がキー・バリアンスを統制するために必要な技能,知識,情報そして権限を持つように,職務は設計されるべきである。

技術事前評価

「技術」 は,それによって人々が体系的にいくつかの望ましい結果をもたらす物理的,情報的資源として定義されてきた。組織の人々の主要な機能の1つは,技術の不確実性を扱うことであるということが注目されてきた。バリアンス分析は,技術的不確実性の特定の領域を識別するのを援助することができるが,技術事前評価(technological assessment)は ,技術の一般的特性とその職務設計に対する意味といったより広い記述を要求する。職務設計に関連する多くの技術の次元が,ここで記述される。この分析のために提案された様式 ,図表2.2.13に示されている。

自動化
自動化(automation)は ,人間の補助を必要としない技術である。自動化には3つのフェーズがある。第1のフェーズは,操作フェーズである。そこでは人間の身体的動作が,機械によって置き換えられるか拡張される。第2のフェーズは,感覚フェーズである。そこでは人間の感覚が,設備のセンサーによって置き換えられる。自動化の第3のフェーズは,論理フェーズである。そこでは情報処理タスクが,設備によって行われる。技術それ自体の固有の応答能力を超えているバリアンス統制タスクを含めて,自動化されないタスクは,職務に割り振られる生産関連のタスクを構成する。自動化の典型的な影響は,従業員の操作タスクの時間が減少し,保全,制御,計画そし て統告の時間の割合が相対的に増加することである。主に人々の操作タスクを必要とする単位作業もあれば ,主に制御タスクを必要とする単位作業もある。このことは,チーム職務設計が,人 的資源をフレキシブルに使用することのできる方法を示しているかもしれない。

プログラム可能性
いくつかの技術は,精密科学に基づいており,それで特定の結果を達成するためには ,何がなされる必要があるのかについての完全な情報が存在している。すなわち従うべき手順がある。他の技術では,その基礎となる科学 は不正確か不完全であるので,必要な活動は,ある直観もしくは試行錯誤を伴っている。職務設計者は,活動の高いプログラム可能性(programmability)と低い。それとの領域を評価し,職務がそれぞれの要素を持つようにすべきである。人間の自由裁量は,タスクがプログラム不可能な時に必要とされる。

主観性
いくつかの技術では,アウトプットの品質は客観的に決定されるが,別の技術では,明細が漠然としており,バリアンスの検出は主観的(subjective)である。食品加工エンジニアは,次のことに偶然気付いた。「私たちは設備を操作することをサルに訓練できた。実際,技能を必要とすることは,良い製品の色と味の見分け方と,それを一貫して良くするためになすべきことを知ることである」。その職務はオペレーターが製品品質に対して連続的に感受性を高めることができるように,設備操作と製品結果の間のフィードバックを提供するように設計される必要がある。

安定性
ほとんどのバリアンスは,い くつかの単位作業の実行の間に生ずるが,在庫,運搬,手待ち等の間に「自然に」生ずるバリアンスもある。バリ アンス統制は,投入材料, 製品状態,設備が 不安定な時に,より重要である。

等価性
エングルスタッドは ,4つのパルプ温浸器が設備の等価な(equivalent)もしくは互換できる部分として取り扱われている製紙工場について報告している。しかし実際には,その温浸器の1つは,ある種の木材繊維に対して特に効率がよかった。ごく少数の作業員はこのことを発見していたが,彼らの職務は,彼らが他の人にその情報を分かつための誘因を持たないように設計されていた。他方,アルミニウム溶鉱炉の職務は,それぞれの溶鉱炉それ自体の「パーソナリティJをつくる傾向があるという事実を考慮して再設計された。作業者はそれぞれの溶鉱炉の特殊性を学ぶために,小グループの溶鉱炉に対する広範囲のタスクを遂行した.

規模
一般に,小ロットあるいは小バッチを生産するために設計された技術は,連続大量生産のために設計された技術とは異なった職務設計を必要とする。実際,代替の技術システム選択を生み出すための方法の1つは,1つの仮説的な生産システムを設計することである。第1に,1つのロットで製品を生産するための生産システム,第2に ,自動大量生産のための生産システムである。

機能劣化
いくつかの技術は,「アップ]

もしくは「ダウン」の状態のどちらかで機能している。たとえば,コンピュータは,めったにランダムエラーをしない。コンピュータ が全く機能しないか,機能している時にエラーをするならば,同じインプットとプログラムに対しては一貫してエラーが生じる。調整の必要な自動車のような他の技術は,その中間状態で機能する。多種の技術要素が1つの技術システムに結合される時,その1つの要素の故障は全体システムを劣化させる。ある条件の下では,全体システムは崩壊してしまうだろう。他の条件では,その機能劣化(degradation)はそれほど厳しくはない。そのシステムは,低いあるいはほとんど力のない状態ではあるが,機能し続けることができる。

もちろん,人間は普通全くみごとに劣化する。人間はほとんど不意には機能を停止しない。職務設計者は,そのシステムの一部分が故障した場合,全体としてのシステムが不意に劣化しないようなやり方で,人々を割り当てるべきである。不意の故障の条件が識別され,社会的バックアップ手続が設計されるべきである。職務は人々の柔軟性という利点を生かすように設計されるべきである。1つの例は,作業と保全活動の職務への統合である。こうすれば,作業を遂行することができない時には,職務担当者は保全活動に従事することができる。

タスク評価
作業者によって遂行される主要なタスクは,図表2.2.3(Hackmanとoldham“ 参照)に示された労働生活の 質の基準に従って,主観的に評価することができる。これらの評価は,それぞれの職務もしくはチームが,望 ましいタスクと望ましくないタスク,分離した仕事とチー ム仕事,単純なタスクと複雑なタスク等を合理的にバランスして持つように,職務ヘタスクを割り振る指針として使用することができる。タスク評価(task ratings)は,職務設計を誤って導くことがある。一つの職務は単にタスクの総計ではなく, 意味のある全体職務を構成するようなタスク間の相互関係でもある。タスクの相互関係を無視して,タスク 評価の総計に従って職務を設計しようとすることは,職務設計のシステム的視点に反している。

モビリティ分析
職務設計情報の重要な源泉は,従業員の実際能力にある。モビリティ 分析(mobility analysis)では, 1つの 簡単な質問により,誰が他のどんな職務に異動することができるかを判断する。モビリティ分析のための様式が, 図表2.214に示されている。示した例は,職務C,D,E,Fをチーム職務設計に結合することが可能であることを示唆している。責任分析
職務へのタ スク割り当てと 付随して,意思決定,資源の利用および目 標達成の正確な責任をそれぞれの役割は割り当てられる。これらの責任の割り当ては,職務設計において明示的に考慮されるべきである 図表2.2.15は,そのような情報を集めるための様式を示している。
監督職務の再設計の研究において,監督者の責任に対する2つの変更が,航空機の計器修理職場に別々に導入された。その変更の1つ は,その職場で処理される計器を完成するために必要なすべてのタスクに対して,単位責任を監督者に割り当てることであった。このことは, 機能に基づいたものから製品に基づいたものへと,組織を小単位職場に分業することへの変革を示していた。もう1つの変更は,製品に基づいた組織単位への移行のみでなく,品質責任を付け加えることを含んでいた.検査 タスクと計器の最終受入れの権限が,監督者の単位責任に付け加えられた。第2の条件下での監督者は,最初は自分で検査を行ったが,後にそれを部下に委任した全く 変更をしなかったコントロール職場と比較して,変更 のあった職場では,態度,生産性および品質が改善された。監督者が彼らの増加した責任を計画したり統制することにかかわるにつれて,彼らの部下は自主統制作業チ ームの特性のいく つかを採用した。

境界交差相互作用分析
既存の職務構造においては ,実際の職務境界と組織ニーズの間の適合度は,職務と集団の境界を交差する相互作用を分析することにより研究できる。そのような分析のための様式が,図 表2.2.16に示されている。職務担当者は,組織の他の人との仕事に関係した相互作用の頻度と理由を記述するよう要求される。これらの反応が要約され,表の適切なセルに記録される。この分析は職務担当者の間で生じ ている。社会的関係についての情報のみでなく,タスクの相互依存性とバリアンス統制についての 情報をも提供するかもしれない。

組織の安定性と不安定性の位置
転職率,欠勤率,苦情率,反社会的行動の起こりやすさ,そして態度尺度といった社会システムの安定性指標は,職務設計に対して特殊なニーズを指示する。労働力の異質性(年齢,性別,人種,教育の次元)の増加は,早い社会変化率と市場移行および技術革新の短いリードタイムと相まって,内部安定性について注目を集めた。 組織内に従業員の技能と献身を保護する願望と変化する条件に適応する願望とがある。社会システムの安定性は, 職務設計に対して二重のチャレンジを示している。最初に,不安定性の原因を減ずるように職務を設計すること, そして第2に,シ ステムが不安定性に対処できるように職務を設計することである。

転職の分析は,重要でありかつ問題を含んでいる。一方では,転職は役割所有者の連続性と対人関係の中断という否定的な意味を持っている。他方では,もし個人が経歴経路にそってより良い職務に異動するとすれば,それは肯定的な意味を持っている。転職の分析のための様式が,図表2.2.17に示されている。退職者面接が,データの源を提供する 転職分析は,よりチャレンジングな職務とより良い昇進経路に対するニーズを示唆している。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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