コラム・特集

2.2 職務設計へのシステムズ・アプローチ

IEハンドブック
第2部 職務とジョブ・デザイン

第2章 職務設計

2.2 職務設計へのシステムズ・アプローチ

職務設計の基礎となる要因と職務設計の生産性および従業員満足への効果に関する研究から分かることは,1つのシステムとしての企業全体の中で職務を理解しなければならないということだ。本節は職務の設計のためのシステム的視点について述べる。

 職務の多次元性
製造工場であれ,サービス企業であれ,あるいは政府 機関であれ,組織はいくつかの次元上に存在している。まず最初に,組織は1つの生産実体(production entity) である。組織は建物,設備そして技術(テ クニカル・システム)から成り立っていて,これらはあるインプットを期待されるアウトプットに変換する目的のために使用される。もちろん,組織は単なる生産実体以上のものである。組織は1つの社会的あるいは制度的実体(social or institutional entity)または「社会の縮図」でもあり,組織は役割,伝統,葛藤,長期的戦略そして他の制度との関係から成り立っている。最後に,組織は特定の個人の集合体である。それぞれの従業員は,その組織と部分的にのみ関連する個人的目標,献身,ライフスタイ ルなどを持っている。有効な職務設計を行うためには ,生産次元,組織次元,個人次元を考慮しなければならない。というのは,これらの次元は職務設計を行う上での様々な種類の決定に関係しているからである。

組織と職務の定義
組織は役割すなわち職務から成り立っているシステムであり,望む成果を達成するために,意識的に特定の時間に統合化された役割関係の1つの構造である。望む成果を達成するために組織は仕事をする。組織は仕事をするために,人々(社会システム)と手段(技術システム) を共に使用する。それらは結合されて望む成果を達成することができる 。組織が有効に活動するためには,組織のサブシステムがしばしばソシオテクニカル・システムと呼ばれているように,結合システムとして作用することが必要である。

職務の定義
職務は組織における1つの役割に割り当てられる課業(タスク)の集合体である。職務は組織の一部分であり,過去100年間にわたって,職務は個人によって遂行される作業タスクの集合体として定義されてきた。一方,役割は割り当てられた作業タスク,およびそのほかの必要とされるタスクを加えたものの集合体として定義されてきた。というのは,仕事は単に個人によってではなく,組織の中の個人によってなされるからである。現代組織理論に基づいて設計された組織においては,職務と役割の間の差異は消えつつある。それぞれの役割あるいは職務の要件を実行する人々によって組織の役割が占められる時に組織は機能する。異なる時に異なる人々によって組織の役割あるいは職務が占められたとしても,組織は本質的に不変のままである。

職務設計の定義
職務設計(job design)とは,(1)どんなタスクが労働力によって遂行されるべきか,(2)どんなタスクがどんな職務へ割り振られる べきか,(3)それらの職務はいかに結合されるべきであるかを決定する,プロ セスである。

技術的および社会的支援システム
職務設計に関する決定は,技術システムに関する決定と人事政策とに相互依存している。多くの技術システムが,1つの変換技術から導き出せる。資材,情報,人間のインプットを,望まれるアウトプットに変換するという,特定の目的を実行するために選択された一連の手続き,技法または方法,1旨図書,設備,工具,レイアウトなどが, 技術システムである。技術システムの内容と形態に関してなされる選択が,部分的には職務設計に関する決定である。技術システムの選択がいかにタスクを作り,タスクの職務への割り振りにいかに影響するかということが本節の残りの部分で検討されている。

職務の設計は技術的選択のみでなく,社会的選択をも含んでいる。材料,情報および人間のインプットを,望まれるアウトプットに変換するために使用される技術システムは,遂行されねばならないタスクを作り出す。それと同様に,技術システムをその中に内蔵する社会システムもまた,遂行されねばならないタスクを作り出す。程度は異なるが,両種のタスクが職務には含まれることになる 。しかしながら,それらのタスクが何であり,いかにそれらが形成されるかは,社会支援システム(social support systems)といわれる社会システムの設計に関する選択から始まる。

機械が適切に機能するためには,機械はその組織に適応されねばならない。技術支援システム(technical support system)は,データ処理装置,集塵器,除湿機,剰余部品在庫システム,技術マニュアル,そして技術コンサルタントヘの接近法さえも含んでいる。同様に, 社会支援システムは,人々が職務において適切に機能するように,人々が組織に適応するのを援助する。社会支援システムは,①採用,訓練,安全そして災害補償など, ②カウンセリング,技能教育,規律や公正のための手配,③休憩,レクリエーション,食事,そして衛生のための設備,④給与と昇進の報酬システム,⑤従業員の福利厚生,③従業員の仕事役割と非仕事役割 (個人的呼出しのための電話の利用,駐車等)を結合するための規定,⑦そして縮図社会としての組織を管理するための規定,などを含んでいる。

技術システムの設計および社会支援システムの設計は職務設計と相互依存しているため,これらの意思決定領域は職務設計の範囲内に含まれる(図表2.2.1参照)。仕事役割の設定に必要な意思決定領域は,次のような決 定領域を含んでいる。

・職務担当者によって使用される資材,設備,情報そして資源。

・職務担当者に与えられる意思決定権限の範囲。

・困難なあるいは予期しない事象に適応するための手段。

・昇給と昇進の経路。

・組織構造を維持し,洗練するための規定。

人間と技術の不確実性の条件下における職務設計
職務設計の基礎には,人間と技術の確実性と予測可能性についての仮定がある。人々は,身体の寸法,熟練, 経験,考え方,そして嗜好に おいて互いに異なっている。さらに,ある一人の人の有効性と覚醒度は,健康,気分,外部への献身等によって,日ごとにかなり違ってい る。一般に,設計者は個人の行為や能力よりも,よリー層確実に機械のそれらを予測することができる。しかしながら,この事実は,幾人かの著者が指摘しているように,職務設計において全く誤解を招く原因になっている。ジョーダン (jordan)は,ルーチンワークを 機械に最も適したタスクと人間に最も適したタスクに分類しようとすることの無益さを指摘した。1つの公式にまで引き下げられているほどのルーチンワークは,たいていいつも機械によってより有効になされる。人間の本来の利点は,機械の故障,めったにない生産要件,中断した事象そして価値判断を含む過程のような技術的不確実性 (technological uncertainty)を 扱う能力にある。デイビス(Davis)とテイラー(Taylor)は,自動化技術の職務設計的意味を議論した。自動機械と人間の相互作用は,古い技術との相互作用ほど定型的でも予測可能でもない技術システムそれ自体の能力を超える応答を要求する事態が生じた時,うまく解決するために組織が要求する応答をもたらすには,多様な応答能力を持つ人間の存在が本質的に必要である。社会システムすなわち組織が,人々の欠勤や他の事象によって混乱を受ける時にも,同じことがあてはまる。「人間システムは単純な職 務に対しては,あまりに過剰に作られている」とワッデ ル (Waddel)は『I E ハ ン ドブッ ク』(Industrial Engineering Handbook)の1965年版で書いている。

さらに,人々は社会的鮮を形成し,お互いに助け合うという永久の傾向を持っている。もしこの傾向を認める形で職務が設計されるならば,個人差,健康そして気分によって生じる人間の不確実性を,従業員の間の相互の支持的な関係が打ち消すことになる。職務設計者にとって,特に技術システムが完全にそして確実な形で動作しない時には,人間の社会的そして創造的特性に最大限の考慮をはら わなければならないということが重要である。

一つの逸話が実例として役立つたろう。ある病院に管理と経理のためのコンピュータ情報システムが導入された。その後まもなく,外科の主任が夜勤の受付係に,ある患者を明日,特定の部屋に割り当てるように頼んだ。 不幸にして,コンピュータ・システムはすでに誰か別の人に対して,その部屋を予約していた。その受付係がその決定を再検討したり,自分自身の判断を行使するような規定は作られていなかった。

2つのシナリオを考えることができる。第1に,受付係は肩をすくめ,そして外科医に次のように話すことができた。「私はここで働いているにすぎません。何かお望みでしたら,あなたがそのコンピュータに話しかけられたらいかがですか」と。外科医は朝まで待たなければ ならなかっただろうし,適当な帳票と承認を捜すのに時間を費やさなければならなかっただろう。実際に起こったのは2番日のシナリオである。その受付係は以前に5回連続してコンピュータに間違って入力すれば,コンピュータは「手動に戻せ」というメッセージを表示することを発見していた。古い手動の手続きは,1人の現場看護監督者を呼び出して,彼女と部屋の割り当てをすることになっていた。そこで,受付係は不測事態に対処するためにコンピュータ・システムを「破壊Jした。受付係が偶然に技術システムを統制する方法を発見しておらず,手動の手続きに慣れておらず,現場監督者と親しくなく,そして彼女が動機付けられていなかったならば , 組織にとって有効でない結果が生じたことだろう。この事例では,部屋の割り当てのための技術システムはそれ自体では,異常で不測の事態に対処することはできず, 外科医,受付係,そして現場監督者の調整された行動を通じて組織という社会システムによる適応を必要とした。

要 約
職務は次の3つの次元を持っている。生産次元,組織 次元,そして個人次元である。それぞれの次元は,すべての職務設計の決定において考慮されるべきである。これらの決定は,どのようなタスクが労働力によって遂行されるべきか,いかにタスクは職務に割り振られるべきか,そしていかに職務は互いに結合されるべきかを決定する。この枠組みが図表2.2.2に概略示されている。組織は,人々,設備,工具などからなる結合システムである技術支援システムは,組織場面において設備を適切に機能させることができる。そして社会支援システムは,従業員を組織に適合させることができる。人間と技術システムの挙動は,全体的には確実ではないし,予測可能でもないので,組織が不確実性を処理することができるように,職務は設計されるべきである。機械は人間よりもより確実に定型的タスクを遂行することができる。一方,人間は,より創造的に行動し,非定型的事象に対しては,適応的応答によって行動を調整する潜在能力を持っている。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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