コラム・特集

1.9 構造的職務分析法(Structured job Analysis Methods)

IEハンドブック
第2部 職務とジョブ・デザイン
第1章 職務と課業の分析法

1.9 構造的職務分析法(Structured job Analysis Methods)

伝統的な職務記述書が広く一般に利用されているということは,いくつかの限界があるにもかかわらず,それらが人事管理や職業指導の目的に有用であるという事実を反映するものである。その場合の記述書の限界は,大部分が論文形式の文書資料に依存しているところから生ずる。論文形式では,たとえ言葉の使い方が巧みであったとしても,意図している意味を読者に伝達するに当たって,いくらか「脱漏」が生じる可能性があるから である。そうした欠点があるため,より「系統的」で,定性的というよりも,むしろ定量的な職務分析法を開発する努力が,永年にわたつて払われてきた。

一般にこうした努力は,課業(tasks)とか作業者属性(worker attributes)とかの,職務関連情報の分析単位 (units)を同定ないし測定する,その手段を提供する職 務分析手続の開発に向けられてきた。この方法は,職務を類似性と差異性の点から比較し,その類似性で職務をグループ分けし,また別の場合には,職務関連情報を概念的,統計的に巧みに処理することを可能にするはずである。このような方法が,構造的職務分析手続(structured job analysis procedures)として知られるようになった方法である。

特定の目的には,伝統的な職務記述書よりも一層役に立ち,また伝統的な記述書が全く役立てられなかった,別の目的にも役立ち得るような方法を開発するために,そうした努力は払われてきたのである。

伝統的な職務記述書は,人事管理やその他の目的,なかんずく職務の持つ「役割」または「目的」を特徴づけたり,その職務活動の「統合された」印象を伝えるのには,引き続き有効であると思われている。事実,幾つかの職務分析計画には,伝統的な方法と構造的な方法との組み合わさったものから構成されたものがある。現に,米国職業安定局の採用している手続きは,基本的には伝統的な職務分析法であるけれども,一部に構造的な方法が含まれている。

構造的職務分析手続は,職務関連データを特定「単位」によって切り,職務を分析するために用意されたものである。その分析は,(1)ある職務に何か所与の「単位」が該当するかどうか,あるいは(2)それが該当する程度を数値で評価するかのいずれかに帰着する。ここでは,2種類の構造的職務分析法,すなわち課業調査目録法(task inventories)と職位分析質問紙法(PAQ)を取り上げることにする。

課業調査目録法
課業調査目録法は,幾つかの職業分野内の課業を列挙したものからなり,職務分析質問紙法の一形式である。これらの質問項目は,職務在籍者または監督者,職務分析員が,職務在籍者の各課業への関わり方について,その職務関連情報を報告する目的で用意されているのが代表的であり,そこにあげられている項目は,後ほど考察するように,他の目的にも使用できる。

課業調査目録は,幾つかの種類のものが開発され,多年にわたって使用されてきた。しかし,それらの主要な発展と活用は,1960年代半ば以降に,米合衆国空軍においてみられた。それは,テキサス州ブルックス空軍基地の人的資源研究所で,レイモンド・E・クリスタル(Raymond E.Christal)の 指導の下に行われてきたものである。

その方法論は,米国およびその他の諸国の軍隊,それ以外の政府機関,若干の民間会社,ならびに特定の労働組合や専門職団体などによって採用されている。

課業調査目録法の特質課業調査目録法は,2つの点で特徴づけられる。すなわち,(1問題とする職業分野に関して課業を列挙したものであること,(2)各課業に対して幾つかのタイプの回答を求める項目が準備されていること,の2つである。通常,課業一覧は,その職業分野に従事する人たちの遂行できるすべて,またはほとんどの課業からなっている。個々の課業の記述は,何が行われるかの記述を職務中心の用語(in job―oriented terms)でした内容のものが典型的で,「どのように」と「なぜJを表示するものは含まれていない。課業は,常にという訳ではないが,通常,「ブレーキ系統の保全・修理」といったように,より広義の「職責(duties)」にグループ分けされる。メルチングとボーシェ(Melching and Borcher)の あげる課業調査目録の一部を例示したのが,図表2.1.3である。これが完全な形になると,ある職業領域に関して数十から数百の項目数に達する。

課業調査目録で使用する回答尺度
課業調査目録で用意され得る回答尺度には,基本的に2つのタイプのものがある。第1は,職務在籍者が各課業にどの程度関わっているかを知るための指標として設けられるものである。第2のタイプは,課業に対する反応を,判断または態度の面でとらえるために用意されるものである。

第1のタイプの回答尺度は,しばしば「第1次評定要 素(primary rating factOrs)」と呼ばれるもので,そうした尺度に様々なタイプのものがあるが,たとえば次のようなものがある。

重要度――その課業の職務にとっての重要度。
・職務に占めるウエート尺度例。
0.この職位の一部では全くない。
1.通常の状況の下では,この職位の小さな部分でしかない。
3.
4.この職位にとって実質的な部分である。
5.
6.
7.こ の職務にとって,極 めて重要な部分である。

遂行の有無―この課業を職務在籍者は遂行しているかどうか 。
遂行の頻度―この課業は,単位時間当りどのような頻度で遂行されるか1日当り,週当り,月当り.消費時間数―この課業を遂行するのに費やす時間数……分単位.従事時間割合―各課業に費やす時間を,他の課業との比較で,その割合を推定する。

合衆国空軍の採用している尺度例。
1.極めてわずか。
2.平均よりはるかに少ない。
3.平均よりかなり少 ない。
4.平均よりやや少ない。
5.ほぼ平均程度。
6.平均よりやや多い
7.平均よりかなり多い。
8.平均よりはるかに多い。
9.極めて多い。
こうした尺度の変形を策定することは可育旨である。

たとえば,個人の職業経歴全期間中にある課業に費やした総時間数を,現職においてその課業に費やす時間と対比する尺度などである。様々な課業に費やす時間の報告に当たって,前述のような消費時間「相対」尺度のほうが,「絶対値」,もしくは%による消費時 間尺度よりも,通常は良好な結果の得られることが,空軍での経験で明らかにされている。消費時間相対尺度を採用する時,その回答を労働時間中に占める%の推定値に変換することは可能である。こうした%の推定手続については,アーシェ(Archer)が示しているところである。そのようにして算出した値を,当該課業に各従事者が費やした労働時間割合の推測値とみなすのである。

第2のタイプの回答尺度は,「課業評定第2次要素 (Secondary taskrating factors)」とよく呼ばれるもので,課業自体に対する従事作業者の判断的,もしくは観的な回答を求めるために用意される。これは,各従事作業者のその課業へ関与する度合を報告するものとは対照的である。これまでに使用されたことのある第2次評定要素には次のようなものがある。

・課業の複雑さ
・課業の不可性
・課業を学習することの困難度
・課業修得の場(訓練コース,業間訓練等)
・職務在籍者が望む学習場面
・課業をやれるようになるために必要とされた特別訓練(期 間 ) 。
・課業を学習するのに必要と考えられる期間(「今すぐでもやれる」から「2~3時間で覚えられる 」, 「覚えるのに1年以上を要するだろう」などまである)
・課業を完遂することの困難度
・課業遂行に必要とされる技術的支援
・課業遂行に必要とされる監督
・課業完遂の満足度

通常,この第2次評定要素に対する回答は,職務在籍者が行うのが普通である。したがって,職務在籍者はある第1次評定要素,たとえば個々の課業に費やす相対的 時間量といったものを用いるように求められたり,また,その課業を学習することの困難性,あるいは課業完遂時の満足といった1つ以上の第2次評定要素を使用することを求められることもあろう。

しかしながら,そうした第2次評定尺度は,監督者や「専門家(experts)」 ,あるいはそれ以外の者が,個々の課業に対する抽象的判断もしくは主観的な反応を聞き出し,完全記入することも可能である。いずれの場合にも,第2次評定尺度に対する回答は,個々の課業に関連する要素についての指標を導出するために利用することができる。

そのような指標の1例は,空軍で行われたテレビ装置修理員のキャリア階梯(career ladder)についての職業調査から得られる。そこでは,経験を積んだ職員に対して,課業の困難性を調査目録にあがっている課業に関して評定するように求めた。様々な課業についての,困難度指標の平均は以下に示すとおりであった。

なお ,原指標は,平均値5,標準偏差1になるよう人為的な変換が行われた。
課業調査目録の作成
前にも触れたように,課業調査目録は特定の職業領域に関して作成されるのが普通である。そこに含まれる手続きには,時間を要し 数週間に及あゞこともよくあるが,職務分析員と技術専門家の共同作業になるのが普通である。通常,調査日録の試行版を職務在籍者の一部に実施して,その人たちの感想や意見を聴取したり,最終版にする上で有益と思われるデータを入手したりすることが行われる(調査目録の作成に関する一般的な解説については,メルチングとボーシェ<Melching and Borcher>のものを参照のこと。

課業調査目録法の実施
実施のための手配は,数群の職務在籍者を1人の職務分析員の指導下に置いたり,あるいは記入を求める職務在籍者に調査目録を配布して,記入後に本部事務局に返送を求めたりすることによって行えよう。課業調査目録法を採用する時には,その後の分析がし易く なるように,回答者に対して所定の様式に回答を記入するよう求めるのがほとんとである。したがって,入手データを後でコンピュータ処理し易いように,マークシートの様式,または光学読み取り用の様式を使用する場合が多い。
大規模な組織に課業調査目録法を実施する計画を立てる際,全労働者を対象にするよりも,職務在籍者のサンプルを選び回答を求めたほうが望ましい場合が多い。

課業調査目録データの分析
課業調査目録によって回収したデータは,適当なコンピュータ・プログラムを採用することによって,様々なタイプの分析にかけることができる。代表的な分析の夕 イプの1つに,「職務群の記述書作成(the preparation of a group job description)Jがある。これは,その調査目録に完全記入されたのが,どのような「職務群(job`group’)」であれ,個々人から回答のあった課業すべ てを要約記述したものであり,一例を示すと図表2.1.4のようなものである。

今1つのタイプの分析は,職種解説(job― type description)の形をとるものである。この分析は,たとえばクラスター分析,または因子分析などの統計手続に基づいて行われ,「職種(job type)」, すなわち,ある程度類似した組み合せの課業を遂行している職務在籍のグループを類別する。一例を示したのが図表2.1.5である。

課業調査目録データを使った分析には,その他のタイプのものも多数あるが,それらは,採用する第1次評定尺度および第2次評定尺度の性格に一部依拠し,またその分析目的いかんによって決まるものである。

職位分析質問紙法 ※ (Position Analysis Questionaire) PAQというのは,構造的職務分析質問紙法の一種で,187の職務要素(job elements)によって,多様な職務を分析するために用意された方法である。職務要素というのは,「作業者中心(worker_oriented)」の性格を持ったもので,職務に包含される人間行動を特徴づけたり,指摘したりする傾向のあるもののことである。それゆえ,このPAQは,極めて多様な職務を分析しようとする際に使用するのに適した方法である。

PAQの 内容構成

PAQの職務要素は,次にあげる6区分で構成されている(それぞれの区分から2つの職務要素を例示してある)。

1.入力情報(Information Input)作 業者は,自 己の職務を遂行する際にどこで,どのように情報 (手掛り)を得ているか? 例:文書の利用,近距離視覚 弁別
2 精神過程(Mental Processes)職 務を遂行するに当たって,どのような推論,意思決定 立氣情報処理過程が必要とされているか? 例:問題解決における推論のレベル,記号化/記号解読
3.作業動作(Work Output)作業者はどのような身体動作をし,どのような工具,装置を用いているか? 例:キーボード装置の使用,組立/分解
4.対人関係(Relationships With Other Persons) どのような対人縣鯉力職務遂行上必要とされるか? 例:教示する,不特定顧客と接触する。
5.作業環境(Job Context)どのような物理的, 社会的文脈の中で,その作業は行われているのか? 例:高温下,対人関係葛藤場面
6. その他の職務特徴(Other Ob Characteristics) 前記以外に,どのような活動,労働条件,あるいは特徴が,その職務にとって重要か? 例:所定の作業速度,職務構造化の度合。

PAQで使用する評定尺度
職務要素のそれぞれについて,各職務を評定するために,次のような6種の評定尺度が用意され ,使用するようになっている。
各職務要素について ,使用する評定尺度が指定されているが ,それは,その職務要素の内容に最適と判断されるからである。A尺度(該当の有無)を除けば,すべての尺度は「該当なし」の場合に「0」とする6段階尺度であり,次の例示のとおりである。
A尺度(該当の有無)は「該当する」,「該当なし」の回答のために用意されたもので,たとえば「規則的な労働時間数Jのような,一定の職務文脈に関する要素の場合に限って使用される。

PAQを用いた複数職務の分析
PAQを使った複数職務の分析は,職務分析員,方法分析員,人事担当職員,または監督者によって実施されるのが代表的な形であるが,ある場合には,職務在籍者に自分たちの仕事を分析するように求めることもある。特に管理職,専門職,およびホワイトカラー労働者の場合には自己申告法がとられる。

PAQデータに基づ職務次元
2,200職務の標本にPAQを実施し,それらの職務の基盤をなす「次元」(dimensions)を確認し基礎づける分析が,メッチャム(Mecham)によって行われ ,統計的な因子分析によって次元が抽出された。

どの次元も ,複数職務に共通している一定の職務要素の組み合わせによって成り立っていると考えることができる。統計用語で言えば,それらは互いに相関している職務要素のことである。ここでそれそれの次元を定義づけたり,あるいは各次元を特徴づけている 職務要素を列挙することは無理である。しかしそれらの次元の名称をあげると,図表2.1.6のとおりである。それらの性格については,名称から推測して一定の印象を得ることはできよう。

コンピュータ・プログラムを利用すれば,与えられた職務が何であれ ,その各次元の得点を算出することは可能である。したがって,どのような職務であれ ,職務次元得点(job dimension score)によって,定量的にその職務を「記述する」ことができる。定量的に 記述されたものであるから,様々の異なる目的のどれにでも使用することができる。

そうした目的の 一つに,職業族(job families),つまり、職務次元得点プロフィールの類似した職務群を同定するという目的がある。職務次元得点は,第5部 3章で論じられているように,職務の賃率の推定値を求める (こうすれば,一般に行われている職務評価の過程を要しなくなる)目的で使用することもできる。

それに加えて,PAQは,職務に関する適性要件の推定値を算出するためにも使用することができ,したがって,第5部3章で論じるよう な,現在一般に行われているテストの妥当性検証手続の必要性をなくする。そうした予測の統計的基礎については,マコーミックたち (Mc Cormick et al)によって論じられているのでそれに譲り,ここでは説明を省くことにする。

しかしながら,その研究から得られたデータの若干例を示しておこう。4つの適性能に関するテスト得点の平均予測値が,約100職務の職務在籍者に関してPAQデータから統計的に算出された。その際,これらの得点予測値は,実際の職務在籍者について得られた平均テスト得点と,それらの適性能に関して相関しており,その相関値は次のとおりの結果であった。

様々な研究や経験の結果は,PAQのような構造的職務分析手続(structured job analysis procedures)が,多様な人事管理機能にとって,実践上の効用が大きいことを明らかにしてきている。

本コラムは絶版となっている「IEハンドブック(サルベンティ編・日本能率協会訳・1986)」をアーカイブとして掲載するものです。このハンドブックの各章は多くの事例と理論を通して生産性向上に対するアイデアを提供するべく専門家によって執筆されています。基盤をなしているIEの考え方・原則はインダストリアル・エンジニアリングにかかわるすべてのひとに有用でしょう。

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